表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
ラグナロッツァに潜む危機

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1268/1686

第1268話 ライトの覚悟

 あからさまにがっくりとしているライトに、ミーアが心配そうに声をかける。


『ライトさん、大丈夫ですか?』

「……ぁ、はい、あまり大丈夫ではないですが……何とかしてコヨルシャウキを止める方法を考えないと」


 項垂れるライトに、ミーナが何とかして気分転換を図ろうと必死に声をかける。


『そ、そうだ!主様、そろそろお昼ご飯の時間ではありませんか!?』

「ぁー、そうだね……ぼく、皆とお昼ご飯をいっしょに食べるつもりでここに来たんだよね」

『でしたら!ひとまずお昼ご飯にしましょう!お腹が空いたままでは、良い案も浮かびませんでしょうし!』

『そうですとも!美味しいお昼ご飯をたくさん食べたら、きっとパパ様も元気が出て何か良い案が出てくるかも!』

「うん……ミーナやルディの言う通りかもね。そしたら皆でお昼ご飯にしよっか」

『『賛成ー!』』


 何とかライトを励まそうと懸命に振る舞うミーナとルディ。

 その健気さに、ライトはそれだけで心が癒やされる思いがした。

 それに、実際のところライトのお腹もかなり減っている。

 良い案を捻り出すには、脳への栄養補給が一番!というミーナ達の論は案外間違いではない。

 ライトは早速アイテムリュックから食べ物や飲み物を取り出し、昼食の支度を始めた。


 ライトとともに、ミーナとルディも空間魔法陣からテーブルや椅子を出して昼食の支度を手伝う。

 四人分の昼食が出揃ったところで、皆で着席して合掌をする。


「『『『いッただッきまーーーす!』』』」


 ライトが出した様々なご馳走を、四人でわいわいと食べていく。

 こうして大人数での賑やかな食事は、今のライトには当分の間望めない。それ故に、今の賑やかさが余計に心に沁みる。

 そうして昼ご飯を食べた後、ミーナやルディが出してきたデザートを皆でいただく。


 デザートは実に豊富なラインナップで、チョコレートケーキにマシュマロ、串団子、ホットカフェオレにホットココアなどもある。

 これらは全て、ミーナとルディがお使いで拾ってきた拾得物だ。

 野外で拾ってきた飲食物とか、それ、飲み食いしていいもんなの?と普通は思い警戒するところなのだが。これらの品々に関して言えば、埃一つついていない綺麗なもので全く問題ない。

 何故ならこれらの正体は、BCOの各種期間限定イベントで得られた回復剤アイテムだからである。


 例えばチョコレートケーキはバレンタインデーイベントに出された品で、HPが200回復する。マシュマロはホワイトデーイベントのもので、MPが100回復する。

 他の品々にも全て、こうした回復効果が何かしらついている。

 そう、使い魔達がお使いで拾ってくる品々は全てお役立ちアイテムなのだ。


 ミーアが差し出したチョコレートケーキに、ライトが頬を抑えながら舌鼓を打つ。


「このチョコレートケーキ、ホンット美味しいー」

『主様に喜んでもらえて、私もとても嬉しいです!』

『パパ様、このホットココアは僕が拾ってきたんですよ!ミーア姉様も大好きで、とっても美味しいんです!是非飲んでみてください!』


 ミーアのチョコレートケーキを絶賛するライトに、ルディが対抗心を燃やしたのかルディが持ち帰ってきたホットココアを熱烈に勧める。

 白い陶器製のカップに、ほんわかとした湯気が立ち上るホットココア。

 この寒い季節にはとても嬉しい飲み物だが、ライトは少し戸惑っている。


「え、でも、ぼくがもらってもいいの? ミーアさんの分がなくなっちゃうよ?」

『大丈夫ですよ、ライトさん。ルディがライトさんに召し上がっていただきたい、と言っているのですから。私のことは気にせず、どうぞルディのために飲んであげてください』

「……ありがとうございます!」


 ニッコリと微笑みながら、ライトにホットココアを勧めるミーア。

 ミーアもきっと、ルディが持ち帰ってくる回復アイテムをいつも三人で仲良く飲み食いしているのだろう。

 だからこそライトは最初戸惑っていたのだが。ミーアに言わせれば『私はいつでもルディ達とともに味わっているから、ここはどうぞ遠慮なくいただいてくださいね』ということか。


 ライトは皆の厚意をありがたく受け取り、ホットココアを一口二口啜る。

 香り高いカカオの芳しさとミルクの優しさ、そして適度な甘さがライトの心に染み入る。

 ふぅ……と一息ついていると、ミーアがふとライトに質問をした。


『そういえば、ライトさんの職業は今どうなっていますか?』

「えーとですね、今はまだ戦士の三次職、【近衛騎士】です」

『まだ四次職には程遠いんですか?』

「はい、今89%なんで……」

『まぁ、そうなんですね……』


 ライトの職業習熟度の現状を知り、ミーアが僅かに落胆している。

 ミーアがライトの職業の進捗度を尋ねたのは、ちゃんとした理由があった。


『こんな時、ヴァレリアさんにご相談できるといいのですが……』

「ええ、ぼくもそれを考えたんですが……今の職業がまだ戦士の三次職で、四次職マスターには程遠いんですよねぇ」

『そのようですね……』


 ミーアの案は『ヴァレリアに会って、ビースリーのことを相談する』だった。

 そしてそれは、もちろんライトとて何度も考えていた。


 かつてライトは、【武帝】の分体が宿る【深淵の魂喰い】と死闘を繰り広げ、瀕死の重傷を負った【破壊神イグニス】を救うために、魔術師光系四次職【魔導大帝】をマスターしてヴァレリアに会うことに成功した。

 そのおかげで、ライトの『イグニス君を助けてほしい』という嘆願は聞き届けられて、【破壊神イグニス】はヴァレリアによって生命の危機を脱し救われた。

 そして今回も、ラグナロッツァに現れた亀裂=ビースリーを何とか食い止めるために、ヴァレリアの力を借りることはできないか?とライトも考えたのだ。


 しかし、ヴァレリアに会うためには職業システムの四次職をマスターしなければならない。

 そして今のライトの職業は、戦士系の光系三次職【近衛騎士】でその進捗度は89%。

 今から急いで三次職をマスターして四次職の【神聖騎士】に就いたとしても、残りの一週間で【神聖騎士】をマスターするのは絶対に無理なことがライトには分かっていた。


「一応お聞きしますけど……ミーアさんは、ヴァレリアさんを呼び出す方法とか知ってます?」

『いいえ、そのような方法はこの世に存在しません。あの御方は自由奔放にして神出鬼没。私のようなNPCが、気軽に呼び出せる存在ではないのです』

「ですよねぇ……」

『というか、ヴァレリアさんがどこに住んでいて、普段何をしておられるかも私は全く知らないんですよねぇ』


 一縷の望みをかけたライトの質問は、ミーアによってまたも敢えなく否定された。

 そしてミーア自身も、ライト同様にヴァレリアのことを殆ど知らないという。

 傍から見れば、二人はいつも仲良く会話していてかなり懇意の仲に思えるのだが。実際には、ミーアからしたらヴァレリアは雲の上の存在らしい。


 実はライトは、過去に何度か空に向かって「ヴァレリアさーん、聞こえてますかー? もし聞こえてたら、来てくださーい!」と呼びかけたことがある。

 もちろんその時は、新たに四次職をマスターした訳ではないし、他に特に理由もなかった。

 ただ単に『ヴァレリアさんは、理由もなく呼びかけただけでも応じてくれるものなのか?』という好奇心からの行動だった。

 しかし、ライトの呼びかけにヴァレリアが応えることは一度もなかった。


 それは、呼びかけた時に特に大した理由もなかったせいかもしれないし、ライトの声は本当にヴァレリアに届いていなかっただけなのかもしれない。

 いずれにしても、ヴァレリアを呼び出すには『職業システムの四次職をマスターした』という正当な実績と理由が必要であり、それがなければヴァレリアはライトの呼びかけに応じることは一切ない、ということだけは確かだった。


 故に、ラグナ神殿の騒動の時のようにヴァレリアを頼ることもできない。

 BCOとサイサクス世界、両方を熟知するヴァレリアさんなら、きっとビースリーのことも知っているだろう。ラグナロッツァの危機を回避できる方法を、ヴァレリアさんなら知っているかもしれないのに―――そう思うと、ライトは己の不甲斐なさが歯がゆくて仕方がなかった。


 しかし、ここにいない人をいつまでも待ち望んでいても何にもならない。

 ライトはキッ!と顔を上げて、ミーアに宣言する。


「……ぼく、今からでも【近衛騎士】をマスターします。そして四次職の【神聖騎士】のマスターを目指します」

『ライトさん……あと一週間で、四次職をマスターできるんですか……?』

「普通に考えたら無理です。どんなに頑張っても、四次職になってから習熟度をMAXにするまで半月以上はかかると思います」


 ライトの宣言に、ミーアが不安そうな顔で問い返す。

 その問いに、ライトはきっぱりと『無理だ』と答えた。

 それは客観的な事実であり、ライト自身も認めざるを得ないところだった。


 実際【破壊神イグニス】の件でヴァレリアに会うために必死になって【魔導大帝】マスターした時も、習熟度97%から100%にするまで三日を要した。

 MAX間近のラストスパートとはいえ、たかだか3%を上げるだけで三日もかかったのだ。それを【神聖騎士】の0%から100%にするとしたら、どれ程の期間を要するのか。

 どんなに寝食を惜しんで取り組んだとしても、少なくとも半月から一ヶ月近くはかかるだろう。


 しかし、ライトはこのまま立ち止まるつもりはなかった。

 不安そうな眼差しでライトを見つめ続けるミーアの目を、ライトは真っ直ぐに見つめながら己の決意を口にした。


「例え無理だと分かっていても……このまま何もしないでいるのは、絶対に嫌なんです。最後の日まで足掻いて足掻いて、もしそれでもどうしても駄目だったら……その時は、ぼくの方からコヨルシャウキに会いに行こうと思ってます」

『『『……ッ!!!』』』


 ライトの決意に、ミーアだけでなくミーナやルディも目を大きく見開き驚愕する。

 ライト自らがコヨルシャウキに会いに行く―――これは、ライトが勇者候補生であることを他者に広く知られる覚悟を決めた、ということに他ならない。

 あれだけ『自分は勇者じゃない!』と言い張ってきたライト。そんなライトが勇者候補生であることを認めるのは、ひとえに『ラグナロッツァの危機を救いたい!』という一心からだった。


 覚悟を決めたライトの瞳は、強い決意に満ち満ちている。

 苦渋の決断をしたライトに、ミーアは徐に口を開いた。


『……でしたら、是非ともこの転職神殿を遠慮なくお使いください。SP節約のためのレベルリセットは、職業習熟度上げにも有効でしょう?』

「もちろんです!SP回復のために毎回エネルギードリンクを飲んでいたら、いくらエネルギードリンクがあっても全然足りませんし!」


 ミーアの助言に、ライトが破顔しつつ答える。

 それは今日ライトがこの転職神殿に来てから、初めて見せる心からの笑顔だった。


『フフフ、そしたらどの辺りで魔物狩りをなさるのですか? この近くですと、咆哮樹狩りですか?』

「そうですね、こないだも散々咆哮樹狩りをしましたけど……咆哮樹の木片はギャラクシーエーテルの材料にもなってるので、それこそいくらあってもいいですからね!」


 ノリノリで魔物狩りの場所を問うミーアに、ライトも目を輝かせながら頷く。

 またもライトの標的となる運命の大中小の咆哮樹達は、今頃きっと謎の寒気を感じているに違いない。


 それは、ともすれば空元気にもなりかねない無謀な挑戦。

 しかし、今のライトが取れる行動といえば、これくらいしかないのも事実。

 ライトの決意に、ミーアだけでなくミーナとルディもエールを送る。


『主様!私にもお手伝いできることがあれば、何なりとお申し付けください!』

『パパ様!僕も何かお手伝いしたいです!』

「ミーナ、ルディ、ありがとう。もし君達にも手伝ってほしいことができたら、その時は遠慮なく頼らせてもらうからよろしくね!」

『『はいッ!!』』


 やる気に満ちた主の姿に、ミーナとルディも花咲くような笑顔でライトに抱きつく。

 己のやることを見つけたライトの顔は、いつになく輝いていた。

 転職神殿でのお昼ご飯とその後の会話です。

 ライトも最悪の事態として、コヨルシャウキとの対話を視野に入れ始めました。それでも最後まで諦めずに、何かと足掻くつもりのようです。


 しかし、作中でも書いたように今回はヴァレリアさんに頼ることは条件的にかなり厳しいです。

 というか、何でもかんでもヴァレリアさんに頼ってばかりというのも非常によろしくないよねー、と作者は思うのですよ。

 それこそどこぞの某青い猫さんのように便利道具化しちゃうと、物語として早晩成り立たなくなっちゃいますし、ねぇ?


 なので、本当はサクッとヴァレリアさん登場不可を大々的に謳いたいところなのですが。そこは可不可は今のところグレーとして一旦保留。

 何故なら、例えそれが限りなく不可能に近いものであってもライトにとっては一縷の望みだからです。

 ラグナロッツァの危機を救い、なおかつ自身の出自も伏せつつ円満解決を求めるならば、ダメ元でもやってみる価値は大いにあるのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ