第1308話 友人達との再会
ライトが無事サイサクス世界に帰還を果たした二日後。
この日からラグーン学園が再開された。
ライトも朝イチの魔石回収ルーティンワークを終えて、ラグナロッツァの屋敷に移動しラグーン学園の制服に着替える。
この制服に袖を通すのは実に十七日ぶりのことだが、気分的には半月程度どころか数ヶ月ぶりのような気がする。
それまでのライトは、ラグーン学園なんてさっさと卒業して一日も早く冒険者になりたい!と何度も思ったことがあった。
しかしそれはとんでもない間違いで、こうしてラグーン学園の制服を着られるのは子供でいられる今のうちだけで―――この何気ない平穏な日々を過ごせるのは、本当に幸せなことなのだということを今朝のライトはしみじみと感じていた。
徒歩で登校する道中も、貴族の子供達を乗せた馬車がゆっくりとした速度でライトを追い越す度に『ああ、日常に帰ってきたんだな』と嬉しく思う。
こうした日常の有り難みは、きっとまた平和が日々が長く続く程に次第に薄れゆくのだろう。
この感覚を忘れないためにも、戒めを兼ねた修行としてたまにコヨルシャウキとビースリー鍛錬をしよう!とライトは道すがら心に誓う。
そうしてライトはラグーン学園に到着し、二年A組の教室に入った。
自分の席に座ると、早速イヴリン達がライトのもとにやってきた。
「ライト君、おッはよーう!」
「おはよーう!」
「おはよう」
「ライトさん、おはようございます」
イヴリンにリリィにジョゼにハリエット、いつもの面々が席に座ったライトを取り囲む。
皆の明るい笑顔に、ライトも嬉しそうに朝の挨拶を返す。
「皆、おはよう!久しぶりだね!」
「うん、ラグーン学園で皆に会うのはすっごく久しぶりだねー」
「夏休みや冬休み以外で、こんな長いお休みなんて初めてだけど……すっごくつまんなかったー」
「だよねー。家の外に出ちゃいけなかったから、外で遊ぶことも出かけることもできなかったし……」
「私も皆さんと会えなくて、とても寂しかったです……」
ラグーン学園での再会を皆で喜び合う。
ライトのみならず、同級生達も平和な日常の有り難みを感じていたようだ。
その後も同級生達の賑やかな雑談が続く。
「ラグーン学園が休園になっちゃった、あの日? 空に出てたあの変な線? あれのせいで、何かすっごく大変なことになってたんだってねー」
「らしいね。僕の父さんも、あの日からしばらくはラグナ宮殿から帰ってこられなかったくらいだからね」
「うちなんて、すーーーっ…………ごく大変だったんだよー。お泊まりの予約が全部なくなっちゃってさ、その返金とかでパパもママも頭抱えてたし」
「リリィちゃんのおうちは、特に大変だったでしょうね……」
「うん。でも今は、お客さんも戻ってきてくれたけどね!」
ラグーン学園が休園中だった間の苦労を、皆それぞれに語り労り合う。
ライトが自分のことを語ることはないが、皆の話をただただ静かに聞いていた。
するとそこに、担任のフレデリクが教室に入ってきた。
それまで友達と喋っていた子供達は、皆急いで自分の席に向かい着席する。
「皆さん、おはようございます」
「「「おはようございまーす!」」」
「こうしてまた皆さんの元気な顔を見ることができて、先生もとても嬉しいです。今日は今から講堂で全校集会をした後、プリントを配って下校となります。では、皆さん講堂に移動しましょう」
「「「はーい!」」」
フレデリクの指示に従い、子供達は講堂に移動していった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
全校集会を終えた後、大量のプリントやらドリルが児童全員配布された。
非常事態宣言により半月以上もの休園となったため、その間できなかった分の学習を少しでも取り戻すための策である。
勉強嫌いのリリィが特に嫌そうな顔をしていたが、勉強はラグーン学園に通う子供の仕事なので致し方ない。
そうしてその日は下校となり、翌日からは通常の授業が始まる。
昼食がないので、皆真っ直ぐに帰宅するべく下駄箱で「バイバーイ!」「また明日ねー!」と挨拶しながら分かれていく。
ライトも寄り道をせずにラグナロッツァの屋敷に帰ると、玄関入って早々にラウルが出迎えてくれた。
「おかえり、ライト。久しぶりのラグーン学園はどうだった?」
「あ、ラウル、ただいまー!友達も皆元気だったよ!」
「そっか、そりゃ良かったな」
「うん!でも、ラグーン学園がずっとお休みだったせいか、宿題がたくさん出てさー。リリィちゃんやイヴリンちゃんがぶーたれてたよ」
「ハハハハ、そりゃ大変だな!」
ライトから久しぶりのラグーン学園の様子を聞きながら、ラウルが楽しそうに笑う。
「じゃ、制服着替えたら食堂に来な。ちょいと早めの昼飯にしよう」
「うん!」
ラウルの言葉に、ライトが破顔しつつ応える。
ラウルとともに昼食を食べるのも、かなり久しぶりだ。
早速ライトは二階の自室に上がり、私服に着替えてから食堂に入る。
するとそこには、既に二人分の食事が用意されていた。
二人で席に着き、合掌しながら食事の挨拶をする。
「「いッただッきまーーーす!」」
ラウル特製ボロネーゼやジャイアントホタテのマリネ、屋敷の温室産のレタスサラダなどを頬張るライト。
それを、向かいに座るラウルが静かに微笑みながら見つめている。
そんなラウルに、ライトの方から尋ねた。
「ラウルは今日の午後の予定は何かあるの?」
「そうだな、久しぶりにどこかの街で殻処理仕事でもしてこようかとは思っているところだ」
「あー、最近までずっとビースリー騒ぎで他の街に行くどころじゃなかったもんねー」
「そゆこと」
午後はどこかの街で殻処理仕事をこなすというラウル。
殻処理仕事といえば、氷蟹のツェリザーク、ジャイアントホタテのエンデアン、砂漠蟹のネツァク、この三ヶ所だが、ラウルはどの街に行くつもりなのだろうか。
「そしたら、どの街に行くの?」
「そうだなぁ……ツェリザークは年明けに行ったし、久しぶりにエンデアンに行くかな」
「ぼくもついていっていい?」
「もちろん。ただし、勝手に一人であちこち歩くなよ?」
「うん、分かってるよ!」
ラウルの了承を得て、エンデアンについていくことになったライト。
いつものライトなら、素材集めの魔物狩りに勤しむところなのだが。ビースリーの死闘三昧からようやく解放されたばかりなので、しばらくは魔物狩りも休みたかったのだ。
昼食を食べ終えて、食器などを下ろしてから各自支度を始める。ライトは愛用のマントと肘当てとアイテムリュック、ラウルは黒の天空竜革燕尾服。二人のお出かけの正装である。
玄関ホールにはライトが先に着き、後からラウルが玄関に来た。
ライトの正装を見たラウルの眼差しが、何故か少し悲しげなものに変わる。
「ライト……そのマント、だいぶ傷んでしまっているな」
「ぁ、うん……最近ぼくの着方が、ちょっとだけ悪かったからさ……」
「……ま、子供が服を汚すのなんざ当たり前のことだ。とりあえず俺が浄化魔法をかけといてやるから、近いうちにアイギスでお直ししてもらえよ?」
「うん」
マントが傷んでいるのは、星海空間でコヨルシャウキと死闘を繰り返したせいであり、当然ラウルもそれに気づいていた。
だが、ラウルはそれ以上何も言わず、ライトが着ている愛用のマントに向けて手を翳し浄化魔法をかける。
浄化魔法でマントの傷みが直せる訳ではないが、それでも少しは小綺麗になったような気がする。
ラウルの無言の気遣いに、ライトも口には出さずに『ありがとう、ラウル』と心の中で感謝する。
そして努めて明るい声でラウルに話しかけた。
「じゃ、エンデアンに行こっか!」
「ああ」
二人は玄関の扉を開き、冒険者ギルド総本部に向かって出かけていった。
ライトの日常を大きく占めるラグーン学園の再開です。
作者は子供の頃、勉強などちっとも楽しくなくて人付き合いも苦手で根暗な子だったので、学校も大嫌いでしたが。今にして思えば『子供でいられるというのは、とても贅沢なことだったんだな』としみじみ思います。
まぁね、こんなことを思ったり気づくのも自分自身が歳を取って大人になってからのことであって、人間なんてのはいつだって失くしてから気づく愚かな生き物なんですよねぇ。
というか、今の作者が『小さい頃は、人見知りが激しくて友達もいなくて、無口で根暗な子供だった』と言っても誰も信じてくれないんですが。何故?( ̄ω ̄)




