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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
二度目の春休み

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第1332話 雪原での再会

 春休み突入前日、ライトはラグナロッツァの屋敷でラウルと昼食を食べながら午後の予定を話し合っていた。


「ラウル、今日の午後はどこかお出かけする予定はあるの?」

「ツェリザークの雪狩りに行くつもりだ。ライトも行くか?」

「うん!ツェリザークの雪拾いなら、ぼくもできるだけたくさん採っておきたいな!」

「そうか、なら昼飯食った後にいっしょに行こう」

「ヤッター!」


 ラウルの午後の予定を聞き、ライトもツェリザークに同行することになった。

 良質の魔力を多分に含むツェリザークの雪は、ライト達にとってすっかりお馴染みにしてもはや日々の生活や神樹達への土産に絶対に欠かせないものとなっている。

 そしてもうすぐ四月になろうとする今、如何にツェリザークであろうとも積雪量が減ってきているであろう。

 ツェリザークの雪が完全に消えて、地面が見えるようにまでなるのは六月初頃。それまでに、まだ雪が採りやすい今のうちに少しでも確保しておこう!という訳である。


 昼食を食べ終えた後、二人はお出かけ用の格好に着替えてラグナロッツァの屋敷を出る。

 冒険者ギルド総本部からツェリザーク支部に向かう道すがら、二人は様々な話をしていた。


「ねぇ、ラウルは今どれくらいの頻度でツェリザークに通っているの?」

「そうだなぁ……月に三回か四回程度かな。雪狩り以外にも、氷蟹の殻処理依頼だけ受けて帰る日もあるし」

「へー、結構通ってるんだねー。氷蟹の殻処理依頼は相変わらずたくさんあるの?」

「ああ、氷蟹の需要は全く衰えないらしい。とはいえ、俺が月に二回は殻処理を引き受けているから、以前ほど深刻な問題には至らないらしいが」

「そうなんだぁ。ラウルの仕事が役に立ってるのって、すごいことだよね!」

「お褒めに与り光栄だ」


 ラウルの辣腕ぶりに、ライトが手放しで褒め称える。

 ラウルが各地の殻処理依頼を引き受けるのは、ひとえにカタポレンの畑の肥料を得たいがためである。

 しかしそれはラウルの冒険者としての評価に繋がり、多額の報酬も得られる。さらにはその地域のゴミ処理問題解決に多大な貢献となるのだから、これ程完璧な全者Win-Win関係もそうあるまい。


 そんな話をしているうちに、二人は冒険者ギルドの転移門でツェリザーク支部に移動した。

 今日は窓口にクレハがいなかったので、ラウルが別の受付窓口担当者とちょこっと話をしている間にライトは依頼掲示板をチェックする。

 相変わらず依頼書の半数近くが氷蟹関連だったが、殻処理はその半数で他の依頼は『求む!氷蟹』であった。


「ほぅ……一尾丸ごと買い取りで最低価格30000Gからか。前に市場の露店で氷蟹を買った時には、85万Gしたんだが……でもまぁあれは小売りの末端価格だから仕方ないか」

「何ナニ、こっちは脚一本や爪一個だけでも買い取るんか。まぁねー、氷蟹って何しろ図体デカいから、一尾丸ごとそのままお持ち帰りができる人自体少ないだろうし」

「氷蟹を求める依頼がこんなにあるってことは、ラウルの言う通りまだまだ氷蟹需要は続いているんだなぁ。……てゆか、氷の女王様、大丈夫かな?」


 掲示板から垣間見える様々なツェリザーク事情に、ライトがふむふむ、と頷きながら納得かつ氷の女王の心配をしている。

 何故ライトが氷の女王の心配をしているのかというと、氷蟹は氷の洞窟の固有魔物だからだ。

 氷蟹の需要が高まるということは、それだけ氷蟹を求めて氷の洞窟に入る人間が増えるということ。

 ただでさえ人嫌いの氷の女王、大勢の人間達が氷の洞窟に押しかけることでまた機嫌が悪くなっているのでは?とライトが心配するのも無理はない。


 するとここで、受付から戻ってきたラウルがライトに声をかけた。


「お待たせ。さ、雪狩りに行くか」

「うん!」


 ラウルと合流したライト、二人して冒険者ギルドツェリザーク支部を後にして外壁の外に出ていった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ツェリザークの街の外に出たライト達。

 相変わらず街の外は一段と寒く、目の前にはキラキラと輝く新雪の雪原が広がる。

 曇天模様の空の下、二人の吐く息が真っ白な煙となって棚引く。


「うひょーツェリザークはまだまだ寒いねぇー」

「ああ、とてもじゃないがもうすぐ四月になる陽気とは思えんな。でも、これでもまだ去年に比べたら少し温かい方らしい」

「えー、そうなの?」

「ああ。去年は氷の洞窟で様々な変化が起きたからな。良い事も悪い事も全て引っ括めてプラマイゼロ、といったところなんだそうだ」


 その後ラウルが、先程ツェリザーク支部の窓口で聞いた話を語って聞かせてくれた。

 窓口の職員の話によると、ツェリザーク郊外での積雪量は例年より若干少ない程度で収まっているという。

 これは、氷の洞窟の守護神である玄武の誕生が大きな要因となっている。


 ちなみに氷の洞窟での玄武誕生は、その場に立ち会ったレオニスがツェリザーク支部に正式に報告してある。

 それを知ったツェリザーク支部が、大慌てでツェリザーク領主に報告してその日をツェリザーク独自の祝日『守護神生誕の日』に制定したという。

 ツェリザークの姉妹都市であるプロステスと炎の洞窟同様、このツェリザークにおいても氷の洞窟はなくてはならない大事なパートナーなのだ。


 そしてツェリザークの人達は与り知らぬことだが、玄武誕生以外にも氷の女王にとって非常に良い事があった。

 それは、ラウルという想い人の出現である。


 ラウルがツェリザークの雪の効能を知り、それを穢す邪龍の残穢を見事撃破する場面を氷の精霊達の目を通して見て、氷の女王はラウルに一目惚れして恋に落ちた。

 そしてその愛しいラウルを通して、人族であるライトやレオニスとも知り合うことができた。

 この出会いは氷の洞窟にとって、非常に大きく変化する契機となった。ライト達との出会いは守護神生誕に繋がり、さらには氷の女王の人嫌いを緩和させるという効果をもたらしたのである。


 しかし、氷の洞窟に起きた変化は何も良い事ばかりではない。

 ツェリザークにおける空前の氷蟹ブームのせいで、氷蟹を狩る目的で氷の洞窟に押しかける冒険者が激増したのだ。

 このことに、氷の女王の機嫌は再び悪くなっていく。

 特に今の氷の洞窟には、生まれたばかりの玄武がいる。

 まだ身体が小さく幼い玄武を守るために、氷の女王は氷の洞窟内の温度をさらに低いものにした。


 この低温化により、冒険者達の侵入は洞窟の半分にも到達できないものとなった。

 何故ならこの低温化は、冒険者には厳しい環境となる反面、洞窟内の固有魔物達にとってはより快適な環境となったからだ。

 そのおかげで、氷の洞窟の外に漏れ出す冷気も強くなり、吹雪はますます激しくなった。


 だが、ラウルが氷の洞窟を訪れると途端に外の猛吹雪が凪いで、まるで嘘のように収まる。

 その後三日くらいは、雪が降っても穏やかな降り方になるのだとか。

 これが、ツェリザーク支部のギルド職員が言っていた『プラマイゼロ』という訳だ。


 もっとも、ギルド職員は「氷蟹ブームで冒険者達の氷蟹狩りも例年の倍以上に膨れ上がっているから、玄武生誕の吉報を差し引いても氷の女王がもっと怒り狂っていてもおかしくはないんだが……何故この程度で済んでいるのか、さっぱり分からん」と首を傾げていた。

 これもラウルの存在のおかげなのだが、氷の女王がラウルのことを大好きだなどという報告まではしていないので、ギルド職員達が知る由もない。


「あ、そういえば、邪龍の残穢の問題は結局どうだったんだろうね?」

「あー、あれから今日まで全部で七回出没したそうだ」

「え、七回も!? それ、多くない!?」

「ああ。いつもなら年に二回程度の頻度が七回というのは、さすがに異例らしい。ただ、氷の女王が氷の精霊を通して邪龍の残穢の出没を早期に教えてくれたおかげで、ツェリザーク郊外に深刻なダメージは出ていないとさ」

「そうなんだぁ……それなら良かった」


 ライトが懸念していた邪龍の残穢問題。

 レオニスが先んじてツェリザーク支部に警告を伝えておいたおかげで、聖銀級を多数集めた邪龍の残穢専門の討伐チームを事前に組んで待機していたという。

 それに加えて、邪龍の残穢が出現してすぐに氷の女王から氷の精霊を通して出没を伝えたのが功を奏した。

 さすがは城塞都市の名を持つ街だけのことはある。


 そうして話し込んでいるうちに雪の高さは次第に高くなり、ライトのヘソの上くらいまでなっていた。

 ここまでになると普通に歩を進めるのも厳しいので、そろそろ雪の採取に取りかかることにした。

 二人はそれぞれにスコップを出し、ライトはアイテムリュックに、ラウルは空間魔法陣に雪を採っては放り込んでいく。


 二人して熱心にせっせと雪を採っていると、ふとラウルがライトに問うた。


「……ああ、そういえばライトは最近あの銀碧狼の親子に会ってるのか?」

「ううん、去年の暮れに会って以来全然だよー」

「そうか、そしたら今日は会っていくのか?」

「そうだねー。アル達がこの近辺にいたら、向こうの方からこっちに来てくれるんじゃないかな?」

「…………噂をすれば、何か強大な力がこっちに来てるな」


 雪原の上辺、雪の綺麗な部分だけをサクサクと採り続けているうちに、強大な力を持つ何者かが急速にこちらに近づいてきているのをラウルが察知した。

 はるか遠くから近づいてくるその力はラウルにも覚えがあったので、慌てることなく雪狩りを続行している。


 そうして二人でしばらく雪狩りを続けていると、何者かがライトに向かって飛び込んだ。


「ワォン!」

「おわッ!……アル!こんにちは!」

「ワフワフ、ワゥワゥ!」

「うん、すっごく久しぶりだね!てゆか、アル、少し会わないうちにまた大きくなったね!?」


 ライト目がけて一直線に飛び込んできたアル。あまりの嬉しさに、アルがライトの顔を思いっきりペロペロと舐め続ける。

 するとここで、アルの母親であるシーナが現れた。


『ライト、ラウル、こんにちは。お久しぶりですね』

「あッ、シーナさん!こんにちは!ご無沙汰してます!」

「おう、シーナさん、久しぶり」


 悠然と現れて挨拶をするシーナに、ライトとラウルも再会を喜ぶ。

 ライトに並ぶアルの身体は既にサラブレッド並みの大きさになっていて、前回会った時よりもまたさらに成長している。

 とはいえ、母親であるシーナがアルの横に並べば、まだ一回りも二回りも小さいことが分かる。

 そしてシーナはラウルに声をかけた。


『今日もこの近辺の雪を採取しに来たのですか?』

「ああ、もうそろそろ春になる頃合いだしな。ツェリザークの地面が見えてくる前に、良質の雪を確保しに来たんだ」

『フフフ、相変わらずここの雪が好きなんですねぇ』

「もちろん。俺はこのツェリザークの雪を一生愛し続けるだろうな」


 アル達親子の登場に、ラウルも雪を採る手を一旦止めて話に応じる。

 白い雪原の中に黒一色をまとう凛とした執事姿のラウル。

 そんなラウルが、もし氷の女王の真ん前で『ツェリザークの雪を一生愛し続ける』なんて言葉を吐いた日には、それこそ氷の女王は歓喜のあまりその場で卒倒するだろう。

 もっとも、ラウルが愛し続けるのはあくまでもツェリザークの雪であって、氷の女王のことではないのだが。


 しかし、当のラウルにはそれが殺し文句である自覚など微塵もない。

 ラウルは何事もなかったかのように話を続ける。


「さて、シーナさんやアルも来たことだし、氷の洞窟の入口まで行ってお茶にでもするか」

『ン? 氷の洞窟の中に入るのではなく、入口でお茶をするのですか?』

「ああ。最近では俺がツェリザークで雪狩りをしていると、氷の女王が洞窟の入口まで出てきて俺が来るのを待ってるんだ」

『何とまぁ……あの子が洞窟の入口までわざわざ出てくるなんて……あの子は本当に貴方のことが好きなんですねぇ』


 ラウルの話を聞いたシーナ、心底驚いたような顔をしている。

 人嫌いで長いこと奥の間から一歩も出てこなかった氷の女王が、ラウルに会いたい一心で洞窟の入口まで出てくる。これは途轍もない変化だ。

 氷の女王の頑なな心を、一瞬で溶かしてしまったラウル。全ての行動が無自覚なだけに、何と罪深きことよ。


 ラウルは手に持っていたスコップを一旦空間魔法陣に仕舞い、ライトに声をかけた。


「おーい、ライトー、今から氷の洞窟に向かうぞー」

「はーい。……って、氷の女王様に会いに行くのー?」

「ああ、ついでに玄武のご飯も差し入れしたいしな」

「分かったー!アル、ぼくといっしょに氷の洞窟に行く?」

「ワォーン!」

「そっか、じゃあ背中に乗せてくれる?」

「ワフン!」


 ラウルの言葉に応じ、ライトがアルと会話?をしながらアルの背中に乗り込む。

 大きく成長したアルの背中は、ふわもふの毛と相まってとても乗り心地が良い。

 そうしてライト達は、そこから少し離れたところにある氷の洞窟を目指して移動していった。

 ライトの春休み突入前日の午後のお出かけです。

 丸一日ではなく学校終わりの午後なので、行ける先がある程度限られてしまうのですが。今回はツェリザークの雪狩りに決定。

 というのも、ライトはマッピングスキルやヴァレリアからもらった瞬間移動用の魔石であちこち出かけることができるのですが、さすがにツェリザークの雪の確保までは頻繁に行っていないんですよねぇ。


 いや、やろうと思えばウィカの力を借りて黄泉路の池に移動するなどして、できることなんですが。

 それでもライトの中ではわりと優先順位が低めというか、ラウル程熱心ではない&素材集めの魔物狩りや解体等々、他にもすることが山ほどあり過ぎてそこまで手が回らないというのが実情ですね( ̄ω ̄)

 なので、ラウルに誘われたらホイホイと話に乗るのです(^ω^)


 そして、アル達銀碧狼親子の久しぶりの登場。

 前回の登場が第1057話なので、275話&九ヶ月半ぶりですねー(゜ω゜)

 アル達銀碧狼は拙作において初めてのふわもふキャラで、作者にとっても思い入れのある子達。なかなか出番が回ってきませんが、それでもこうしてたまーにでも登場させることができるのは、生みの親としてとても嬉しいです( ´ω` )

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