第1319話 ライトとヴァレリアの密談
作者からの予告です。
明日は父方伯父の三周忌にお呼ばれしてまして、朝から出かける予定が入っていますので明日の更新はお休みとさせていただきます。
申し訳ございませんが、ご了承の程よろしくお願い申し上げます。
ニコニコ笑顔でシレッととぼけるヴァレリアに、ライトは思わずはぁー……と大きなため息をつく。
「分かりました……今後新たにイベントにチャレンジする時には、よーく吟味して選ぶことにします」
「うんうん、そうした方が間違いないね」
「そしたらイベント開始前に、ヴァレリアさんに相談するのはアリですか?」
「ンー……細かい内容とかは明かさないよ? 最初からイベント内容のネタバレしちゃってもつまらないし、大まかな概要はマイページのイベント欄でも閲覧できるからね。でも、ライト君以外の人や物、土地なんかに物理的影響が出るかどうかくらいは、先に教えてあげるよ」
「それで十分です。特にビースリーや騎士団対抗戦なんか、実際に起きたら洒落なんないので……」
ヴァレリアからの答えに、ライトは内心でホッとする。
彼女が言うように、イベント内容の概要はマイページでもチェックできる。その上で、サイサクス世界の現実に多大な影響を及ぼすようなものはヴァレリアが教えてくれるなら、安心して新しいイベントを始められるというものだ。
そしてここで、ライトがとあることを思い出しヴァレリアに話しかけた。
それは、コヨルシャウキの移住に関してである。
「あ、ビースリーと言えばですね。コヨルシャウキさんの新しい住処を案内して、先住民達にも無事受け入れてもらえまして」
「おお、それは良かった!……で? ライト君オススメの新天地は、一体何処なんだい?」
「シュマルリ山脈中央東側にある『奈落の谷』です」
「ああ、奈落の谷ね!確かにあそこなら、人目につかないどころか普通の人間には近寄ることすら不可能だもんね!」
「そうですそうです」
ライトの報告を聞いたヴァレリアの顔が、パァッ!と明るくなる。
ヴァレリアの言動は一見薄情なように見えるが、情に篤いところもある。
コヨルシャウキに関しても、勝手に行動を起こしたことには激怒していたが、その動機を知った後は彼女のことを本当に心配していた。
そしてライトは地底世界でのことを詳しく話していく。
奈落の谷の奥底の地底には、冥界樹のユグドランガと地の女王、そして地の女王を守る地底神殿守護神の白虎のシロがいること。
皆の賛同を得られればコヨルシャウキの移住も可能と思い、先日コヨルシャウキといっしょに訪れたところ快く受け入れてくれたこと。
地底世界は冥界樹の魔力が結晶化し、プラネタリウムのような景色になっていてコヨルシャウキの星海空間ともよく似ていることなど。
それらのライトの説明に、ヴァレリアは心底感心していた。
「そこまで考えて選んでくれたんだね。ライト君はすごいなぁ。地底世界への移住なんて、私では思いつかなかったよ」
「そ、そんなことは……」
「照れることはないさ。さすが勇者候補生、サイサクス大陸のことをよく知り尽くしてるね!」
「ぃゃぁ、ヴァレリアさん程ではありませんよ……」
ヴァレリアにベタ褒めされて、ライトが照れ臭そうに頭をポリポリと掻く。
そんなライトをヴァレリアはご機嫌そうにさらに褒め続ける。
「いやいや、ライト君のおかげでコヨるんの未来は安泰だよ!彼女の使命であるビースリーも、ライト君が時々相手してくれると約束してくれたしね!」
「……あ、そういえばそのことでヴァレリアさんにお願いがあったんですが」
「ン? 何だい?」
「ぼくが星海空間でコヨルシャウキさんとビースリー対戦するのはいいんですが……対戦終了後、どうやってこっちのサイサクス世界に帰ってくるかが分からなくてですね」
話の流れでビースリーが出てきたことで、ライトがはたとした顔で今日の要件の一つを思い出す。
それは『星海空間に渡った後、どうやってこっちの世界に戻ってくるか』である。
コヨルシャウキ自身にもその方法が分からなかったため、ヴァレリアに聞くしかない。
「あー……確かに単発イベントのままだったら、そのまま終了して別れても何も問題ないけど、そうじゃないもんね。ライト君だけでなく、コヨるんもこっちに戻ってこれなきゃ困るのか」
「そういうことです」
「要はコヨるんがライト君を伴って、サイサクス世界と星海空間を自由に行き来できるようになればいいんだよね?」
「そうですね。ぼくはこっちに戻ってこれさえすれば、マッピングスキルでいつでもどこでも家に帰れますけど……コヨルシャウキさんが地底世界に戻れる方法が必要なんです」
「ふむ……」
ライトの要望に、ヴァレリアが口に手を当てつつしばし考え込む。
その数瞬後、ヴァレリアは両手をパン!と合わせた。何か良い案を思いついたようだ。
「そしたらねぇ、コヨるんにも瞬間移動用の魔法陣入り魔石を与えておこう!」
「それがあれば、星海空間とサイサクス世界の行き来が可能になるんですか?」
「うん。ただし、これまでのような魔石じゃダメだね。コヨるんに星海空間の星を一つ持ち帰ってもらって、その星に瞬間移動の魔法陣を入れる必要がある」
ヴァレリアの説明によると、コヨルシャウキの帰還には星海空間とサイサクス世界を繋げるために紐付けをする必要があるという。
その紐付けのためには、星海空間側の何らかの物質をこちら側に持ってくるのが最適かつ手っ取り早いのだとか。
「そしたら、またコヨルシャウキさんに会った時に伝えておきましょうか?」
「いや、それは私が直接コヨるんに会って話しておくよ。コヨるんの星海空間の星採取には、どの道私も同行することになるだろうからね」
「そうですか、ならよろしくお願いしますね!」
コヨルシャウキへの伝達は、ライトではなくヴァレリアが受け持つという。
コヨルシャウキの行き来のために、星海空間の星を採取するのはいいが、彼女一人では採取後にサイサクス世界に帰ってこれなくなる可能性がある。そのためヴァレリアが彼女とともに星海空間に渡る必要があるのだ。
また、採取した星に瞬間移動の魔法陣を仕込んだり、その使い方なんかもコヨルシャウキに教えておかなければならない。
ヴァレリアのやることは山積みだが、それを厭う様子はない。彼女は本当にコヨルシャウキの行く末を案じているのだ。
そうしてコヨルシャウキの件が一段落したところで、ヴァレリアが収納魔法を使い何かを取り出した。
「あ、そうそう、これ。こないだライト君に頼まれた、瞬間移動用の魔石二十個ね」
「あ!ありがとうございます!これがあれば、クエストイベントの素材採取がやりやすくなります!」
ヴァレリアの手のひらに山盛りに乗せられた魔石二十個を、ライトが大喜びで受け取る。
この魔石はBCOアイテムではないので、マイページには入れずにアイテムリュックに仕舞い込む。
ウッキウキで魔石を仕舞うライトに、ヴァレリアが何気なく呟く。
「ギャラクシーエーテル500個だっけ? そんなお題があるなら、多分というか間違いなくマキシマスポーション500個もあるんでしょ? BCOのクエストイベントって、ホンット鬼畜だよねー」
「ぁー、はい、マキシマスポーション500個もありました……そっちはもうクリアしたので、ギャラクシーエーテルの方に取りかかっているんですけど」
「え、マキシマスポーション500個をクリア済みなの!? ……ライト君、ホンットすごいね……」
ヴァレリアが何の気なしに呟いた言葉に、ライトがスーン……とした顔で俯き黄昏れている。
それまで乗り越えてきた数々のお題、その試練のキツさが走馬灯のようにライトの脳裏を過る。
そしてヴァレリアの方もクエストイベントの難易度の高さを知っているので、ライトがマキシマスポーション500個を先にクリアしていたことに驚嘆していた。
しかし、ここでいつまでも黄昏れていても仕方がない。
ライトの要件は一通り伝え終えたことだし、気持ちを切り替えるためにガバッ!と顔を上げた。
「……よし!ぼくの今日の用事はもうほぼ終えたので、今からレアの誕生日のお祝いを兼ねた歓迎会をしましょう!」
「お、いいねぇ♪ 転職神殿に新しい仲間が加わったんだ、盛大な歓迎会をしないとね!」
己を奮い立たせるかのようなライトの言葉に、ヴァレリアが手放しで賛同する。
そして二人は顔を見合わせつつ、同時にコクリ、と頷く。
事前に示し合わせた訳でもないのに、阿吽の呼吸で二人はレアを囲むミーア達のもとに駆けていった。
ライトとヴァレリアの様々な密談?です。
ライトの今回の転職神殿訪問の目的はたくさんあって、第1316~1317話の五回目の使い魔の孵化と、前話の四次職マスターのご褒美の質問、それに今話のコヨルシャウキ関連の報告&相談と瞬間移動用の魔石二十個の受け取り。
全部で四つもあるとか、欲張り過ぎでしょ!><
でもねー、ヴァレリアさんに会える機会自体がそうそうないのでねー、ライトだけでなく作者もここぞとばかりに要件をギュウギュウ詰めにしちゃうという(´^ω^`)
それに、そこら辺もまとめて片付けておけるうちに出しておかないと、次の展開に繋げられないので。
作者の脳内でヴァレリアさんが「扱き使い過ぎ!」とかブーたれてるような気がしますが。多分気のせいでしょう。キニシナイ!( ゜з゜)~♪




