第1342話 思いがけない来客
ラーデとアウルムがいつかともに旅に出るという約束を交わし、しばし談笑していたライト達。
すると、アウルムがピクッ、と動きとある方向を見遣る。
『ぬ……彼奴らが来たか』
『ン? 彼奴らとは、誰のことだ?』
『先程話した、鷲獅子騎士団という集団に属する者達だ』
「え、何、あいつら今日もここに来てんの?」
アウルムの言葉に、レオニスがびっくりした顔で問い返す。
鷲獅子騎士団はアクシーディア公国直属機関であり、そこまで暇な時間があるはずはないのだが。アウルムがそう感知したのならば、それは間違いなく真実なのだろう。
そしてしばらくすると、アウルムが見遣った方向から何者かが近づいてくるのが見えた。
その影は五つあり、次第にその姿がはっきりとしてきた。
それはやはりアウルムの言う通り、五組の鷲獅子騎士団員達だった。
「アウルム殿ー!ご無沙汰しておりますー!」
「今日はこちらにおいででしたかー!」
「……ン? もしかして、アレは……レオニス卿!?」
相棒の鷲獅子に乗って、アウルムのもとに一目散にやってきたであろう鷲獅子騎士達。
アウルムの周辺にいくつもの人影っぽいのがあるのを見て驚いている。
そして騎士を乗せた鷲獅子達はアウルムの近くに降り、騎士達が相棒の背から降りてレオニス達のもとに来た。
「レオニス卿ではないですか、こんなところで会うなんて奇遇ですね!」
「よう、エドガー。何だ、今日も修行と称してアウルムに会いに来たのか?」
「『修行と称して』とは失敬な。我らは本当に修行に来ているのですよ?」
「そ、そうですとも!」
「え、ええ、我らは決してここに遊びに来た訳ではないのです!」
「ホントかぁー?」
思いがけず会ったレオニスに、エドガー他鷲獅子騎士達が挨拶するも鋭いツッコミをされて若干慌てながら目を泳がせている。
今日ここに来たのは、鷲獅子騎士団副団長エドガー・ヘルクヴィスト、第二部隊隊長クレイグ・アンダーソン、第三部隊副隊長マイク・ワーフィールド、第四部隊アンジェラ・ルーニー、第五部隊アルノー・クローデル、以上の五人だ。
「つーか、修行ってどんなことしてるんだ?」
「主に野生の鷲獅子達との追いかけっこですね。レオニス卿が我ら鷲獅子騎士団の鷲獅子達と親睦を深めるためによくやっておられたアレですよ、アレ」
「あー、確かにアレは仲良くなるにはもってこいだな」
「でしょう? もちろん魔法や反撃も多いにアリということで、実践さながらの緊迫した修行をしているのです!」
鷲獅子騎士達が語る修行内容に、レオニスも頷きながら納得する。
魔法攻撃や反撃ありの追いかけっこ、要は竜騎士達がシュマルリで竜族相手にやっていることと同じようなものだ。
この広大なコルルカ高原なら、辺りへの損害やら何やらを気にすることなく存分にぶつかり合えるであろう。
「なら、今からそれをするのか?」
「もちろんですとも!そのために我らはここに来たのですから!」
「なら、俺も混ぜてくれ」
「「「え?」」」
鷲獅子騎士達の修行に俺も混ぜろ!と言い出したレオニスに、鷲獅子騎士達が一瞬呆気にとられている。
一方のレオニスは、そんなことお構いなしで他の者達に聞いて回った。
「ライトも行くか?」
「うん!行く行く!」
「シーナはどうする?」
『私は遠慮しておきます……鷲獅子相手だと、はるか上空に逃げられた場合どうすることもできませんので』
「そりゃそっか。ラーデとアウルムは……うん、養生中に無理しちゃいかんな」
『ああ。其方らの全力に付き合うのはまだキツいな』
『うむ、吾もここで見学することにしよう』
レオニスが参加者を募った結果、ライトのみ追加参戦することになった。
確かに銀碧狼は空を飛べないから圧倒的に不利だし、ラーデもアウルムも病み上がりの身故にここで無理をさせる訳にはいかない。
「よし、そしたらライト、行くぞ」
「うん!」
「ラーデとアウルムは、シーナ達といっしょにここでのんびりと見学しててくれ」
『『うむ』』
『ライト、気をつけていってらっしゃいね』
「はーい!」
ライトがすくっと立ち上がり、レオニスとともに鷲獅子騎士達のもとに向かう。
一方の鷲獅子騎士達は、レオニスはともかくライトのような幼子まで修行に加わるとは予想外過ぎて戸惑っている。
「レ、レオニス卿、子供にこの修行はちょっと……いや、かなり危険ですよ?」
「そうですよ!レオニス卿は問題ないと思いますが、さすがに子供には危な過ぎます!」
「君、ここは子供が遊ぶところじゃないんだよ?」
口々にライトの参加を止めようとする鷲獅子騎士達。
もちろんそれは侮蔑とか見下している訳ではなく、本当にライトの身を案じての善意によるものである。
しかし、この程度の制止で踏み止まるような人外ブラザーズではない。
ライトは満面の笑みで鷲獅子騎士達に応える。
「心配してくれてありがとうございます!でも、ぼくは本当に大丈夫なので!」
「そうは言っても……」
「ああ、お前らはライトに会うのは初めてだもんな。こいつは俺の養い子でライトっていうんだ」
「「「!!!」」」
まだ躊躇している鷲獅子騎士達に、レオニスがライトの素性を明らかにする。
レオニスが面倒を見ている養い子ならば、只者ではないことは彼らにも理解できる。
そして彼らは、自分達が失念していたことに思い至る。レオニスとともにこのコルルカ高原に来ている時点で、この子供―――ライトは普通の子供ではないのだということを。
そんな彼らに、ライトの方から進んで挨拶した。
「鷲獅子騎士団の皆さん、初めまして!ぼくはライトと言います。レオ兄ちゃんがいつも皆さんのお世話になってて、本当にありがとうございます!」
「ぃ、ぃゃ、こちらこそレオニス卿には世話になってばかりで……」
「そ、そうか、君が噂に聞くレオニス卿の養い子か……」
「なら、我らの修行に加わっても問題ない、のか……?」
ライトが何者であるかを知った鷲獅子騎士達の態度が、一気に軟化する。
蛙の子は蛙、じゃないが、冒険者の養い子もまた冒険者を目指すであろうことは容易に理解できた。
しかも目指す目標が金剛級冒険者とくれば、常識の範疇に収まるはずもない。
しかし、それはそれとしてエドガー達がライトに注意を伝える。
「ライト君、一応言っておくが……これは追いかけっこと言ってもかなり危険だよ。決して無理はしないように」
「はい!」
「怖くなったり怪我しそうになったら、すぐに離脱すること。いいね?」
「分かりました!」
「万が一怪我をしたら、すぐにアウルム殿のもとに戻るように。アウルム殿なら回復魔法を唱えてくださるから」
「はい!」
やんわりと注意事項を伝える鷲獅子騎士達に、ライトは都度ハキハキと答える。
そんな中、アンジェラがふとした顔で何気なく呟く。
「ていうか、君、鷲獅子に乗るの?」
「いいえ、ぼくはレオ兄ちゃんのように自分一人でも飛べるので、鷲獅子に乗らなくても追いかけっこできます!」
「ぁ、そうなの……」
「はい!心配してくれてありがとうございます!鷲獅子騎士の皆さんって、本当に優しい人ばかりなんですね!」
「「「…………」」」
鷲獅子騎士達の優しさに感謝するライトの前で、鷲獅子騎士達は思わず無言になる。
そして全員が全員『この兄にして、この弟ありなんだなー……』と何気に失敬なことを考えていた。
「つーか、追いかけっこなら誰が最初の鬼になるんだ?」
「いつもは我らが野生の鷲獅子を追いかける側なんですが……せっかくですし、今日はレオニス卿に鬼役をしていただきましょうか」
「おう、いいぞ。そしたらライトはどうする?」
「ンー、ぼくもレオ兄ちゃんといっしょに鬼役になるかな!」
「そっか。エドガー、聞いた通りだ。ライトにとっ捕まらんよう気をつけろよ」
「無論。我らも手抜きはしませんぞ」
「上等だ。じゃ、お前らが相棒に乗り込んだら俺が十数える」
「「「了解!」」」
レオニスの追いかけっこ開始宣言に、鷲獅子騎士達が急いで己の相棒のもとに駆けていく。
その間にレオニスはラーデ達にも声をかけた。
「じゃ、そんな訳で俺達はちょっくらあいつらと遊んでくるわ」
『うむ、気をつけてな』
「アルとシーナさんは、ラーデやアウルムさんとここでのんびりお話ししててくださいね!」
『ええ、貴方方の勇姿をここでじっくりと見せてもらいましょう』
「ワォン!」
ライト達がそんな話をしているうちに、鷲獅子騎士達が全員相棒の鷲獅子に乗り込んだようだ。
「よーし、じゃあ今から十数えるぞ!十、九、八、七……」
レオニスの呼びかけに、鷲獅子騎士達が一斉に四方に散らばっていく。
「……三、二、一、ゼロ!」
カウントダウンが完了した途端、レオニスとライトがとんでもない勢いで飛んでいく。
そうして鷲獅子騎士団 v.s 人外ブラザーズの追いかけっこ修行が始まっていった。
うおおおおッ、ついうたた寝してしまい、起きたらこんな時間に><
だんだん冬も近づいてきて、ベッド&布団の魔力が強まる一方でのうたた寝は大変危険><
一方人外ブラザーズ達は、作者の諸々の衰えなどどこ吹く風で今日も元気いっぱい追いかけっこです。
少し前までなら、こんな危険極まりない追いかけっこにライトが参加することなどレオニスも絶対に許さなかったところですが。今はもうライトの底知れない力を知っていて、なおかつライト自身のことを信用しているので参加を許諾したのです。




