第1241話 コルルカ高原の絶景と思わぬ事態
作者からの予告です。
明日の日曜日は朝から一日中出かける予定が入っているので、明日の更新はお休みさせていただきます。
明後日からはまた通常通り連載再開しますので、ご了承の程よろしくお願いいたします。
レオニスとアルフォンソ&サムの三者の遠征は、その後順調に進んでいった。
朝六時に野営地を出立し、昼食の休憩を挟んで夕方五時まで飛び続ける。この実働十時間にも及ぶ強行軍を丸二日強、続けて行った。
時速30kmの飛行を一日約八時間、その距離約250km。これを二日半、つまりは600km弱を移動し続けたことになる。
その結果、レオニス達はケセドの街を出立してから三日目の午前中には、コルルカ高原奥地手前まで辿り着いていた。
赤茶けた広大な高原が、風雨による長年の侵食により切り立った崖や大きな河が出来た雄大な自然の絶景。
サイサクス世界の住人であるレオニスやアルフォンソは知る由もないが、それはまさしく現代地球のグランドキャニオンの風景そのものである。
「おお……こりゃすげぇな」
「ああ……まさに自然が生み出した、大いなる芸術と言っても過言ではないな」
小休憩のために高台に一旦降り立ち、周囲の景色を眺めつつ感嘆するレオニスとアルフォンソ。
ちなみにこの間魔物達は一切襲ってこなかった。降りて早々にレオニスが魔物除けの呪符を使用したからである。
「さて……そろそろ野生の鷲獅子が出てきてもおかしくないところまで来たな」
「だな。王と崇められる金鷲獅子がいる奥地に行くにつれ、普通の鷲獅子達も大型化していくので、この辺りではまだ小型種しか出てこないはずだが」
「このサムは、大きさで言えばどの辺りになるんだ?」
「中型以上大型以下、というところだ」
「そっか、ならサムくらいの体格のやつが出てきたら警戒をより強めるとしよう」
この先幾度となく出食わすであろう、野生の鷲獅子。
それらはただ単に『鷲獅子』とひと括りに語ることはできない。
まず体格によって小型種、中型種、大型種の三種類に区分することができる。
アルフォンソの話によると、奥地に近づくにつれて生息する鷲獅子の体格も巨大化していくという。
王の近くに侍ることができるのは、強大な力を持つ大型種のみ許された特権ということか。
そして、爪の色によって使ってくる魔法が変わるところは全種共通らしい。
もし万が一野生の鷲獅子に襲われたら、まず爪の色を見てその個体の特性を判断し、それに合った対処をしなければならない。
コルルカ高原の絶景を堪能したレオニスとアルフォンソは、改めて気を引き締めつつ小休憩を終えて再び奥地に向けて飛んでいった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
レオニス達が再び飛び始めて、しばらくした頃。
まずアルフォンソの相棒サムに異変が起きた。
険しい顔で前を見据えつつ、飛ぶ速度が目に見えて遅くなっていったのだ。
相棒の異変に気づいたアルフォンソが、心配そうにサムに声をかける。
「サム、どうした。何かあったのか?」
「グルルルル……」
アルフォンソの問いかけに、警戒心剥き出しで前方を威嚇するサム。
そしてサムのそんな態度を肯定するかのように、レオニスが口を開いた。
「気をつけろ。さっきから複数の奴らに見張られてるっぽい」
「見張られている……? まさか野生の鷲獅子に、か?」
「分からん。いずれにしろ、ここから先は警戒を怠るな。招かれざる客は敵意を持たれて当然だからな」
「承知した」
サム同様、レオニスも先程から敵意のこもった視線を向けられているのを感じていた。
レオニスの忠告に、アルフォンソも険しい顔で周囲を警戒している。
すると、突然切り立った崖の陰から大量の蜂型魔物が出てきて、あっという間にレオニス達を取り囲んだ。
この魔物の名は『キラーワスプ』、体長1メートルもある超大型の蜂型魔物だ。
身体は全体的に赤黒い色をしていて、腹部は焦茶色の縞模様になっている。
頭には二本の触覚、胸部には前翅と後翅一対づつの計四枚の翅、お尻には極太の鋭い針。如何にも典型的な蜂の姿をした魔物である。
そして、あろうことかレオニス達はこのキラーワスプ約三十匹に取り囲まれてしまった。
レオニスとアルフォンソを乗せたサム、互いの背中を守るように背中合わせで宙に浮きキラーワスプと対峙する。
数cmの蜂だって怖くて危険なのに、1メートル超の大型魔物が三十匹とか怖過ぎて洒落にならない。
しかし、実はこのキラーワスプ、BCOでは雑魚魔物の一種だ。
HPも図体の割には少なく、HP500前後とかなり低い。なので、雷魔法などを的中させることができれば一撃で仕留められる。
ただし蜂だけに敏捷性は高く、その針で刺されたらただでは済まない。
レオニスはキラーワスプが再び動き出す前に、先手必勝とばかりに雷魔法を繰り出した。
「豪雷斬撃!」
レオニスの雷魔法が、キラーワスプの群れの一角に的中した。
この雷魔法は広域型で、数多の強力な雷がバリバリバリバリッ!というけたたましい音とともにキラーワスプに容赦なく降り注ぐ。
キラーワスプのような飛行種族に雷魔法はとても有効で、この一撃を浴びればひとたまりもない、はずだった。
「…………何ッ!?」
「!?!?!?」
レオニスは目の前で起きたことが信じられない、といった様子で目を大きく見開く。
レオニスの驚愕ぶりに、思わず後ろを振り向いたアルフォンソも愕然とする。
レオニスの雷魔法の的中範囲にいたキラーワスプは、本来なら全て撃ち落とせるものだ。
しかし、実際には一匹も撃ち落とせず、全てのキラーワスプがレオニスの雷魔法を耐え凌いでいた。
「こりゃ一体どういうことだ……」
「レオニス卿の雷魔法を受けてなお倒れぬとは……」
あまりにも想定外の結果に、二人とも絶句している。
とはいえ、雷魔法が命中したキラーワスプも無事とは言えない。
身体や翅はほんのりと煤焦げになり、自慢の触覚も癖毛のようにチリチリに縮れている。
一撃でこそ仕留められなかったものの、それなりのダメージにはなっているようだ。
レオニスはいち早く気を取り直し、敵の様子をじっと観察する。
飛ぶ勢いはかなり削がれて、虚ろな目でふらふらと蹌踉けながらも飛び続けるキラーワスプ。
その目は赤味を帯びていて、大顎の牙をカチカチと鳴らし続けている。
尋常でない殺気立ちに、レオニスはとある時のことを思い出す。
それは、かつて異常気象に長年見舞われていたプロステスでの炎の洞窟調査の時のこと。
その時の炎の洞窟の魔物達は、皆一様に殺気立っていて、なおかつレオニスの剣戟を受けてなお凌いでいた。
そう、今レオニス達の目の前にいるキラーワスプは、あの時の炎の洞窟の魔物達と似たような空気を醸し出していた。
「チッ、まずいな……アルフォンソ、サム、ここは一旦退くぞ」
「!?……分かった!」
舌打ちしながら撤退を即時決めたレオニス。
レオニスの下した判断に、アルフォンソが一瞬だけ躊躇うもすぐに従う。
レオニスとサムは奥地とは反対側、先程来た道の方向に向かって全力で空を駆ける。
一方キラーワスプは、逃げ出した獲物を追いかけ始めるもレオニス達の駆ける速度についていけず、しばらくして諦めたように追撃を止めて崖の方に戻っていった。
前話に続きレオニス達の旅路の様子と、ようやくコルルカ高原奥地手前まで到着しました。
コルルカ高原のモデルがグランドキャニオンというのは、第1085話でも解説済みですが。その雄大さを表すための距離は、果たしてどれくらいあればいいのだろうか?と何気に作者は悩みまして( ̄ω ̄)
グランドキャニオンの本場?であるアメリカ大陸、その横の距離は約4000~6000kmあるのだそうで。
とはいえ、そこまで広大な土地にしてしまうと、その前に出てきたコルルカ高原内のフラクタル峡谷との距離感とだいぶ乖離してしまうことに…(=ω=)…
なホントは本州の端から端の2000kmくらいある方が冒険感を増すと思うんだけど、それでもやっぱフラクタル峡谷との距離感の兼ね合いを優先し、東京から大阪間の約500kmくらいがいいかな!てことで、概算で約600kmとすることにしました。
飛行速度の時速30kmはサムに合わせているので丸二日かかっていますが、これがレオニス単身での移動だったらもっと早くに到着しています。
何なら時速100kmくらいで飛び続けて、五時間ちょい=半日くらいで到着しちゃうかも。
とはいえ、臨時パーティーを組んでの遠征ですので。足並み揃えて行動するのだから、多少手間がかかるのも当然なのです(`・ω・´)
【2024年12月12日追記】
諸事情により、コルルカ高原の東西距離を『600km』から『400km』に変更しました。




