表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
大魔導師フェネセン

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

130/1677

第130話 復元魔法の成果

 ひとまず本とともにラグナロッツァの屋敷に移動し、自室に入ったライトは早速復元された表題のない本を改めて見てみることにした。

 表紙や背表紙、裏表紙など特に問題はない。それどころか、スレイド書肆で購入した直後よりも表紙の色や紙の白さが鮮やかになっている気がする。これも復元されたことによる効果か。


 本の中の部分も、ページ同士がへばりついて捲ることすらできなかった後半箇所の一枚一枚が、ちゃんと捲れるようになっていた。

 ライトは慎重な手つきで、以前読んだ部分の先のページまで捲り、読み始めた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ラグノ暦535年 1月 18日


 本日より、人工勇者量産のための育成計画が始動する。

 まずは勇者候補生の受け入れだ。


 基本的に来る者拒まずで、年齢が十歳以上であれば出自や種族、性別は問わない。

 入団申請者によほどの身体的欠損や重大な犯罪歴でもなければ、ひとまず合格として受け入れる。

 そこから様々な訓練を経て、一ヶ月後には戦場の場に実戦投入という流れになる。


 私は研究部門の一員という完全なる非戦闘員であり、直接戦闘現場に出ることはできない。

 だが、彼らの安全や生存率を高める研究を続けていくことで、陰日向になり彼らを手助けしていきたいと思っている。



 …………



 ラグノ暦535年 2月 1日


 今日は戦地からジャックが半年ぶりに帰還してきた。

 彼と入れ替わりに、今度はラハイルが戦地に赴くという。

 ラハイルは明後日にはここファウンディアを出立する予定らしい。三人で会えるのは、今日明日のみということになる。


 戦地に出立すればまた当分顔を合わせられなくなるので、明日の夜にでも飲もうか、ということになった。

 良い機会なので、彼らの活躍話を聞くとともに私の研究成果なども聞いてもらおう。



 …………



 今日の食事会は実に、実に微妙な空気に包まれたものだった。

 何故ならジャックの奴が、娼館で一目惚れしたという女性シアナをそのまま我々のもとにまで連れてきたからである。


 別に彼がどこの誰と付き合おうがそれは彼の自由であるし、彼も妙齢の男性なのだから異性と積極的に出会おうというその心がけは十二分に理解はする。

 だが、せめて私達友人の集まりにまで引き連れてくるな、と言いたい。


 シアナという完全なる部外者が同席しているおかげで、普段の研究話など全くできなかったではないか。

 ラハイルともあれこれと研究話をしようと思って、個室で食事をしようと手配したというのに。その努力が台無しである。


 彼には守秘義務だの機密保持などという、根本的な概念が薄いということは知っていたが、ここまで酷いとは思わなかった。

 ジャックには後日、半日ほど説教をせねばなるまい。



 …………



 ラグノ暦535年 3月 29日


 明後日より、無属性攻撃スキル【復讐者(ミエスーテ・)の逆襲(コントラターカ)】の実践及びデータ採取が開始される。

 まずは実践の場として、ファウンディア周辺の魔物出没地帯での戦闘を予定している。


 ここ最近は、この首都ファウンディアの周辺にまで強力な魔物が出てくるようになった。

 それらの駆除も兼ねての実験データ採取である。

 本来ならば、実戦という危険を伴う現場で実験データ採取も兼ねるなど多々問題があることは重々承知している。

 だが、その是非を問うような悠長なこともしていられないのが現状である。


 まだまだ改良の余地はあるだろうが、一日も早く魔物退治の現場において積極的に使われるスキルとなるようにしていきたいものだ。



 …………



 今日、研究所内のとある施設にてどことなく見覚えのある女性がいると思ったら、何と先日ジャックが食事会の場に連れてきた女性、シアナではないか。

 驚きのあまり思わず声をかけてしまい、その流れで事情を聞いた。


 彼女の話によれば、ジャックのつてでこの『円卓の騎士』本部の事務員として働くことになったそうだ。

 給料としては事務員の方が格段に安かろうと思うのだが、何でも彼女には子供が二人いて、その子達のためにも日中働ける安定した職に就きたかったらしい。

 しかもここ『円卓の騎士』本部には職員用の寮もあり、衣食住全てが保証される。まさに彼女にとっては非常に魅力的な転職であろう。


 ジャックの奴に、人事権もしくはそれに準ずる影響力などあったのか?とも思うが、母と子で健気に支え合う母子家庭を支援することに否やなどない。

 彼女の事務能力が如何程のものかは分からないが、子供のためにも是非とも頑張ってもらいたいものだ。



 …………



 ラグノ暦537年 3月 5日


 ここ最近、ずっと【復讐者(ミエスーテ・)の逆襲(コントラターカ)】の威力を上げる方法を模索しているのだが、なかなか上手くいかず失敗ばかりしている。

 何かが足りないことは分かるのだが、さて何が足りないのかと問われれば答えに窮する。


 とはいえ、ファウンディア周辺の魔物駆除に関してはそれなりの成果を得られていることには違いない。

 最たる問題点は、スキル使用者の生命値を僅少状態に保ち続けなければならない点か。

 だが、僅少状態にあるほど絶大な威力を発揮するというスキルの特性上、どうしても避けては通れない道でもある。


 生命値が多いうちは他の攻撃スキルを用い、戦闘継続によりダメージが蓄積されて生命値が僅少に近づいてから【復讐者(ミエスーテ・)の逆襲(コントラターカ)】を使い、魔物を一掃する。

 当面はこの戦術を用いるしかないだろう。


復讐者(ミエスーテ・)の逆襲(コントラターカ)】に続く強力なスキルの開発に、我々は日々邁進しなければならない。



 …………




 今日、ジャックの奴からとんでもなく吃驚する話を聞かされた。

 奴め、何とシアナと結婚するというではないか!

 ジャックの奴にもとうとう春が来た、というわけか。


 ジャックは初婚であるのに、連れ子のいる相手と結婚していきなり子持ちになるのもどうかとは思うが、ジャック自身がそれで良しと納得し覚悟の上での決意ならば致し方あるまい。


 むしろ、それらの心配など私の杞憂であり要らぬ節介であろう。

 シアナの連れ子とは私も何度か接する機会があったが、とても聡明で賢い子達だ。

 姉弟ともに周囲の和を乱すような言動もなく、むしろ大人達しかいないようなこの環境でも打ち解けて積極的に輪に入ることができている。

 あの子達が『円卓の騎士』の職員一同から可愛がられているのは、その愛らしい容姿だけでなく性格や言動なども相まって皆に認められているのだろう。


 そして姉弟二人とも魔法の素質が全属性において高く、また魔力も多いようだ。そのせいか、先日などは魔力強化部門の上役から直々に声をかけられたらしい。

 今はまだ一職員の連れ子でしかないが、私達『円卓の騎士』の仲間入りする日もそう遠くないかもしれない。将来がとても楽しみな逸材だ。


 そして、ジャックという男。基本的にラハイルから賢さを取り除いたような腕力一辺倒の、根っからの筋力至上主義者。

 最前線で戦うことしか知らない喧嘩馬鹿故に、奴の身体から生傷が絶えることはない。


 だが、それでもその心根は直向きで、紛うことなき善人だ。

 一般市民だけでなく、前線で戦うことのできない私のような頭脳労働者達をも等しく守ってくれる、アクシーディア王国の強力な守護者の一人。


 その彼と、彼が得た新たな家族の幸せを、心から願ってやまない。



 …………



 ラグノ暦538年 12月 10日


 本日開かれた会議にて、補助魔法部門の代表者から面白い提案がなされた。

 本来ならスキルで行う身体強化を、呪符という形にして事前に複数枚持たせておくのはどうか、というものである。


 身体強化はスキルで済ますこともできるが、スキル以外の道具類で賄えるとなれば魔法が不得手な者にも使えるし、最前線戦力の魔力温存や切り札にもなるだろう。

 その使い方次第では、現状では不利な戦況の打破にも繋がる一手かもしれない。


 そうした流れにより、今後は全力を挙げて呪符の開発及び量産を目指すこととなった。



 …………



 身体強化の呪符開発、効果としてはなかなか良い成果を出している。

 だが、これを量産するには少々問題がある。呪符に込める魔力が圧倒的に足りないのだ。


 呪符による戦闘能力の向上は、今後の魔物殲滅作業において重要な役割を果たすであろう。

 その役割を十全に果たすには、魔力不足という問題を解決しなければならない。


 問題を解決しては、またすぐに別の問題が出てくる。

 如何ともし難いいたちごっこではあるが、ここで歩を止める訳にはいかない。

 魔力確保の方法を全力で模索する所存である。



 …………



 ラグノ暦540年 8月 11日


 喫緊の課題である魔力確保について、本日の会議にて『亜空間から取り出してはどうか?』という意見が出された。

 確かに現在のこの世界のエネルギー事情は、決して良いとは言えない。

 呪符の作成には作成者の魔力を用いるし、一枚毎に魔力を込めなくてはならない。

 作成者の魔力を回復させる回復薬、そしてそれらを作る薬草の量にも限界がある。


 今の世界では、人類が利用できるエネルギーが圧倒的に足りない。ならば、他の亜空間からエネルギーを引き出す。

 一見合理的に思える解決策ではあるが、果たしてそれは安全に取り出せるような代物なのだろうか?

 不安を全く覚えない、と言ったら嘘になる。


 とはいえ、手段を選り好みしていられる状況ではないのもまた厳然たる事実だ。

 亜空間への接触方法やエネルギーを取り出す方法については、また議論が交わされるだろう。



 …………



 亜空間への接触方法として『龍穴と呼ばれる場所にて、複数の魔術師が空間を開く魔法を唱えてエネルギーを取り出す』という案が出された。

 龍穴とは、膨大なエネルギーを秘めた場所とされる。

 幸いにして、このファウンディアの郊外にその龍穴があるとされる場所があるらしい。

 亜空間接触地点の候補として、早速挙げられた。


 数日ほどその場所を調査した上で、亜空間から魔力を取り出す実験を行うかどうかが検討される。

 魔力不足問題を解決する一手となるかどうか。今はまだ分からないが、ここが人類の存亡を賭けた分水嶺。

 私にはそんな気がしてならない。



 …………



 ファウンディア郊外の龍穴を調査したところ、そこには十二分に魔力が溢れていることが確認された。

 そのエネルギーを利用すれば亜空間を開き、そこからさらなる無尽蔵のエネルギーを得ることも可能だ。


 まずその龍穴を囲むようにして、簡易的な建物を建てる。

 完全な箱物を先に建ててしまうと、大地や大気からのエネルギーの流入が阻害される危険性があるため、本当に雨風を凌げる程度の四阿的なものに留める。

 本格的な建物の建造は、亜空間を開きその固定化が成功してから行えばよい。


 亜空間を開く魔法を唱える魔術師は、私を含めて三十人。

 魔法で亜空間を開く間に、その空間が閉じないように固定化する術を施し、亜空間との接触を安定化させる。


 亜空間を開く実験は、四阿を建てる期間を含めて一週間後に決まった。

『円卓の騎士』の研究員全員が、その準備に大忙しである。



 …………



 ラグノ暦540年 10月 1日


 亜空間を開く実験を三日後に控えた今日、ラハイルが戦地より帰還した。

 今回も無事帰ってこれたことに、心から安堵する。

 三日後に行われる龍穴での実験の話をラハイルにしたところ、彼もその実験に立ち会い手伝いをしたい、と申し出てくれた。


 ラハイル。彼はその突出した武力が(つと)に有名であるが、実は魔術方面においても多才であることを知る者は実は少ない。

 彼ほど全ての才能に恵まれた傑物を、私は他に知らない。

 その彼の協力があればまさに千人力であり、実験は成功を収めること間違いなしであろう。


 また、ラハイルと入れ替わりにジャックが戦地に出立する番となるが、ジャックもまた亜空間接触実験に興味を持ち立ち会いたいと言う。

 たしかに接触実験を行っている際に、周囲の警戒を行う者も必要だ。郊外といえど、実験中に魔物が襲ってくる可能性は十分にある。

 ジャックに周辺警備を担ってもらえるならば、これほど心強いことはない。



 …………



 ラグノ暦540年 10月 4日


 いよいよ明日は亜空間接触実験の日だ。

 この実験が成功すれば、人類は膨大なエネルギー源を得ることができる。

 そうすれば、圧倒的に不利な現在の戦況を一気に覆すことも可能になる。


 ラハイルにジャックの協力もある、必ずや成功するであろう。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 表題のない本の記述は、ここで途絶えていた。

 内容的に分割掲載にはしたくなかったので、ちょっと長めになりました。


 というか、正直にぶっちゃけちゃいますと、この回を書きあげるまでに相当日数食ってしまいました……ここ最近私が活動報告やTwitter等で

「予約投稿分のストックかなり減ってもたぁぁぁぁ><」

と溢しているのは、実はこの回での難産が主原因だったりします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ