第1350話 気持ち良い肌触りとは
イードに乗ったレオニス達が、目覚めの湖中央にある小島に到着した。
するとそこには、ウィカと水の女王、そしてアクアが待ち構えたいたかのようにレオニス達を出迎えた。
『レオニス君、ラウル君、やほー☆』
「お、皆勢揃いか?」
『皆がここに来るのが分かってたから、私達もここで待ってたわよー』
「そっか、皆久しぶりだな」
『ライト君は今、湖中を誰かと泳いでるみたいだね』
「おう、ライトは銀碧狼のアルと遊ぶのに夢中みたいでな」
レオニス達を快く出迎える、目覚めの湖の愉快な仲間達。
それに対し、レオニスやラウルも適宜答えている。
そして水の女王が真っ先にシーナの存在に言及した。
『レオニス達といっしょにいるのは……あの、アルっていう子のお母さんね?』
『初めまして、水の女王。私は銀碧狼のシーナ、お目にかかれて光栄です。我が子アルとともに、どうぞお見知りおきを』
『銀碧狼……シーナ……どーーーっかで聞いたような……???』
シーナの名乗りを聞いた水の女王、頭の上と顔中に『???』をたくさん浮かべながら考え込んでいる。
『銀碧狼』『シーナ』というワードに聞き覚えがあるような気がするのだが、どうにも思い出せない。
するとここで、シーナの方から水の女王に声をかけた。
『あの……もしかして、氷の女王とお会いしたことがありますか?』
『ッ!!そうそう、そうよ!前に氷の女王ちゃんに会った時に言っていたわ!銀碧狼のシーナ姉様を慕っているって!』
『やはりそうでしたか。氷の女王の言う通り、彼女とは昔から彼の地で仲良くさせてもらっています』
『そうだったのね、貴女があのシーナさんなのね!貴女に会えて、私もとても嬉しいわ!』
シーナの言葉に、水の女王の顔がパァッ!と明るくなる。
それは、先程まで喉に出かかったまま思い出せなかったことが解決してスッキリしたのと、氷の女王が言っていた姉と慕う神獣に会えたことの喜び、二つの理由があった。
思いがけずシーナと出会えたことに、水の女王は喜びつつも伏し目がちにぽつりぽつりと語る。
『貴女も知っていると思うけど……氷の女王ちゃんは、滅多なことでは氷の洞窟から出られないの。夏に外に出るなんて以ての外だし、だからって冬ならいつでも外に出てもいいかと言えばそうではないし』
『私も他の属性の女王もそうなんだけど、私達属性の女王は基本的に決められた場所から動くことができないの。中でも特に氷の女王ちゃんの場合、氷という特性上、融けてしまったら一環の終わりだし』
『だから、氷の女王ちゃんは外の広い世界を見聞きすることもできないし、他のいろんな種族とも出会ったり話をすることができなくて……すごく窮屈な思いをしていると思うの』
『でも……貴女のおかげで、氷の女王ちゃんは寂しい思いをしなくて済んでいるのよね。本当に、本当にありがとう』
自分の妹分である氷の女王の過酷な境遇や思いの丈を、静かに語る水の女王。
そして最後の方ではシーナに対し、感謝の言葉を述べつつ深々と頭を下げた。
そんな水の女王に、シーナが微笑みながら優しく語りかける。
『水の女王、頭を上げてください。貴女が氷の女王を心配する気持ちはよく分かります。この目覚めの湖は、氷の洞窟からはとても遠く離れていますものね』
『ですが、心配は要りませんよ。私だってこれからも氷の女王と仲良くしていくつもりですし、何より今の氷の洞窟には神殿守護神の玄武様もおられます』
『玄武様がおられれば、氷の女王は安泰です。だから、水の女王……どうぞ貴女も安心してくださいな』
シーナの限りなく優しい語りかけに、水の女王の瞳が次第に潤んでいく。
そして水の女王が顔を上げて、シーナの瞳をじっと見つめながら口を開いた。
『ありがとう、シーナさん。貴女のような優しくて頼もしい友達がいて、氷の女王ちゃんは幸せ者ね』
『フフフ、ありがとうございます。あとですね、水の女王、私のことはどうぞ『シーナ』と呼んでくださいな』
『分かったわ!シーナ、これからも私の妹のことをよろしくね!』
『ええ、お任せくださいまし』
水の女王の願いを快諾するシーナに、水の女王が思わずその首っ玉に抱きついた。
言動的には水の女王の方が妹っぽく見えるが、属性関係で言えば水の女王が姉で氷の女王が妹。
友である氷の女王によく似た水の女王、その心根の優しさにシーナも感じ入りながら水の女王に頬ずりしていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その後シーナ達は、小島でのんびりと寛ぎゆったりとした時間を過ごす。
ちなみにレオニスとアクアは、空中で追いかけっこをしている。
アクアがレオニスに『今日も追いかけっこ、する?』と聞いたところ、レオニスが「なら、こないだ俺が言った通り、今日は空中戦な!」と受けて立ったのだ。
追いかけっこの範囲は目覚めの湖の湖面の上限定で、水中に逃げた時点で負け。
最初はレオニスが鬼で、アクアが逃げる方。
だが、開始早々一分もしないうちにアクアが捕まり、その後攻守交代してアクアがレオニスを追いかけ続けている。
そうして小一時間が経過した頃。
ずっと湖で泳いでいたライトとアルが、湖中央の小島に上陸した。
「はー、すっごくたくさん泳いだねー!」
「ワゥワゥ!」
「アル、身体は冷えてない? 風魔法ですぐに乾かしてあげるからね!」
「ワォン!」
普段着とマントやアイテムリュック着用のまま上陸してくるライトに対し、アルは普通にずぶ濡れだ。
小島の畔でびしょ濡れのアルが、身体をドリル状にブルブルン!と震わせて水気を吹き飛ばす。
そんなライト達に、ラウルとウィカが声をかけた。
「お、ライト、ようやく来たか。何だ、目覚めの湖を一周でもしてきたんか?」
「うん!アルといっしょに、なるべく外側を三周くらい泳いできたよ!」
「さささ三周も泳いできたんか……」
『ライト君、おかえりー。銀碧狼のアル君は、ボクとは初めましてかな?』
「ワゥワゥ、ワォン!」
『そかそか、ボクは水の精霊ウィカチャで、名前はウィカというんだ。よろしくね☆』
「アォーン!」
この広大な目覚めの湖、その外周を小一時間のうちに三周も泳いできたというライト。
その無尽蔵の体力に、ラウルが愕然としている。
アルはウィカに挨拶されて、嬉しそうに返事をしている。
そして小島のド真ん中では、シーナのもふもふボディに水の女王が埋もれていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『はぁー……大きなウィカちーに抱きついているようで、すっ…………ごく気持ちいいー』
『ウィカちーというのは、あの黒猫の姿をした水の精霊のことですよね? 黒猫姿の水の精霊とは、実に珍しいですねぇ』
『うん、ウィカちーはこの目覚めの湖の中で唯一毛皮を持っているの。でもでも、もふもふじゃなくてもアクア様やイーちゃんの身体もとっても気持ちいいのよ?』
『そうなのですか?』
水の女王が銀碧色の毛に埋もれながら、アクアやイードの肌触りも気持ちいい!と断言する。
実際水の中に棲む者達の中で、シーナのようにもふもふボディを持つ者は実質上ほぼいない。
唯一の例外は、黒猫の姿をした水の精霊ウィカチャくらいのものだ。
しかし、ウィカはともかく水神アープのアクアやクラーケンのイードの肌触りが気持ちいいとは、一体どういうことであろう。
全く想像もできないシーナに、水の女王が力説し始めた。
『アクア様のお肌は、水神らしくひんやりとしていてね? しかもね、全身鱗に覆われているのにしっとりすべすべのモチモチお肌なのよ!鰭はツルツルピカピカで、何時間でも触っていられる心地良さなの!』
『……???……』
『イーちゃんは、ぬるぬる? ぬめぬめ? とにかく独特の触り心地なの。でも、ぬるぬるやぬめぬめの下にあるお肌はぷにぷにしてて、とーっても癖になる触感なのよ!』
『……?????……』
目をキラキラと輝かせながら、アクアやイードの触り心地を力説する水の女王。
しかし、当のシーナはずっと首を傾げている。彼ら彼女らのお肌の触り心地は、今一つシーナに伝わりきっていないようだ。
というか、シーナでなくとも水神アープやクラーケンのイードの肌触りを正しく想像できる者の方が稀少であろう。
そんな和やかな会話をしている水の女王とシーナのもとに、ライト達が近づいていった。
「水の女王様、こんにちは!ご挨拶が遅くなってすみません!」
「ワォンッ!」
『あら、ライト、アル、いらっしゃい。湖でたくさん泳いできた?』
「はい!アルもすっごく満足したようです!」
「バゥワゥワォーン!」
来訪の挨拶が遅くなったことを詫びるライトに、水の女王は怒ることなくにこやかな顔で迎え入れる。
するとここで、ライトとアルのお腹からほぼ同時に『ぐーきゅるるるる……』という腹の虫の音が鳴り響いた。
どうやら小一時間に渡る水泳の結果、ライトもアルもかなりお腹が空いたようだ。
「あッ、アルもお腹空いたの?」
「クゥーン……」
「ぼくもたくさん泳いだせいか、すっごくお腹が空いちゃった……ラウル、何か食べるものを出してもらってもいい?」
「了解ー。俺が食事の支度をしている間、ライトはアルの身体を乾かしてやりな」
「うん、分かった!」
ライトの要望にラウルが快諾し、早速おやつの準備を始める。
時刻はちょうど午後三時の少し手前、まさにおやつタイムである。
するとここで、アクアをおんぶしたレオニスが空から降ってきた。
「ただいまー!アクアが腹減ってもう動けないって言うから、ひとまずおんぶして連れてきたぞー」
「あ、レオ兄ちゃんもアクアもおかえりー!ぼく達もちょうど今、小島に上がったばかりなんだー!」
「おお、そうか。アルとたくさん泳いで満足したか?」
「うん!」
「ワォン!」
「そりゃ良かったな」
レオニスが巨大なアクアの身体を背負いながら、悠々とライトと会話をする。
一人の人間が10メートルを超す巨体のアクアをおんぶするなど、常識外にも程がある図である。
そしておんぶされているアクアは、げんなりとした様子で力無く呟く。
『レオニス君……君、一体何したの……? 何で僕は、君一人捕まえられないの?』
「おう、そりゃちょっとした秘訣があってな?」
『…………お腹空いた…………』
『ちょ、アクア様!? だだだ大丈夫ですか!?』
レオニスの背中の上で、しおしおと空腹を訴えるアクア。
いつになく萎れきっているアクアに、水の女王が大慌てで駆け寄っていく。
すると、せっせとおやつの支度をしている最中のラウルを見たレオニスが、ラウルに声をかけた。
「つーか、今からおやつか? ちょうどいい、アクアにも何か美味いもん食わせてやってくれ」
「はいよー。アクア、いつものミートボールくんをたくさん出してやるからな。ちょっと待っててな」
『うん……お願いね……』
タイミング良くおやつタイムに帰還したレオニスとアクア。
レオニスがシーナの真横にアクアをそっと下ろし、アクアはぺちょん……と長い首を項垂れて、頭を放り出すように地面に伸びきっている。
水神であるアクアがここまで疲れ果てるとは、一体どれだけ激しい追いかけっこをしたのだろう。
空間魔法陣を開いたラウルは、まず真っ先にアクアの頭の前にミートボールくんの山を築き上げ、それからライトとアルの前に唐揚げの山盛り皿を出して置いた。
他にもレオニス用のおにぎり、水の女王用のアップルパイ、シーナ用の唐揚げ、ウィカ用のジャイアントホタテの刺身、イード用のミートボールくん等々、次々と出してはテキパキと置いていく。
そうしておやつの準備が万端整い、レオニスが率先して食事の挨拶をする。
「「「『『いっただっきまーす!』』」」」
「……ぃただきまぁーす……」
「ワォーーーン!」
おやつタイム開始の合掌の中、ぐったりとしたアクアも食事の挨拶だけはきちんとしている。
そして水の女王が、懸命にアクアの口にミートボールくんをせっせと運んでいく。
今日のアクアは珍しくヘロヘロなので、ライトとレオニスが交互にミートボールくんの上にエクスポーションをダバダバとかけている。
エクスポーションなら、直接飲む方が体力回復に直結するような気がするのだが。そこはミートボールくんとのスペシャルコラボ効果を期待したいところである。
こうして悲喜こもごも?な目覚めの湖でのおやつタイムが繰り広げられていった。
ぐおおおおッ、今日も時間ギリギリッ><
後書きはまた後ほど……
【後書き追記】
目覚めの湖の愉快な仲間達と銀碧狼親子の初対面です。
特に水の女王とシーナには氷の女王という共通の知己がいるので、意気投合しやすいんですよねー。
どちらも美麗キャラなので、二者が並んだり対面したらさぞやキラッキラの華やかな絵面になることでしょう( ´ω` )
駄菓子菓子。その話の内容が『ぬるぬる』とか『ぬめぬめ』って、一体どゆこと?( ̄ω ̄)
次はもうちょい可愛らしい女子トークしようね?(うω´)
そして、何故かここでレオニス vs. アクアの対戦再び。
一度は水中戦でアクアに負けたレオニスですが、ここでまさかの空中戦リベンジ。さらにはまた勝っちゃったりなんかして。
またレオニスに負けを喫したアクア、何て可哀想なこと(;ω;)
この二者は、お互い良い遊び相手なことに間違いはないんですが。きっとこうして勝っては負けてを延々と繰り返すんでしょうねぇ('∀`)




