第1347話 ハドリー達の名前
ライト達が懸命に使い魔の卵を孵化にさせている頃。
ラーデとシーナは、ユグドラツィの根元でライト達の孵化作業を興味深そうに眺めていた。
『私達銀碧狼は卵生ではないので、卵のことはよく分かりませんが……卵を孵化させるのも、雛や子に餌を与えるようにするものなのですねぇ』
『いや、あれは特殊例だぞ? 鳥などは体温で卵を温めて孵化させるものだ』
『え、そうなのですか?』
卵の孵化のさせ方を思いっきり勘違いしているシーナに、ラーデが訂正している。
シーナは今目の前で繰り広げられている、ライト達の孵化作業が普通というか王道のやり方だと思いながら見ていたというのに。
シーナが目をぱちくりさせながら、ラーデとライト達を交互に見ながら不思議そうに呟く。
『だってライト達は、とても大きな大根?というものを卵に直接与えていますよ?』
『うむ。あの者達のやることは普通ではないからな』
『……そういえばそうでしたね。そもそもあの者達は、何から何まで普通ではありませんでした……』
的を射過ぎたラーデの言葉に、シーナがスーン……とした顔になりながら納得している。
そう、シーナは失念していた。レオニスはもとよりライトも普通の人族の子供ではないことを。
だが、彼らが持つ規格外の力は決して他者を害するものではなく、常に誰かを救い助けるために使われていることもラーデ達は知っている。
今行っている卵の孵化作業だって、ユグドラツィのためにやっていることだ。
そうした優しさに満ちたライト達の、懸命に動く姿を見ながらシーナ達がぽつりと呟く。
『しかし……過程の是非はともかく、新しい生命の誕生とはいつ見ても感動ですねぇ』
『ああ。あのハドリーは草木の精霊だそうだ。まさに神樹の友に相応しいと言えるだろう』
『そうですね……長き時を生きる神樹の友として、きっと末永く寄り添ってくれることでしょう』
ライト達の手で次々と生まれてくるハドリーを、ラーデもシーナもとても眩しいものを見るかのように目を細める。
そんなラーデ達の横で、リィとハナがアルと遊んでいる。
何故リィがアルと戯れているかと言うと、ユグドラツィはライトに託された重大任務―――ハドリー達の命名のための名前候補を考えるのに必死で、リィと遊ぶどころかハドリー達の誕生の瞬間もろくに見れていない有り様だからである。
ライトに託された使命の重大さに、ひたすらうんうんと唸り思案し続けるユグドラツィ。
何をそんなに唸り続けているのかと言えば、ひとえにハドリー達の名前を十個以上も挙げなければならないためだ。
リィに続く二体目のハドリーに『ハナ』と名付けたはいいものの、その後も続々と生まれてくるであろうハドリー全てに名付けをしなければならないのである。
名付けも一つ二つならまだいいが、一気に十体以上の名が必要となるとそう簡単にはいかない。
いつもとは完全に様子の違うユグドラツィに、リィが心配そうに声をかけていたのだが―――
『ママ、どうしたの?』
『……うーーーん……ハドリー……草木……』
『ちぇー、ママったらずっとうわの空でろくに返事もしてくれないし…………』
ユグドラツィはあまりにも真剣に思案中で、リィの話が全く聞こえていない。
普段のユグドラツィなら、絶対にこんなことにはならないのだが。
いずれにしても、ろくに相手をしてもらえないリィがつまらなさそうにぼやく。
すると、ハナがリィとは全く違う方向を見ながらリィに問うた。
『……ねぇ、リィお兄ちゃん。あの白いの、ナニ?』
『ン???』
生まれて初めて見る白いふわもふに、まずハナが興味を示した。
妹の問いかけにリィもそちらを見ると、実に興味を唆られる白い毛玉のようなものがいるではないか。
何とも魅力的なその白い毛玉に、興味津々で近づいていくリィとハナ。
すると、何とアルの方からリィ達に頬ずりをした。
『『ッ!!!』』
アルの好意的な挨拶に、リィもハナも目を丸くしながら感動している。
そしてすぐさまアルの横っ腹に、ぼふんッ!と飛び込んだ。
銀碧色のふわもふダイブは、さぞかし気持ち良いことだろう。
その後ライトが次々と連れてきてはリィに預けていく新たなハドリーも、皆例に漏れずアルのふわもふボディに飛び込んでいく。
それはライト達が使い魔の卵を全て孵化させ終えるまで続いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
それからしばらくして、ライト達は今日孵化させる予定の卵を全て孵化し終えた。
十六体のハドリーが、全員アルのもふもふボディに身を埋めてうっとりとしている。
するとここで、少し離れた場所にいるライトがリィ達ハドリーに向かって声をかけてきた。
「ハドリーの皆ー、こっちに来てくれるー?」
『『『??? はぁーーーい』』』
ライトの呼びかけに応じ、アルの毛に埋もれていたハドリー達がのっそりと起き上がり、ふよふよとライトがいる方向に飛んでいく。
そしてライトに言われるがままに、ループタイやネックレスを選んでいくハドリー達。
彼ら彼女らが選んだ装飾品を、ライトが一人づつ首にかけてやっていく。
「よし!これでハドリー達全員にアクセサリーが渡ったぞ!後はツィちゃんの名付けだけだね!」
「ツィちゃん、十五人分の名前は決まったか? 何なら俺もいっしょに考えるぞ?」
「ご主人様よ、それはやめておいてくれ……」
「ン? 何でだ?」
十五体全てのハドリーが無事生まれ、識別と装飾と誕生日プレゼントを兼ねたアクセサリーの配布もし終えた。
残すは個々への名付けのみ。レオニスがユグドラツィに、名前の案を出すのを手伝おうか?と申し出るも、速攻でラウルが引き止められた。
ハドリー達に対する未曾有の悲劇を未然に防ぐとは、実に素晴らしい働きだ。さすがはラウル、今日も完璧なる万能執事である。
『……とりあえず、リィとハナ以外の名前も考えました……』
「じゃあ、残りの十四体のハドリーにも名前をつけてあげてください!」
『分かりました……』
ライトが一人づつハドリー達の手を取りながら、横一列に整列させていく。
ユグドラツィから向かって右側に男の子を、左側に女の子を並べた。
そしてユグドラツィが、意を決したように思案した名前を伝えていく。
『右側から順にいきますね……右から二番目の、リィの隣にいるサファイアの子は『ドナート』、エメラルドの子は『ハロルド』…………』
『ここからは女の子ですね。ハナの横にいるトパーズの子は『リシェ』、その左のペリドットの子は『ドロシー』…………』
ハドリー一人一人に名前を言い渡していくユグドラツィ。
名付けの基準は主にハドリーの『ハ』『ド』『リ』を頭文字としているようだ。
どの名前もちゃんと可愛らしくて、ハドリーの素朴な外観にもよく似合っている。
また、言い渡す時に首飾りの宝石名もちゃんと出していて、実に分かりやすい。
名前を呼ぶ方のユグドラツィはもちろんのこと、呼ばれた方のハドリー達も『あ、自分のことだな』とすぐに分かるし、横で聞いているライト達も『ああ、あの子の名前は○○なんだな』と容易に覚えることができる。
やはりユグドラツィに名付けを託したのは正解だった!とライトは確信した。
そうして追加の十四体全てにユグドラツィが考案した名前がつけられた。
ハドリー達は口々に『私は、ハニー!』『僕は、ハワード!』と自分の名を高らかに唱え、嬉しそうにしている。
「ツィちゃん、ハドリー達の名付け、ご苦労さまです!」
『ありがとう、ライト。前もって言ってくれたおかげで、何とか全員分の名前を考えることができました』
「さすがツィちゃん、どれも良い名前だな」
『ラウルもありがとう。貴方が懸命に育ててくれた大根のおかげで、こんなにもたくさんの可愛らしい草木の精霊達が生まれました。改めてお礼を言わせてください、本当にありがとう』
「ホントになー、子供の名付けってのは責任重大で重圧が半端ないよなー。もしここでまたハドリーが増えた時には、俺も名付けを手伝ってやるからな!」
『ありがとう、レオニス。その時は是非とも貴方の力を借りさせていただきますね』
「「……(……それはやめといた方がいいと思う……)……」」
ライトとラウル、そしてレオニス、一人一人に改めて礼を言うユグドラツィ。
最後のレオニスからの労いについて、ユグドラツィは何ら疑問を持つことなく素直に受け答えしているが。ライトとラウルは口にこそ出さないものの、腹の中で懸命に阻止に努めている。
こうしてライト発案の一大プロジェクト『ハドリーの里を形成しよう!大作戦』は大成功のうちに完了したのだった。
使い魔の卵十五個が無事孵化し、識別のためのアクセサリーも配り終えた後は、いよいよ名付けの儀です。
一気に十四体全ての名前を出すのも冗長かと思い、今回は全部出してはいませんが。ちゃんと十四体分の名前は考えてあります。
てゆか、作者だってレオニスに負けないくらいに名付けは苦手だってのに(;ω;)
もういっそのこと全部レオニスのせいにして『ハド太』『ハド郎』『ハド男』『ハド子』『ハド恵』『ハド代』と名付けてしまいたかったですぅ…_| ̄|●…




