第1352話 お泊まり会最後の夜
目覚めの湖からカタポレンの家に戻ったライト達。
今日もこの家で、晩御飯やお風呂はもちろん就寝まで皆と過ごす予定だ。
何故なら明日の朝早くに、アルとシーナが旅立つからである。
ようやく念願叶ったアルとのお泊まり会。
最後の夜こそ皆で共に賑やかに過ごしたい―――それはライトだけの願いでなく、アル達銀碧狼親子もレオニス達も皆同じ思いだった。
帰宅して早々、ライトとラーデは銀碧狼親子とともに風呂に入り、ライト達が風呂から上がってから入れ替わりでレオニスが入浴する。
レオニスが入浴中に、ライトがまずアルとラーデの身体を風魔法で同時に乾かし、その後シーナの身体も乾かしていく。
シーナの身体が乾いていくにつれ、銀碧色の美しくも艶やかな毛がますます輝きを帯びていく。
温かい風魔法を浴びるシーナは、ブラッシングの時と同じくらい気持ち良さそうだ。
『ンふぅ……この温かい風で身体を乾かしてもらうというのも、実に気持ち良いですねぇ……』
「シーナさんに喜んでもらえて、ぼくも嬉しいです!」
『これは風魔法の練習も兼ねているんでしたっけ?』
「はい!こうして生活する中で練習していけば、魔力の調節も上手くなっていくってレオ兄ちゃんに教えてもらったんです」
『確かにライトの風魔法は上手だと思いますよ。これからも鍛錬を頑張ってくださいね』
「はい!」
シーナに風魔法を褒められて、ライトが嬉しそうに破顔する。
確かにライトの魔法は格段に上手になった。
風魔法は普段から入浴後の髪を乾かすために使っているし、毎朝の畑の水遣りには水魔法で水を出している。
人参や玉ねぎ、ゴボウなどの収穫では土魔法を駆使する。
火魔法は唯一普段あまり使わないが、これもそのうちラウルに料理を習えば少しは使うようになるだろう。
そうしているうちに、一旦ラグナロッツァの屋敷に戻っていたラウルがマキシとともに再びカタポレンの家に来た。
転移門があるライトの自室から出て、リビングにヒョイ、と顔を出すマキシ。
それに気づいたライトが、マキシのもとに駆け寄った。
「こんばんはー、お邪魔しまーす」
「あッ、マキシ君!おかえりー!」
「今日もこちらで皆と過ごさせてもらえるなんて、とっても嬉しいです!ライト君、僕も呼んでくれてありがとう」
「そんな、こっちこそお礼を言わなきゃだよ!だってマキシ君はお仕事から帰ってきたばかりなのに、わざわざこっちに来てもらってるんだもん」
「フフフ、ライト君の頼みならいつでも駆けつけますし、僕もアル君やシーナさんといっしょに過ごしたいですからね」
「うん!今日も皆でいっしょに寝ようね!」
今日も優しいマキシの言葉に、ライトが花咲くような笑顔で大喜びしている。
そんな和やかな会話をライトとマキシがしている間、ラウルは台所で人数分の食事を空間魔法陣から出してはテキパキと並べていく。
テーブルの中央には唐揚げの山がドドーン!と聳え立つ。
唐揚げはアル達銀碧狼親子の大好物なので、思いっきりたくさん食べてほしいというラウルの心遣いである。
高さ1メートルはありそうな唐揚げの山に、席に着いたレオニスがびっくりしている。
「おおー、今日は唐揚げパーティーか?」
「アルとシーナさんがこの家に泊まるのは、今日までだって聞いたからな。だから思う存分食べてもらおうと思ってな、さっきまでずっとペリュトンの唐揚げを作ってたんだ」
『まぁ、私達のために用意してくれたのですか? ありがとう、ラウル』
「ワォワォン!」
ラウルの心遣いを知ったシーナが礼を言い、アルも嬉しそうにそれに続く。
一応他にもご馳走はあるのだが、今日のメインは間違いなくペリュトンの唐揚げである。
シーナは唐揚げが食べやすい人の姿で椅子に座り、アルも椅子の上にちょこんと座っている。
「「「『いッただッきまーーーす!』」」」
食事の挨拶後、皆で思い思いに好きなものを食べていった。
自分で皿に取れないアルには、ライトがつきっきりで唐揚げをとってあげている。
唐揚げの山はあっという間に消えていき、ラウルが二皿目を出すに至った。
美味しい晩御飯を食べた後は、皆でリビングに移動してブラッシングタイムに突入だ。
ブラッシングされる側のアルとシーナはもちろん気持ち良いし、ブラッシングする側のライト達も銀碧狼のすべすべツヤツヤの極上手触りを思う存分楽しめる。
さらには銀碧狼の抜け毛も採取できて、特にライトは大喜び。まさに全者Win-Winである。
そうして夜は更けていき、そろそろ寝る時間となった。
明日も仕事があるマキシはラグナロッツァの屋敷に帰るため、アルとシーナが転移門のあるライトの部屋まで見送りにきた。
マキシがアルを抱きしめてもふもふした後、シーナとも固い握手を交わす。
「アル君、シーナさん、僕はここでお別れですが……今度はラグナロッツァにも遊びに来てくださいね」
『ありがとう、マキシ。貴方とも会えて本当に良かった。もし貴方も氷の洞窟周辺に来たら、是非とも私達のもとを訪ねてくださいね』
「はい!僕もいつか、シーナさん達の故郷に行ってみたいです!その時はよろしくお願いしますね!」
「ワゥワゥ!」
ラウルとともに帰宅するマキシを見送ったライト達。
後は寝るだけとなり、ライトの部屋からレオニスの寝室に皆で移動した。
今日もレオニスの超巨大なベッドで、全員で雑魚寝をする。
寝る位置は、右から順にシーナ、アル、ライト、ラーデ、レオニス。川の字ならぬ州の字状態である。
真ん中に寝ているライトが、アルに向かって話しかける。
「昨日のコルルカ高原も楽しかったけど……今日のツィちゃんのところでのハドリー孵化や、目覚めの湖もすっごく楽しかったねぇ……」
「ワフゥン……」
「楽しかったけど、アルも疲れたでしょ……? 明日の朝も早いし……もう寝なくちゃ、ね……」
「クゥーン……」
「「……(スヤァ)……」」
話しかけたはいいものの、二言三言でほぼ同時に寝てしまったライトとアル。特に目覚めの湖での泳ぎが効いているようだ。
レオニスとシーナが、ライトとアルの寝顔を覗き込みながら小さく笑う。
「おお、もう寝ちまったのか」
『目覚めの湖であれだけ遊べばねぇ、さすがに疲れたでしょう』
「まぁなー、湖で一時間以上も泳ぎ続ければなー。さすがに疲れるだろ」
『そこまで激しく動いていない私ですら、そこそこ疲れましたからねぇ……ていうか、レオニス、貴方もアクア君と散々追いかけっこをしていたはずですが……貴方は疲れていないのですか?』
「ンー、全く疲れていない訳ではないが。あの程度遊んだくらいで完全に疲れきることはねぇな」
『そ、そうですか……』
子供達の安らかな寝顔を眺めつつ、保護者達が和やかに会話をしている。
途中シーナがレオニスに疲労具合を尋ねるも、涼しい顔で「然程疲れていない」宣言をするレオニス。
レオニスもライト達に負けないくらい、アクアと激しい追いかけっこを繰り広げていたのはシーナも直接見ていた。
あれだけの追いかけっこをしておいて、あまり疲れていないとか……このレオニスという人族の男の体力は、底なし沼なのかしら? ていうか、本当に人族なの?
シーナがスーン……とした顔で、心の中で『レオニスはやはり人族ではない説』を唱え始める。
そんなシーナの考えなど露知らぬレオニス。
今度はラーデと話をしている。
「今日はラーデもあちこち出かけて疲れたか?」
『いや、この家から離れた場所は魔力が濃い故、今日はたくさんの魔力を身の内に取り込むことができた。特に神樹のところは魔力も清浄で心地良かったぞ』
「そっか、そりゃ良かったな」
ラーデは特に疲れていないと聞き、レオニスが安堵したようにラーデの頭をぐりぐりと撫でる。
「ラーデも早く本調子になるといいな」
『うむ。それにはまだまだ月日がかかるだろうがな』
「どんだけ月日がかかったとしても、元に戻るまでずっとここに居てくれていいからな」
『気遣い感謝する。……さ、我らも寝るとするか』
「ああ。そしたら明かりを消すぞー」
レオニスが、ふぁぁ……とあくびをしながら枕元の頭上のランタンの明かりを消す。
その頃にはシーナも既に眠りに落ちていて、すぅ……すぅ……という複数の寝息が聞こえてくる。
その寝息の頭数に、ラーデとレオニスもすぐに加わった。
カタポレンの森の濃い闇が広がる中、平穏無事な一日を過ごしたライト達の穏やかな寝息が静かに響いていた。
アル達銀碧狼親子のカタポレンの家でのお泊まり会、その最後の夜です。
ホントは翌朝の出立まで書こうと思ったんですが。最後の眠りにつくところの余韻がいい感じなので、ここで一旦締め。
別にこれが今生の別れという訳ではないし、この先もアル達銀碧狼親子は時々拙作に出てくるでしょうけど…(=ω=)… それでもやはり、楽しいお泊まり会が終わってしまうのは何とも寂しいものですねぇ。
というか、アルもいつか人化の術を会得する時が来るはずなのですが。
アルが人化する姿や会話する様子とか、全く想像できない…( ̄ω ̄)…
アルは果たしてどんな姿で、どんな言葉を話す子になるんでしょうね?
その時がきたら、きっとそれなりどころか活発に動いてくれるだろうとは思いますが。作者は今からその日が楽しみです( ´ω` )




