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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
ラグナロッツァに潜む危機

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第1278話 たくさんの思い出とライトの決意

 カタポレンの家で、レオニスの寝室で皆でいっしょに寝ていたライト達。

 レオニスやラウル、マキシ達が寝てしまってからも、ライトだけは一人起きていた。


 寝返りを打つふりをして左側を向くと、レオニスの寝顔がすぐそこにある。

 帰宅したばかりの時にあった無精髭は、十日ぶりの自宅の風呂で綺麗サッパリと剃り落としており、普段のスッキリとしたイケメンに戻っている。

 そして先程の晩御飯でラウルのご馳走を存分に食べたおかげか、その顔色も帰宅直後よりだいぶ良くなっていて、ライトも内心で『レオ兄、元気になって良かった……』と思いながらレオニスの寝顔をしばし見つめる。


 そしてすぐにまたもぞもぞと動き、今度は右側に寝返りを打つライト。

 ライトの右側には、ラーデとフォル、マキシ、ラウルがいる。皆すやすやとした寝顔で、気持ち良さそうに寝ていた。


 皆血の繋がりこそないが、ライトにとっては肉親以上に大事な親しい者達。

 彼らの穏やかな寝顔を、己の目に焼き付けるようにライトはしばらく眺めていた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 そうしてレオニス達が寝入ってから、三十分くらいが経った頃だろうか。

 ライトは徐に仰向けになり、マイページを開いた。

 慣れた手つきでマイページをピッ、ピッ、と素早く操作していく。

 最終的にライトが開いたのはスキル欄。そこに事前にセットしておいたスキル【隠密】を四回、素早くかけた。


 その後ライトはのっそりと起き上がり、皆を起こさないようにゆっくりとベッドから這い出る。

 そしてトイレに行くふりをしながらレオニスの寝室から出て、自室に向かった。


 自室に用意しておいたマントや篭手、アイテムリュック、ワンドなど、いつものようにフル装備で出かける支度を整えたライト。

 自室内にある転移門を使い、ラグナロッツァの屋敷に移動していった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 カタポレンの家の転移門で、ラグナロッツァの屋敷に移動したライト。

 そのまま旧宝物庫にしばらく留まり、何やらマイページをポチポチと操作している。

 目的の操作を一通り終えた後、ライトは誰もいない屋敷の中を一人静かに歩き、自室だけでなく広間や客間、果ては食堂や風呂まで見て回る。 

 今この屋敷には誰もいなくて静まり返っているが、全ての場所にたくさんの思い出が詰まっている。

 特に食堂や広間、客間などではレオニスやラウル、マキシとともに賑やかで楽しい時間を過ごしたことを思い出しながら、ライトは出入口で一人佇む。


 そうして様々な思い出を一頻り振り返り、満足したライトはその足で屋上に向かう。

 屋上に出ると外は冬の寒気に満ちていて、ライトの吐いた息が真っ白な煙のようにスーッ……と棚引く。


 屋上からスラム街のある方を見ると、そこには相変わらず巨大な亀裂が見えた。

 その亀裂は真夜中の闇に埋もれることなく、昏い星海特有の色とりどりの宇宙空間が煌めいている。

 ライトはしばし無言のまま、遠くにある亀裂を眺め続けていた。

 あの亀裂の向こうに、BCOのビースリーイベントのボスであるコヨルシャウキがいる―――ライトの胸中には、様々な思いが去来していた。


 するとその時、亀裂の中から黄色い何かがギラリ!と光った。

 遠目にも分かるその黄色い光が何であるか、ライトにはすぐに分かった。そう、それはコヨルシャウキの瞳だ。

 コヨルシャウキの瞳は、夜に現れた勇者候補生(ライト)を捉えたのだ。


 ライトは意を決し、ふわり、と宙に浮いた。

 そしてコヨルシャウキが待ち受ける亀裂目がけて、ビュン!と勢いよく飛んでいった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ラグナロッツァの屋敷屋上から、一分もしないうちに旧ラグナロッツァ孤児院上空に辿り着いたライト。その少し手前で飛ぶスピードを落とし、ストッ、と旧孤児院中庭に降り立った。

 そこには監視員も誰もおらず、寒気と相まって痛い程の静寂が横たわっている。


 地面に降り立ったライトが、旧孤児院中庭に出現した亀裂の真正面に立ちはるか上空を見上げる。

 ところどころに見える色とりどりの宇宙空間、そしてその中にコヨルシャウキの黄色の瞳が爛々と輝いていた。


 コヨルシャウキの方も、ようやく現れた勇者候補生に対し無言のままじっと見つめる。その眼差しは、まるで獲物を見定める狩人のようだ。

 しばしの静寂の後、コヨルシャウキの方からライトに声をかけた。


『その魂、間違いなく()の世界の創造神の寵愛と庇護を受けておるな。……勇者候補生よ、よくぞ此方が前に参った。待ち侘びたぞ』

「……貴女が、コヨルシャウキ、さん……ですよね?」

『ああ、そうとも。此方こそは、昏き星海より来たりし者。銀河を司りし女神、コヨルシャウキである。さあ、其方も此方にその名を聞かせるがよい。此方に向けて直に己が名を告げられるは、この上なき誉れぞ』

「…………ぼくの名は…………ヒカル、です」


 コヨルシャウキは、意気揚々と名乗りを上げた後にライトにも名乗りを促す。

 しかし、ライトはここで何と名乗るかを全く考えていなかった。

 ライトという名はサイサクス世界での名前であり、この世界での本名を名乗るつもりは全くなかった。

 だが、こうしてコヨルシャウキから直に名前を尋ねられたら、答えない訳にはいかない。拒否するのはさすがに礼を失するというものだ。

 故にライトは、BCOと直接関わっていた頃の名前―――前世での本名を名乗ることにした。


『ヒカル、か。良き名だな』

「ありがとうございます」

『ところで、ヒカルよ。ここに来たのは其方一人だけか? 他に勇者候補生はおらぬのか?』

「はい……残念ながら、ぼくも自分以外の勇者候補生には今まで一度も会ったことがありません」

『うぬぅ、そうなのか……あのレオニスとかいう小虫めが言うておったように、この世界には勇者候補生が殆どおらぬというのは本当のことなのだな』

「……こ、小虫……」


 勇者候補生がライト一人しかいないことに、コヨルシャウキが少しだけがっかりしながら呟く。

 その中で、何気にレオニスのことを小虫と言っていることにライトが若干スーン……とした顔になっている。


 とはいえ、コヨルシャウキの機嫌はすこぶる良い。

 何しろ彼女が待ち望んだ勇者候補生が、こうしてやっと目の前に現れたのだから。

 そして、コヨルシャウキが亀裂の中から右手をそっと差し伸べた。


『さあ、勇者候補生よ。我らが戦場に……いざ()かん』

「……はい……」


 コヨルシャウキの誘いにライトが応えようとした、その瞬間。

 ライトの背後から大きな声が聞こえた。


「ライト!!」


 その声の主が誰なのか、ライトには振り向かずとも分かる。

 ライトがサイサクス世界に生を受けてから、今まで最もたくさん聞いてきたレオニスの声だった。



 …………

 ………………

 ……………………



 時はほんの少しだけ遡り、ライトがカタポレンの家を出てラグナロッツァの屋敷に移動してから約三十分後のこと。

 レオニスは、ふと目が覚めた。


 いつものレオニスなら、家で寝る時は朝になるまで起きないことも多々あるくらい、ぐっすりと寝入る方なのだが。今日は何故かふと目が覚めてしまった。

 窓を見ると、まだ真っ暗な外から月明かりが入り込んでいて、ほんのりと窓辺を照らしている。


 ここ最近、ずっと夜勤ばかりしてたからな……変な時間に起きちまった。

 ……ン? ライトがいねぇな? ションベンにでも起きたんか?……ま、それならそのうち戻ってくる……だろ…………


 ふと目が覚めたばかりで、レオニスの意識は半分ぼんやりとしていた。

 だがしかし、とあることに気づいた瞬間からどんどんクリアになっていき、ついにはガバッ!と慌てて飛び起きた。

 さっきまでいっしょに寝ていたはずのライトの気配が、一切感じられないことに気がついたのだ。


 他の皆を起こさないよう、なるべく足音を立てずに家中を探したレオニス。当然のように、ライトの姿はどこにもない。

 レオニスは寝室に戻り、ラウルの身体をそっと揺さぶりながら小さな声で話しかけた。


「おい、ラウル、起きろ」

「…………ン? …………どうした?」

「ライトがいない」

「………………!?!?!?」


 就寝中に起こされたラウルも寝惚け眼だったが、レオニスの言葉を聞いた数秒後に目をパチッ!と見開き飛び起きた。

 そして横にいたレオニスに、声を抑えつつ問うた。


「ライトがいないって……どういうことだ!?」

「どういうことも何も、そのままの意味だ。どこか家の外に出かけたらしい」

「こんな夜中にか!?」

「ああ……ったく、ライトのやつめ、一体何考えてんだ…………」


 びっくりしながら詰問するラウルに、レオニスは右手で額を抑えながら目を閉じ苦悶の表情を浮かべる。

 しかし、今ここで悠長に話し込んでいる暇はない。

 二人はマキシ達を起こさぬよう、レオニスの寝室からそっと出てライトの部屋に向かう。

 ライトの部屋に着いたところで、レオニスは部屋着から冒険者仕様の服に着替えながらラウルに指示を出した。


「ラウルはこの家の周辺を探してくれ。敷地内にいりゃいいが、いなかったら上空に飛んで空から気配探知で広範囲を探ってみてくれ。お前の魔力探知なら、ライトの魔力がこの近辺にあるかどうか分かるだろ」

「もちろんだ、任せとけ。……って、ご主人様はどうすんだ?」

「俺はラグナロッツァの屋敷を見てくる」

「…………まさかッ!!!」


 レオニスの的確な指示に、ラウルも首肯する。

 そして何気なくレオニスの動向を問うたラウルだったが、レオニスから返ってきた答えに目を大きく見開いた。

 そんなラウルに、レオニスは声を押し殺したまま話を続ける。


「そのまさかが当たってなきゃいいんだがな」

「……とにかく俺も、この近辺を探しに行こう。もし何もなかったら、俺もすぐにラグナロッツァの屋敷に移動する」

「そうしてくれ」


 レオニスが深紅のロングジャケット他フル装備に着替え終えて、ラウルも慌てて空間魔法陣から黒の天空竜革装備を取り出し、急ぎ着替え始める。


「俺は先にラグナロッツァの屋敷を見てくるが、もしそこにもライトがいなければ……亀裂の発生場所を見に行ってくる」

「…………分かった。ここと向こうの屋敷に誰もいなかったら、俺も旧孤児院に向かおう」

「頼んだ」


 レオニスの言葉に、ラウルが青褪める。

 レオニスは『何故かは分からんが、ライトは謎の亀裂のもとに向かったに違いない』と推測していた。

 でなければ、今このタイミング―――コヨルシャウキが亀裂の中で黙って待つ最後の日の深夜に、ラグナロッツァから離れた最も安全なカタポレンの家の外に出かける訳がない。


 だがそれでも、レオニスは一応先にラグナロッツァの屋敷の中も検めてから亀裂に向かうつもりらしい。

 ラウルもレオニスの話を聞き、頷きながら自身も旧ラグナロッツァ孤児院に向かうことを決意する。


 そしてレオニスは転移門でラグナロッツァの屋敷に移動し、ラウルはカタポレンの家の周辺の捜索のために外に出ていった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 その後レオニスは、ラグナロッツァの屋敷を一通り探した。

 案の定ライトの姿はなかったので、すぐに旧ラグナロッツァ孤児院に向かった。

 ライトと同じくレオニスも屋上に出て、ふわり、と宙に浮く。そして屋敷から孤児院まで、最短距離の一直線をものすごい勢いで飛んでいった。


 そして亀裂の真ん前、旧ラグナロッツァ孤児院の中庭にスタッ、と降り立つレオニス。

 そこにはライトと背格好がよく似た子供が立っているのが、旧孤児院の上空に着いた時点で見えた。

 それを見たレオニスは、地面に降りて即座に「ライト!」と叫んでいた。



 ……………………

 ………………

 …………



 背後からかけられた思いがけない声に、ライトの身体がピタリ、と止まる。

 そしてライトだけでなく、コヨルシャウキもレオニスの登場に反応した。


『何だ、レオニスよ。今宵はここに来ぬのではなかったか?』

「ンなこたどうでもいい!つーか、俺は今こいつと話してんだ!ちょっと黙っててくれ!」

『…………』


 レオニスの有無を言わさぬ凄まじい剣幕に、コヨルシャウキも思わず黙り込む。

 そしてレオニスは、ライトと思しき人物に向けて再び声を荒らげる。


「ライト!これは一体どういうことだ!何でこんな夜中に、俺達に黙って家を抜け出してんだ!? しかもよりによって、どうしてこんな危険なとこに来たんだ!!」

「………………」

「どうした、何故黙っている!俺の質問に答えろ!」

「………………」

「ライト!いい加減黙ってないで、何とか答えたらどうなんだ!!………………!?!?!?」


 それまで一言も発してこなかった、ライトらしき人物がゆっくりと後ろを振り返った。

 その予想外の姿に、それまで大声で詰問していたレオニスがピタリ、と止まる。

 振り返ったその子供は金髪碧眼で、目鼻立ちもライトとは全く異なる人物だった。

 カタポレンの家で過ごした幸せな時間から一転、覚悟を決めたライトの行動の様子です。

 布団から抜け出す時に【隠密】スキルをかけたのは、まぁ一応保険というかレオニスやラウル達に気づかれないようにするためですね。

 本当はライトとしても、このまま誰にも気づかれずに黙ってコヨルシャウキのもとに向かいたかったのですが。昔から野生児としての勘が鋭かったレオニスに早々に勘付かれて、旧ラグナロッツァ孤児院まで追いつかれてしまいました。

 ようやく実現したライトとコヨルシャウキの対峙、そしてそこに割って入ってきたレオニス。

 三者の行く末や如何に———

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