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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
ラグナロッツァに潜む危機

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第1288話 ライトの必死の交渉

 互いにボロボロの状態のライトとコヨルシャウキが、しばし無言のまま対峙する。

 何度も死にかけてはHP回復による復活をし続けてきたライト。ようやくあと少しでコヨルシャウキを斃せる時が来た。


 最後の攻撃は、物理必中スキル【手裏剣】を二十連発と決めた。

 一撃必殺の【夜刀神】は大振り故に攻撃を外すことがままあり、ここで攻撃を外すとダメージを与えられない。

 そして、ダメージを与えられずにコヨルシャウキの反撃を受けたら、またライトは戦闘不能状態に陥ってしまう。

 ここは何としても絶対に仕留めたい。そのために、ライトは威力こそ【夜刀神】などより劣るが必ず敵に攻撃が当たる【手裏剣】の連打でトドメを刺すことにしたのだ。


 ライトが飛行能力を使い、コヨルシャウキの目線と同じ高さまで宙に浮く。

 そして目にも留まらぬ速さで、ガンメタルソードを縦横無尽に二十回振り回した。

 ガンメタルソードの切っ先から手裏剣が飛び出し、コヨルシャウキの顔面や首、胴体にザクザクと刺さる。

 【手裏剣】二十連発の的となったコヨルシャウキは『ぐはッ!』という声を上げ、血反吐を吐きながらゆっくりと後ろに倒れていった。


 仰向けに倒れたコヨルシャウキの横に、ライトがフラフラになりながら近寄っていく。

 コヨルシャウキの巨大な顔の横に立つライト。

 彼女の真っ黒な仮面はボロボロに罅割れて、右目周辺に残るだけとなっていた。


 コヨルシャウキの顔が横を向き、彼女の黄色の瞳がズタボロの姿のライトを捉えた。

 彼女の頬についている二つの鈴が、シャラン……という美しい音を奏でる。

 黄色に輝く瞳を細めつつ、コヨルシャウキは最後の力を振り絞ってライトに声をかける。


『フフフ……この此方を、たった一人で斃せるとは……さすがは勇者候補生よの……さあ、此方を見事撃破した褒美を……その手で受け取るがよい』


 コヨルシャウキが勇者候補生(ライト)を褒め称えた直後、上空から何かがゆっくりと落下してきた。

 宝箱のようなそれは、どうやらビースリーボスを討伐したことへの報酬品のようだ。

 その落下速度はかなりゆっくりで、報酬品がライトの目の前に来るまでにもう少し時間がかかりそうだ。

 その間コヨルシャウキは、弱々しい声ながらも満足そうに呟く。


『幾度死せようと、その度に必ず立ち上がり、敵を葬る……(まこと)天晴(あっぱれ)にして見事(なり)……』

「すっごくキツかったですけどね……ビースリーなんて、もう二度と御免被ります……」

『これ……そのような、つれないことを、言うでない……此方はしばし休む故……此方が戻るまで、其方はここで待っておれ……此方とて、其方の休憩に、付き合ったのだ……其方も、此方に、付き合うべきで、あろう……?』

「……ン……そりゃまぁ、そうですけど……」


 ライトを褒めつつ、しばし休むというコヨルシャウキ。

『こっちだってお前が休むのを見逃してやったんだから、お前もこっちが休んで回復するまでの間おとなしく待っとけや。な?』と言われれば、ライトも反論できない。

 渋々ながらそれを認めたライトに、コヨルシャウキが少しづつ、ゆっくりと目を閉じながらなおも語りかけ続ける。


『此方が休んでいる間……此方が眷属どもと、存分に戦うがよい。何、そんなに長い間、待たせはせぬ故……星霊どもと、戯れておれ……』

「え"ッ!? ちょ、待、そんなすぐに星霊フィールド再開しなくていいよ!! てゆか、ぼくの方の休みは全く無しってこと!?」

『星霊どもとの戦いは、良い経験値稼ぎになる……勇者候補生よ、研鑽に励めよ……』

「待って待って!ホント待って!経験値稼ぎとか、今はそんなんどうでもいいから!お願いだから、ぼくもゆっくり休ませてッ!!」


 コヨルシャウキの言葉に、泡を食ったように慌てて抗議するライト。

 だが、ライトには彼女の生命が消えゆくのを食い止めることができない。

 彼女の黄色の瞳が閉じていくにつれて、彼女の身体はホログラムのように薄くなっていく。

 その瞳が完全に閉じられた時、コヨルシャウキの身体もまた完全に消え去った。

 そして、それと同時にライトの目の前に報酬品の箱が下りてきて、ライトの手に渡った。


 しかし、取り残されたライトとしては非常にいただけない事態となった。

 やっとの思いで得た報酬なのに、ライトは喜ぶどころか茫然自失に陥ってしまった。


 確かにBCOのビースリーイベントは、二週間のイベント開催中は何度でもコヨルシャウキを討伐することができた。

『イベント専用フィールドで雑魚魔物2000体討伐』→『ボスモンスターフィールド出現』→『コヨルシャウキ完全討伐』→『イベント専用フィールド再出現』→『雑魚魔物2000体討伐』→(以下ループ)

 これを二週間の間ずっと繰り返し、イベントボスであるコヨルシャウキを倒す度に報酬を手に入れることができるイベントだったのだ。


 だが、そのループを今ここで忠実に再現されてもライトにとっては非常に困る。

 一回戦っただけでこんなにズタボロなのに、この熾烈な死闘を休み無く永久ループされたらたまったものではない。ライトが懸念していたように、本当に気が狂ってしまう。


 ライトが必死になってコヨルシャウキに向けて叫ぶも、時既にお寿司。

 コヨルシャウキの身体が完全に消え去るのとほぼ同時に、ライトの背後に多数の気配が復活しているのが分かる。

 報酬の宝箱を左脇に抱えたライトが、おそるおそる後ろを振り返ると―――そこには、イベントボスのご登場の鍵を担う前座の方々、雑魚魔物の星霊達がうようよと涌き出てきていた。


「~~~~~ッ!!!」


 問答無用で二周目の死闘が開始されてしまったことに、ライトの焦りは一転して怒りに変わった。

 ライトは一旦宝箱を下に置き、急ぎマイページを開いてアイテム欄に報酬の宝箱を放り込む。

 そしてガンメタルソードを右手に持ちながら、星霊群をギンッ!と睨みつけた。


「何だよ!ちょっとくらい休ませてくれたっていいじゃんかよ!くッそー……こうなりゃやってやる!お前ら全部ぶった斬って、お前らの親玉に文句を直接ぶつけてやるぁーーー!」

「霧になりてぇヤツからかかって来いや、ゴルァァァァッ!!」


 完全に切れたライトの凄まじい剣幕に、星霊達が一瞬だけ後退る。

 しかし、星霊達にもまたライト同様逃げ場などない。彼らにあるのは『勇者候補生と戦う』という、創造神から課せられた使命のみ。

 決して怯まぬ星霊達が、次々とライトに襲いかかる。

 ライトはライトでガンメタルソードを振り回し、星霊達を容赦なく葬り続ける。

 こうして二回目のビースリーの死闘が開幕していった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 そうして雑魚魔物2000体討伐の二回目を達成したライト。

 2000体目になる星霊【理】を斬り倒した瞬間、透明な地面が発光してコヨルシャウキが出現した。


 再登場したコヨルシャウキは、捥げたはずの両腕やあらぬ方向を向いた足もすっかり元通りになっている。

 血塗れだった身体はもとより、黒いマントや罅割れた黒い仮面なども綺麗に直っていて、完全復活!である。


 それに伴い、当然のようにHPもMPも全回復している。

 つまりライトは、HP9999999を持つコヨルシャウキと一からバトルを再開しなければならない。

 コヨルシャウキは厳かな声で、ライトに話しかけた。


『勇者候補生よ、待たせたの。さあ、此方と再び戦をしy』

「ちょっと待ったーーーッ!!」


 早速バトルに入ろうとするコヨルシャウキ。

 その言葉を遮るように、ライトが大声を張り上げて待ったをかけた。

 思いっきり出鼻を挫かれたコヨルシャウキが『!?!?!?』とびっくりしている。

 そんなコヨルシャウキに、ライトはお構いなしで大声で自身の主張をし始めた。


「コヨルシャウキさん!ぼくにも休憩をください!」

『休憩? 其方は戦いの最中に度々休憩を取るであろう?』

「あれは!休憩ではなく!『戦闘不能状態』といって!死にかけてるだけです!」

『ぬ? そうなのか?』

「そうですッ!!」


 休憩を求めるライトのとんでもない剣幕に、身の丈100メートルを越すコヨルシャウキが僅かにたじろぐ。

 コヨルシャウキは勇者候補生と敵対する立場であり、ライトの都合や勇者候補生の実情など全く知らない。

 なのでライトは、ユーザー側が戦闘不能状態に陥るとどうなるか、そこからの回復方法や様々な苦労などを滾々と語ってコヨルシャウキに聞かせていった。


「だいたいね、そもそもアナタ達は星霊とコヨルシャウキさんの二つの陣営があって、それぞれ交代でぼくと戦ってるでしょ!? でもぼくは、一人でずーーーっとアナタ達と戦い続けてるんですよ!? 誰とも交代できないんですよ!? これって超不公平でしょ!!」

『ぬう……そう言われれば、そうかもしれぬが……』

「こんなぶっ続けで戦ってたら、SP回復する暇なんて全ッ然ないし!てゆか、数で言っても2001対1とか格差あり過ぎ!こんなん不公平どころの話じゃねぇでしょう!!」


 理詰めで不公平さを訴えるライト。

 確かにライトの言う通りで、二十四時間休み無く戦い続けていたら、スキルの発動に必要なSPなどあっという間に枯渇してしまう。

 時折レベルアップによる全回復があるが、それも2000体の雑魚魔物を狩り続けていればすぐに底をつく。

 ここにはレベルリセットできる転職神殿などないし、SP回復の手段はエネルギードリンクの服用しかない。だがそれも、雑魚魔物2000体相手ではエネルギードリンクがいくらあっても足りないことになる。


 ここビースリーの戦場において、SPを使用した強力なスキルが使えないことには話にならない。

 ましてや2001対1の対決などと、不公平の塊以外の何物でもない。

 ライトの訴えは実に真っ当なものであった。


 しかし、コヨルシャウキとしてもライトの訴えをそう簡単に認める訳にはいかない。

 何とか言い返そうと必死に言い募る。


『そ、それは……勇者候補生が其方一人しかおらんからであって、致し方なかろ?』

「他に勇者候補生がいないのなんて、そんなのぼくのせいじゃないし!とにかく!ぼく一人に対する労働量が理不尽過ぎる!せめて星霊群とコヨルシャウキさん、二回のバトルの間に長い休みくらいないとやってらんない!痛いのと疲れと血だらけで、もう気が狂いそうだ!」

『…………』


 ライトは右足を何度もダン!ダン!ダダダン!と見えない地面に力一杯踏みつけながら、不満を大爆発させている。いわゆる『地団駄』というヤツである。

 本気でキーキー激怒しながら地団駄を踏むライトを、コヨルシャウキはドン引きしながら見つめていた。


『ぬう……ならば其方は、どのくらい休憩したいのだ?』

「…………」


 コヨルシャウキがライトの要望を受け入れそうな様子に、地団駄を踏んでいたライトの足が空中でピタリ、と止まる。


 コヨルシャウキとしても、ビースリーの最中に勇者候補生(ヒカル)が発狂しては困る。

 コヨルシャウキは己の使命に基づき真っ当な勇者候補生を育てたいのであって、キチガイ化した狂戦士(バーサーカー)を生み出したいのではない。

 今でさえかなり憤慨してて手がつけられそうにないのに、これ以上キチガイ度が増したらマズい―――コヨルシャウキはそう考えたようだ。


 ライトは振り上げていた右足をゆっくりと下ろしながら、しばし考え込んだ。


「ンー、そうですね……少なくとも一回につき六時間は欲しい、かな」

『何じゃ、そんなに休むつもりなのか?』

「だってぼく、ここに来てからご飯を食べるどころか寝てもいませんからね? ホントはお風呂にも入りたいけど、ここにはお風呂なんてないから……水魔法で水浴びするくらいしかできないし」

『この小虫勇者は、ほんに文句が多いのう……とはいえ、確かに人族である限りは、勇者候補生にも寝食は必要かの……』

「そうです!ちゃんと休憩しないと、草臥れ過ぎて本来の力なんて十分に出せませんもん!」

『……ふむ……』


 ライトの言い分にブチブチと文句を言いつつも、納得している様子のコヨルシャウキ。

 実際のところは、この異空間に来てからというもの、ライトには生命維持のための欲求はほとんど起こっていなかった。

 腹も空かなければ眠たくもならず、食物を全く摂らないのだから排泄の必要にも迫られない。摂ってもせいぜいハイポーションなど液体状の回復剤類くらいだが、それとて戦闘中の汗水や出血などで身体の外に出てしまう。


 これは一見とんでもない異常事態だが、この場がコヨルシャウキの領域であることを考えると十分説明はつく。

 BCOではゲームのキャラクターに対して、寝食などの一般的な生活習慣はゲームの中で全く取り入れられていなかった。

 ライトが空腹その他を全く感じないのも、そうしたBCOの根幹に由来するものなのだろう。


 しかし、だからといって今ライトがそれらを摂る必要が全くない訳ではない。

 休むための口実としてはもちろんのことだが、美味しいものを口にすれば気持ち的に癒やされるし、少しくらい寝転んで身体と心を休めたい。

 でなければ、このビースリーを終えるより先にライトの精神が焼き切れてしまうことは明白だった。


『勇者候補生が万全の体制で戦いに挑むためには、合間合間の休憩も止む無し、か……致し方ないの』

「じゃあ、今から七時間は休んでもいいんですね!?」

『ぬ? 先程の数値より増えておらぬか?』

「そこはほら、しっかりと仮眠も取ってSPなんかも回復しておきたいですし?」

『……この小虫勇者めは、兄に似て小賢しいのう……』

「ヤッター!ヒャッホーィ!」


 ようやくライトの休憩をコヨルシャウキが認めたことに、ライトは飛び上がって大喜びする。

 途中ライトがさり気なく休憩時間を若干多めに増やしたが、仮眠を理由に挙げた休憩マシマシ作戦は無事審査通過したようだ。

 このライトのちゃっかりぶりに、コヨルシャウキは口をへの字にしてムスーッ……とした顔で呆れているような気がするが。多分気のせいだろう。キニシナイ!


 休憩の権利をもぎ取ることに成功したライトは、それまでずっと遠くに置いておいたアイテムリュックを取りに行き、いそいそと休憩の支度を始めた。

 まずはアイテムリュックの脇に短くぶら下げている懐中時計を外す。

 蓋を開けて時間を確認すると、懐中時計の針は四時半を指していた。


「じゃあ、この時計で十一時半になるまでお休みさせてもらいますね!」

『その時間になったら、必ずや此方とのビースリーを再開するのだぞ。良いな?』

「はい!」


 コヨルシャウキは、ふぅ……と小さなため息をつきつつ、ライトに確認という名の釘を刺す。

 もちろんライトに否やはない。

 何としてもこの無限ループ地獄を生き抜いて、サイサクス世界に戻る。そのためならライトは何だってするつもりだ。

 帰還への強い意欲と決意を持ちつつ、ライトは念願の自由な休憩時間に入った。

 ライトの必死の訴え&交渉風景です。

 前話ラストで、ライトが頭の中で『こんなん確実に精神病んで壊れるって……』と思考していましたが、それを少しでも回避するための休憩要求です。

 やっぱりねー、いくらゲームシステムが適用されていて『死なない』『腹減らない』『眠たくならない』な世界であっても、ずーっと戦闘三昧じゃ余程の戦闘狂でもない限り精神がブッ壊れちゃいますから(*´・ω・)(・ω・`*)ネー


 まるでというか、ほぼほぼ労使交渉のような絵面ですが。異空間でたった一人で戦うライトが、孤独に押し潰されることなく正気を保つためにはどーーーしてもリフレッシュする時間が必要。

 そう、サイサクス世界でライトの帰りを待つ皆のもとに無事戻るため、ライトも奮闘しているのです。

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