第1346話 十五体のハドリーの誕生
昨日は予告通りのお休みをいただき、ありがとうございました。
予定通り、本日からまた連載再開いたします。
ユグドラツィのもとで早速使い魔の卵の孵化を始めたライト達。
前回ライトとラウルがここでハドリーを孵化させたばかりなので、今回はその手順を全て把握している。
故に孵化作業もサクサクと進められた。
最初ライトが卵を手に持ち、レオニスとラウルが交互に巨大大根を持ち上げて卵に触れさせる。
あまり慌てたり急ぐこともないので、巨大大根が完全に吸収されて卵の大きさの変化が収まるのをしっかりと見届けてから、一本づつゆっくりと与えていく。
その様子を見ながら、レオニスとラウルが話をしている。
「この茶色の卵、神殿の卵と同じく食べ物を吸収するっぽいが……餅や肉だけじゃなくて、大根でもOKなんだな」
「ああ。要は俺達が普通に飲み食いできるものならOKってことなんだろうな」
「だな。そしたら今度、巨大林檎や巨大トウモロコシでもやってみるか?」
「お、それいいかもな。オーガの里でパイア肉をやった卵からはラニ―――黒い狼が生まれたが、大根だとハドリーが生まれたからな。大根以外の野菜や果物を与えれば、黒い狼やハドリーとはまた違う生き物が生まれるかもしれんな」
使い魔の卵に大根を与えながら、のんびりとした会話をするレオニスとラウル。
それを横でおとなしく聞いているライトは、内心で『正解、食べ物や飲み物なら何でもOKー』『あー、林檎やトウモロコシかー。確かにっつーか、多分ハドリーとは違う種族が生まれる可能性大なんだよな。……よし、今度転職神殿でやってみよう』等々密かに考えている。
そうして二十五本分の巨大大根を与え終えたライト達。
今日の一個目の使い魔の卵から生まれたのは、ハドリーの女の子だった。
「おお……こりゃ女の子か?」
「そうみたいだな。男の子のリィとは服装や顔立ちが異なるが、服や髪型は女の子っぽいな」
「肌や髪の色、帽子の特徴なんかもリィと同じだよな」
「ドライアドは幼女しかいないが、このハドリーってのは男女両方存在するんだな」
卵の殻を全部破るのに疲れたのか、ハドリーの女の子が地べたにペタン、と座り込んでいる。
その真ん前にレオニスとラウルがしゃがみ込み、ハドリーの顔を覗き込みながら繁繁と観察している。
すると、ハドリーがみるみるうちに涙目になって怯え始めた。
『ふぇぇ……』
「ちょ、レオ兄ちゃん、ラウル、ハドリーが怖がってるじゃん!観察するにしてももうちょっと離れてやってよ!」
「ン? ……ぉ、ぉぅ、そりゃすまんかった」
「ぉぉ、怖がらせるつもりはなかったんだ、ごめんな」
今にも大泣きしそうなハドリーを庇うように、ライトがレオニス達とハドリーの間に割り込んだ。
見知らぬ大の男、しかも自分の倍以上は大きな巨体二人が突如目の前に現れて、しかもジロジロとガン見し続けられたら―――ハドリーが怯えて泣き出すのも無理はない。
好奇心が先立ってしまい、ハドリーを怖がらせてしまったことを謝るレオニスとラウル。
身体が固まってプルプルと震えるハドリーに、ライトが優しく声をかける。
「初めまして、こんにちは。ぼくの名はライトっていうんだ。よろしくね」
『……(コクリ)……』
「自分の足で立てる?」
『……(コクリ)……』
「じゃあ、ツィちゃんのところに行こうね」
『……(コクリ)……』
ライトの言葉に無言のまま頷くハドリー。
差し伸べられたライトの手を取り、そのままライトに抱っこされた。
ハドリーを抱っこしたライト、早速ユグドラツィの前に行き女の子が孵化したことを報告する
「ツィちゃん、今度はハドリーの女の子が生まれました!」
『まぁ、何て可愛らしい子でしょう……リィ、貴方の妹分ですよ』
『妹分……僕の、妹……』
ライトが抱っこしたハドリーをじっと見つめるリィに、ユグドラツィの枝葉もざわざわと大きく揺れる。
それは二体目のハドリー、しかも女の子が生まれたことに歓喜しているかのようだ。
それまでユグドラツィの根の上にちょこん、と座っていたリィ。
ライトの方に向かってふよふよと飛んで近づいていく。
そしてライトの腕の中にいるハドリーに向かって、リィが声をかけた。
『僕は、君のお兄ちゃんのリィ。よろしくね』
『……(コクリ)……』
『ママ、この子の名前は決めてくれた?』
『な、名前……』
女の子のハドリーに挨拶するリィ。
自ら『君のお兄ちゃん』と名乗るあたり、ユグドラツィが言っていた『妹分』というのを素直に受け入れたようだ。
しかし、名前がないと都合が悪いようで、リィが早速ユグドラツィに妹分の名前を催促した。
『えーとですね……女の子ですから、『ハナ』……というのはどうでしょう……』
『ハナ……君の名前は『ハナ』だって。ママから可愛い名前をもらえて良かったね』
『うん!』
ユグドラツィが出した名前は『ハナ』。女の子らしくて可愛い名前だ。
それを聞いたリィが女の子のハドリーに伝え、『ハナ』と命名されたハドリーが初めて笑顔になった。
お兄ちゃんの言葉に嬉しそうに答える妹、何という微笑ましい光景だろう。
仲睦まじい兄妹の姿に、ライト達は心温まる思いで見守っていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
今日の孵化作業で一番最初に生まれたハドリー、ハナをリィとユグドラツィに預け、ライト達は再び使い魔の卵の孵化作業に戻った。
そうして次々と新たなハドリーが生まれていき、一時間もすると十五個の卵全ての孵化が完了した。
その結果、男の子が七体、女の子が八体。最初に生まれたリィを入れると、男女の割合がちょうど半々となった。
十六体のハドリーが、ユグドラツィの根元でわらわらと戯れている。
それはとても可愛らしくて微笑ましいのだが、それを見ているレオニス達の顔は何故か渋い。
「ンーーー……男女の区別くらいは何とかできるが、個々の顔の区別が全くつかんぞ……」
「確かに……つーか、天空島のドライアド達だって顔つきは殆ど同じだからな……」
「これ、どうやって判別すりゃいいんだ?」
ぬーーーん……と唸りながら、眉間に皺を寄せてハドリー達を眺めるレオニスとラウル。
何をそんなに渋い顔をしているのかというと、ハドリーが殆ど同じ顔で区別がつかないのだ。
いや、男の子と女の子の区別くらいはつく。服装や装飾の違いがあるからその程度ならまだ何とか分かる。
しかし、八体の男の子と八体の女の子、そのどれもが皆同じ顔なのだ。
実はこれは、ハドリーがBCO由来の使い魔であることが原因だ。
他のモンスターなどと同じく、使い魔もグラフィックデータは全部共用。
つまり、BCOで使い魔の卵を孵化させてハドリーを複数体所持したとしても、元のデータや絵は基本的に一つ種類だけなので全員完全コピペ状態なのだ。
これではレオニスやラウルが『全く区別ができん!』と悩むのも当然である。
しかし、ここでラウルが不思議そうな顔でレオニスに問うた。
「何だ、冒険者ギルドの受付の姉ちゃん達はきっちりと区別がつくご主人様でも、ハドリーの顔の区別はつかんのか?」
「それとこれとは別もんだ。あっちは命がけっつーか、それこそ死に物狂いで区別する方法を覚えたからな」
「何でまたそんな必死に覚える必要があったんだ?」
「あの姉妹の名前を呼び間違えるとな、クレアにお仕置きされるんだ……」
「さいですか……」
レオニスの答えに、ラウルが半ば脱力している。
確かにラウルの疑問は尤もで、ほぼほぼコピペに等しいクレア十二姉妹をレオニスは完璧に判別できるのに、ハドリーの顔は分からないのか?と思うのは当然のことだ。
だがしかし、レオニスから語られた理由を聞けば納得せざるを得ない。
クレアからのお仕置きというのが、どれ程のものなのかは分からないが。レオニスが懸命に回避しようとするくらいだ、きっとものすごくものすごいことが繰り広げられるのだろう。
何でもできるスーパーウルトラファンタスティックパーフェクトレディーからの報復を恐れて、必死でクレア十二姉妹の判別方法を覚えたレオニス。聞くも涙、語るも涙の壮絶な修行だったに違いない。
するとここで、先程からアイテムリュックを取りに行っていたライトが戻ってきて何かを取り出した。
「こんなこともあろうかと……ぼくがちゃーんと対策を取ってきたんだ!」
「ン? 対策? 何だそれは?」
「ジャジャーン!ハドリー達につけるアクセサリーでぇーッす!」
「「アクセサリー……」」
アイテムリュックからドヤ顔でアクセサリーを取り出し、レオニスとラウルに見せるライト。
ライトの手のひらの上に乗せられていたそれは、ループタイとネックレスの二種類がある。
「男の子にはループタイ、女の子にはネックレスをプレゼントするつもりで作っておいたんだー」
「おお……しかもこれ、嵌めてある石が全部違うな?」
「そう!アクセサリーには宝石をつけてあるんだけど、どれも全部違う種類にしたんだ!」
「なるほど……それぞれ違う特徴を持つアクセサリーを身に着けさせることで、ハドリー達の見分けがつくようにするってことだな?」
「正解!」
ライトの意図を早々に理解したレオニスとラウル。
感心しきりと言った様子でライト特製アクセサリーを手に取り眺める。
ハドリー用のアクセサリーは全て蝋引き紐で作った。マクラメ編みなどを用いていて、金具類は極力控えた作りとなっている。
また、男の子にはループタイ、女の子にはネックレスを用意していた。
そして判別のための主要な役割を果たすのは、それぞれにあしらってある宝石。
ルビーやサファイア、エメラルドといった色付きの宝石で、全て違う色合いのものにした。
こうすることで、例えば『エメラルドのループタイを着けているのは○○!』『アメジストのネックレスを着けているのは△△!』というように、誰でも容易にハドリーの区別がつくようになる!といった寸法である。
ハドリー達の顔貌がコピペレベルでそっくりであろうことは、ライトも十分予測できた。
そして、見た目で区別がつけられないなら違う持ち物を身に着けさせればいいじゃない!という思いつきのもと、今日のこの日のためにライトはハドリー用のアクセサリーを作り貯めておいたのだ。
万事抜かりないライトの周到さに、レオニスもラウルも手放しで褒め称える。
「すげーな、ライト!ここまで完璧に準備していたとは、さすがはグラン兄とレミ姉の子だ!」
「ああ、この小さなご主人様は本当に賢くて偉大だな。先の先を見越して動ける、実に素晴らしい」
「ちょ、そそそそれは、さすがに褒め過ぎだって……」
レオニス達のあまりの大絶賛ぶりに、ライトが照れ臭そうにしている。
レオニスやラウルにしてみれば、そこまで過剰に持ち上げたつもりなど全くない。何故なら、自分達が苦悩していた判別問題をあっさりと片付けてしまったのだから。
むしろ『本当のことを言って、何が悪いんだ?』とでも言い出しそうだ。
「じゃあ、早速ハドリー達にこのアクセサリーを配るか」
「うん!ハドリーの皆ー、こっちに来てくれるー?」
『『『??? はぁーーーい』』』
ライトの呼びかけに、ハドリーたちがわらわらと集まってきた。
レオニスさんもラウルさんも、本当に失敬ですねぇ。
かの有名な十二姉妹さんは全員顔立ちが違いますし、そもそも人の名前を間違える方が悪いんですよ?
彼女達の顔すらきちんと見分けられない人は、お仕置きされても致し方ないでしょう!
ところで……そのハドリーという草木の精霊さん? とても可愛らしいので、是非とも我が家にも一体お迎えしたいのですが。
どうすればハドリーちゃんをお迎えできるのでしょう?
ご存知の方がいらっしゃいましたら、冒険者ギルドディーノ村出張所までご連絡ください。
皆様からの情報、どしどしお待ちしております!
(ディーノ村在住、ク・レーアさん(仮名:19.125歳))




