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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
大魔導師フェネセン

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第141話 野外での昼食

 クレハが連れて行った屋台は、冒険者ギルドから歩いて5分くらいのところにあった。

 その周辺には、ライト達と同じくお昼ご飯をその屋台で済まそうという冒険者や街の人達が何人かいた。


「おじさーん。いつものアレ、今日は20個!くーださいなー」

「おう、クレハちゃん!20個とはまた大量注文だねぇ、ありがとよ!」

「はい、今日はお客人がたくさんおりましてね。是非ともお客人の皆様方に、ツェリザークの美味しいものを食べていただこうと思いまして」

「そりゃまた光栄だねぇ!さすがに20個はすぐには全部作りきれないから、この近くで待っててくれるかい?」

「わかりましたぁ。20個分のお金は先に出しますので、今出せる分だけもらってもいいですか?」

「了解ー、んじゃ先に10個持ってってくれ、残り10個出来たらまた声かけるから」

「お願いしますねぇー」


 クレハの馴染みらしい屋台の店主との交渉を終えると、クレハは10個の包みを腕に抱えてライト達のもとに戻ってきた。


「はい、皆さんどうぞ。これは私のイチ押しのツェリザーク名物、その名も『テバブ』です」

「薄焼きのパンの中に、薄く切った焼肉や野菜を詰め込んだ食べ物でして。手軽さと食べ応えのあるボリュームで大人気なんですよー」

「普通の方でしたら1個でも十分お腹いっぱいになるんですが、今日はクレア姉さんやクー太ちゃんもいますし。とりあえず20個買っておきましたー」

「このまま皆で立ち食いってのもあれですし、あちらにあるベンチに座りましょうか」

「あ、クレア姉さん。クー太ちゃんの分、今日は私があげてもいいですか?たまには私もクー太ちゃんと触れ合いたいので」


 クレハは購入してきた食べ物の解説をしながら、テキパキと全員にテバブを渡しクー太にも早速ひとつ与えている。

 クレハの提案に従い、ベンチに移動した一同は腰を下ろしてテバブを食べ始める。

 このテバブという食べ物、ライトの記憶で言わせれば前世のケバブである。名前が一文字だけ違うのは、バグか誤植か、はたまたご愛嬌か。


 ライトの手の中で、まだかなり温かいテバブ。寒空の下だからか、その温かさが何とも染み入るように嬉しく感じる。

 そのテバブを一口齧ると、ほんのりとした塩気と旨味たっぷりの肉にキャベツのような刻み野菜がよくマッチしており、思った以上に食が進む。

 クレハからのテバブ配布と同時にフェネセンから皆に配られたお茶も、さっぱりとしていて濃厚な旨さのテバブとよく合っていた。


 ライトがふとクレアの方を見ると、既に2個目を食べ始めている。

 そしてフェネセンの方はというと、これまた元気にもっしゃもっしゃと食べており、その横には空の包み紙が二枚重ねて置かれている。ということは、今その口で食しているのは三個目か。

 クー太の食欲は言わずもがなで、クレハが最初に受け取ってきた10個のテバブは既にひとつも残っていなかった。


 自分の分のテバブを食べ終えたクレハは、再び屋台の方に向かう。

 ライト達のもとに戻ってきた時には、10個のテバブが抱えられていた。


「ツェリザーク名物テバブの追加分ですよー。おかわり要る人ー?」

「「はぁーい!」」

「グルルゥゥゥ!」


 クレハの問いに、フェネセンとクレア、クー太が元気よく声を上げる。

 クレアはリクエスト通り、フェネセンとクレアに三個づつ、残り四個のひとつめをクー太に与える。


「ライト君はおかわりいいですか?」

「あ、はい、一個でも十分大きいですし……」

「ですよねぇ。ドラゴンであるクー太ちゃんはともかく、あの二人の食欲は論外ですから」

「ハハハ……」


 クレハもライト同様、テバブ一個で十分満腹になるらしい。

 ライトとしては、乾いた笑いを浮かべてお茶を濁すより他ない。


「でも、ツェリザーク名物のテバブを堪能していただけたなら、何よりです」

「はい、ぼくもとても美味しくいただきました!」

「まぁ、それは良かったですぅ」


 クレハは優しい笑顔でニッコリと微笑む。

 しかし、そこでライトがハッ!とした顔でクレハに問うた。


「あっ、そういえばこのテバブの代金は……」

「ああ、それなら心配御無用です。テバブ代は冒険者ギルドの方で建て替えておきますので」

「えっ、それって公費じゃないですか……そんなことに使って大丈夫なんですか!?」


 クレハからテバブ代の思わぬ出処を聞き、ライトは驚愕した。

 だが、クレハは事も無げに涼しい顔で答える。


「大丈夫ですよ。上の方も承知しています。私が冒険者ギルドの業務を抜け出して、皆さんをツェリザークの街にご案内すると言った時にも言いましたでしょう?『大魔導師フェネセンさんとクレア姉さんを接待してくる』と申請した、と」

「た、確かにそう言ってましたが……」

「それに、先程この屋台に来る間の道中クレア姉さんから聞きましたが、帰り道に邪龍の残穢に遭遇して見事撃退したそうですね?」

「あ、はい、それは本当のことです。クレアさんは、討伐証明部位も素材も取れないって言ってましたが……」


 クレアが先程撃退した、邪龍(ほねおりぞん)残穢(くたびれもうけ)のことをクレハが話に持ち出してきた。


「そうなんですよねぇ。ですが最近、あの邪龍の残穢の討伐に関する取り扱いが変更されまして。討伐証明部位に代わり、倒した証拠となる痕跡を以て討伐証明とすることになったんです」

「えっ、そうなんですか?」

「はい。邪龍の残穢が出現したり通過した場所というのは、その瘴気で周辺の樹々だけでなく氷雪までもが黒ずむんです」

「ああ、そういえばぼく達が遭遇した時も、周りはそんな風になってました……」


 突如出現した虚空から現れた、邪龍の残穢。

 その巨大から発するどす黒い瘴気は、瞬く間に周囲の樹々や氷雪を黒く染めていった。

 その光景を思い出すと、ライトは今更ながらに背筋が凍る思いだった。


「その出現場所を冒険者ギルドに申告して、ギルド職員が現場を検分するんです。まぁ検分と言っても、その黒ずんだ景色を見れば一発なんですが」

「で、そこで邪龍の残穢が出たことが確認されれば、討伐証明部位代わりとして認定できる、という仕組みでして」

「というか、そういう仕組みにしないともはや誰も邪龍の残穢を討伐してくれないんですよ。あんなに強い魔物なのに、討伐証明部位がないから討伐報奨金は支払いませーん!じゃ、一体誰が進んで討伐してくれると思います?」

「そんな奇特な人、少なくともこのツェリザークには存在しませんよ」


 クレハがため息をつきながら、首を軽く横に振る。


「討伐報酬も素材採取にもならず全く収入にならないなら、それこそ骨折り損の草臥れ儲けですからねぇ」

「ですから今までは、邪龍の残穢を見つけてもそのまま逃げ出す冒険者ばかりだったんです。一般市民が出現の痕跡を見つけて、慌てて冒険者ギルドに報告が届いてそこから対処するという、後手後手に回ってばかりいまして」

「そうした悪しき現状を改善するために、先程お話しした新しい制度が先日成立したんですよー」


 クレハが邪龍の残穢の討伐証明の仕組みを詳しく解説する。

 その淀みない流暢な解説、そして『骨折り損の草臥れ儲け』という言葉をチョイスするあたり、やはりクレアと同じ血が流れる実妹であることをひしひしと感じさせる。


「じゃあ、今からその現場に行くんですか?」

「ええ、後でというかこの食事が済んだら一旦冒険者ギルドに戻って、他の職員を検分に派遣するよう申請しておきます」

「そこで邪龍の残穢の出現及び討伐完了したと正式に認定されれば、今食べたテバブ代の何百倍もの報酬が出るはずです」

「ですから、テバブ代のことはお気になさらず。むしろもっともっと食べてもいいくらいなんですよ?」


 クレハがライトを安心させるように、にこやかな笑顔で微笑みかける。


「出現場所としては分かっても、討伐されたかどうかまで分かるもんなんですか?」

「ええ、分かりますよ。邪龍の残穢は出現しただけでその有様ですからね。そしてそれは、倒されるまで続くんです」

「と、いうことは……」

「はい、邪龍の残穢が移動すればするほど、樹々だけでなくそこにあるもの全てが黒ずんでいくんです」

「ああ……先程クレアさんが『見つけ次第即対応しなきゃいけない』と言っていましたが、それが理由だったんですね」


 つい先程、その脅威を目の当たりにしたライトだから分かる。

 あの瘴気はおそらく、ちょっとやそっとの日数では消えないだろう。

 有能な浄化師でもいれば早く回復させられるかもしれないが、それとてどの程度通じるものか分からないし、邪龍の残穢の出現から討伐まで日にちが経てば経つほどその汚染は広範囲に広がる。

 そういえば、城塞都市ツェリザーク近辺の冒険フィールドは【魔瘴気汚染地域】と呼ばれていたな、とライトは思い出していた。


「ですが、幸いにして今回出現した邪龍の残穢はクレア姉さんとフェネセンさんの御尽力により、出現から間を置くことなく即時討伐されました。これは本当に僥倖という他ありません」

「その功績は、後程現場の検分により証明されることでしょう」

「それにより、邪龍の残穢に対する討伐報奨金がお二人に折半の等分で支払われるはずです。ですから―――」


 そこまで説明したクレハが、ライトに向かってキラッキラに輝く眩しい笑顔で微笑みかける。


「その報奨金の姉の分の方から、今日のテバブ代を差し引いておきますので、ご心配なく♪」

「そもそも購入したテバブの半分以上は、クー太ちゃんとクレア姉さんが食べてますからね!姉の方から全部差し引いても何の問題もありません!」

「ハハハ……はい、分かりました……」


 天高く掲げた拳にグッと力を込めて握りしめながら、高らかに宣言するクレハ。その姿はまるで、どこぞの覇王もしくは拳王を彷彿とさせる世紀末的オーラを感じさせる。

 クレハのその眩しい笑顔とクレアそっくりの言動に、ライトはクレア一族の逞しさを垣間見たのだった。

 作中では触れていませんが、ツェリザーク名物テバブは1個50G。500円ですね。

 それなりのボリュームがあるので、常人ならば1個2個で十分お腹いっぱいになるのですが。フェネセンやクー太ちゃんのみならず、クレアさんもフードファイター素質が大ありのようです。

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