第1398話 切ない光景とライトの要望
火の女王を先頭に、エリトナ山の麓に飛んで降りていくライト達。
しばらく進むと、火の女王の言っていた通り骸骨の山と思しき異質な塊が見えてきた。
眼下に広がる骸骨の山、その上空から下を見下ろしながらレオニスが火の女王に確認を取る。
「火の女王、これが死霊兵団の新しい残骸か?」
『そうだ。結構な量があろう?』
「確かに……百や二百なんて数じゃねぇな」
広範囲に渡り、様々な部位の白骨が散らばっている。
頭蓋骨や大腿骨、肋骨に骨盤、背骨等々、またそれらに混じって死霊兵団の装備品である錆びた剣や盾なども多数転がっていた。
レオニスがその光景を眺めつつ、ライトとラウルに指示を出し始めた。
「よし、とりあえず死霊兵団の残骸を一ヶ所にまとめるぞ。ラウルは俺といっしょに骨の収集、ライトは奴等の剣や盾なんかの装備品を骨の横にまとめて集めておいてくれ。骨だけじゃなくて、装備品類もまとめて浄化しといたほうがいいしな」
「はーい!」
「了解」
「火の女王と炎の女王、フラムはここで待機しててくれ」
『『承知した』』
「ピィ!」
レオニスの的確な指示に、全員が頷きつつ承諾する。
その後レオニスとラウルが骨を一ヶ所に集めて堆く積み上げていき、ライトはその骨の山の真横に装備品類を集めては積んでいく。
今のライトはレオニス達同様に空を自由に飛べるので、装備品集めもテキパキとこなすことができる。何とも頼もしい限りである。
そしてそんなライトを見て、火の女王が『おお、ライトはもう空を自由に飛べるようになったのか、すごいのう』と感心し、炎の女王も『人の子の成長とは、真に早いものですねぇ』と感嘆している。
人族とは、本来なら決して単身では空を飛べない種族なのだが。レオニスという常識外の前例を見続けているうちに、火の姉妹の感覚が順調に麻痺していってるようだ。
そうしてライト達が死霊兵団の残骸集め及び仕分けをし始めてから、約二十分が経過した頃。
ライト達三人の手によって仕分けられた白骨と装備品、二つの山が出来上がっていた。
仕分け作業を終えて、ライト達は一旦地面に降りて一ヶ所に集まった。
死屍累々という言葉がそのまま当てはまる山を見上げつつ、レオニスが呟く。
「とりあえず、この骨は七枚か八枚も使えば十分祓えるとは思うが……念の為、周囲の四方にも一枚づつ置いておくか」
レオニスが空間魔法陣を開き、浄化魔法の呪符『究極』を束で無造作に取り出した。
「ラウルはこの骨の山から少し離れた東西南北の四ヶ所に、呪符を一枚づつ置いてくれ。風に飛ばされないように、呪符の上に石を乗せておくのも忘れずにな」
「了解ー」
「ライトはあの装備品の山の真上に、呪符を一枚づつ乗せて浄化してくれ。呪符が真っ黒にならなくなるまで交換な。念の為五枚渡しとくが、多分三枚もありゃ足りるだろ」
「はーい」
レオニスの手からラウルに四枚、ライトに五枚の浄化魔法の呪符が渡されていく。
二人は早速指示通りに動き、レオニスも白骨の山の真上に飛んだ。
そして白骨の屍の頂上に、浄化魔法の呪符をそっと置いた。
すると呪符を置いた瞬間から、その周辺からパァッ……と淡い光が沸き起こり、光る範囲が広がっていった。
それは以前、このエリトナ山で初めて死霊兵団の残骸を片付けた時と全く同じ光景であった。
しゃぼん玉に似た魂のような、キラキラとした数多の光の塊が、すぅっ……と空に向かってゆっくりと上っていく。
この美しくて儚く切ない光景は、何度見ても慣れることなくライト達の胸を締めつける。
そしてそれと同時に、浄化魔法の呪符がものすごい勢いで黒くなっていく。
黒ずんだ呪符は、レオニスが触れる間もなく粉々になって塵と化していった。
そうしてレオニスが二枚目、三枚目と浄化魔法の呪符をどんどん置いていくにつれて、白骨の山の嵩もどんどんと減っていく。
四枚目で嵩は半分になり、七枚目にして全ての白骨が消えて天に還っていった。
一方ライトも装備品の山の浄化を進めていた。
一枚目はレオニス同様完全に黒ずんでしまったが、こちらもレオニスの予想通り三枚目で黒ずみが止まった。
ラウルもレオニスに言われた通り、四枚の呪符を白骨の山の東西南北に一枚づつ置いていった。
ラウルが地面に直接置いた呪符は、細かい白骨の欠片や拾い漏らし対策と土地そのものへの浄化も兼ねている。
そのため、レオニスが浄化している白骨の山、その中心部から放たれる光が届かないところまで離れてから地面に置いていく。
白骨や装備品の山から距離的に離れているため、黒ずみは呪符の半分程度に留まった。
そうして全ての浄化作業を終えたライト達のもとに、火の女王と炎の女王、そしてフラムが駆け寄ってきた。
『レオニス、ライト、ラウル。骨の浄化、ご苦労であった』
『いつ見ても、汝らの使う呪符はすごいのう!』
「ピチチチチ!」
ライト達の働きを労い、心から褒めちぎる火の姉妹。
その言葉に、ライト達も「ありがとうございます!」「おう、ピースの描く呪符は世界一効くからな!」「お、フラムも俺達を労ってくれるのか、ありがとうな」等々返している。
そして火の姉妹は、ライト達にさらに話しかけた。
『其方らに、此度の働きの褒美をやりたいのだが……何か所望するものはあるか?』
『妾も汝らの働きに報いたい。欲しいものがあれば、遠慮せずに何なりと申すが良い』
火の姉妹の心遣いに、ライト達は三人して顔を合わせる。
しかし、今のところすぐに思いつくものは特にない。
三人とも既に火の姉妹の加護や勲章をもらっているし、【火の乙女の雫】や【炎の乙女の雫】もたくさんもらっている。
これ以上火の姉妹から何かをもらうなど、三人とも全く考えたこともなかった。
するとここで、ライトがはたとした顔になる。
何か欲しいと思えるものを思いついたようだ。
「あ、そしたらぼくから一つ、お願いがあるんですが……」
『何だ?』
「タロンの甲羅の鱗とか、フラムの羽根とか、もしもらえるなら欲しいんですが」
『ふむ、タロンの鱗、か?』
『フラム様の羽根、か……何故そのようなものが欲しいのか、聞いても良いか?』
「はい、実はですね―――」
何故そんなものを欲しがるのだろう?という炎の女王の純粋な疑問に、ライトが包み隠さず答えていく。
水神アープのアクアや青龍のバルトとも懇意にしていて、彼らの鱗を取り込むことでアクア達の言葉が理解できるようになったり空を飛べるようになったこと、そうした経験からガンヅェラの甲羅の鱗や朱雀の羽根をもらえたらまた新たな力を得ることができるかもしれない、と思ったこと等々。
それらの話を静かに聞いていた火の姉妹。
先に口を開いたのは、火の女王だった。
『そうか……ライト、其方が空を飛べるようになったのは、辻風神殿の守護神である青龍の力を取り込んだからなのだな』
「はい。今までのぼくは、レオ兄ちゃんやラウルにおんぶしてもらったり抱っこしてもらわないと、空中移動できませんでした。ですが、風を司る青龍のバルトのおかげで飛べるようになったんです!」
『何とまあ、人の身でありながらなかなかに無謀なことをするものだ。下手をすれば、取り込んだ膨大な力に負けて身体が爆ぜてもおかしくなかっただろうに』
「あ、そこら辺は大丈夫です、ぼくは魔の森育ちで魔力量だけはレオ兄ちゃんにも引けを取らないくらいにあるので!」
『そ、そうか……』
ペカーッ☆と輝くような笑顔のライトに、火の女王も頬を引き攣らせて苦笑いを浮かべる。
しかし、炎の女王は心配そうにライトに問うた。
『その水神アープというのは、水属性の守護神であろう? 水とは対極にある火の守護神の力を取り込んで、何か害になるようなことは起きないのか? 例えばせっかく得た水属性の力が、火属性の力を取り込むことで相殺されたり、あるいは火の姉様が仰ったように属性が反する魔力が反発して暴発したりとか……』
「あ、それも多分大丈夫です。もし万が一そうなるとしたら、火の女王様や水の女王様の加護をいただいた時点でぶつかり合って、何らかの異変を感じるはずですし。だけど、今のところそうした異変は全くないですから」
『ふむ……それもそうか』
ライトの理路整然とした回答に、心配していた炎の女王が安堵している。
実際ライトの言う通りで、もし相性が悪い属性の力を取り込む弊害があるとしたら、水の女王から加護をもらった時に異変が起きているはずだ。
何故ならライト達は、水の女王に会う前に既に炎の女王と出会っていて、炎の勲章や加護も水の女王より先にもらっていたのだから。
するとここで、火の女王が堪らず笑い出した。
『アハハハハ!この人の子、ライトは真に剛毅よのう!我らの心配など、全くどこ吹く風で無意味ときたか!』
「え"ッ!? ぃゃぃゃ、女王様達がぼく達のことを心配してくれるなんて、すっごく嬉しいし光栄なことだと思っていますよ!?」
『無理せずとも良い、其方らは妾達の想像をはるかに上回る逸材であることを改めて思い知っただけのことなのだから』
「ぃゃぃゃぃゃぃゃ、レオ兄ちゃんはともかくぼくは極々普通の子供ですからね!?」
「ライト、お前……今更それは無理があり過ぎるぞ?」
思いっきり高笑いする火の女王に、ライトが大慌てであれこれと言い募る。
そのついでに引き合いに出されたレオニスが、スーン……とした顔で冷静にツッコミを入れている。
そしてレオニスの斜め後ろにいるラウルが、一連のやり取りを見て思わず「この兄にしてこの弟あり、だな」と呟いているような気がするが。多分気のせいだろう。キニシナイ!
『フフフ、まぁ良かろう。先程のライトの願いは妾達のできる範囲であるし、タロンの身から自然に剥げ落ちた鱗で良ければ持ち帰るがよい』
『妾も炎の洞窟に戻れば、フラム様の身体から抜け落ちた羽根を大事に取っておいてある。それで良ければ、汝ら三人にそれぞれ譲ろう』
「ありがとうございます!」
火の姉妹との交渉が無事まとまり、ライトが嬉しそうに頭を下げて礼を言う。
実際のところ、ガンヅェラや朱雀の力を取り込むことでどんな力が得られるのかは全く分からない。
だが、間違っても害になることはないだろう。
そしてこのライトの貪欲な姿勢に、レオニスがつくづく感嘆する。
「いやー、俺も力を得ることに貪欲な方だとは思うが……ライトは俺よりはるかに貪欲だよなー」
「え、そんなことないと思うよ? てゆか、ぼくだってもうすぐ冒険者になるんだもん。今よりもっともっと力をつけておかなくっちゃね!」
「お前……今すぐ冒険者になっても十分通用するくらいなのに、まだ力をつける気なの? 」
「もッちろん!ぼくなんてまだまだヒヨッコだし!」
「お前がヒヨッコだってんなら、世の大半の冒険者はヒヨッコ以前のアリンコになっちまうっての……」
今からやる気満々のライトに、レオニスがほとほと呆れ返っている。
そんなレオニスに、ラウルがその肩にポン、と手を起きながら慰めにかかる。
「まぁまぁ、ご主人様よ。そんなに心配することもなかろう」
「ラウル、お前ね、他人事だと思ってるだろ?」
「そんなことはない。強いて言うなら、小さなご主人様は大きなご主人様にそっくりだなー、と思っているだけだ」
「馬鹿言え、いくら俺だってライトほど無茶はしねぇわ……」
「何それ、二人ともしどい!」
レオニスとラウルの会話に、ライトがプンスコと怒っている。
ライトがやる気満々なのは良いことだが、彼の場合は周囲の大人達の予想をはるかに上回る想定外の事態を引き起こす可能性も否めないのは事実。
それを懸念する大人達の心配は、当分の間尽きないだろう。
そしてそんな三人の賑やかなやり取りに、火の姉妹とフラムは楽しそうにクスクスと笑っていた。
前話で発覚した死霊兵団の新たな襲撃、その後片付けと仕事に対する褒美の要望です。
前回のエリトナ山の大掃除では浄化魔法の呪符を大量に使いましたが、それは長年積もり積もった残骸の処理だったからであって、今回はそれよりはるかに少ない量なので呪符も十枚とちょいでお片付け完了。
ライトも単独での飛行能力を得たおかげで、お片付けの立派な戦力として活躍できて何よりです( ´ω` )
そして作者世界のリアルでは、今日はクリスマスイブですね(・∀・)
今日は作者宅でもローストチキンやクリスマスケーキ等々、たくさんのご馳走が食卓に並びました♪(^∀^)
はー、お腹いっぱい食べたー!明日からダイエットするぞー!ヽ(#`Д´#)ノ ←言うだきゃタダ
しかし、あと一週間で2024年が終わってしまうのか……本当に月日が流れるのは早過(以下略




