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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
二度目の春休み

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第1374話 異界化した世界の時間差検証

 ミーナとルディが心配そうに見送る中、ライトは一人で『呪われた聖廟』に入っていく。

 ライトが聖廟の回廊に入った、その瞬間。

 まるで水面に石などが落ちた時のように波紋が広がり、ライトの姿が吸い込まれるように消えた。


 そして不思議なことに、それ以降ライトの姿が全く見えなくなったではないか。入口の向こうには、赤黒い禍々しいオーラとともに聖廟の回廊が見えているにも拘わらず、である。

 これは、ライトが聖廟のエリアに入った瞬間から異空間に移動したことの証左。

 やはりこの『呪われた聖廟』は【異界化】と名付けられている通り、サイサクス世界とは別次元に繋がっているようだ。


『主様、どうぞご無事で……』

『パパ様……』


 ミーナとルディは、ライトが入っていった聖廟の回廊を祈るような気持ちで眺めるしかなかった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 一方、単身で聖廟に突入したライト。

 ミーナ達使い魔とともに行動できず完全に当てが外れた格好だが、それに落ち込んでいる暇はない。

 回廊に三歩入った辺りで一旦立ち止まり、周囲の様子を観察する。


 まず後ろを振り向くと、聖廟の外側にいるはずのルディとミーナの姿が見えない。

 そのことに一瞬驚いたライトだったが、すぐに落ち着きを取り戻す。

 ここがサイサクス世界と切り離された異なる空間ならば、サイサクス世界にいるミーナ達の姿が見えなくて当然だということに気づいたからだ。


 ライトは気を取り直し、今度は建物の内部の方に目を向ける。

 建物の外周をぐるりと取り囲むように回廊があり、その奥にアーチ状の入口がある。

 とてもおおきな入口で内部もある程度見えるのだが、異様な光景としか言いようがなかった。


 壁や柱は赤黒く染まり、ところどころが泡立つように膨れている。

 そして内部の空気も赤黒い靄がかかっていて、まるで毒ガスが充満しているかのようだ。

 この赤黒い靄と泡立つように膨れ上がる壁や柱に、ライトは見覚えがある。

 これはBCOの中で【異界化】と名付けられた場所に共通する光景だ。


 あー、このボコボコに膨れ上がった薄気味悪い壁や柱、何だか懐かしいなぁ……

 これ、確か廃都の魔城の内部もこんな風になってたよな。……てことは、廃都の魔城の内部も異空間扱いになる可能性が高いのか。

 ま、そりゃそうだよな。廃都の魔城の最深部フィールドにも【異界化】がついてたし。

 ……とりあえずは、この聖廟の時間の流れを知っておかんとな……


 ライトはそんなことを考えながら、心の中で数を数え始めた。

 ライトがカウントするのは五十まで。外にいるミーナ達に『一分くらい建物の中にいるから』と伝えたので、五十数えたところで外に出るつもりだ。

 一、二、三……とゆっくりと数え始めて、五十になったところでライトは回廊の外に出た。

 すると外には、びっくりしたような顔でライトを見つめるミーナ達がいた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ライトが現れたことに、ミーナ達は何故だか驚愕している。

 何をそんなに驚くことがあるのか、さっぱりライトには分からない。

 とりあえずライトはミーナに声をかけた。



「ただいま、ミーナ」

『!?!? ……お、おかえりなさいませ、主様』

「ぼくが聖廟に入ってから、どれくらい時間が経った?」

『えーとですねぇ……主様が姿を消したと思ったら、そのすぐ一秒後くらいで出てきましして……』

「え、一秒? マジ?」

『はい、マジですー』


 ミーナからの思いがけない答えに、今度はライトが呆気にとられた顔をしている。

 彼女達が主の行く末を案じ、不安な面持ちで見送ったらその一秒後にライトが「ただいまー」と言いつつ現れたのだ。そりゃミーナ達がびっくりするのも納得だ。


 この結果からすると、もしかしたらこの『呪われた聖廟』の中ではほとんど時間の消費がないのかもしれない。

 しかし、たった一回出入りしただけでそう断じるのは危険だ。

 ライトはしばし思案した後、改めてミーナに声をかけた。


「そしたらミーナ、ぼくはもう一度聖廟の中に入るから、ミーナももう一度時間を計っててくれる?」

『分かりました、今度は何分くらい入る予定なんですか?』

「次は十分入る予定。ミーナもルディといっしょに、ちゃんと時計を見ててね」

『はい!』


 聖廟内部とサイサクス世界の時間差の検証のために、ライトは踵を返して再び『呪われた聖廟』の回廊に入っていった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 再び『呪われた聖廟』の回廊に入ったライト。

 今度はマイページを開き、スキル欄から【隠密】を選択して自身にかけた。

 このスキルの効果時間は10分。【隠密】の効果が切れたら10分が経過したと分かる、という寸法だ。


 しかし、10分もの間、ただぼけーっとしていてもつまらない。なのでライトは【隠密】スキルを四回連続でかけて、周囲を探索することにした。

 隠密スキルを上限までかけておけば、ライトの方から仕掛けない限り魔物達に襲われる心配はない。


 赤黒い靄に包まれた聖廟内部を、宛もなく彷徨くライト。

 時折異形の者が彷徨いているのに出食わすが、魔物側はライトの存在に気づかずスルーしていく。

 この『呪われた聖廟』にいるのは、一対の大きな山羊の角がついた頭蓋骨だけが浮遊している『クレイジーソウル』、赤い双眸が光るデスマスクが三身一体で行動している『エヴィルマスク』、巨大な手だけが左右一対で這い回る『コアシャドウハンズ』、タコの足そっくりの触腕が六本生えている『テンタクルズ』、八本の触手脚と巨大な一つ目の頭部に触覚目玉を七本生やしている陸上型蛸系魔物の『ダストグランジー』の五種類。

 どれもこの『呪われた聖廟』にのみ出現する固有魔物である。


 ライトが以前、ラウルとともにセンチネルの街を訪れた時に立ち寄った、冒険者ギルドセンチネル支部。

 そこで受付嬢をしているマリア十二姉妹の十女マリヤが言っていた『浜辺に大きな吸盤や異形の角が大量に漂流したら、数日以内に魔物が溢れ出るというサイン』というのは、クレイジーソウルの角やテンタクルズの吸盤のことを指している。


 ちなみに吸盤のもとであるテンタクルズは、聖廟内では壁や床から生えていて基本的にそこから動けない状態なのだが。スタンピード状態では壁や床から離れて、六本の触腕の塊が海を泳いで浜辺や陸地に上がるらしい。

 想像するだけでもかなり不気味な図である。


 これら『呪われた聖廟』の固有魔物達が闊歩する聖廟内部を、ライトはしばらくの間こっそりと探索し続けた。

 そうして体感時間で八分くらい経過したかな?と思った時点で探索を止めて、回廊の方に移動した。

 そこからさらに二分経過し、十分前にかけたスキル【隠密】の効果が切れたことをマイページで確認したライト。その場ですぐに回廊の外に出た。


「ミーナ、ルディ、ただいま!」

『あ、主様!? おかえりなさい!』

『パパ様、おかえりなさい!』


 回廊の外にいたミーナとルディに声をかけるライト。

 一方のミーナとルディは、先程の一回目の実験の時ほどではないが、それでもやはりどこか驚いたような顔をしている。


「今度はどうだった?」

『えーとですね、主様が中に入ってから十秒後に出てきました!』

「え、十秒? マジ?」

『はい、マジですー』


 一回目の実験と同様に、ほとんど時間が経過していないことを知ったライト。

 またも驚愕している中、ルディがミーナの証言を裏付ける。


『僕もミーナ姉様といっしょに時計を見てたから、間違いありません!』

「そ、そっか……ぼくも聖廟の中で間違いなく十分間いたんだよね。なのにこっちでは十秒しか経っていないということは……やっぱりさっきの一回目の実験結果の通りで、向こうの一分はこっちで一秒ってことになる、よね?」

『そうなりますねぇ……』


 予想外の結果に、ライトだけでなくミーナとルディも驚いている。

 二回の実験で分かったのは、『呪われた聖廟』内で過ごす一分がサイサクス世界では一秒しか経過していない、ということ。

 つまり『呪われた聖廟』はサイサクス世界の六十倍の長さで時間が経過する、ということだ。


 例えば『呪われた聖廟』で一時間過ごすと、サイサクス世界では一分。

 聖廟内で十時間ぶっ続けで活動したとしても、サイサクス世界では一時間しか経っていない計算になる。

 これは何気にすごい結果であり、ライトも内心ではかなりびっくりしていた。


 するとここで、ルディがおそるおそるライトに声をかけた。


『あのぅ、パパ様……この建物にまだ入るんですか?』

「え? あ、うーん、どうしよ……とりあえず時間差の検証はできたから、今日はひとまず帰ろっか」

『『分かりました!』』


 ルディの問いかけにライトも戸惑いつつ、今日のところはここまでにして帰還することを選択した。

 ライトの帰還宣言に、質問したルディだけでなくミーナもホッ、と安堵したような顔をしている。

 これまでに経験したことのない実験や想定をはるかに上回る脅威の結果に、ミーナもルディもきっと心中穏やかではいられないのだろう。


 実際ライトもここまで時間差が生じるとは思っていなかった。

 コヨルシャウキの星海空間の場合、時間の流れがサイサクス世界の二分の一だったので、今回の『呪われた聖廟』もそれと同等もしくはその倍くらいと予想していた。

 それがまさかの六十倍差とは、完全に想定外である。


 この結果を受けて、ライトは帰宅後に改めて『呪われた聖廟』の攻略手段を考えることにした。

 本当はここでミーナ達にまた一分くらい待ってもらって、聖廟内で一時間程魔物狩りをすれば最も効率が良いのだが。これ以上ミーナ達に不安を抱かせるのは可哀想だ、とライトは考えたのだ。


「そしたらミーナ、ルディ、この林の向こうにある海を見に行くかい?」

『え、海ですか!? 見たい見たーい!』

『僕、まだ一度も海を見たことないです!』

「よーし、そしたらまずぼくが先に飛んで、沖に人や漁船がいないかを確認してくるね!」

『『いってらっしゃーい♪』』


 『呪われた聖廟』での検証を切り上げて、転職神殿に戻る前に寄り道しよう!というライトの魅惑的な言葉に、ミーナとルディが両手を上げて賛成する。


 実のところ、『呪われた聖廟』での探索はもう少し時間がかかるかとライト思っていた。

 しかし、予想以上に早くに検証を終えたことで時間的余裕がかなりできた。ここで多少寄り道したところで、十分日のあるうちに帰還することができる。

 それに、ライトの探索に協力してくれたミーナとルディにも何かしらのご褒美をあげたい、という気持ちもある。

 それら諸々を考えると、皆でちょっとだけ海を見ていこう!ということになったのである。


 ライトがふわり、と宙に浮き、周囲の木々よりちょっと高い位置まで飛ぶ。

 あまり高く飛び過ぎても逆に目立ってしまうため、海が見渡せる程度に極力抑えて飛ぶのがポイントだ。

 そうして孤島の周囲に人影や船影などが全くないことを確認したライト。

 下で待っているミーナ達に向かって声をかけた。


「海には誰もいないようだから大丈夫だよー。ミーナ、ルディ、おいでー!」

『『はーい!』』


 ライトの呼びかけに、ミーナとルディが嬉しそうにライトのもとに飛んできた。

 そうして三人は『呪われた聖廟』があるブリーキー島を出て、大海原の上に出た。


『うわぁ……これが、海というものなんですねぇ……』

『端っこが全然見えませんね……』


 広大な海を目の当たりにしたミーナとルディ。

 生まれて初めて見る光景に、二人とも感じ入ったようにしばし前方を見入る。

 しかし、程なくしてミーナがライトに声をかけた。


『主様、私達に海を見せてくださってありがとうございます!』

『僕も海を見せていだけて、本当に嬉しかったです!』

『私達はもう十分満足しました。ね、ルディ?』

『ええ、ミーナ姉様の仰る通りです!なので、転職神殿に戻りましょう!』


 ミーナ達は、口裏を合わせた訳でもないのに二人して転職神殿に戻ろう!と言う。

 普通ならもっと海に近寄りたい、海水に触ってみたい等のさらなる欲求があってもよさそうなものなのに。

 ミーナ達の意外な言葉に、ライトも少しだけびっくりしながら聞き返した。


「え、もういいの? 海に入りたい!とか、そういうのはないの?」

『はい!今日は海に入る準備も心積もりもしていませんし、それに……』

『何より僕達が一番心安らげるのは、ミーア姉様達のいる転職神殿ですから!ねー、ミーナ姉様♪』

『ねー、ルディ♪』


 ミーナとルディ、顔を見合わせながら二人してニッコリと微笑み合う。

 確かにミーナの言う通りで、今日は海で遊ぶつもりは全くなかったのでそれに見合う準備なども全くしていない。

 常時服を着ていないルディはともかく、人型のミーナには水着が必要でしょう!とはライトも思う。

 そしてそれ以上に、ミーナとルディは転職神殿に帰りたかった。

 自分達が見た海だけでなく、『呪われた聖廟』での一連の出来事を一刻も早くミーナに語って聞かせたいのだ。


『ミーアお姉様に、たくさんの土産話ができたわね!』

『レアも喜んでくれるでしょうか?』

『きっと喜んでくれるわよ!さ、主様、早く帰りましょう!』

「うん!」


 ミーナとルディに手を優しく引っ張られるライト。

 三人はブリーキー島に戻り、瞬間移動用の魔法陣の上に立つ。

 そうしてライト達は、瞬間移動で転職神殿に戻っていった。

 うおおおおッ、書いても書いても終わらないー><

 後書きはまた後ほど……



【後書き追記】

 ミーナとルディを引き連れて、いよいよ『呪われた聖廟』の攻略開始です!

 ……が、しかし、その前に行った時間差検証で思わぬ事態に。

 まぁねぇ、全くの未知の霊異記に足を踏み入れる訳ですから? そこは慎重に慎重を重ねて行動するべきで、こうした予想外の事態になった時には早急に撤退するのも必要なんですね。


 でもって、不発気味だったブリーキー島での初出陣。

 最後は海を眺めるというちょっとしたご褒美で締め。

 作者が海無し県人であることは、以前から後書きにて書いている通りなのですが。ミーナ達も普段は山奥住まいなので、海というものが非常に物珍しくて前話でも胸がときめいてしまっています。

 実際作者も今まで生きてきて、海を見たことなんて指折り数えるくらいしかないのですが。来世は海あり県人に生まれたいですぅ(うω´) ←悔し泣き

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