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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
ラグナロッツァに潜む危機

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第1287話 果て無き死闘

 ラグナロッツァに平和が戻り、ライトを失ったレオニスがカタポレンの森を彷徨うように飛び続けていた頃。

 ライトは宇宙にそっくりな景色が広がる異空間で、コヨルシャウキ達とビースリーを繰り広げていた。


 まず前座の雑魚魔物達が、ひっきりなしにライトに襲いかかる。

 BCOでのビースリーイベント『昏き星海からの来訪者』では、前座の雑魚魔物は八種類いる。

 その内訳は、以下の通りである。



 ====================



『星霊【勝】』風属性/HP800

『星霊【栄】』火属性/HP700

『星霊【知】』闇属性/HP300

『星霊【慈】』水属性/HP500

『星霊【厳】』地属性/HP600

『星霊【理】』光属性/HP400

『星霊【冠】』無属性/HP550

『星霊【美】』無属性/HP450



 ====================



 この星霊という名の魔物群、見た目は全て頭が丸い球体の惑星で、体は棒人間がもう少しふくよかかつ複雑な流線型になっている。

 これを基本ベースとして、後は色の塗り分けや発光エフェクトなどで違いを演出している。

 そう、いわゆる『データ流用』というやつである。


 ライトはまず、兎にも角にもこの八種類の雑魚魔物を合計2000体倒さねばならない。

 雑魚魔物を2000体を倒すと、ビースリーのボスであるコヨルシャウキと対戦できるようになるのだ。

 ちなみに前座の雑魚魔物は、HPが0になると霧のように掻き消えて死骸は一切残らない。

 必然的に素材の類いも一切取れないが、2000体もの死骸が死屍累々と積み重なり続けるよりはずっとマシである。


 そしてこの宇宙空間、何故か地面のような硬い足場がちゃんとある。勾配や段差などの障害物が全くない、フローリングの如き見えない平面がライトの足元に常時展開されているのだ。

 周囲の景色は完全に宇宙空間のそれなのだが、本物の宇宙そっくりの無重力状態ではさすがに戦闘どころではないので、その辺りはゲーム特有のご都合主義=創造神(うんえい)の力が働くらしい。

 もちろん平面だけでなく、蹴ってジャンプし高く飛んで着地することもできる。

 要は見えない透明の地面があるようなものだ。


 ライトは事前にルティエンス商会で入手しておいた超強力な片手武器、ガンメタルソードを手にひたすら雑魚魔物を斬り伏せ続ける。

 だが、一人きりで雑魚魔物を2000体倒すというのは、ライトの予想以上の苦行だった。


 ガンメタルソードで雑魚魔物をバッサバッサと倒していくが、魔物の波は尽きることを知らない。

 最初のうちこそ100体、200体、と頭の中で倒した数をカウントしていたが、次第にそれも分からなくなっていった。

 そもそもこのビースリーというイベントは、たくさんの騎士団とユーザー達が協力し合って立ち向かうという、いわばユーザー同士の交流も兼ねたビッグイベントであって、単身で挑む質のものではないのだ。


 もちろん敏捷性はライトの方が高いので、雑魚魔物から攻撃を受けることは滅多にない。

 だがそれでも、ちょっと蹌踉けた拍子に星霊【厳】から攻撃されて軽い切り傷を負ったり、星霊【理】が放つ魔法攻撃を避けきれずに直撃してしまったりもした。

 そうした微小なダメージに加え、HPを消費して繰り出す攻撃スキルを使うことにより、ライトのHPはじわじわと減っていく。


 いや、HPの回復自体は然程難しいことではない。

 雑魚魔物を倒すと、魔物が掻き消えた場所に時折ハイポーションやハイエーテルが落ちていることがあるのだ。いわゆる『アイテムドロップ』という現象である。

 サイサクス世界では、そうしたゲーム的なドロップシステムは見受けられなかったが、ここはビースリーボスであるコヨルシャウキが展開する領域。

 故にビースリーでの各種法則が適用される世界で、各種アイテムもライトの目の前でじゃんじゃんドロップするのである。


 星霊達が落とす各種回復剤を、拾っては飲んでHPやMPを回復するライト。

 それでも果て無き戦闘は、確実にライトの身心を削っていった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 そうして時は過ぎ、雑魚魔物の波が次第に薄れていき、ついには一匹もいなくなった。

 肩で息をするライトの目の前に、休む間もなくコヨルシャウキが現れた。


『よくぞ一人で此方が眷属二千を倒しきった。その褒美として、此方に戦いを挑む権利をやろう。……さあ、どこからでもかかってくるが良い』

「…………」


 どこからともなく、ヌッ……と出てきたコヨルシャウキの厳かな声が響く。

 その身の丈は100メートル以上あり、まさに『小虫 vs. 人』のような様相を呈している。

 コヨルシャウキのステータスは、以下の通りである。



 ====================



【名前】コヨルシャウキ

【種族】銀河の女神

【レベル】333

【属性】無

【状態】通常

【特記事項】ビースリーイベントボスモンスター


【HP】9999999

【MP】999999

【力】1260

【体力】1830

【速度】420

【知力】740

【精神力】1550

【運】20

【回避】390

【命中】660



 ====================



 コヨルシャウキのあまりにも強大なステータスは、傍から見れば勝ち目のない戦い以外の何物でもない。

 だが、ここまで来たらコヨルシャウキに挑まないという選択肢はない。

 というか、そもそもこの異空間にライトが逃げられる場など一切ないのだ。逃げ場がないなら真正面から戦って倒す他ない。


 ライトは上がった息を整えるべく、マイページを開く。

 そしてスキル欄を開き、【夜刀神】や【治癒術・極大(ヒールアストロ)】などをセットした。

 【夜刀神】は斥候系四次職【常闇冥王】で習得した一撃必殺の物理攻撃スキルで、【治癒術・極大(ヒールアストロ)】は僧侶系四次職【聖祈祷師】で習得した最上級回復スキルである。


 他にも物理攻撃力をアップする【エナジー】、物理防御力をアップする【プロテクト】を使い、それぞれ上限の200%に到達するまで引き上げた。

 あとは敵の防御力を30%下げる【ダウンプロテクト】や敵の物理攻撃力を30%下げる【ダウンエナジー】もセットしておく。

 自分の攻撃力を上げて、なおかつ敵の防御力も下げておく。敵により多くのダメージを与えるための、基本中の基本戦略だ。


 必要なバフスキルを上限まで素早くかけ終えたライト。

 眼前に聳え立つコヨルシャウキを見上げ、数回深呼吸する。

 そして意を決したように、クワッ!と目を見開き右手のガンメタルソードのグリップを握り直した。


「……ハアアアアァァァァッ!」


 巨大なコヨルシャウキに向かって、ライトは全力で気合いの掛け声を出しつつ突進していった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 そうしてどれくらいの時間が経っただろうか。

 ライトはコヨルシャウキを追い詰めるまでに、十回以上は死んだ。

 いや、正確に言えば死んだのではなく『戦闘不能』の状態に陥った。


 この戦闘不能状態とは、戦闘中にHPが0になってしまった時のことを示す。

 BCOでは、勇者候補生が死ぬということはない。

 HPが0になり、戦闘不能になるだけである。


 そして、この戦闘不能状態から回復する方法は三つある。

 一つ目は、HPが満タンになるまで、ハイポーションやエクスポーションなどのHP回復剤を投与すること。

 二つ目は、回復スキルを使ってHPを満タンにすること。

 最後の一つは、時間経過によるHPの自然回復。

 要は、何でもいいからいずれかの方法でHPがMAXになるまで回復すること。

 そうすれば戦闘可能状態となり、再び各種行動も可能になるのだ。


 ライトが単身でのコヨルシャウキとの戦いを決意した大きな理由の一つに、このBCOの特性(死によるゲームオーバーではなく、戦闘不能になるだけで回復は可能)が適用されるだろう、という目算があった。

 あの亀裂の向こう側にある宇宙空間は、明らかにサイサクス世界とは異なる世界。

 ならば、亀裂の向こう側では現世の法則よりもBCOの法則がまかり通るのではないか?とライトは考えたのだ。


 実際その推測は当たっていて、ライトは異空間にいる間は死に至ることなく、何度でもコヨルシャウキに戦いを挑むことができた。

 これは、雑魚魔物達が回復アイテムをドロップしたのと同じ理論で、コヨルシャウキの領域ではBCOの法則がそのままに適用されているためだ。

 どこぞの名言『当たらなければ、どうということはない』のように『死ななければ、どうということはない』という訳である。

 しかしそれは、所詮机上の空論であることを―――ここに来てライトは嫌という程思い知ることになる。


 スマホの画面越しのゲームとは違う、自分の持つ肉体を駆使して実際に行う戦闘。そこには自身が受け取る感覚に天地程の差があった。

 敵の攻撃でダメージを受ければそれなりに痛いし、鋭利な風魔法などで斬られれば血だって出るし、血が出るような傷を受ければもちろん激痛が走る。

 他にもHPやMPが次第に底をついていく感覚は、まるで己の魂を削られていくかのような恐怖感を覚えた。


 そして、最後には血だらけになって倒れたライト。

 最初のうちは、唯一動かせる人差し指でマイページを開き、震える指で回復スキルや回復アイテムを使用するべくポチポチと操作しては、戦闘可能状態に即時復活していた。

 だが、戦闘不能状態も五回目を過ぎるとライトも精神的に疲れてきて、見えない透明な平面に身体を突っ伏しながら、あるいは仰向けになりながら自然回復によるHP満タンを待つようになった。


 息も絶え絶えなライトの真横にコヨルシャウキが近づいてきて、呆れたような声で物申す。


『何じゃ、ヒカルよ。また休憩か?』

「……すみません……ちょっとだけ、休ませて、ください……」

『其方、先程からそう言うて、もう三回は同じように休憩しておろうが。ほれ、此方を倒すまであともう少しぞ。早よう戦場に戻って参れ』

「……もう少しで、HPが、満タンに、なるので……」

『仕方ないのぅ』


 なかなか戦いに復帰してこないライトに、コヨルシャウキが早期復帰を促す。

 当のコヨルシャウキは、両腕は捥げてはるか向こうに打ち捨てられ、左脚はあらぬ方向に曲がり、全身は血だるまという凄惨な姿になっている。

 彼女自身がライトに向けて『此方を倒すまであともう少し』と言っていることからも分かるように、ライト以上にとんでもなくズタボロ状態。そのHPは50000を割っていた。


 こんなにも凄惨な姿になりながら、その態度や口調は平時と何ら変わらないコヨルシャウキ。

 もしかしたら、彼女には痛覚というものがほとんどないのかもしれない。

 もし痛覚があったなら、ここまで平然としていられないだろう。

 それは、勇者候補生達の生贄として斃される運命にあるコヨルシャウキへの、創造神から施された唯一にして最大の慈悲なのかもしれない。


 しかし、同じようにズタボロになっているライトにまで早々の戦線復帰を強いられても困る。

 コヨルシャウキの返り血と、己の額の切り傷からの血が両目に入り、薄目を開けているライトの視界が真っ赤に染まる。

 ライトは赤い視界をぼんやりと眺めながら、朦朧とした頭で考える。


 ぁー……これ、何度も繰り返しちゃいけないヤツだぁ……

 こーんな生き地獄を、何十回も何百回も、延々と味わい続けてたら……いくら死なないっつっても、こんなん確実に精神病んで壊れるって……

 これ、せめてゲームのように痛みや出血さえなければ、もうちょい頑張れるんだけどなぁ……

 ていうか、ガンメタはともかく、もうマントも肘当ても血だらけのボロボロだよ……これ、どーしよ……せっかくカイさん達やレオ兄からもらった特別なプレゼントなのに……

 浄化魔法で洗浄すれば……何とかなる、かなぁ……あっちに戻れたら……真っ先に、ラウルに……頼んで……みよう…………


 そんなことをつらつらと考えているうちに、ライトのHPがMAXに到達した。

 ゲームシステムの自然回復は一秒につきHP1回復するのだが、ライトが着用しているアイギス特製マントには体力自動回復魔法も付与されているので、HPが満タンになるまでの速度がかなり早いのだ。


 戦闘不能状態から快癒し、ゆらり……と立ち上がるライト。

 あと数撃で、コヨルシャウキを仕留めることができる。

 コヨルシャウキを倒したら、少し休憩しよう……

 そう考えながら、ライトはボロボロの姿で再びコヨルシャウキに向かって突っ込んでいった。

 コヨルシャウキとともに異空間に旅立ったライトの死闘の様子です。

 ライトとコヨルシャウキのガチバトルということで、雑魚魔物や敵ボスであるコヨルシャウキさんのステータスを一挙大公開!ㄟ( ̄∀ ̄)ㄏ


 コヨルシャウキのステータスは、他のレイドボスに比べたらかなり低めとなっていますが。これは、レイドボスとイベントボスという根本的な性質や立ち位置の違いによるものです。

 体力他基礎ステータスはレイドボスの方が上ですが、HPとMPはイベントボスの方が断トツでバカ高。

 そもそもビースリーのイベントボスは、何十人何百人という大量のユーザーに一気に襲いかかられるので、HPが少ないと瞬殺されてしまう=イベントが成り立たない!という理由でほぼ八桁という仰天数値が設定されているのです。


 そして、前回登場から一週間ぶりの出番が来たライト。

 いつものように、のんびりのほほんと過ごしているかと思いきや、そんなことは全くなく。とんでもなく凄惨な時間を耐え忍んでいます。

 この双方血みどろの場面を映像化したら、すんげーことになりそう(;ω;)

 特にコヨルシャウキさんなんて、見た目ゾンビと大差ないことに><


 いや、あのライトの置き手紙(第1281話)にも書いたように、一応ライトも話し合いによる解決を求めるつもりではいたんですよ?

 ですが、旧ラグナロッツァ孤児院での対峙の時(第1279話)ではレオニスの乱入があってその場ではろくに会話できなかったのと、亀裂の向こう側に行った後もろくな交渉ができなかったという(´^ω^`)


 以下は、亀裂の向こう側でのビースリー突入直前の、ライトとコヨルシャウキの会話。



====================



ラ「あのー、コヨルシャウキさん……どうしてもビースリーをやんなきゃならないですかね?」

コ『ぬ? 当然であろう? 何故なら此方はビースリーのボスで、其方は勇者候補生なのだから』

ラ「でも、ぼくみたいな意気地なしが勇者なんてあり得ないし……そもそもぼく、あまり戦いたくないんですけど……」

コ『この小虫勇者は、何を言うておるのかの。ならばなおのこと、此方が其方を鍛えてやろうぞ。何、勇者候補生と戦い鍛え上げるは此方の務めにして使命。礼など要らぬぞ?』

ラ「……(あッ、これ全然聞く耳持ってもらえないヤツだ)……」



 勇者候補生はイベントをこなしてナンボのもの!と信じて疑わないコヨルシャウキさんの天然気味な回答に、結局一度は戦わざるを得ないことをライトは悟ったのでした(´^ω^`)

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