第1240話 コルルカ高原の道中
その後レオニス達は、ケセドの街から北西の方向に向かって飛び続けた。
レオニス達が目指す鷲獅子の生息地は、コルルカ高原の北西の果てにあるからだ。
赤茶けた荒野が広がるコルルカ高原の上空を、レオニスとアルフォンソを乗せた鷲獅子のサムが飛んでいる。
その速さは時速30kmくらいで、これは長距離を飛び続ける上でサムの身体に過度の負担がかからない程度の速さとして、レオニスとアルフォンソが事前に決めておいたものだ。
そして、五十分空を飛んだら一旦地面に降りて十分の休憩を取る。昼休みは正午から午後一時までの一時間。
日中はこれをひたすら繰り返す。
コルルカ高原にはいくつかの固有魔物が生息しているが、その中で空を飛べる魔物は三種類いる。
一つは『高原蜉蝣』、二つ目は『フライ・ジェリー』である。
高原蜉蝣はノーヴェ砂漠のエフェメロプターの色違いで、虫型故にそれらが飛ぶ高度はかなり低い。
そして『フライ・ジェリー』は見た目がクラゲそっくりで、別名『空飛ぶクラゲ』とも呼ばれている。
全身が半透明の紫色で、クラゲの傘に似た部分の胴体?には脳みそのような器官が見える。
だがそいつらも、高原蜉蝣よりは高い空を飛べるものの、より高い位置にいるレオニス達を襲うことは敵わない。
レオニス達が高度500メートル以上の上空を飛ぶのは、こうした魔物達に襲われることなく飛び続けるためである。
いや、高度蜉蝣もフライ・ジェリーも雑魚魔物もいいところで、レオニス達の敵ではないのだが。
それでも襲われる度にいちいち相手をしていたら、目的地に辿り着くのがかなり遅くなってしまう。
それを回避するためにも、高い上空を飛んでいるのだ。
小休憩の際には、水分補給も兼ねた回復剤をぐい飲みしたり、サムにおやつとしてビッグワームの素を一個食べさせる等体力回復に努めた。
この小休憩の時にも、余計な邪魔が入らぬようレオニスが都度魔物除けの呪符を用いている。
せっかくの休憩なのに、魔物達に襲いかかられていたらおちおち休めやしないからだ。
今回の任務は、コルルカ高原奥地という滅多に人族が立ち入らない場所。間違いなく危険に満ちた長旅であり、そのリスクを減らすためにはアイテムをケチってなどいられないのである。
日が落ちる寸前に、野営に適したなるべく平らな場所を探し、夜から朝までそこで過ごした。
ここはノーヴェ砂漠と違い、火を焚いたからといって魔物達に襲われるといった心配はない。
冬の寒空の下、レオニス達は焚火を囲みつつ晩御飯を食べる。
また、夜行性の魔物がいないとも限らないので、退魔の聖水で周囲を囲い結界を張ることも忘れない。
特に今回は体長5メートルを超える鷲獅子サムもいるので、いつも以上に広い範囲を確保しなければならないため、一回につき三本もの退魔の聖水を使用していた。
そしてサムは、晩御飯であるビッグワームの素を五個食べた後、さっさと寝てしまった。
鷲獅子騎士団は、普段から鍛錬を欠かさない精鋭部隊だが、それでもやはり朝から夕暮れまでずっと飛び続けるのはそれなりにしんどいのだろう。
一方レオニスは、涼しい顔でアルフォンソとともに晩御飯を食べている。
「レオニス卿、今日一日ずっと飛んで疲れてはいないか?」
「いンや、全然余裕。つーか、この程度でへばっていたら、カタポレンの森の警邏なんざできん」
「そ、そうなのか……我らももっともっと鍛錬せねばならんな」
レオニスの体調を気遣うアルフォンソの問いかけに、レオニスはラウル特製ペリュトンカツ丼をガツガツと食べながら事も無げに返す。
そう、実際レオニスの言う通りで、彼が担うカタポレンの森の警邏では一日中カタポレンの森を飛び回ることなどしょっちゅうだ。
特に遠い場所まで見に行く時には、朝から昼間までずっと一直線飛び続けて、とんぼ返りで夜になる直前まで飛び続けて帰宅することだってある。
こうした日々の務めにより、体力お化けのレオニスの無尽蔵にも思えるタフさが形成されていった。
このことを知ったアルフォンソは、自分達の鍛錬がまだまだ甘っちょろいものだと痛感しているようだ。
ちなみに食事は各自自分の分を用意し、それぞれが持ち運ぶのが原則なのだが。今回の任務では空間魔法陣持ちのレオニスがいるということで、別途手当を支払うことを約束しアルフォンソの分の食事もレオニスの空間魔法陣に入れてもらう、ということで話がついている。
そのおかげで、ペリュトンカツ丼を食べているレオニスの焚火越しの真向かいで、アルフォンソはサンドイッチや串焼などを頬張っていた。
温かくて美味しい晩御飯を食べた後、二人は四方山話に花を咲かせる。
例えば鷲獅子騎士団で飼育している鷲獅子達のことや、シュマルリの山での竜騎士団の修行の話など。
鷲獅子騎士団で飼育している鷲獅子については、基本的に全て騎士団内で出産、育児を賄うのだという。
成獣が常時三十体以上いて、それらの中で番が十組くらいいるので、年に一頭は新しい命が生まれるらしい。
そしてその生まれた子も、将来は鷲獅子騎士団内で活躍すべく育てられているのだとか。
「へー、そういう仕組みだなんて知らなんだ。俺はてっきり、どっかから鷲獅子を捕まえてきて飼い慣らしているもんだとばかり思ってたよ」
「さすがにそれはテイマーの素質がなければ無理だ。というか、もしテイマーの素質があったとしても、捕まえた鷲獅子を他者に譲るというのはかなり難しい」
「まぁなぁ。そう考えると、やっぱ天然物をとっ捕まえるよりは手元で養殖した方が安全で確実だわなぁ」
「養殖……まぁ実際その通りなんだが」
レオニスに『養殖』と言われたアルフォンソ、一瞬だけスーン……とした顔になるも、実際その通りなので反論できない。
ちなみにこの養殖?技術は、竜騎士団やライト御用達の翼竜牧場でも用いられている。
中には極稀に、野生の飛竜や鷲獅子が諸事情により持ち込まれることもあるらしいが、基本的には皆手持ちの飛竜や鷲獅子達を繁殖させている。
「……さて、そろそろ俺達も寝るか」
「そうだな、明日も朝早くに出立せねばならんし」
「とはいえ、朝飯をしっかり食べるくらいの余裕は持たんとな」
「腹が減っては遠征はできぬ、だな」
「そゆこと」
晩御飯の後片付けをしながら、自分の寝袋を出すレオニスとアルフォンソ。
夜の見張りについては、『レオニスが先で零時まで見張り』『アルフォンソは零時から朝五時まで見張り』『交代の際に、レオニスが退魔の聖水を撒き直しておく』『朝五時になったらアルフォンソがレオニスを起こし、朝食等済ませて朝六時に出立』ということになっている。
夕方のうちに張っておいたテント内に、各自寝袋を用意したレオニス達。
アルフォンソが先に仮眠を取るべく、テントの中から外に出たレオニスに挨拶をする。
「ではレオニス卿、零時までの見張り、よろしく頼む」
「おう、任せとけ。アルフォンソも久しぶりの遠出で疲れたろ、ちゃんと寝てしっかり回復しとけよ」
「ありがとう。では、おやすみ」
「おやすみー」
就寝の挨拶を交わした後、アルフォンソはテント内の寝袋に収まり、レオニスはテントの入口の先にある焚火のところに戻り空を見上げる。
人の手の入っていないコルルカ高原の夜空は、冬の凛とした空気の中満天の星で煌めいていた。
レオニスとアルフォンソとサム、二人と一頭が織りなすコルルカ高原での冒険の風景です。
前話後書きでも書きましたが、新しい場所に赴くとその土地その土地の魔物やら情景描写を出さねばならず、生みの苦しみでかなーり苦戦します。
特に魔物類。新しい名前をつけるのはもちろんのこと、その見た目や特性なども新規に描写しなきゃならんという、作者の苦手な作業がてんこ盛り><
なので作者はその都度ヒーヒー言いながら、無い知恵を振り絞って生み出しておりますです・゜(゜^ω^゜)゜・
というか、作中は冬真っ只中ですが、リアルでは灼熱地獄の盆地気候の足音がヒタヒタと迫り来てますね……
今日もすんげークッソ暑かった……作者は日中車で出かけてたんですが、クーラーをガンガンの最強にしてもちーとも効いた気がしない(;ω;)
こないだ12ヶ月点検に出したばかりなんだけどなぁ、クーラーの効きが悪過ぎくね? もしかしてクーラー関係の部品が死にかけてる?
熱中症の危険度が高まる季節、読者の皆様方もどうぞお気をつけください。




