第1324話 再会を喜び合う者達
アクアの背に乗って、目覚めの湖からモクヨーク池に移動したライト達。
アクアがモクヨーク池から水面の上に浮上すると、ユグドラシアの雄大な姿が見える。
すると、アクアの背後から声がした。
「キャッ!誰!?」
ライト達が後ろを振り向くと、そこにはアラエルがいた。
どうやらモクヨーク池で沐浴中だったようだ。
そしてアラエルの方もライト達がいることに気づき、安心したような声で改めて話しかけてきた。
「……あ、ライト君にレオニス君とラウル君? てゆか、マキシもいる?」
「アラエルさん、こんにちは!」
「母様、こんにちは!沐浴中にお邪魔してしまってすみません!」
目をぱちくりとさせながら話しかけてきたアラエルに、まずライトとマキシが応えて挨拶をした。
そしてライト達に続き、レオニスとラウルもアラエルに挨拶をする。
「マキシの母ちゃんか、天空島の討滅戦以来だな」
「アラエルさん、久しぶり」
「まぁまぁ、皆さんお久しぶりね!……って、皇竜様もいらっしゃる!?」
ラウルの胸元に抱っこされているラーデを見て、アラエルが驚いている。
そんなアラエルに、ラーデが声をかけた。
『八咫烏の聖女よ、久しいの。息災そうで何よりだ』
「メシェ・イラーデ様、ご無沙汰しております。ようこそ我が里にお越しくださいました」
『堅苦しい挨拶は要らぬ。天空島で出会った我と其方らの仲だ、気楽に接してくれ』
「お気遣いありがとうございます」
ラーデに向かって恭しく頭を下げるアラエルに、ラーデが優しい口調で話しかけた。
するとそこに、他の八咫烏達が数羽すっ飛んできた。
どうやらモクヨーク池に何者かが現れたことを察知して駆けつけてきたようだ。
「何者だ!」
「ここを八咫烏の里と知っての狼藉か!」
「ここは大神樹ユグドラシア様の御座す里であるぞ!」
「アラエル様、お逃げください!」
モクヨーク池に到着するだいぶ手前から、ギャースカと騒ぐ八咫烏の衛兵達。
だがしかし、モクヨーク池に近づくにつれて侵入者達の中に見覚えのある姿があるを見て、衛兵達の威勢が急激に萎えていった。
「…………ン? その紅い羽織物は…………」
「まさか……冷鬼擂殿かッ!?」
「ピエッ!ごごごご無礼仕りましたッ!」
「何卒、何卒ご容赦をッ!」
モクヨーク池に突如現れた侵入者がレオニス一行だったことを知り、途端に平伏し謝る八咫烏の衛兵達。
レオニスはかつて、八咫烏の里で防衛を担う者全員を相手に鍛錬と称した特訓を何度か実施したことがある。
その時の地獄のような扱きっぷりは、八咫烏の衛兵達の中で今も悪夢の如き恐ろしい記憶として残っているらしい。
八咫烏の衛兵達の狼狽ぶりを見て、ライトがぽつりと呟く。
「レオ兄ちゃん、恐れられてるねぇ……」
「ぃゃ、俺そんなに厳しい訓練なんぞしてねぇんだけどなぁ?」
「レオ兄ちゃんにとっては普通でも、八咫烏さん達にはキツかったんじゃないの? てゆか、一体どんな訓練したの?」
「腕立て伏せと上体起こしとスクワットを毎日百回づつ、これに文句を言った奴には黙るまで弱めの雷魔法を何発か打ち込んだくらいだ」
「「「………………」」」
ライトの問いかけに、レオニスがシレッとした顔で答えた。
思った以上の鬼軍曹っぷりに、ライト達は思わず言葉を失う。
飛行種族にとって雷魔法は、数少ない天敵。これを、いくら弱めといっても複数回打ち込まれたらたまったものではない。
これでは八咫烏の衛兵達がレオニスのことを恐れるのも無理はない。
というか、そもそもレオニスの言う『弱め』程アテにならないものはない。
きっとレオニスの雷魔法で、容赦なくバンバンと撃ち落とされたのだろう。
当時の悪夢がまざまざと蘇ったのか、八咫烏達がプルプルと震えていた。
そんな八咫烏達に、レオニスが顔色一つ変えずに問いかける。
「つーか、俺達は侵入者じゃないってことは分かるな?」
「「「……ハ、ハイ……」」」
「なら、とっとと持ち場に戻れ」
「「「ハイーーーッ!!」」」
レオニスの言葉に、衛兵達が慌てて各々の持ち場に戻っていく。バビューン!とものすごい勢いですっ飛んでいく八咫烏達に、レオニスを除くライト達はポカーン……としていた。
そしてレオニスだけが冷静なまま、改めてアラエルに声をかけた。
「アラエル、今日はフギンとレイヴンに用があって来たんだが。すまんが、もし良ければフギンとレイヴンを呼んできてもらえないか?」
「……ぁ、はい、そしたら皆さんはシア様のところでお待ちください。皆さんもシア様にご挨拶なさるでしょう?」
「もちろん。ここに来てシアちゃんに挨拶しないなんて、絶対にあり得ないからな」
「フフフ、そうですよね」
レオニスの要請に、アラエルが快く応じる。
アラエルはすぐにモクヨーク池から出て飛んでいき、レオニスがアクアに声をかけた。
「アクアもシアちゃんに挨拶していくよな?」
『もちろん。天空島のエルちゃんの妹さんなら、僕も是非とも会ってお話ししたいし』
「だよな!ここからもよく見える、あの大きな樹がシアちゃんだ。あの樹がある方向に行ってくれ」
『はーい』
レオニスの問いかけに、アクアも頷きながら肯定する。
アクアは以前ライトに請われて天空島に泉を作りに行った際に、天空樹ユグドラエルと会ったことがある。
その時にユグドラエルと仲良くなり、互いに友として認め合った仲だ。
そのユグドラエルの妹であり、神樹族の一本であるユグドラシアにも会いたいとアクアが思うのは当然のことだ。
アクアはライト達をその背に乗せたまま、大神樹のもとにふよふよと飛んでいった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
しばらくして、大神樹ユグドラシアのもとに辿り着いたライト達。
一旦アクアの背中から全員降りて、ユグドラシアの雄大な枝葉を見上げながらライト達が挨拶をした。
「シアちゃん、こんにちは!」
「よう、シアちゃん。久しぶりだな」
「シアちゃん、こんにちは。変わらず元気そうで何よりだ」
「シアちゃん、ただいまです!」
『ライト、レオニス、ラウル、ようこそいらっしゃい。そしてマキシも、おかえりなさい』
ライト達の挨拶に、ユグドラシアが嬉しそうな声で歓迎の意を表す。
そして挨拶も早々に、ユグドラシアがアクアとラーデに声をかけた。
『そこに御座すは、水神様と皇竜様ですね。お初にお目にかかります。私の名はユグドラシア、世界に在る六本の神樹のうち三番目に生まれた者です。以後お見知りおきを』
『丁寧なご挨拶、痛み入ります。僕の名はアクア、カタポレンの森の中にある目覚めの湖に住まう水神です。こちらこそ以後お見知りおきください』
『如何にも我は皇竜メシェ・イラーデ。今は『ラーデ』という名をもらい、レオニス達とともにカタポレンの森で暮らしておる。天空樹の妹に会えて嬉しいぞ。よろしくな』
大神樹に水神、そして皇竜という高位の存在達が一堂に介して会話を交わす。
実に奇跡的な瞬間である。
『水神様と皇竜様のことは、エル姉様やツィからも聞いておりますよ。若き水神様に偉大なる皇竜様とこうしてお会いできたこと、本当に嬉しく思います』
『僕のことは是非とも『アクア君』と呼んでください』
『うむ、我のことも『ラーデ』と呼んでくれて構わないぞ』
『フフフ、では私のことも『シアちゃん』と呼んでくださいね』
是非とも愛称で呼んでほしいと願うアクアとラーデに、ユグドラシアも小さく笑いながら嬉しそうに応える。
特にユグドラシアは、仲の良い者達からは可愛らしい愛称でその名を呼ばれたい!という思いが強いので、アクアの申し出は渡りに船である。
そうして高位の存在達が挨拶を交わしているうちに、ユグドラシアのもとに八咫烏達―――族長一族が続々と集まってきた。
まずはいの一番にすっ飛んできたウルスが、ラーデに向けて挨拶をする。
「皇竜様!ようこそ我が里にお越しくださいました!」
『おお、族長のウルスか。先日の天空島では大変世話になった。改めて礼を言わせてくれ、ありがとう』
「とんでもない!巨大な邪竜相手に、我らができることはあまりありませんでしたが……それでも皇竜様のお役に少しでも立てていたなら光栄の極みにございます」
相変わらず生真面目で堅苦しい挨拶をするウルスに、ラーデもまた生真面目な挨拶を返す。
が、ウルスがはたとしたした顔でラーデをじっと見つめている。
「……というか、皇竜様……天空島でお会いした時より、若干縮んでおられませんか?」
『ぁー、うむ……これにはちと事情があってな……』
「もしや、カタポレンの森の魔力がお身体に合わない、とかですかな?」
『いや、それはない。この森の豊富な魔力は、今の非力な我にとってはとてもありがたい』
「そうですか……ならば良いのですが」
ウルスがラーデを繁繁と見ていたのは、ラーデの身体の大きさが天空島で見た時よりも小さく思えたからだった。
そしてウルスのその印象は当たっていて、主に金鷲獅子のアウルムを助けるために大量の魔力を譲渡してしまったことが原因である。
しかし、ラーデにはそれを言い訳にするつもりはない。
そしてそれらの事件の経緯を一から話して聞かせるのも手間なので、ゴニョゴニョと言葉を濁しているだけである。
一方ウルスはレオニス達の方を振り返り、レオニス達にも挨拶をした。
「レオニス殿、ライト殿、ラウル殿、天空島でお会いして以来ですな。マキシもおかえり」
「おう、ウルスも元気そうだな」
「ウルスさん、こんにちは!」
「久しぶりだな」
「父様、ただいまです!」
そんな挨拶を交わす間にも、続々とマキシの兄弟姉妹達がユグドラシアのもとに集結してきた。
次々と現れる姉妹に、マキシが速攻で揉みくちゃにされている。
ミサキに至っては、飛んできた勢いそのままにマキシに抱きついていた。
ドゴーーーン!という凄まじい音が響き、マキシも思わず「ゴフッ!」という呻き声を上げていたが、何とか踏ん張り吹っ飛ばされることなくミサキを全身で受けとめきった。
そこは兄としての意地で堪えたと見える。
「マキシ、おかえり!」
「あんた、ずーっと人化していられるのね、ホンットすごいわ!」
「マキシ兄ちゃん、今日はお泊まりしていけるのー!?」
マキシが姉妹のムニンやトリス、双子の妹のミサキに取り囲まれている一方で、ケリオンはレオニスやラウルに挨拶をし、フギンとレイヴンはアクアに声をかけていた。
「アクア君、お久しぶりです」
「アクア君!おひさッス!」
『やあ、フギン君にレイヴン君、こんにちは。君達に再び会えて、とても嬉しいよ』
「身に余る光栄です」
「俺もアクア君にまた会えて、すんげー嬉しいッス!」
アクアとの再会を喜ぶフギンとレイヴンに、アクアもまた嬉しそうに二羽に頬ずりをしている。
ユグドラシアの根元のあちこちで再会を喜ぶ様子に、ユグドラシアの枝葉もまた嬉しそうにサワサワと揺れていた。
ドラリシオの群生地に行く前の、八咫烏の里への寄り道&大神樹ユグドラシアとの再会を喜ぶ回です。
ユグドラシア本体が作中に登場するのは、第973~979話でオーガ族族長ラキと対面して以来ですか(゜ω゜)
前話に出てきた今日の目的地、ドラリシオ達とほぼ同時期で丸一年ぶりですね(´^ω^`)
そして、八咫烏関係は族長夫婦に七羽の子と何しろ数が多いので、挨拶一つさせるだけでもかなーり手間取る&文字数が嵩むという…( ̄ω ̄)…
でもねー、そこは一族全員満遍なく出しておかないと気持ち悪いというか、何というか。
実際ライト達が今回用事があるのは、フギンとレイヴンの二羽だけなんですが。だからといって族長のウルスや他の子達が、八咫烏の里を来訪したライト達を全く迎えにも出てこないってのもねぇ? あまりにも不自然過ぎますしおすし。
それに、そうした一連の流れの中で表に出てこれない子がいるのも可哀想に思えてしまうというかですね…(=ω=)…
具体的に名指しで言っちゃうと、アクア&ラーデのどちらともまだ関わりがないケリオンのことなんですけど・゜(゜^ω^゜)゜・




