第1400話 子供ならではの発想力
炎の女王とともに、炎の洞窟に戻ってきたライト達。
早速炎の女王が最奥の間にある玉座の裏側に回り、ガサゴソと何かを探している。
しばらくすると、炎の女王がたくさんの羽毛を胸に抱えて出てきた。
炎の女王の色にも負けない紅色の羽毛。それは朱雀の羽毛であることが、一目見てすぐに分かる。
『これが、先程言うたフラム様の羽根だ』
「おお、結構な量だな。今まで抜け落ちたもの全部をとっといてあるのか?」
『もちろん!フラム様の大事な大事な羽根だ、一枚たりとて疎かにはできん』
「うわぁー……抜け落ちたものでも、すっごく綺麗ですねぇ」
『そうであろう、そうであろう。フラム様の美しい真紅色は、この世で最も美しいからな!』
「ピッ!」
炎の女王が持ってきた朱雀の羽毛を見たライト達が、その美しさに感嘆し褒め称える。
ライト達に褒めちぎられて、とても嬉しそうな炎の女王。フフン☆とばかりに胸を張り、フラムも右の翼をピッ!と高く上げて喜んでいる。
そんなライト達の横で、ラウルがすぐさま炎の女王の前にスススー……と進み出て、朱雀の羽根を覗き込みながら率直に問うた。
「これを、俺達全員に一枚づつもらえるのか?」
『一枚と言わず、三枚か五枚は持っていって良いぞ。火の姉様が汝らに授けたタロン様の鱗はとても大きかったが、フラム様の羽根はこれこの通り、まだ小さなものばかりだからの』
「おお、そうか、それはありがたい。では早速選ばせてもらうとしよう」
『汝ら以外にこの羽根を授ける相手もおらぬしな、どれでも好きなものを選ぶがよい』
「「………………」」
速攻で実利重視の交渉に入るラウルに、ライトとレオニスがスーン……とした顔になる。
「ラウルってさぁ、本ッ当ーーーにちゃっかりとしてるよねぇ……」
「ああ……あの手際と要領の良さと、誰に対しても臆面もなく切り出せる度胸は、きっとプーリア族ならではのものなんだろうな」
「でも、人族のように本音と建前が違ったり取り繕う必要もないってのは、ある意味素敵だよねー」
「全くな、羨ましい限りだ」
ラウルの物怖じしない性格を目の当たりにし、改めて羨ましがるライトとレオニス。
そんな呟きなど全く聞いていないラウルが、一向に来ないライト達に向かって声をかける。
「おーい、ご主人様達よ、フラムの羽根を選ばないのか?」
「え!? もちろん選ぶよ!?」
「なら二人とも、早くこっちに来い。でないと俺が一番大きいのとかもらっちまうぞ?」
「えー、ちょっと待ってよー!ぼくにも選ばせてー!」
ラウルの催促に、ライトが慌ててラウルのもとに駆け出す。
そんなライトの後ろを、レオニスがくつくつと笑いながらついていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「炎の女王様、羽根を選ばせてくれてありがとうございました!」
「俺も結局五枚ももらっちまったな。炎の女王、フラム、ありがとう」
「俺も小さなご主人様のおかげで良い物をもらえた。心より感謝する」
『どういたしまして。フラム様、貴方様の美しい羽根のおかげで、このように妾達の恩人達に大喜びしてもらえましたよ。良うございましたね』
「ピピピ、ピィ!」
挙って炎の女王に礼を言うライト達に、炎の女王もフラムとともに大いに満足そうに喜んでいる。
三人ともそれぞれに見て、気に入った朱雀の羽根を五枚づつもらった。
大きめのもの、小ぶりでもとびっきり艶やかなもの、直感でコレ!と思ったもの等々、ライト達も思う存分選ばせてもらってホクホク顔である。
するとここで、レオニスが朱雀の羽根を眺めつつ呟く。
「こんなに良い物をもらったんだ、早速活用しなくっちゃな」
「ン? レオ兄ちゃん、もうここで朱雀の力を取り込むの?」
「おう、もちろんだ。俺はな、パワーアップできるチャンスは逃さん主義なんだ」
「おお、なら俺もさっきもらったばかりの羽根を摂取してみるか」
「二人とも、ホンットそういうところは積極的だよね……」
早速朱雀の羽根を活用するというレオニスとラウルに、ライトが呆気にとられつつ呟く。
先程レオニスはライトに向かって『力を得ることに貪欲』と評したが、特大ブーメランもいいところである。
とはいえ、ライトだけ置いてけぼりにされる訳にはいかない。
アイテムリュックに仕舞いかけた朱雀の羽根を、慌てて一枚だけ残すことにした。
「これ、どうすればいいんだろう。毛の部分を数本だけ取って、飲み込んでみればいいかな?」
「そうだな。つーか、まずは俺がやってみるから、ライトとラウルは少し待ってろよ」
「はーい」「おう」
まずはレオニスが飲み込んでみることを宣言し、空間魔法陣からエクスポーションを一本取り出した。
そして朱雀の羽根の根元、綿毛のような部分を数本、親指と人差し指で千切り取る。
それを口の中に入れて舌で舐め取り、流し込むようにエクスポーションを飲み込んだ。
レオニスの一連の行動を、ライト達が固唾を飲みながら見守る。
そしてレオニスが羽毛を飲み込んだ後、おそるおそるライトが尋ねた。
「レオ兄ちゃん、どう……? 何か変化とか感じる?」
「ンー……飲み込んだ瞬間、身体の芯が一瞬だけ熱く感じたかな。と言ってもすぐに収まって、今は何ともないがな」
「力が暴走するとか、爆発する!なんてこともなさそうだね」
「ああ、とりあえず大丈夫そうだ」
「そしたらぼくも飲んでみよっと!」
レオニスが安全性を確認したことで、ライトも安心して朱雀の羽根を飲み込むことにした。
ライトもレオニスに倣い、羽根の根元の綿毛を数本取って口に含み、アイテムリュックから取り出した水筒のお茶でゴクン、と飲み込む。
すると、レオニスが言っていたように、一瞬だけ身体の芯がカーッ!と熱くなったかと思うとすぐに収まった。
この熱い感覚が、フラムの朱雀としての力を表しているのだろうか。
レオニスとライトに続き、ラウルも同じようにして朱雀の羽根の綿毛を服用した。
三人して手を握ったり開いたりして、新たな力の存在を確かめようとしている。
「ご主人様よ、試しに弱めの火魔法を使ってみたらどうだ?」
「お、そうだな。ここならいくら火を使っても問題ねぇしな」
「そうそう。間違ってもカタポレンの森の中で実証する訳にはいかんからな」
ラウルの提言に、レオニスも頷きつつ同意する。
そして誰もいない方向に向けて右手を翳し、サイサクス世界の中級火魔法を繰り出した。
「炎槍」
レオニスが一言だけ呟いた瞬間、翳した右手からものすごい太さの槍状の炎が吹き出した。
その槍は槍なんて可愛らしいものではなく、電柱か丸太かというくらいの極太の炎。
それを見たライトとラウルの目がまん丸&点になっている。
「ちょ、おま、ご主人様よ、何だ今の強力な魔法は……俺は弱めの火魔法っつっただろ?」
「ン? こりゃ『炎槍』っつって、歴とした極々普通の中級魔法だぞ? つーか、前はこんなに太い槍じゃなかったんだが……今までより明らかに威力が上がってるな!」
「これで中級だとぅ? とてもそうには見えんかったぞ……」
呆れ返るラウルに、レオニスがシレッとした顔で解説する。
レオニスの言うことは真実で、『炎槍』は火魔法の中級魔法として一般的な部類である。
しかし、先程レオニスが繰り出した『炎槍』は、間違っても中級魔法の威力ではない。もはや上級魔法と言っても差し支えないくらいの威力を持っていた。
上々の成果が出せたことに、レオニスがフラムのもとに駆け寄り礼を言う。
「これもフラムのおかげだ、ありがとうな!」
「ピピピ♪」
フラムの頭を優しく撫でながら礼を言うレオニスに、フラムも両翼をパタパタとさせながら喜んでいる。
フラムもレオニスの役に立てたことがとても嬉しいようだ。
するとここで、何故かゴウッ!という爆風にも似た空気の流れが起きた。
びっくりしたレオニスが後ろを振り向くと、そこには壁に向かって口から火を噴いているライトの姿があった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
レオニスが中級魔法の『炎槍』でとんでもない威力を見せた後。
ライトは目をキラッキラに輝かせながら「レオ兄ちゃん、すごーいッ!」と大喜びしていた。
こんなにもすごい場面を見せられたら、ライトだって黙ってはいられない。
自分も試しに何かしてみたい!と思うのも当然である。
そしてライトは頭の中で、いろんな火魔法を考える。
BCOのスキルの中にも火属性の攻撃魔法があるが、ここにはレオニスとラウルもいるので使いたくない。
そこら辺はまた後で一人きりの時に検証するとして、ここではかつてライトがレオニスとともに魔力テストをした時のことを思い浮かべてみることにした。
あの時の魔力テストでは、イメージするのが大事って言ってたよな。
火や炎を使って新しくできることって、何だろう?
どんなことができるようになったんだろう……
…………あ、そしたらアレをやってみたいな!
うん、ここは炎の洞窟だから、アレをやってみてもいいよね!
よし、ここにいるうちに一回やってみよっと!
何かを思いついたライトは、その場で思いっきり息を吸い込んでから力いっぱい息を吹いた。
この時ライトが頭の中でイメージしたのは『口から火を噴き出す』こと。
そしてそのイメージは見事に成功し、ライトの口からものすごい勢いの火が噴き出していたのだ。
想像力豊かなライトの努力の結果、出来上がったのが『獄炎竜が繰り出すような火炎放射を噴き出す子供』という、世にも恐ろしい図。
これを見たレオニス、今にも目が地面に転がり落ちそうなくらいにまん丸&点になっている。
そしてそれは何もレオニスだけではなく、ラウルや炎の女王、そしてフラムまでもが同じだった。
「え、ちょ、待、ライト君? それ、ドラゴンブレス?」
「ン? ぼくはドラゴンじゃないよ?」
「ぃゃ、でも、お前、それ……シュマルリの獄炎竜が吐く炎と大差ないよ?」
「そなの? じゃあ、ぼくも獄炎竜さんと同じくらいに強い火魔法を使えるようになったってことだね!? ヤッター!」
「「「『………………』」」」
レオニスが震える手で指差しながら指摘するも、ライトは強い火の力を得られたことを純粋に喜び飛び跳ねている。
そしてレオニスに認められたことに気を良くしたライト。他にもいろんなことをし始めた。
「あッ、そしたらこんなこともやってみたかったんだよね!」
「!?!?!? ライト、靴の裏から火が出てるぞ!?」
「うん!こうするとね、空を飛ぶ力や速さがさらに増すんだよ!ヒャツホーィ!」
今度はライトのブーツの底から火が噴射し、ふわり、と飛んだかと思うとものすごい勢いでヒュン!ヒュン!と飛び始めたではないか。
そう、これはライトだけが知る前世の漫画やアニメの一般常識。『ロボットが足の裏から火を噴射して大空を飛ぶ』という図である。
宇宙ロケットや自動車のエンジンにも通じるそれらの現象は、火力をもとに膨大なエネルギーを発生することで成し得る。
ライトはこれを火魔法でやってみよう!と思いつき、実行したのだ。
しかし、ライトはしばらく飛んだ後着地し、ブチブチと呟く。
「うーん、これ、思った以上に魔力が減るな……これなら風魔法だけで飛んだ方が絶対にコスパ良さそう」
「あ、でも、普通に風魔法使うだけじゃ勢いが足りない時には良さそう。少しでも早く目的地に着きたい時なんかに、限定的に使うのはアリかも!」
「そしたら今度は、風魔法と火魔法をいっしょに使って飛ぶイメージをしてみるのもいいかな。……うん、その方が相乗効果を得られて魔力消費も抑えられそうだよね!」
まだあれこれと試行錯誤するライトに、レオニス達は開いた口が塞がらない。
しかし、いち早く我に返ったレオニスが慌ててライトに話しかけた。
「ちょ、おま、ライト君? 研究熱心なのはいいが、絶対にそれを俺達以外の人前でやるなよ?」
「え、やだなぁ、レオ兄ちゃん。そんなことをする訳ないじゃん。てゆか、ぼくのことをそんな間抜けだと思ってんの?」
「ぃゃ、そういう訳じゃないが……それにしたってお前、今のはいくら何でもおかしいだろう……」
「大丈夫大丈夫!ラグナロッツァやカタポレンでは絶対にこんなことしないから!」
「お前、それ、ラグナロッツァやカタポレン以外ならやるってことか?」
前世では絶対にできなかったファンタジーな現象を実現できたことに、これまでになく上機嫌なライト。
その一方で、保護者であるレオニスの心配は尽きないどころか山積みになるばかり。
ただでさえライトには勇者候補生という超弩級の秘密があるのに、こんなとんでもない火魔法の使い方を他者に目撃されたら一体どうなることか。
口をあんぐりとさせたまま固まるレオニスに、横にいたラウルがレオニスの肩にポン、と手を置きながら呟く。
「ご主人様よ、子供が好奇心旺盛なのは仕方がない。俺達大人がしっかり見張ってやらんとな」
「ぃゃ、あれ、見張ってどうにかできる代物か?」
「そんなんどうしようもないっつーか、今更だろう。育ての親が誰かを考えれば、必然的にそうなる」
「全部俺のせいなのか?」
フッ……とニヒルに笑いながら諭すラウルに、レオニスががっくりと肩を落とし項垂れる。
ライトのとんでもない発想力を全てレオニスのせいにするのはさすがに可哀想だが、ラウルの言うことも尤もで、ライトはレオニスの背を見て育った。
だからライトがこうなっても仕方ない、と言われればぐうの音も出ない。
そして炎の女王はライトを見て『人の子とは、無限の可能性を秘めておるのだな……』と心底感嘆し、フラムもそれに同意するようにコクコク、と頷いている。
こうしてライトはフラムの羽根から朱雀の力を取り込み、また新たなる力を得たのだった。
うおーん、今日も書いても書いても終わらないー><
後書きはまた後ほど……
【後書き追記】
エリトナ山でのガンヅェラの鱗ゲットだじぇ!に続き、炎の洞窟でも朱雀の羽根ゲットだじぇ!の回です。
ライトの前世知識由来のロボット飛びは、某鉄腕ア☆ムや某マジ★ガーZなどのアレですね(・∀・)
ガンダムあたりではもうあの『足裏から火が噴く』という図はないですが、いつ頃まで火噴きジェット方式で飛んでいたんでしょうね?(゜ω゜)
そこら辺気になってggrksしたんですが、ロボットアニメ多過ぎて全部見るのめんどいっつか無理ぽ…( ̄ω ̄)…
Wikipedia先生によると『1970年前半は現在では「スーパーロボット系」などと呼ばれるジャンルのテレビアニメが生まれた時代である(初の作品がマジンガーZ)。』のだそうで。
それ以降のものは、『1979年の『機動戦士ガンダム』の出現を皮切りに(中略)「リアルロボット系」と総称されるアニメ群が一代ムーブメントを巻き起こす』とありました。
年代によっても呼び方が異なるのね…( ̄ω ̄)…
この手の話は底無し沼間違いナッシングなので、作者は早々に撤退を決めました(((( ̄ω ̄ノ)ノ




