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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
取り戻した日常

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第1321話 育て方の違いと上位ランクの存在

 カタポレンの家を出て、ユグドラツィのもとに飛んでいくライトとラウル。

 ラーデはライトが抱っこして飛んでいる。

 そうして程なくして、ユグドラツィのもとに辿り着いた。

 ライトとラウルはユグドラツィの根元まで行き、蒼々と生い茂る豊かな緑の葉を見上げながら挨拶をする。


「ツィちゃん、こんにちは!」

「よう、ツィちゃん」

『神樹よ、今日も健やかそうで何よりだ』

『皆、ようこそいらっしゃいました』


 ライト達の来訪を、心から歓迎するユグドラツィ。

 彼女のウキウキした心を表すかのように、枝葉が揺れてサワサワと静かに響く葉擦れの音が心地良い。

 そしてライトが早々に今日の目的を切り出した。


「ツィちゃん、今日はですね、ちょっとした実験をしに来ました」

『実験、ですか?』

「はい。この卵を、ここで孵化させたいんです!」

『卵……貴方方がこれまで幾度となく孵化させてきた、あの作業ですか?』

「はい、そうです!ラウル、大根をとりあえず五十本出してくれる?」

「了解」

「ラーデも卵の孵化を近くで見るなら、近くにいて飛んでてくれる?」

『承知した』


 ライトが目的を告げながら、抱っこしていたラーデを一旦離して背負っていたアイテムリュックを下ろす。

 そしてリュックの中から焦茶色の物体、使い魔の卵を一個取り出した。

 一方ラウルはライトの横で空間魔法陣を開き、ライトの指示通りにカタポレン産の巨大大根を次々と出しては地面に積み上げていく。

 すると、ラウル特製大根を見たライトが驚いている。


「ラウルが作った大根、ぼくのよりずっと大きいね……何でそんなに大きいの?」

「ン? そうなのか?」

「うん。ぼくの育てた大根は、ぼくの身長くらいなんだけど……ラウルのは、ラウルの身長くらいあるよね?」


 ライトがラウルの大根を見て驚いた理由、それは大きさ。

 葉っぱはもとより下の白い部分、茎と根がラウルやレオニスの身長と大差ないくらいに長くて太さも立派なものだったのだ。

 ライトがアイテムリュックから大根を一本取り出して、ラウルの作った大根の横に並べるとその大きさの差は一目瞭然だった。


「ラウルの畑とぼくの畑、何が違うんだろ?」

「ンー……最近は殻の肥料の配分を変えたりして、いろいろ研究してるからかな?」

「えッ、ラウル、そんなことしてたの?」

「ああ。ライトのブレンド水じゃないが、殻にもいろいろと種類があるしな」


 何とラウルは、いつの間にか畑に撒く肥料の配合研究にまで手を伸ばしているらしい。

 確かにラウルが肥料として使う殻は、ツェリザークの氷蟹、ネツァクの砂漠蟹、エンデアンのジャイアントホタテの殻、そして海樹ユグドライアのところでもらってきた巨大な魚の骨など様々な種類がある。

 それらの配合比率を変えることで、より効率良く野菜が育つかもしれない、とラウルは考えたようだ。


「そしたらラウル、今度ぼくにも殻肥料の比率を教えて!」

「おう、いいぞ。ついでに殻の焼き方や砕く大きさなんかも教えてやろう」

「ありがとう!春休みになったら、たくさんお手伝いするからね!」

「ああ、頼りにしてるぞ」


 ライトのお願いに、ラウルが微笑みながら快諾する。

 殻肥料の研究成果を惜しみなく教えてくれるとは、何という太っ腹、気前の良さだろう。

 今日も気っ風のいい男前なラウルに、ライトも嬉しそうに破顔している。

 そしてライトは使い魔の卵を乗せた手のひらを、ユグドラツィにもよく見えるように高々と掲げた。


「ツィちゃん、この卵に今からラウルが作った大根をご飯として与えていきますね!」

『まぁ、卵の孵化を私にも直接見せてくれるのですか!? これまで貴方方が、旅先で見つけた卵を孵化するところを分体で何度か見てきましたが……ここでもそれを見せてもらえるなんて、とても楽しみです』

「ツィちゃんもラーデといっしょに、よーく見ててくださいね!」

『ええ。その卵の行く末を、(しか)と見届けましょう』

『我は卵の孵化は初めて見る故に、我もとても楽しみだ。其方達の近くで見ても良いか?』

「もちろん!」


 ユグドラツィとラーデのワクワクとした声に、ライトも張り切りながらラーデとともに巨大大根の山の方に駆けていく。

 一方ラウルも空間魔法陣から五十本の大根を取り出し終えていて、卵の孵化の準備が万端整っていた。


「さ、じゃあ始めるとするか」

「うん!最初はぼくが卵を持ってるから、ラウルは大根を一本づつ持ってきてね!」

「了解ー」


 こうしてユグドラツィのもとで、使い魔の卵の孵化作業が始まっていった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ライトが持つ卵に、ラウルが大根を一本づつ抱えては卵に触れさせていく。

 大根が卵に触れる度に、瞬時に大根が消えては卵が大きくなっていく様子をラーデが驚きの表情でずっと見つめている。


『ぉぉぉ……あんな巨大な大根が、その小さな卵に触れた瞬間に消え失せるとは……それと同時に卵が大きくなっているところを見ると、なるほど確かにこれは卵が大根を食しているようだな』

「そうだよー。卵だってたくさん食べ物を食べて、大きくならないとね!」

『食物を含む口すらないというのに、全く以って不可思議なことよ』


 ラーデが感心しきりといった様子で呟いている。

 するとここで、ライトがラウルに問いかけた。


「ていうか、ラウルもどうしてこんなにたくさんの大根を作ってるの? 天空島のヴィーちゃん達に食べさせるにしても葉っぱだけで、白い方はあげないよね?」

「ン? ああ、それはな、オーガの里で大根がものすごく大人気だからだ」

「え、そなの?」

「ああ。前にオーガの里での料理教室で、大根を使った料理を教えたんだ。大根の煮物とか大根サラダとか、あと大根おろしとかな」


 ライトが不思議だったのは、何故にラウルが二百本もの大根を作っていたのか、だ。

 大根葉は鶏の好物で餌となり得るが、白い茎と根の方はヴィゾーヴニルとグリンカムビに食べさせることはない。

 しかし、オーガ達が大根を気に入っているという話を聞けば納得だ。


 その後ラウルから聞いた話によると、オーガ達が特に気に入ったのが大根おろしだという。

 「こってりした肉料理の口直しに合う!」「さっぱりとしていて好き!」「唐揚げといっしょにいくらでも食べられる!」と、それはもう老若男女分け隔てなく受け入れられているのだとか。

 挙げ句の果てにはトロール族のシンラ宛に、百枚分ものおろし金の製作を依頼済みだそうで、ラキやニルがおろし金の出来上がりを今か今かと待ち侘びているらしい。


 そんな話をのんびりとしていたのだが、途中からライトがふとあることに気づく。

 それは、今日の午前中に転職神殿でハドリーを孵化させた時よりも、卵が大きくなるスピードが明らかに早いということだった。


 大根十五本目あたりでもうハドリーが生まれてもおかしくない大きさになり、何と二十本目で殻に罅が入ったではないか。

 転職神殿での孵化では、殻に罅が入ったのは四十本目だったというのに。それと比べてちょうど半分、つまり成長スピードが倍早いということだった。

 それを見たユグドラツィとラーデが、ほぼ同時に歓声を上げた。


『まあ!殻に罅が入りましたね!』

『おお、もうすぐ卵の中から何かが生まれるのか!?』

「おお、オーガの里で肉をやった時よりもかなり成長が早いな」

「た、確かに早いというか、早過ぎるね……」


 ユグドラツィやラーデだけでなく、ラウルも卵の成長速度の早さに驚いている。

 しかし、ライトだけは内心でかなり焦っていた。



『え、ちょ、待、何ナニ、さっきの孵化とは成長速度が倍も違うんだけど、一体どゆこと!?』

『俺の育てた大根より倍近く大きい大根だからか!? その分食べ応えがあるってことなのか!?』

『……後でラウルの大根を一本もらって調べてみよう。ラウルが作った大根だって、アイテム欄に入れれば『使い魔の餌』として判定されるはずだから、何か違いが分かるかも』



 転職神殿での卵の孵化はラウルにはナイショなので口には出せないが、ライトは内心であれこれ悩んでいた。

 そしてこれは後で判明したことだが、ラウルの大根はアイテム欄に入れたら品目が『使い魔の餌(特上級の野菜・D)』になっていた。

 まさか使い魔の餌に『高級』よりさらに上のランク『特上級』が存在するとは、ライトですら知らなかった。

 これにはBCOマニアのライトも心底びっくりである。


 そうして大根二十本目で卵の殻に罅が入り、それ以降大根を一本与える毎にどんどん罅が細かくなっていく。

 そして遂に二十五本目で、殻の内側から二本の腕がニュッ!と伸び出てきて殻を破り始めた。


 卵の中から何が出てくるのか、ドキドキワクワクとした様子でじっと見守るラウルとラーデとユグドラツィ。

 全ての殻が破られ、中から出てきたのは―――淡い緑色の肌をした男の子だった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「『『……これは……』』」


 大きく成長した卵の中から出てきた、淡い緑色の男の子。

 背丈はライトの半分くらいで、髪の毛と同じ色の鍔付き帽子を被っている。帽子の右側に一輪だけ挿してある白い花が印象的だ。

 髪は肌より濃い艶やかな緑色で、長さは肩より短くて少し癖毛のショートヘア。瞳は濃いめの桃色で、あどけない童顔の男の子だった。

 体型は幼児体型で、ベストを着て半ズボンを穿いている。


 孵化したばかりの幼い男の子を前に、ラウルとラーデはしばし無言のまま謎の子供を見つめる。

 二人にはその男の子の正体が分からないので、半ば固まるのも無理はない。

 しかし、ライトはその正体が分かっている。これはハドリーの男の子だ。


 使い魔の卵の性別は、最初から決まっている。

 しかし、卵の段階では性別を判別する手段はない。実際に孵化させてみるまでは、オスメスどちらが出てくるか全く分からないのである。

 するとここで、ラウルがぽつりと呟いた。


「この肌の色から察するに、草花や木の精霊……か?」

『そうかもしれぬな……ラウル、其方は木から生まれた精霊なのだろう? この者に何か近しい気配などを感じるか?』

「うーーーん……何らかの植物的な属性はありそうだ、とは思うが……見た目も色もプーリアと違うから、種族的にはそこまで近くないのかもしれん。というか、この肌の色的に天空島にいるドライアド寄りだと思う」

『そうか……神樹は何か感じるか?』


 ラウルと話をしていたラーデが、今度はユグドラツィに声をかける。

 ユグドラツィは長き時を生きる神樹、言わば樹木の神様のような存在だ。

 樹木の神様ならば、目の前にいる緑色の精霊っぽい何者かのことも知っているかもしれない―――ラーデはそう考えたのだ。

 そして話を振られたユグドラツィが、静かな声で答えた。


『少し待っててください。今、エル姉様にお尋ねしてみます』

『…………エル姉様によると、この子は『ハドリー』という草木の精霊だそうです。ツツジという木の花から生まれる精霊で、滅多に見られないとても珍しい子なのだとか。そしてラウルの言うように、ドライアドの近似種のようですね』

「おお、エルちゃんは知っていたか。さすがだな!」


 ユグドラツィの答えに、ラウルが感心しながらユグドラエルを褒め称えている。

 一方生まれたばかりのハドリーの男の子は、ライト達ではなく頭上にあるユグドラツィの生い茂る緑葉をじっと見つめていた。


 かと思ったら、ふよふよと宙に浮き覚束ない足取りのようにフラフラとユグドラツィの幹に向かって飛んでいく。

 そしてやっとの思いでユグドラツィの幹にヒシッ!と抱きついた。


『…………ママ』

『えッ!? マ、ママ!? わわわ私がママ、ですか!?』

『うん、ママ……僕に名前、ちょうだい……』

『ななな名前……ここここの子の名前……ぁゎゎゎ……』


 ハドリーの男の子に突如ママと呼ばれたユグドラツィ。これまでになく狼狽えているようで、枝葉がワッシャワッシャと激しく揺れ動いている。

 いつも冷静沈着なユグドラツィが、ここまで狼狽えるのも珍しいことだ。

 そんなユグドラツィの狼狽など全く意に介さず、ハドリーが真上を見上げながら名付けをねだった。


 本当ならハドリーの母でも何でもないのだから、無視しても問題ないのかもしれない。

 だが、真上を見上げながらユグドラツィを見つめるハドリーの潤んだ瞳を見ると、とても嫌とは言えない。

 しばし思案するユグドラツィ、先程まで激しかった葉擦れの音が次第に止んでいく。


 そうして辺りがしばし静寂に包まれた後、ユグドラツィが徐に言葉を発した。


『す、すごく単純なんですけど……ハドリーという種族名から取って、『リィ』というのは……どう、でしょうか……』

『リィ……僕の名前は、リィ』

『き、気に入ってくれましたか……?』

『うん。ママ、素敵な名前をありがとう』


 ユグドラツィが考えた名は、ハドリーという種族名に(あやか)った『リィ』というもの。

 自身はあまりにも単純過ぎて恥ずかしいようだが、ハドリー本人はとても気に入っているようだ。


 ふにゃふにゃとした笑顔で相好を崩すリィ。

 その反則的なまでに愛らしい笑顔に、思いっきり胸を射抜かれるユグドラツィ。

 仰け反る代わりに枝葉がザワッ!と大きく揺らいだかと思うと、ハゥッ!という小さな呻き声とともに、ズドギューーーン!ドという効果音がどこからともなく聞こえてきた、気がする。


『ハァ、ハァ……な、何でしょう、この、雷に打たれたかのような、ものすごい衝撃は……』

「フフッ、ツィちゃんでもそんなに動揺することがあるんだな」


 ユグドラツィの慌てっぷりに、ラウルが堪えきれずくつくつと笑い出す。

 そんなラウルに、ユグドラツィが恨めしそうに零す。


『ラ、ラウル……わ、笑い事ではありませんよ……』

「すまんすまん、あまりにもツィちゃんが可愛らしくてつい笑ってしまった、許してくれ」

『ホントにもう…………ライト、心を落ち着かせるようなブレンド水はありますか?』

「あ、はい、今からブレンド水を作るのでちょっと待っててくださいね!」


 ユグドラツィの要請に、ライトが慌ててアイテムリュックのもとに駆けつけブレンド水の用意を始める。

 そこにラウルも加わり、ライトに声をかける。


「ライト、ツェリザークの雪融け水を使うか?」

「あ、うん、あればバケツ五杯分もらえる?」

「はいよー」


 ユグドラツィがライトにおねだりしたブレンド水、そのベースとなる水は良質なものでなければならない。

 故にライトはラウルからの申し出をありがたく受け取る。

 ユグドラツィに振る舞うためのブレンド水を、ライトとラウルの二人で協力しながら作っていった。

 うおおおおッ、時間ギリギリー><

 後書きはまた後ほど……



【後書き追記】

 転職神殿に続き、再びユグドラツィのもとで使い魔の卵の孵化です。

 数時間前の午前中に転職神殿で生まれたハドリー、レアと違って今度は男の子。

 使い魔の卵で同じ種類の子を狙って孵化させるのは、今回が初めてのことですね!(・∀・)

 男女の性別があるので、同じハドリーでも見た目が若干異なります。


 そしてここで、使い魔の性別判定の補足。

 力天使のミーナやハドリーのように、人型寄りの子は顔立ちや髪型などで分かりやすいですが、カーバンクルのフォルや黒猫姿のウィカのような獣系の子は容姿では違いが分かり難いので、毛色の違いとなって出るものが多いです。

 ただし、ルディの黄金龍やラニの黒妖狼など、種族名に色がガッツリ入っている場合は色違いはナシ。ヒゲや角、あるいは尻尾の長さなど、別の箇所の身体的特徴で判別することになります。

 ……こうして性差の特徴を書いていると、力天使の男の子やウィカチャの女の子とか見てみたくなってきた作者。

 でも、ハドリー以外で既知の使い魔の同種を増産する予定なんて全くないんですけど(´^ω^`)


 でもって、今回はとうとうユグドラツィまで心を射抜かれることに。

 ユグドラツィは神樹なので、射抜かれて仰け反ったり蹲ることはできませんが。いつも穏やかでお淑やかなユグドラツィの漏らす『ハゥッ!』は滅多に拝めないレアシーンかも( ̄m ̄)

 そう、可愛いは正義!であり、千年を生きるユグドラツィでも抗えないものなのです!(`・ω・´)

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