第1355話 無限スキルの威力と次のお出かけ先
昨日一昨日と二日連続でのお休みをいただき、ありがとうございました。
予定通り、本日からまた連載再開いたします。
念願叶い、特殊スキル【無限の手】を入手したライト。
早速その威力を試すために、まずはカタポレンの家に帰り近所の散策に出かけることにした。
無限スキルは、物理攻撃の【無限の手】と魔法攻撃の【無限の氣】の二種類が存在する。
今回ライトが得たのは【無限の手】。物理攻撃なので、魔力お化けのライトとの相性はイマイチだ。
だが、SPを一切消費せずにスキル行使できるのは非常に大きい。無限スキルを使いまくるだけで、職業習熟度が上げられるのだから。
しかし、この無限スキルにも大きな弱点はあって、敵に与えるダメージ量がかなり少ないというのがネックだった。
その与ダメージ量は、他の攻撃スキルの十分の一程度。
例えばライトが繰り出す物理系必中スキル【手裏剣】の与ダメージが、一回の攻撃につき500だとしたら【無限の手】での一回のダメージ量は50。
これっぽっちでは、一番最初の冒険フィールドに出てくる草原スライムくらいしか倒せない。
いや、BCOというゲームの中でだけならそれでも良かった。エンカウントするモンスターは、常に一匹だけだったから。
しかし、現実世界となるとそうはいかない。
オーガの里襲撃事件やユグドラツィ襲撃事件の時のように、もしも複数かつ大量の敵に一気に囲まれた場合、どう考えても無限スキルだけで切り抜けるのは厳しい。
ただ、将来ライトがレオニスのように化物じみたレベルになれば攻撃力も半端なく上がって、雑魚魔物くらいなら無限スキルでも倒せるようになるだろう。
しかし、今はまだその時ではない。
高レベルを常時維持できるようになるのは、少なくとも全職業をマスターしてから。転職マラソンを繰り返しているうちは、高レベル維持など夢のまた夢なのである。
という訳で、普通の魔物相手に無限スキルを繰り出すのはもっと先の話。
今は樹木か岩石を相手に試し撃ちしてみよう!とライトは考えていた。
そうしてライトがカタポレンの家の周辺を散策していると、突如背後から何者かの攻撃を受けた。
鋭い棘を持つ緑の蔓が、ライトの腕や足に絡みつきギリギリと締め上げる。
それは、岩陰に隠れていて見えなかったデッドリーソーンローズだった。
いつもライトに『素材集めのための養殖要員』扱いされている植物系魔物、デッドリーソーンローズ。
毎回毎度一欠片の球根だけ残されては、カタポレンの森の魔力を吸い取って新たに復活し蘇る。それはさながら不死鳥の如き生命力の強さであり、ライトは常にその不屈の生命力に感動すら覚えている。
だが、当のデッドリーソーンローズにしてみれば『フザケンナコノヤロー!』である。
恨み骨髄の怨敵を倒すべく、デッドリーソーンローズは今日もライトに果敢に挑む。
無数の棘をまとった二本の蔓を、まるで触手のようにうねうねと動かしながらライトに向けて勢いよく飛ばしてきた。
そんなデッドリーソーンローズに対し、ライトはパァッ!と明るい顔で声をかける。
「あ、デッドリーソーンローズちゃん!ちょうどいいところにいてくれた!無限スキルの検証にちょっと付き合ってね!」
ライトはそう言うや否や、腰に佩いていたシルバーダガーを鞘から抜き取り手にする。
そして間髪置かずにデッドリーソーンローズに向けて【無限の手】を繰り出した。
ライトがシルバーダガーを軽く振ると、衝撃波のような攻撃がデッドリーソーンローズにヒットした。
ライトからの攻撃にデッドリーソーンローズが一瞬怯むも、いつものライトとは思えない弱っちい攻撃で、大したダメージにはなっていない。
このことに気づいたデッドリーソーンローズ、花の中央部分がニヤリ……と歪んだ笑顔のようになる。
怨敵を仕留めるチャーンス!と思ったのか、デッドリーソーンローズの蔓攻撃が一気に激しさを増した。
ヒュンヒュン、ヒュヒュヒュン!という、蔓が風を切る音が聞こえる。それは、これまでの鬱憤を一気に晴らすかのような凄まじい猛攻撃だ。
いつになく激しいデッドリーソーンローズの攻撃に、ライトがこれまた何故か嬉しそうに声をかける。
「デッドリーソーンローズちゃん、今日も元気いっぱいだね!そしたらもう少し【無限の手】を出しても大丈夫かな?」
「よーし、そしたらとりあえず十発いくからよろしくね!」
デッドリーソーンローズの蔓攻撃を、ヒョイ、ヒョイヒョイ、と器用に避け続けるライト。
攻撃を紙一重で避けている最中にも、ライトの無限スキル連打がデッドリーソーンローズに容赦なく襲いかかる。
【無限の手】の一回一回は、とても弱々しくて大した威力ではない。
だがしかし、そこは塵も積もれば何とやらで、無限スキルの五発目あたりからデッドリーソーンローズの蔓や茎がふらついてきた。
そして七発、八発と無限スキルが立て続けにヒットし、十発目にはデッドリーソーンローズは地に伏していた。
「うーん……デッドリーソーンローズちゃんでも、無力化するのに無限スキル十発が要るかぁ。思ったより威力が弱めだな……って、今の俺のレベルが低いから仕方ないんだけど」
「無限スキル一発で魔物を仕留められるようになるには、まだまだ遠いなぁ……そこまでになるには、少なくともレベル500は超えなきゃならんかも」
「……ま、今すぐどうこうできないことを悔しがってもしゃあない。今は無限スキルで職業習熟度を上げて、一日も早く全職業マスターを目指そう!」
ライトは独りごちながら現状を冷静に分析しつつ、アイテムリュックからエクスポーションを一本取り出した。
そしてそのエクスポーションの蓋を開け、へばっているデッドリーソーンローズの横にしゃがみ込み、花の上や根元にダバダバとかけていく。
ライトの感謝の気持ち兼労いの回復剤投与である。
「デッドリーソーンローズちゃん、ご協力ありがとう!また来るねー!」
エクスポーション一瓶分、全てをデッドリーソーンローズに惜しみなくかけ終えたライト。
すくっ!と立ち上がり、ヘナヘナと萎れているデッドリーソーンローズに向かって軽やかな言葉をかけ手を振りながら颯爽と駆け出す。
爽やかに走り去るライトの後ろ姿を、デッドリーソーンローズがプルプルと小刻みに震えながら見送っていたような気がするが。多分気のせいだろう。キニシナイ!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その日の夜、ライトは晩御飯の時にレオニスと明日以降の話を打ち合わせしていた。
「ねえ、レオ兄ちゃん、砂の女王様探しはいつ行く?」
「ンー、そうだなぁ……他の属性の女王と違って、砂の女王はノーヴェ砂漠の中のどこにいるのか全く分からんからなぁ。一日二日じゃ見つけられんことも普通にあり得る」
「だよねー。だから、できればぼくが春休みのうちに一度はノーヴェ砂漠に行っておきたいんだけど」
「……よし、そしたら明日早速行くか」
「ホント!? ヤッター!」
レオニスの即断即決に、ライトが飛び上がらんばかりに喜ぶ。
実際レオニスが言っていたことは、ライトも懸念していたことだった。
数いる属性の女王の中で、砂の女王は唯一その居場所が固定されていない。
スレイド書肆で見た書籍『世界不可思議発見!属性の女王達の神秘!』という資料によると、砂の女王はノーヴェ砂漠の支配者であり、砂の嵐に隠された巨大な城に住んでいるてその所在地は定かではなく、巨城は常に移動し続けていて誰にも見つけることはできないという。
また、もしノーヴェ砂漠の中で運良く砂の巨城と遭遇したとしても、その次の日に再びお目にかかることはないだろう、ともその本には書かれていた。
ノーヴェ砂漠はとても広大な砂漠。隅から隅まで探そうとなると、とてもじゃないが一日二日では到底足りない。
下手をすれば、一週間や十日どころか一ヶ月くらいかけても巨大な城を見つけることができない可能性だってある。
だからこそライトは、春休みのうちに砂の女王を探しにノーヴェ砂漠に行きたいと主張し、レオニスも理解を示したのだ。
「そしたらさ、昼と夜ならどっちがいいかな?」
「ンーーー……まずは日中に探してみるか。夜は魔物が出てこなくが、その分視界も悪くなるしな。魔物に関しては、魔物除けの呪符を使えば昼でも問題なく探索できるし」
「じゃあ、明日のお昼頃に行こう!……って、移動はどうする? アクアやウィカに頼んでワカチコナに移動してもらうこともできるけど……ぼくとしては、ネツァクから行きたいな!」
「ン? 何でだ?」
明日の昼に出かけることが決まり、今度は移動手段に言及するライト。
最も手軽な水中移動はせずに、冒険者ギルドの転移門経由でネツァクから行きたいらしい。
その理由を尋ねたレオニスに、ライトは破顔しつつ答えた。
「だってさ、せっかくの春休みなんだからたくさん冒険したいんだもん!特にノーヴェ砂漠なんて、いつもの土日だけじゃ絶対に時間が足りないから簡単に行けないし」
「……そうだな。ラグーン学園のことを気にせず出かけられるのなんて、長い休みのうちだけだもんな」
「そゆこと!」
ライトが嬉々として語る理由に、レオニスも思わずフフッ、と笑いながら同意する。
属性の女王探しについては、なるべくどころか常にライトも同行できるようレオニスも心を砕いている。それは、属性の女王との出会いがもたらす恩恵をライトも受けられるように、というレオニスの親心からだ。
そういった意味で、最後の女王である砂の女王探しはライトの長期休暇中にしかできないことは明白だった。
「なら、ノーヴェ砂漠の探索もエリトナ山の時のように野営するか」
「あ、それいいね!夜のノーヴェ砂漠は魔物が出ないから、襲われる心配もないし」
「ただし、夜のノーヴェ砂漠はかなり冷え込むぞ? そこら辺の支度もちゃんとしとかなきゃな」
「うん!アイテムリュックに寝袋や毛布はいつも入れてあるし、そもそもぼく達にはもう氷の女王様の加護があるから、寒さで凍えることなんてないもんね!」
「ぁー、そういやそうだったな……」
遠征の心得を説くレオニスに、ライトが無邪気な笑顔で論破する。
せっかく先輩風を吹かすチャンスだったのに、速攻で撃破されてしまったレオニス。
しかし、レオニスがそれを残念がったり悔しがることはない。
ウッキウキで満面の笑みのライトを見て、己の幼い頃を思い出しつつただただ微笑む。
俺も小さい頃、ライトくらいの歳の頃は一日も早く冒険者になりたくて仕方なかったなぁ。
グラン兄が孤児院から卒院していなくなった後、俺も冒険者登録できる歳になったらすぐに登録して、子供でも受注可能な薬草採取や街の清掃なんかに励んでたっけ……
つーか、冒険者登録できる歳になる前にノーヴェ砂漠に行こうとは、さすがに俺でも考えたことはなかったぞ……
グラン兄、レミ姉、やっぱりあんた達の子は俺以上に冒険心の塊みたいだ。
それはもちろん素晴らしいことなんだが……ちょっと目を離すとすぐにどっか行っちまう。ノーヴェ砂漠でも迷子にならんよう、しっかり見張っとかなきゃな……
そんなことをレオニスはつらつらと考えつつ、ノーヴェ砂漠の探索にワクテカ顔のライトを見つめ続けていた。
前話で入手した特殊スキルの検証と、次のお出かけ先のお話です。
作中でも解説した通り、【無限の手】は本当に特殊なスキルなので、その時々で扱い方が微妙に変わります。
レベルが低い今はそこまで幅広い活用はできなさそうですが、職業習熟度上げに関してはそれこそ名の通り無限の可能性を秘めています。
でもって、その検証にデッドリーソーンローズちゃんが扱き使われるのはもはやお約束(´^ω^`)
そして後半の方では、次のお出かけ先がノーヴェ砂漠に決定。
実際一日二日でどうこうできる気がしない作者。果たして何日かかるんだろうか…( ̄ω ̄)…
てゆか、実際に砂漠旅行なんてしたらとんでもなく疲れそうというか、体力ない作者には土台無理ぽ><
あ、ちなみにリアルの作者の昨日一昨日の小旅行はとても楽しかったです♪(・∀・)
ぃゃー、やっぱ温泉っていいですねぇー!これからどんどん寒くなるので、露天風呂はちと厳しいですが。
温泉浸かって命の洗濯してきたので、これからも執筆活動頑張ります!(^∀^)




