第1310話 雪解けのような仇敵との和解
女人魚達に案内されて、海の中を進むライト達。
道中ではライト達に興味を持った、初めて会う女人魚達に質問攻めにされていた。
『君がライト君? 君の名前は、アリッサやボニーから聞いたことがあるわ』
「はい!この呼び笛も、アリッサさん達にもらったものなんです」
『道具なしで海に深く潜れる人族って、初めて見たわ!』
「水の女王様や海の女王様から、勲章や加護をいただいたおかげです」
『しかも海の中で会話までできるなんて……人族ってすごいのね!』
「ぃゃー、これも女王様達やアクアのおかげなので……人族そのものは、今でも大して変わっていませんよ」
自分の両脇に陣取り、物珍しそうにライトに話しかける女人魚Iとᒍ。
そしてライトの前で泳ぐKが、キラキラとした顔でライトに問うた。
『君、あの子達にとっても素敵な飾りをプレゼントしたのよね!?』
『あー、アリッサだけじゃなくて、ディアナやエリーゼも身に着けていた、あの可愛らしい飾りね!』
『あれ、すっごく羨ましいー!』
三人の女人魚達が、かつてライトが女人魚達にプレゼントしたアクセサリーをとても羨ましがっている。
そんな三人に、少し先を泳いでいたガーネットが何故かドヤ顔でライトに声をかけた。
『ライトくーん、私との約束、覚えてるわよねー?』
「もちろんです!フラウさんとヘレナさんへのプレゼントも、ちゃんと用意してあります!」
『キャーーー!ちゃんと覚えててくれて嬉しーい!お姉さん、感激ー♪』
ライトがガーネットとの約束をちゃんと覚えていたことに、ガーネットが女人魚Iを押しのけてライトに抱きつく。
美女人魚にむぎゅーッ!と抱きしめられたライト。「おごッ」と小さな叫び声をあげながら、ガーネットの美乳の谷間に顔を埋めさせられている。
そんな羨まけしからんライトに、女人魚I、J、Kも黙ってはいられない。
我も我もとばかりに、ライトに押し迫り始めた。
『えー、いいないいなー、ライト君、私にも可愛い飾りをちょうだーい!』
『私も金色の腕輪が欲しーい!』
『私は銀色の髪飾りがいいなー!』
仲間が身に着けている美しい装飾品を羨ましがった女人魚達が、次々とライトにおねだりしつつ身体を寄せて迫る。
モテ期到来のライトだが、このままでは本当に窒息してしまう。
かろうじて出せた震える右手を、ラウルが引っ張ってライトを救出した。
「おいおい、あんたら、うちの小さなご主人様を窒息死させる気か?」
『え? ……あらヤダ、ごめんなさい!』
『お喋りについ夢中になり過ぎちゃったわ』
『ライト君、本当にごめんなさいね、大丈夫?』
ラウルのクールなツッコミに、女人魚達が慌ててライトから身体を離して距離を取った。
ようやく息ができるようになったライト、ぷはぁー……と大きく息を吸い込んでホッとしている。
「ラウル、ありがとう、助かったよ」
「どういたしまして」
大小の主従のやり取りに、今度はラウルの方に人魚達が群がりだした。
女人魚達にとって、ラウルもまた初めて見る人物なので興味を唆られたようだ。
『ねぇ、貴方の名前は何ていうの?』
「俺の名はラウル、人族ではなくてプーリアという妖精族だ」
『まあ、妖精なの!? 陸に住む妖精族なんて、初めて見るわ!』
「だろうなぁ。そもそも俺はカタポレンの森で木から生まれた妖精だから、海になんて全く縁がなかったしな」
ラウルが己の名と出自を明かすと、周囲にいた女人魚達が驚いた顔をしている。
『森で生まれた妖精!? 森って、陸の中でも木がたくさんあるところのことよね!?』
「そうそう、その認識で合ってる」
『へーーー、木で作られた物って、海の中ではすぐに朽ち果ててしまうものなのに……貴方、男前なだけじゃなくて本当にすごい妖精なのねぇ』
「お褒めに与り光栄だ」
心底感心したようにラウルを見つめる女人魚達の絶賛に、ラウルは事も無げに受け答えしている。
美女揃いの女人魚達に、その容姿や能力をべた褒めされても全く動じないところが実にラウルらしい。
そうしているうちに、海底神殿が徐々に見えてきた。
女人魚達が先に中に入り、海の女王に向けて報告する。
『女王ちゃーん、お客様がいらしたわよー♪』
『お客様?』
『そう、ライト君とラウル!』
『まあ、ライト達が来てくれたの!?』
女人魚達の報告を受けた海の女王、海底神殿の外に飛び出してきた。
そしてゆっくりと歩いてくるライト達を見つけて、嬉しそうに駆け寄っていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『ライト、ラウル、久しぶりね!』
「海の女王様、お久しぶりです!」
「よう、久しぶり。今日はデッちゃんはいないのか?」
『あの子の場合、海底神殿にいる日の方が少ないし』
海底神殿のすぐ傍で、海の女王の歓迎を受けるライトとラウル。
再会を喜ぶライト達だが、神殿の周辺を見回してもディープシーサーペントの姿はどこにも見当たらない。
海底神殿守護神であるディープシーサーペントは、今日もどこかに出かけていて不在らしい。
他の神殿守護神は、常に己の拠点である神殿にいるものなのだが。ここまで放蕩三昧な神殿守護神は、今のところディープシーサーペントだけである。
しかし、海の女王の表情はそこまで暗くはない。
むしろ少し嬉しそうな顔で、ライトにちょっとした謎かけを出してきた。
『でもね、今日はたまたま不在だけど。それでもここ最近は、デッちゃんが海底神殿にいる日が増えたのよ? 何故だか分かる?』
「そうなんですか? うーん……何でしょう?」
『それはね、あのクレエという人族の女性に会うためよ』
「え!? 今でもクレエさんとデッちゃんが会ってるんですか!?」
『そうなの。デッちゃんが人里に直接押しかけるのではなく、あの女の人の方が前に会ったあの場所にたまに来てくれるんですって』
海の女王の話に、ライト達が驚いた顔をしている。
先程冒険者ギルドエンデアン支部で会ったクレエとは、そこまで話をしていなかったので全然知らなかった。
後でクレエに聞いたところによると、エンデアンの港から見える海のはるか遠い位置に、ディープシーサーペントが時折姿を現すのだという。
そうやってディープシーサーペントが街の近くに姿を現した時に、誰かが冒険者ギルドエンデアン支部に通報すると、クレエがあの崖に走っていってデッちゃんと会話をするようになったのだそうだ。
このように、クレエがディープシーサーペントと積極的に交流を深めることで、蛇龍神襲来によるエンデアンの物理的被害は激減していた。
さらにはディープシーサーペントからクレエに向けて『ボクちんが脱皮した皮、あげるねーぃ♪』『あ、これ、ボクちんの歯!こないだ寝呆けて岩を噛んじゃった時に抜けたヤツ!』と、度々プレゼント?をもらうらしい。
それら蛇龍神由来の貴重な素材は、クレエが嬉々として冒険者ギルドエンデアン支部に持ち帰り、同支部の財政とクレエの給料を潤しているのだとか。
ディープシーサーペントは、エンデアンにとって長年の仇敵であった。
今でもその認識は残っていて、数百年に渡る因縁の関係は昨日の今日ですぐに変わることはさすがに無理だろう。
だがそれでも、こうしてクレエとの交流を通じて少しづつ和解ができていければ良いことである。
ライト達が引き合わせた縁が、半年という月日の間に徐々に良い方向に変わっていっている。
そのことを知ったライトとラウルの顔が自然と綻ぶ。
「ぼくもデッちゃんにまた会いたいなぁ」
『ライトもそのうち会えるわよ。さすがにまだレオニスのことは怖いようだけど、貴方達はデッちゃんの恩人ですもの』
「その日を楽しみにしてますね!」
海の女王の温かい言葉に、ライトも思わず微笑む。
『さあ、何もないところだけど、せっかくこうして会いに来てくれたのだから神殿にも寄っていって』
「ありがとうございます。人魚のお姉さん達にも渡すものがあるので、お邪魔させていただきますね!」
『『『キャーーー!待ってましたぁーーー♪』』』
海の女王のお誘いに、嬉しそうに応えるライト。
その後ろで、いつの間にか来ていたフラウ、ガーネット、ヘレナが歓声を上げた。
ライトと海の女王がいろいろと話している間に、ガーネットがフラウとヘレナを呼んできていたようだ。
三人の女人魚達が速攻でライトを取り囲む。
ライトの右腕をフラウ、左腕をガーネットがガッシリと組み、ヘレナがグイグイと背中を押す。
『さささ、ライト君、行きましょ♪』
『お姉さん達、ライト君が来てくれるのをずーーーっと待ってたんだからー♪』
『ライト君のお土産、すーっごく楽しみー♪』
お土産目当ての女人魚達の、何と現金なことよ。
しかし、ライトの訪問をここまで待ち侘びてくれていたというのも悪い気はしない。むしろ、それだけ長らく待たせてしまったことにライトは申し訳なささえ感じる。
三人の美女達にあわあわと連行されるライトの後ろを、ラウルがやれやれ……と苦笑いしながらついていく。
こうしてライト達は、海の女王達とともに海底神殿の中に入っていった。
エンデアンの寄り道その一、海底神殿での海の女王との再会です。
海の女王本人が作中に出てくるのは第851話以来、460話ぶりですか(゜ω゜)
海はライト達の拠点であるラグナロッツァや魔の森カタポレンとは全く違う環境なので、なかなか気軽に作中に登場させることができないんですよねぇ(=ω=)
ですがライト達が関与していない半年の間に、少しづつですが着実に人族と蛇龍神の交流が深まっていることが今話で明らかに。
ライト達がもたらした縁が良い方向に向かっているのは、作者としても嬉しい限りです( ´ω` )




