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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
ピッカピカの三年生一学期

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1403/1686

第1403話 二度目の鑑競祭り出場打ち合わせ

 時は少し遡り、ライトとレオニスがノーヴェ砂漠遠征から帰還して四日後のこと。

 レオニスはラグナ官府を訪れていた。

 その理由は『世界のお宝発掘!鑑定&競売祭り』、通称鑑競祭りの出場に関する話し合いをするためである。


 昨年も鑑競祭りのために何度か訪れた場所だけあって、今年は入口の守衛所も難なく入れた。

 そしてレオニスが去年と同じくラグナ官府の建物の四階に到着すると、そこには『世界のお宝発掘!鑑定&競売祭り 開催事務所へようこそ!』というポップな横断幕が、今年もデカデカと掲げられていた。


 しかし、受付窓口には職員がいない。

 既に四月に入っていて、出品受付も締め切られているためと思われる。

 なので、まずレオニスは受付の一番近くにいた女性職員に声をかけた。


「あー、すまんがちょっといいか?」

「はい、何でしょう?」

「今年の鑑競祭りの出品について、話をしに来たんだが」

「えーとですね、申し訳ございません、今年の出品応募期間は既に終了しましたー」

「それは知ってる。だが、先日ティモシーがうちに鑑競祭りの出品依頼しに来たって聞いたんでな。一応話を聞きに来たんだ」

「ティモシーさんが自ら、ですか……?」


 レオニスの話に、女性職員が不思議そうに問い返す。

 女性職員もティモシーのことは分かっているようだが、何故わざわざティモシーがレオニスのもとまで出向いたのかがすぐには分からないようだ。

 そんな女性職員の理解を得るために、レオニスが名乗り始めた。


「俺はレオニスという名の冒険者で、去年も【水の乙女の雫】と【火の乙女の雫】を出品しt」

「乙女の雫ッ!?!?!?」


 レオニスの話に、一旦は申し訳なさそうに断りの言葉を口にしていた女性職員。

 それが、レオニスが乙女の雫の話をし始めた途端に喫驚したではないか。

 この女性職員、去年の受付ではレオニスを直接対応していなかったので、目の前に来た人物が誰だが全く分かっていなかったのだ。


 しかし、そんな末端職員の彼女でも乙女の雫のことなら理解している。

 それは、今この部署において最も必要としているもの。

 来たるべき黄金週間でのイベントにおいて、絶対に欠かすことのできない目玉アイテムであることを。


「おおお乙女の雫ですねッ!? たたた担当の者を今すぐ!お呼びしますので!こちらで少々お待ちくださーーーいッ!」

「ぉ、ぉぅ、そんなに慌てんでもいいぞ……」


 大慌てでバビューン!と奥にすっ飛んでいく女性職員に、レオニスが若干引きながらも気を遣っている。

 そして他の職員も「乙女の雫だって!?」「今年もアレを出してもらえることになったのか!?」「やった!俺達助かったんだ!」等々、大きなどよめきとともに歓喜の声があちこちから上がっている。


 一体何をどうしたらそういう感想になるんだ?とレオニスが訝しがっていると、奥にすっ飛んでいった女性職員とともにハンスが現れた。


「お、去年も乙女の雫を出してくれた人じゃないかー。久しぶりだねぇー」

「おう、俺のことを覚えててくれたのか。あんたも元気そうで何よりだ」

「向こうの部屋にティモシー君がいるから、そっちに来てもらえる?」

「分かった」


 相変わらずのほほんとしたハンスに、レオニスが小さく笑いながら応じる。

 そしてハンスとともに、個室に入っていったレオニス。

 そこにはハンスが言っていたように、ティモシーが各種書類とにらめっこしながら仕事をしていた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 難しい顔をしながら書類と格闘するティモシー。そのせいか、レオニスとハンスが入室したことに全く気づいていない。

 そんな仕事熱心なティモシーに、ハンスの方から声をかけた。


「おーい、ティモシーくーん。レオニスさんがいらっしゃったよー」

「よう、ティモシー、一年ぶりだな」

「あッ!レオニスさん!ようこそお越しくださいましたー!」


 ハンスの呼びかけとレオニスの挨拶に、ティモシーが書類から視線を外してガバッ!と振り返った。

 そして椅子から立ち上がり、慌ててレオニスのもとに小走りで駆け寄る。


「天下の金剛級冒険者にご足労いただきましたこと、本ッ当ーーーに御礼申し上げます!」

「いやいや、そんな畏まられる程のもんでもないさ。つーか、こっちこそすまなかったな。わざわざ屋敷の方にまで来てもらったのに、俺が遠征中で不在で」

「そんな!それこそレオニスさんが謝ることではございません!レオニスさんは現役冒険者ですし、いつ遠征に出かけていても不思議ではありませんから!」

「そう言ってもらえると助かる」


 ティモシーの熱烈歓迎ぶりに、レオニスも苦笑しつつ応える。

 その間にハンスが三人分のお茶を用意して、部屋に戻ってきた。


「ささ、ティモシー君も少し一休みしたらどうだい?」

「ぁぁ、ハンスさん、お気遣いいただきありがとうございます……ホントは一休みしている場合ではないのですが、レオニスさんもいらっしゃってくださったことですし、お茶を飲みがてらお話するのも良いですね」

「そうそう。君、仕事熱心過ぎて休憩時間もほとんど仕事してるんだもん。少しは息抜きしなくちゃねー」


 ハンスがのんびりとした口調で、三人分のお茶とお茶菓子をテーブルに置いていく。

 ティモシーは魔術師ギルドから派遣された臨時職員で、ハンスはラグナ官府の正規職員。立場的に考えて、本当ならハンスの方があくせく仕事をこなさなければならないはずなのだが。どう見ても逆転しているようにしか思えない。

 しかし、そんな二人だからこそバランスが取れて良いのだろう。多分。


 レオニスとティモシー、そしてハンスの三人で改めて応接ソファに座る。

 レオニスとティモシーが向かい合わせで座り、ハンスがティモシーの横に座っている。

 そして全員がハンスの淹れたお茶を一口二口啜ったところで、ティモシーが本題を切り出した。


「あのー、レオニスさん、早速ですが……本日お越しくださったご用件をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「ン? ああ、うちの執事、ラウルから話は聞いた。今年も鑑競祭りに乙女の雫を出してほしいんだって?」

「はい。甚だ図々しいくも難しいお願いだということは、私達も重々承知しておりますが……レオニスさんさえよろしければ、今年も是非とも乙女の雫を出品していただきたく……」

「おう、いいぞ」

「ッ!!!!!」


 ダメ元覚悟でおそるおそる話を切り出したティモシーに、レオニスが事も無げにあっさりと承諾した。

 待ち望んでいた答えをいともあっさりと得られたことに、ティモシーの顔が驚愕に染まる。


「まぁな、俺も去年は孤児院再建のためにまとまった大金が必要だったから、鑑競祭りを利用させてもらった。そういう意味では、今年も乙女の雫を出す必要は俺個人としては全くないんだが……去年散々世話になったティモシーから、是非にと頼まれればな。嫌とは言えんよ」

「……ありがとうございます、レオニスさん……本当に、本当にありがとうございますぅ……」


 今年の出品理由を静かに語るレオニスに、ティモシーが感激のあまり涙ぐんでいる。

 感涙に咽び泣くティモシーに、ハンスがニコニコと笑いながらティモシーの肩にポン、と手をやり「良かったねぇ」と声をかけている。

 ティモシーとハンス、所属組織こそ違うデコボココンビだが、それなりに仲良くしている様子にレオニスも和んでいた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 少し時間が経ち、ティモシーの気分もだいぶ落ち着いてきたところで、ティモシーが改めてレオニスに礼を言う。


「私としたことが、取り乱してしまいお恥ずかしいところをお見せしました……本当に申し訳ございません」

「気にすんな。あんたもこの仕事は大変だろうしな」

「ええ……私も仕事柄、この時期はラグナ宮殿に出向くことも多いのですが……私が鑑競祭りの関係者だと知ると、貴族の皆さん方が挙って目の色を変えて迫るんですよねぇ……」

「そりゃまたキツいな……本当にご苦労さん」

「お気遣いいただき、ありがとうございます……」


 レオニスの慰めに、ティモシーも本音がぽろり、と零れる。

 ティモシーがラグナ宮殿に出向くのは、鑑競祭りで出品が決まった貴重品をラグナ宮殿内の宝物庫に運んで保管するためだ。

 その道中で、目敏い貴族にとっ捕まっては乙女の雫のことを執拗に聞かれるのだという。

 何故にそんなことになるのかと言えば、ティモシーがラグナ宮殿に入る時にその許可証を首からぶら下げて歩いているためである。


 その許可証はラグナ官府が発行したもので、『鑑競祭り鑑定士 ティモシー・ベローニ』と書かれており、それを見た貴族がティモシーに声をかけるのだ。

 そんなもんを身に着けなきゃいいのに、と思うことなかれ。一介の魔術師ギルド職員であるティモシーがラグナ宮殿に出入りするためには、この許可証を首から常時ぶら下げなければいけない、という規定があるのだから。


「いえ、私の苦労などどうでもいいんです。レオニスさん、早速ですが鑑競祭りの出品物についてお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「おう、いいぞ」

「ありがとうございます。今年もまた【水の乙女の雫】と【火の乙女の雫】を出していただける、ということでよろしいでしょうか?」

「それでもいいし、別の女王の雫を出すこともできるぞ」

「!?!?!? そ、それは本当ですか!?」

「もちろん。こんなことで嘘をついても何もならんぞ?」


 レオニスの出品物の確認をするティモシーに、レオニスがこれまた事も無げに別の種類の雫を出せる、と言うではないか。

 思いもよらぬレオニスの提案に、ティモシーがはゎゎゎゎ……と軽く慌てている。


 レオニスも乙女の雫がとんでもない稀少品であることは知っている。

 だが、レオニスやライト以外の者達にとっては、レオニスが思う以上にその稀少価値を大きく捉えている。

 去年の二種類の雫だってものすごく貴重な品なのに、他の属性の雫まで持ってるの!?といったところか。


「で、でしたら、今年はどの雫を出していただけるご予定なのでしょう……?」

「あー、とりあえず光と雷と氷は出せる。他のも女王に頼めばもらえると思うが……ま、光と雷と氷のうちのどれか二つを選べば問題ねぇだろ」

「ひ、光と雷と氷……三つもあるんですか……というか、光の女王と雷の女王って天空島にいらっしゃいますよね? レオニスさん、どうやって天空島にいる女王達と懇意になられたんです?」


 レオニスが出せると明言したのは、【光の乙女の雫】と【雷の乙女の雫】と【氷の乙女の雫】の三種類。

 本当は【炎の乙女の雫】も出せるが、こちらは既にプロステス領主のアレクシス・ウォーベックに譲渡済みなので敢えて外しておいた。

 ウォーベック一族の炎の女王への思い入れは人一倍強いので、レオニスがそれを考慮しての配慮だ。


 そしてレオニスが出した三つの選択肢に、ティモシーが軽い目眩を起こしている。

 去年の雫のもとである水の女王と火の女王、この二者からそれぞれ乙女の雫を譲ってもらったというだけでも驚きなのに。

 今度は天空島にいる光の女王と雷の女王からも雫を譲ってもらっているというではないか。この驚愕の事実に、ティモシーが軽く混乱するのも無理はない。

 そんなティモシーの横で、ハンスがこれまた軽い口調で感心している。


「へー、今年は三つもあるんだねぇ。さすがに三つも出すのは難しいかな?」

「あ、当たり前です……一年のうちに一気に三種類もの乙女の雫を出すなんて、もったいなさ過ぎますって」

「だよねー。せっかくなら一つは来年の分にとっておきたいもんねぇ」

「来年もレオニスさんにご協力いただければ、の話ですがね……」


 どこまでもマイペースなハンスに、ティモシーが右手で頭を押さえながら首を左右に軽く振る。

 そんな二人に構うことなく、レオニスが己の考えを口にした。


「ティモシー、とりあえず今年は【光の乙女の雫】と【雷の乙女の雫】の二種類でいいか?」

「は、はい、それでよろしくお願いいたします!」

「魔術師ギルドの鑑定はまだ受けていないが、オークションに出すならそれもあった方がいいよな?」

「もちろんです!今月の十五日までに提出していただけると、こちらとしても大いに助かります!」

「承知した。なら帰りに魔術師ギルドに立ち寄って、二つの雫の鑑定依頼を出してくるわ」

「お手数おかけして申し訳ございませんが、よろしくお願いいたします!」


 三種類の中から選べそうにないティモシー達の代わりに、レオニスが光と雷の二種類を選択して提言した。

 もちろんティモシー達に異論はない。どの雫も超貴重な品に変わりはないのだから。


 ちなみにレオニスがこの二種類を選択したのにも、一応理由がある。

 氷の女王は今でこそレオニス達と懇意にしているが、自らがレオニス達に譲渡した【氷の乙女の雫】を競りに出すことを良く思わないかもしれない。

 氷の女王が思いを寄せるのはラウルであって、レオニスがそうした行為に走れば理由の良し悪しなど関係なく彼女の気分を害しかねない。

 そうした懸念により、レオニスは【氷の乙女の雫】を除外したのだ。


 するとここで、ティモシーが再びレオニスに問うた。


「そういえばですね、去年の雫の出品例に倣って今年もアイギスでの加工権利をつけていただきたい、と考えているのですが……どうでしょう、アイギスの許可は得られますでしょうか?」

「あー、そういや去年はそうしたっけな。そうだなぁ……去年は孤児院再建という理由でカイ姉達の理解を得られたが……鑑定書と同じく、今年もそれを付けた方が絶対にいいだろうなぁ」

「はい、間違いなく入札額や落札額に多大な影響を及ぼすと思います」


 ティモシーの問いかけに、レオニスが腕組みしながら上目遣いで思案する。

 アイギスは今もたくさんの仕事を抱えていて、ドレスなど年単位で待つ者も多い。

 そんなアイギスに、さらに仕事を増やすのは忍びない、とレオニスでも思う。

 しかし、鑑競祭りというオークションに出すからには、より良い結果も追求したい。

 目を閉じ思案し続けるレオニスに、ティモシーが息を呑みつつその答えを待つ。


「ンー……分かった、ダメ元でカイ姉達に頼んでみるわ」

「本当ですか!? ありがとうございます!」

「ただし、ティモシーも知っての通り、アイギスはものすごく忙しいからな。俺の頼みでも普通に断られる可能性だってある。そこら辺は承知しておいてくれ」

「もちろん分かっております!万が一アイギスの加工権利がなかったとしても、乙女の雫というだけでその価値は計り知れませんから!」


 レオニスの断りに、ティモシーも一も二もなく承諾する。

 ティモシーを含む鑑競祭り主催者側にとっては、乙女の雫の出品が確定しただけで御の字だ。

 もちろんそこにアイギスの加工権利が付けばさらに良いのは間違いないが、もしそれがなくても乙女の雫の価値そのものは何ら変わらない。


 他にも入札開始額は前回と同じにしよう、とか細かいことも次々と決めていき、一通りの話をし終えたレオニスがソファから立ち上がった。


「じゃ、俺は今から魔術師ギルドとアイギスに行ってくるわ。【光の乙女の雫】と【雷の乙女の雫】の現物は、鑑定書が揃ってからでいいよな?」

「もちろんです。その際に、アイギスでの加工権利の件の可否もお知らせいただけると助かります」

「承知した。今月の十五日までだっけ? それまでにはまた来るわ」

「よろしくお願いいたします!」


 レオニスが立ち上がったのを見て、ティモシーもソファから立ち上がり深々と頭を下げる。

 ちなみにハンスも立ち上がりはしたが、頭までは下げていない。終始変わらずのほほんとした口調で「お疲れさまー」と言うに留まるのみである。


「じゃ、またな」

「本日はありがとうございました!」

「レオニス君も頑張ってねー」


 右手をひらひらとさせながら個室を退室するレオニスに、ティモシーは再び頭を深々と下げ、ハンスはレオニス同様右手をひらひらとさせながら退室するレオニスを見送っていた。

 うおーん、書き終えた時点で0時超え><

 もう開き直って今から後書き書いちゃう><


 第1393話で出ていた二度目の鑑競祭り出場、その打ち合わせ風景です。

 ここで出てくるティモシーとハンスは、どうすっ転んでもこの鑑競祭り関係以外に出番のない子達ですが。書けば書いたでなかなかに楽しい子達だったりします。

 苦労人のティモシーに対し、ハンスはどこまでものんびりとしたおっちゃん。ぃぇ、ハンスもそこまで無能ではない、はず、ですが( ̄ω ̄)

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