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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
ラグナロッツァに潜む危機

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第1273話 越えられない溝

 その後もラグナロッツァでは、様々な対策が打ち出された。

 謎の亀裂出現から六日目には、パレンの要請で竜騎士団団長のディランと鷲獅子騎士団団長のアルフォンソが亀裂対策本部を訪れた。

 謎の亀裂の中にいる銀河の女神、コヨルシャウキが待つと宣言した十日の猶予のうち半分が過ぎてしまった今、ビースリー開戦の火蓋が落とされる事態がいよいよ現実味を帯びてきたためである。


 万が一あの亀裂から大量の魔物が出てきたら、冒険者や魔術師だけでなく竜騎士団や鷲獅子騎士団も参戦する約束と手筈を整えた。

 亀裂対策本部の話し合いの場で、パレンとディラン、ピースとアルフォンソが固い握手を交わす。

 もとより両騎士団は、ラグナロッツァの治安と平和を守るための組織。この一大事に対応するのは当然の務めであり、実に心強い存在である。


 また、レオニスの方も亀裂出現七日目に天空島に赴き、パラス達に援軍を要請した。

 本来なら、天空島の者達は地上の出来事になど関知しない。しかし先日の邪竜の島討滅戦において、レオニスや竜騎士団に対して多大な恩と借りがある。

 故にパラスだけでなく、二人の女王もレオニスの要請を快く承諾してくれた。

 二人の女王に至っては『何ならうちのヴィーちゃんも連れていく?』『ヴィーちゃんとグリンちゃん、日替わり交代で派遣するのもいいわね』とまで言ってくれた。


 しかし、開戦初っ端から地上、しかもラグナロッツァの街中で最強戦力を全力投入するというのも憚られる。下手をすれば、神鶏達の浄化砲はコヨルシャウキのみならずラグナロッツァ全土を吹っ飛ばしてしまう可能性だって大いにあるからだ。

 なのでレオニスは「ひとまず相手の戦力や出方を様子見してから決めたい」「ヴィーちゃんとグリンちゃんの力を借りたい時は、またその時になってから改めて頼むからよろしくな」と女王達に返しておいた。


 最悪の事態を想定した行動は、着々と進んでいく。

 その間レオニスは、そうした最悪の事態への準備と並行してコヨルシャウキとの対話をずっと試みていた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 旧ラグナロッツァ孤児院に突如現れた謎の亀裂。

 そしてその中に巣食う、コヨルシャウキと名乗る銀河の女神。

 亀裂が出現した後も、彼女は毎日のようにちょくちょくラグナロッツァ側を覗きに来ていた。


 夜はレオニスが監視を担当しているからまだいいが、日中は他の冒険者達が複数人で監視している。

 日中に亀裂からコヨルシャウキの黄色い目が見えた日には、「ヒッ!」と叫びながらその場で腰を抜かす・口から泡を噴いて卒倒する・監視任務も忘れて這う這うの体で逃げ出す。こうした冒険者が続出した。


 情けないと言えば情けないのだが、そうかと言って誰もがレオニスのように気丈に振る舞える訳ではない。

 コヨルシャウキが発する強大な圧に、耐えられる者の方が圧倒的に少ないのだから、ある意味致し方ないことと言える。

 そんなことを繰り返しているうちに、コヨルシャウキは夜にだけ顔を覗かせるようになった。


 亀裂出現三日目くらいまでは、夜中に「よう、コヨルシャウキ」と気安く話しかけてくるレオニスのことを『フン』と言いつつシカトしていたのだが。四日目以降から、コヨルシャウキの態度が徐々に軟化していった。


 そして七日目にもなると、コヨルシャウキの方からレオニスに声をかけるようになった。

 これもレオニスがコヨルシャウキに対して必要以上に物怖じせずに、果敢に対話を試み続けた努力の賜物である。


『これ、小虫よ。勇者候補生はまだ見つからぬのか?』

「ああ、見つかったという知らせはまだ来ていない。……つーか、俺は小虫じゃねぇぞ? 何度も言ってるが、俺にはレオニスという名前があるんだからな。せめて名前で呼んでくれ」

『うぬぅ、この世界の小虫は喋りが達者で、しかも固有の名まで持ちおって……ほんに生意気なことよ』

「ホンット、失敬な女神様だね……俺のことを小虫呼ばわりし続けるなら、俺もこれからはお前のことを『デカ虫』と呼ぶぞ?」

『何!? それは嫌じゃ……此方には『コヨルシャウキ』という愛らしい名があるのだぞ?』

「ならお前も俺のことは『レオニス』と呼べ。話はそれからだ」

『ぬぅ……致し方ないの』


 勇者候補生のことを聞きながら、互いの呼称に関する交渉を繰り広げるレオニスとコヨルシャウキ。

 コヨルシャウキという名が愛らしいかどうかはさて置き。銀河の女神を『デカ虫』と呼ぶレオニス、相当不遜である。

 だが、それより先にレオニスを小虫呼ばわりしたのはコヨルシャウキの方からなので、レオニスも一歩も引かない。

 また、コヨルシャウキとしてもサイサクス側の情勢を知りたいので、その窓口であるレオニスと決裂するのは結局は損になる、と考えたようで、レオニスのささやかな要求を受け入れた。


「なぁ、コヨルシャウキよ。勇者候補生とやらに会えたら、どうするつもりなんだ?」

『それはもちろん。其奴らとビースリーを繰り広げるのみ』

「おい、ちょっと待て……じゃあ何か? どの道このラグナロッツァでビースリーをするってのか? それじゃ俺達が必死こいて勇者候補生を探す意味がねぇだろうが!?」


 コヨルシャウキの目的や今後どうするかを尋ねたレオニス。そのあまりに無慈悲な答えように、思わず気色ばみながら食ってかかる。

 実際レオニスが怒りだすのも尤もで、ビースリーを開始させたくないからこそ人族総出で勇者候補生を懸命に捜索し続けているというのに。

 コヨルシャウキが求める勇者候補生、その有無など全く関係なくどの道このラグナロッツァでビースリーを開始するなら、勇者候補生探しをしても無駄ということになるではないか。


 さすがにそれはコヨルシャウキも分かったのか、きょとんとしたような眼差しで提案をする。


『ン? ここでビースリーをするな、というなら勇者候補生達にこちらの空間に来てもらっても構わんぞ?』

「当ッたり前だ!全く、俺達が何のために頑張って勇者候補生を探してると思ってんだ……」


 何とものらりくらりとしたコヨルシャウキの物言いに、レオニスがブツブツと愚痴る。

 だがすぐに、はたとした顔で再びコヨルシャウキに詰め寄る。


「つーか、勇者候補生をそっちの宇宙空間に攫うってのか? そりゃそれで酷ぇことだぞ?」

『攫うなどと、聞こえが悪いことを言うでないわ。勝負が終わればそちらの世界に戻す故に、懸念は無用ぞ』

「なんだ、それならまだいいか……そうできるなら、是非ともそうしてくれ。その勇者候補生とやらには申し訳ないが、頑張って勝負して生き残ってもらえばいい訳だし……何よりこのラグナロッツァでビースリーをおっ始められる方が洒落にならんからな」


 コヨルシャウキの話に、レオニスが目を閉じしかめっ面をしながら苦渋の表情を浮かべる。

 やはりコヨルシャウキは、何が何でも勇者候補生と勝負をしたいようだ、ということがレオニスにも理解できた。

 あのコヨルシャウキと戦うなどと、全く勝算の見えない勝負にしか思えない。

 だが、先程コヨルシャウキは『(勇者候補生は)勝負が終わればこちらの世界に戻すから心配すんな!』と言った。ならばそれは、殺すには至らぬ程度の勝負事なのだろう、とレオニスは考えたのだ。


 しかし、レオニスはそれ以前に根本的な部分が未だに分かっていない。

 その疑問を今度こそ払拭するべく、レオニスは再びコヨルシャウキに問いかけた。


「……つーか、その勇者候補生ってのは一体何者なんだ? 俺が所属する冒険者ギルドは、国内のみならず外国にもたくさんの支部を持っている。そんな冒険者ギルドですら、一週間も探し続けて全く把握できないってのは、もはや異常事態なんだが」

『………………』


 レオニスの問いかけに、コヨルシャウキはしばし黙り込む。

 下から見上げるコヨルシャウキの黄色い瞳が、レオニスの目にはどことなく揺らいでいるように映る。

 そしてコヨルシャウキが徐に口を開いた。


『勇者候補生とは……創造神が必要とし、こよなく愛し、庇護する者のことを言う』

「創造神が必要とするって……そんなすげー人間が、本当にこの世に存在しているってのか?」

『間違いなくいる。この世界がサイサクスを名乗るならばな』

「???」


 コヨルシャウキが語る、勇者候補生という未知の存在。

 このサイサクス世界を創り給いし神が、こよなく愛し庇護する者―――そんなすごい存在が、果たしてこの世に本当にいるのか?とレオニスが疑問に思うのも無理はない。

 そして、レオニスには何故コヨルシャウキが『サイサクス』という言葉に固執しているのかが分からない。

 レオニスに言わせれば、『勇者候補生とこのサイサクス大陸に、一体何の関係があるってんだ?』といったところだろう。


 それは、BCOの生みの親であるゲームの運営会社の名前であり、つまりコヨルシャウキは『BCOの創造神であるサイサクス、それと全く同じ名を冠する世界ならば、BCOに集いし勇者候補生も必ずどこかにいる』ということを暗に言っているのだ。

 もっとも埒内の者であるレオニスには、そんなことを理解できるはずもないなのだが。


 そしてもう一つ、レオニスには根本的に分からないことがある。

 それは『何故コヨルシャウキは、こんなにも勇者候補生と戦いたがっているのか?』である。

 これも回りくどい聞き方をしても仕方がないので、レオニスは直球で聞くことにした。


「なぁ……何であんたは、その勇者候補生と戦いたいんだ? 勇者候補生と戦うことで、あんた達に何か利があるのか?」

『…………』


 レオニスの問いかけに、コヨルシャウキは再び黄色の瞳をサイサクス世界の空に向ける。

 暗い夜空を見上げるその眼差しは、はるか遠くを見つめているかのようだ。

 そしてレオニスの疑問に対し、静かに答える。


『此方は勇者候補生の血肉となるべく、神に創られた。故に此方は、勇者候補生と生命を賭して戦わねばならぬ運命(さだめ)にある』

「血肉だの、生命を賭してって…………まさか、勇者候補生を鍛え上げるために、あんたが死ぬまで戦い続けるってことか?」

『そうだ』

「それ以外にはないのか? 例えばほら、戦った後に両方に神から何か褒美がもらえるとか……」

『此方にそんなものはない。創造神から褒美が与えられるのは、ビースリーという世紀の戦場に馳せ参じた勇者候補生のみ。此方は首を刎ねられ、手足を捥がれ、八つ裂きにされる。そしてその八つ裂きは、ビースリーが終わるその時まで……永劫に続くのだ』

「………………」


 コヨルシャウキの凄絶な答えに、レオニスは言葉を失う。

 それはまるで、神に生贄を捧げるかの如き凄惨な話。

 これは、BCOでのビースリーイベントのことを語っている。


 イベントボスであるコヨルシャウキは、討伐対象として数多の勇者候補生(ユーザー)から問答無用で襲いかかられる。

 コヨルシャウキが如何にHP七桁の強大な存在であろうとも、所詮はイベント用に誂えられたボスキャラ。多勢に無勢で、結局は勇者候補生達に嬲り斃される運命なのだ。

 もちろん斃される側のコヨルシャウキには、褒美など一切ない。報酬という名の褒美を得られるのは、ゲームユーザーである勇者候補生達のみ。

 コヨルシャウキは、これらイベントの流れ全てを熟知していた。


 そんな残酷な真実を知る由もないレオニスには、全く意味が分からない。

 そして、こんなにも悲惨な運命が待ち受けていると分かっていながら、何故コヨルシャウキは抗うことなく全てをすんなりと受け入れているのか。

 謎で謎を上書きするようなコヨルシャウキの不可解な答えに、思わずレオニスが声を大きくしながら問うた。


「そうまでして戦わなければならない理由は、一体何なんだ!? 勇者候補生ってのは、そこまで偉い奴なのか!?」

『理由などどうでも良い。ビースリーを行い、勇者候補生達の糧となる。それこそが、此方の使命にして存在意義なのだから』

「………………」


 そうすることが唯一正しいことであるかのように、コヨルシャウキは迷うことなく答える。

 彼女はBCOにおける己の役割を正しく理解していた。


 コヨルシャウキは、自分が勇者候補生に斃される運命にあることを知っている。普通に考えたら、惨劇回避のために動こうとするところだ。

 だが、コヨルシャウキにはイベントボスとしての使命がある。そしてこの使命は絶対的な命令として、本能レベルで魂の奥底にまでガッツリと刻み込まれていた。

 なので、コヨルシャウキには惨劇を回避したいとか、ビースリーのイベントボス役から逃げたいと思うことすら微塵もない。最初から『そういうものなのだ』と思い込んでいて疑う余地すら皆無なのだ。


 しかし、レオニスには依然として理解できない。

 自分の生命を贄にされることが分かっていて、何故抵抗すらしないのか。抵抗どころか、自ら進んで惨劇に身を投じるのは何故なのか。

 これは、BCOを知る埒外の者とそれを知らぬ埒内の者の間に立ちはだかる、決して越えることのできない溝だった。


 地面に胡座をかきながら座っていたレオニス。

 はぁー……と深いため息をつきながら俯き、右手で己の頭をガリガリと掻く。


「あんたの言っていることは、俺にはさっぱり分からん」

『分からずとも良い。此方は此方の役目を知っているし、勇者候補生もまた此方の価値を知っておる』

「何でそこまで確信できるんだ……」

『それこそ此方の本能に刻まれしこと故に、言葉で表しきれるものではない』

「そっか……」


 この話を聞いて、レオニスはコヨルシャウキのことを理解しようと思うことを諦めた。

 サイサクス世界の人間同士だって、分かり合えないことも多いのだ。ましてや相手は異空間に住まう銀河の女神、もともと普通の人族であるレオニスにその全てを理解できようはずもない。


「…………ま、とりあえず俺達だって、あんたが望む勇者候補生の捜索はまだ諦めちゃいない。もし見つけることができたら、必ずここに連れてくる。だからあんたも、最後の日までおとなしくここで待っててくれ。間違ってもビースリーを早めるなんて真似はしないでくれよ?」

『小虫め、此方のことを見損なうでないわ。此方は交わした約束は必ず守る』

「だぁーからぁー……俺は小虫じゃねえっての!」


 レオニスは、コヨルシャウキのことを理解することはもう諦めたが、それでも会話は普通に続けている。

 死ぬまで戦うことを運命づけられた哀れな女神だが、仮にも女神を名乗るくらいだから己から言い出したことは守るだろう。

 俺は俺が成すべきことを、最後の日まで続けていくだけだ―――レオニスはそう思いながら、夜の監視を続けていった。

 着々と進む最悪の事態への対応、その中で足掻くレオニスの様子です。

 コヨルシャウキの告白?は、『もしゲームのイベントボスに自我や知性があって、イベントのルールや己の行く末も全部知っていて、でもゲームでの扱いには決して逆らえなかったら———そのキャラは、どのような考え方をするようになるだろうか?』という観点で書いています。


 なろう定番の悪役令嬢ものなどでも、バッドエンドを回避して幸せになる!という奮闘物語がたくさんありますが。拙作のコヨルシャウキには、運命を回避するという選択肢すらありません。

 そこまでいくとただただ哀れに思えますが、当のコヨルシャウキには悲壮感は然程なかったりします。

 ラグナロッツァの未曾有の危機はまだまだ続きますが、果たしてこの先や如何に———



【追伸】

 本日午後、南海トラフ巨大地震が発生しましたが、読者の皆様方のお住まいの地域は大丈夫でしょうか?

 作者の住む県には特に被害は出ていませんが、地震関連は今後も余震が続いたり何かと精神的にしんどいことも多いので、四国、九州にお住まいの方はどうぞお気をつけてください。

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