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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
二度目の春休み

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第1334話 果たされる約束と新たな約束

 和やかな空気に戻ったところで、氷の女王がラウルに話しかけた。


『ラウル、玄武様用の食べ物がそろそろなくなりそうなのだが』

「ああ、そしたら奥の部屋に補充しなきゃならんな」

『いつもすまんな。玄武様は本当に、其方が持ってきてくれる野菜や魚介が大好きなのだ』

「そりゃ良かった。玄武、たくさん食べて大きくなるんだぞ」

「クァッ!」


 氷の女王の頼みに、ラウルは即時快諾する。

 前回ラウルが訪れた時にも、かなり大量の野菜や魚介類を置いていったはずなのだが。氷の女王が言うように、玄武がモリモリ食べるので在庫が然程保たないらしい。


 ちなみに今の玄武は氷の女王が抱っこできるサイズだが、これは玄武が身体を小さくしている。

 玄武や朱雀のように洞窟を住処とする守護神は、言葉を覚えるより先に身体の大きさを変えられるようになることが必須なのである。


 ラウルがテーブルに乗っている玄武の背中を優しく撫でた後、席から立ち上がりライトに向けて声をかけた。


「ライト、俺は今から氷の洞窟に入って玄武の食べ物を置いてくるが、ライトはどうする? シーナさんもいることだし、このまま外でアルと遊んでてもいいが」

「ンー、そうだなぁ……遊ぶのもいいけど、この辺の雪をもうちょっと採ったりアルのブラッシングなんかもしておきたいかな」

「そうか」


 ライトの希望を聞いたラウル、今度はシーナの方に向き直った。


「シーナさん、ライトといっしょにいてくれるか?」

『ええ、いいですよ』

「ありがとう、よろしくな」

『シーナ姉様、ありがとうございます』

『いいえ、この程度のこと雑作もありませんよ』


 ライトの子守を頼まれたシーナも、快く承諾する。

 ライトとアル、揃ってあちこち走り回られるのは子守も大変だが、雪の採取やアルのブラッシングならば然程体力を使うこともあるまい。


「そんなに時間はかからんと思うから、ライト達は洞窟入口近くで待っててくれ」

「はーい!じゃあぼくはしばらく雪を採ってるので、アルとシーナさんはもう少しここで休んでてくださいね」

「ワォンワォン!」

『そうさせていただきましょう』


 そうしてライトはアル親子とともに洞窟入口に残り、ラウルは氷の女王や玄武とともに氷の洞窟に入っていった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ラウル達と一旦分かれたライト。

 お茶会で使用していたテーブルと椅子はそのままにしておき、ライトは周辺の雪を集め始めた。


「雪を採り終わったら、アルにブラッシングしてあげるからね。ちょっと待っててねー」

「ワゥワゥ!」


 シーナは椅子に座ったまま優雅にアイスコーヒーを啜り、アルはシーナの横でお行儀良くお座りしてライトが戻るのを待っている。

 そしてライトは徐に空を飛び始め、雪の上ギリギリのところで上澄みの綺麗な雪だけをスコップで掬い続ける。

 それをお腹側につけたアイテムリュックにポイポイ、ポイー、と手早く放り込んでいく。


 それを見たシーナが、口に含みかけたアイスコーヒーをダバダバダーと零している。

 シーナは目をまん丸に見開きつつ、ライトにおそるおそる問うた。


『ぇ? ちょ、待、ラ、ライト……貴方、自力で飛べるようになったのですか?』

「はい。こないだ辻風神殿の青龍と友達になりまして。青龍からもらった鱗をちょこっと飲み込むことで、ぼくも飛べるようになったんです。あ、辻風神殿ってのは風の女王様がいるところなんですけど」

『辻風神殿……風の女王……ということは、青龍とは辻風神殿の守護神なのですね?』

「そうですそうです」

『風の女王やその守護神とも友達になるとは……相変わらずですねぇ』


 ライトが空を飛べるようになった秘訣を聞き、シーナは呆れつつも膝に零してしまったアイスコーヒーを気にしている。

 そんなシーナにライトが一旦雪狩りの手を止めて、アイテムリュックからタオルを出してシーナに渡した。

「シーナさん、大丈夫ですか? これで拭いてください」『あ、どうも』、そんなのんびりとした言葉を交わすライトとシーナ。

 するとここで、ライトがふと思い出したようにシーナに問うた。


「そういえばシーナさん、一つお聞きしたいんですが」

『ン? 何でしょう?』

「前に、アルといっしょにうちにお泊まりに来てくれるって約束したと思うんですけど……いつ来てくれるんですか?」

『ああ……そういえば、以前そんな約束をしましたねぇ』

「はい……」


 しょんぼりとした様子のライトに、シーナもバツが悪そうにしている。

 いや、シーナとて別にライトとの約束を忘れていた訳ではないし、破るつもりもない。

 しかし、なかなか守られない約束を待ち続けるというのも寂しいものだ。


 するとここで、ライトがパッ!と顔を上げてシーナを真っ直ぐ見つめた。


「シーナさん、もし良ければ今日うちに来ませんか? もちろん、これから他にお出かけの予定があるならまた今度でもいいですが……」

『……そうですね、せっかくライトもこう言ってくれていることですし。ここはお言葉に甘えて、今からお邪魔させていただきましょうか』

「えッ、いいんですか!?」

『もちろん。ただし、泊まるとしても三日くらいまでですが』

「ヤッター!」


 思い切って今日すぐにお泊まりの提案をしたライトに、シーナが小さく微笑みながら頷いた。

 自分から誘っておいて、シーナの承諾が得られたことにびっくりしているライト。ダメ元のお願いだったが、こんなにすんなり通るとは思っていなかったようだ。


「じゃあじゃあ、そしたらブラッシングはカタポレンの家でしましょう!もちろんアルだけでなく、シーナさんのブラッシングもしましょうね!」

『まぁ、それは嬉しいですね。アル、今日はライトのおうちにお泊まりですよ。楽しみですね』

「ワォンワォン!」


 (シーナ)の言葉に、(アル)が大喜びで尻尾をブンブンと振っている。

 そんなアルのもとに、ライトが駆け寄って抱きついた。


「アル、ラウルにもお願いしてたくさんご馳走を出してもらおうね!」

「バゥワゥ!」

「そしたらさ、帰りは目覚めの湖寄っていこうね!イードもきっと喜んでくれるよ!」

「アォーン!」


 もふもふのアルの身体に顔を埋めながら、それはもう大喜びするライト。

 人族の身、しかも子供でありながら飛行を身に着けたライト。

 だがその喜びようは普通の子供と変わりないことに、子供達を見守っていたシーナの顔も思わず綻ぶ。


「よーし、じゃあアルやシーナさんのブラッシングは家に帰ってからゆっくりするとして。ここにある雪を目いっぱい採っていくぞー!」

『おやおや、根こそぎ採り尽くしそうな勢いですねぇ。あまり遠くに行ってはいけませんよ』

「はーい!」


 アルとシーナのお泊まりが決まり、ここから先はラウルが帰ってくるまで雪狩りをするつもりのライト。

 放っておけばどこまでも行ってしまいそうなので、シーナが軽く釘を刺しておく。

 そしてライトはそれまで以上に張り切って、辺り一帯の雪を拾い続けていった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 しばらくして、氷の洞窟の中に入っていったラウル達が入口に戻ってきた。

 ラウルだけでなく、氷の女王と彼女の胸に抱っこされた玄武もいる。愛しいラウルの見送りに出てきたのだろう。


「よう、シーナさん、ただいま」

『おかえりなさい。玄武様、ラウルから美味しいものをたくさん譲ってもらいましたか?』

「キュイ!」

『それは良うございましたねぇ。氷の女王も、ラウルに思いっきり甘えられましたか?』

『え"ッ!? そそそそんな、シーナ姉様ってば、何を仰るのですか!?』

『フフフ、氷の女王ってば本当に可愛らしいですねぇ』


 氷の洞窟の奥から戻ってきたラウルについてきた、氷の女王と玄武に声をかけるシーナ。

 玄武はとてもご機嫌そうな顔で両前肢をピッ!と上げて答え、氷の女王はシーナの軽い揶揄いに頬を真っ白に染めながら慌てている。

 そしてラウルは周囲をキョロキョロと見回しながら、シーナに問うた。


「つーか、ライトとアルはどこだ?」

『ああ、あの子達ならほら、あちらで雪遊びをしていますよ』


 シーナが指差した方向をラウルが見遣ると、はるか遠くにライトとアルが戯れているのが見える。

 ライトは雪狩りに勤しんでいたはずだが、傍にぴったりとくっついていたアルといつの間にか遊んでいたようだ。

 そんなライトに、ラウルが大きな声で呼びかける。


「おーい、ライトー、お待たせー。そろそろ帰るぞー」

「……はーい!」


 ラウルの呼びかけを聞いたライトが、アルとともに氷の洞窟入口に戻ってきた。

 雪の中をアルと走り回っていたので、ライトもアルも髪や毛がびしょ濡れだ。

 その様子を見たラウル、急いで空間魔法陣を開いてバスタオルを取り出した。


「おぉおぉ、こんなに濡れて……風邪引くぞ?」

「大丈夫!ぼくには氷の女王様の加護があるから寒くないし、アルだってこのツェリザークで暮らしてるんだもん、風邪なんて引く訳ないよ!」

「まぁ、そうなんだがな……それでも濡れたままってのは良くないからな、とりあえずタオルで拭くぞ」

「はーい」


 ラウルは取り出した二枚のバスタオルのうち、一枚をシーナに渡して自分はライトの頭や身体をワシャワシャと拭う。

 アルもシーナにワシャワシャと身体を拭われて嬉しそうだ。

 その後ライトとラウル、二人の風魔法でライトの髪やマントだけでなくアルの毛もきちんと乾かしていった。


「……さて、ではツェリザークの街に帰るか」

「うん!……って、ツェリザークの街に帰るの?」

「ああ。さっき氷の女王に、人族の長達への伝言を頼まれたからな。これから街に戻って、冒険者ギルドのツェリザーク支部の上層部に伝えておかなきゃならん」

「あ、それもそうだね」


 ライトとしては、黄泉路の池からそのままカタポレンに帰るものと思っていたので、ラウルのツェリザーク帰還宣言に少し驚いていた。

 しかし、ラウルが語った理由を聞けば納得だ。

 人族の長達―――つまりは冒険者ギルドのツェリザーク支部の上層部に、氷の女王の要望をちゃんと伝えておかなければならない。


 帰路のルートは変わってしまったが、それは然程問題ではない。

 それよりもっと重要な要件を、ライトがラウルに伝えた。


「あ、ラウル、今日はアルとシーナさんがカタポレンの家にお泊まりするからよろしくね!」

「ン? そうなのか?」

「うん!ほら、前にアル達がうちに泊まりに来てくれるって約束したでしょ? シーナさんに聞いたら、今日から三日くらいなら泊まってもいいって言ってくれたの!」

「おお、そうか、なら俺も執事として客をもてなさなくてはな」


 アル親子のお泊まり会が開催されることをラウルに伝えるライト。

 その顔は実に嬉しそうで、ライトの横にお座りしているアルの尻尾も千切れんばかりにブンブンと振られ続けている。

 そんなライト達の様子に、氷の女王が羨ましそうに呟く。


『お泊まりとか、ラウルにもてなされるとか、実に羨ましい……我もいつかラウルに、氷の洞窟にお泊まりしていってほしい……』

「ン? 俺一人で外泊するつもりはないが……うちのご主人様達といっしょでよければ、この氷の洞窟にいつか泊まりに来よう」

『ラウル、それはホントか!? 期待してもいいのだな!?』

「ああ、何日後とかの確約はできんし、だいぶ先のことになると思うがな」

『それでも良い!我はいつまでも、いつまでも待っておるぞ!』


 氷の女王の何気ない呟きに、ラウルが事も無げに応える。

 氷の女王がこの洞窟から出られないであろうことは、ラウルも十分承知している。

 彼女が洞窟外に出られるのは、せいぜいこのツェリザーク郊外まで。しかもそれは雪に閉ざされた冬の間だけで、氷や雪がない季節ではそれも厳しい。

 だからこそ氷の女王は『自分がラウルのいる家に泊まりに行きたい』とは言わずに『ラウルにお泊まりに来てほしい』と呟いたのだ。


 そんな氷の女王の、わがままと言うにはささやか過ぎる願いをラウルは聞き逃さなかった。

 そして、いつも自分達に良くしてくれる氷の女王に、何か恩返しができれば……という思いで、氷の洞窟のお泊まりを承諾したのである。


「さて、ではツェリザークの街に戻るか。……って、人化できるシーナさんはともかく、アルはそのままだとツェリザークの街に入れなさそうだな……」

『ああ、それなら大丈夫ですよ。この子はまだ人化はできませんが、身体を小さくすることはできますので』

「お、どれくらいの大きさになれるんだ?」

『アル、ラウル達に貴方の身体を小さくして見せてあげなさい』

「ワフッ!」


 ラウルの心配に、シーナがアルに身体を小さくするよう伝える。

 すると、アルの身体はシュルシュル……と縮んでいき、子犬サイズになった。


「おお、これなら真っ白い子犬で通るな」

『人化の術は難易度が高くて、アルにはまだ難しいですが。身体の大きさを変えるくらいはもうできるのですよ』

「すごいね、アル!もうそんなこともできちゃうなんて、アルは本当に天才だね!」

「ワゥワゥ!」


 ライトが抱っこしても差し支えないサイズになったアルの姿に、ライトが破顔しつつ手放しで褒めちぎる。

 それはまるで親バカ以上の褒めちぎりっぷりだが、褒められたアルも誇らしげに胸を張る姿が何とも愛らしい。

 そしてラウルが氷の女王達に、改めて別れの挨拶をした。


「じゃ、俺達はこれで帰る。また近いうちに、玄武用の野菜の補充をしに来るからな」

『ああ、我も玄武様とともに待っておるぞ。シーナ姉様、アル、ライトもまた会おうぞ』

「はい!氷の女王様、玄武、今日も本当に楽しい一日を過ごせました、ありがとうございました!」

『氷の女王、玄武様、またお会いしましょう』

「ワォーーーン!」


 別れの挨拶を済ませ、ライト達はツェリザークの街がある方向に歩き出す。

 氷の洞窟を後にするライト達、その後ろ姿が見えなくなるまで氷の女王と玄武は名残惜しそうに見送っていた。

 氷の洞窟入口でのお茶会のその後のあれやこれやです。

 ライトがアル達と交わした、いつかうちに泊まっていってね!という約束。

 これが交わされたのは第527話のことで、その後第729話や第1053話でも再会を果たしてはいたのですが。お泊まりの約束は一向に果たされず…(=ω=)…

 作者としてもそのことがずーっと気がかりだったのですが、今回やっと実現しそうです!(;ω;) ←感涙


 そしてこれは、ライトが春休みに入ったからこそ成せたもの。

 普通の平日に遊びにこられても、ライトは日中はラグーン学園に行かなければならないので、アル達異種族とのお泊まり会は長期休暇の時でないと意味がないんですよね。

 長年の夢が叶い、ウッキウキのライト。親友とのお泊まり会なんて、心躍らない訳がありません!本当に良かったねぇ( ´ω` )

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