第1234話 久しぶりのクエストイベントとライトの財源
ラーデを連れてのご近所さんへの挨拶回りをした翌日の日曜日。
この日のライトは、久しぶりにクエストイベントのお題達成の下準備に勤しんでいた。
朝のルーティンワークやプランター畑の手入れ等を早々に済ませ、自室に篭もるライト。
こんなにゆったりとした週末は久しぶりのことなので、まずはベッドに寝転びながらマイページのアイテム欄を開く。
これまで貯めてきたアイテムの数をチェックするためだ。
「はぁー……クエストイベントが全ッ然進んでいない件……って、ここ最近ずーーーっと忙しかったから仕方ないんだけど」
ブツブツと愚痴を零しながら、マイページを操作するライト。
アイテム欄には多数のアイテムがあるため、ページを指でスクロールしながら眺めている。
ライトが零したように、今年の冬は息つく暇もない程に多忙を極めていた。
冬休みの間は毎日ずっとどこかに出かけていたし、冬休み明けにはアクシーディア公国生誕祭でウルス、ケリオン、シャーリィとともに過ごしていたから、マイページを弄る暇すらなかった。
そしてその楽しかった公国生誕祭が終わる直前に、今度は天空島襲撃事件が勃発した。
これではライトのクエストイベントが完全停止してても不思議ではない。
しかし、ライトとてただ手を拱いていた訳ではない。
冬休み明けから再開したラグーン学園に通う平日の間は、主に放課後から晩御飯前にかけて寸暇を惜しんで下準備を進めた。
例えばそれは、以前狩った魔物の解体作業だったり、生成途中で必要な別の回復剤を作り貯めておいたりなどだ。
特に『咆哮樹の木片』に関しては、ラグナ教神殿で起きた爆発騒動で昏睡状態に陥ったイグニスを救うために大規模な咆哮樹狩り?を実施したため、有り余る程の在庫がある。
そうして一通りアイテム欄を眺めたライトは、足りていないアイテムのピックアップを始めた。
「えーと、一番足りなさそうなのは『単眼蝙蝠の羽』か……その次は螢光花の花弁、あとは紫牙蘭の花弁かな」
「ここら辺の植物系は全部そこら中に生えてるから、朝のルーティンワークを三十分早めて採取作業を増やすとして……」
「そしたら今日は、単眼蝙蝠狩りに専念しよう!……あ、その前にショップでエクスポとアクエを購入しとこっと」
今日の行動を決めたライト、ベッドの上で起き上がり胡座で座りながらマイページ内のショップでエクスポーション購入を連打する。
エクスポーションは、このサイサクス世界でも各ギルドや薬屋などで購入できる通常販売品だ。
しかしライトの場合、これらの販売ルートに頼る必要はない。何故ならば、エクスポーションはマイページ内のショップで購入できるのである。
はぁー、エクスポやアクエがマイページのショップで買えて、ホンット助かる……だってこの二つ、上位回復剤を作る度にアホほど消費するし。
先に作ったマキシマスポーションの時なんて、エクスポ43500個、アクエ30000個も使ったからな……
今から作るギャラクシーエーテルだって、エクスポ34000個要るし。アクエに至っては85000個要るとか、ホンット信じらんねぇ……
ライトはマイページショップ内の回復アイテム欄を開きながら、無心で購入を続ける。
アイテム購入の数値指定はプルダウン方式で、一度に100個までワンクリックで購入できるのだが、万単位の購入となるとそのワンクリック購入を百回以上繰り返し実行しなければならない。
この僅かな手間も、塵も積もれば何とやらで馬鹿にはできないのだ。
個数欄プルダウン、100個を指定タップ、購入確定ボタンタップ、この三ステップをライトはひたすら無心で繰り返す。
そして三ステップを繰り返すこと約千回。三ステップ一回につき平均二秒としても二千秒、この時点で既に三十分以上を要する作業となっていた。
やがてエクスポーションの所持数5万個、アークエーテルの所持数10万個を確保したところでその手を止めた。
ふぅ……とため息混じりで腕を回し、肩の凝りを解すライト。
本当に地味ーな作業で華やかさなど一つもないが、これもライトのクエストイベントクリアのために必ず一度は通らねばならぬ道なのである。
ちなみにこのエクスポーションとアークエーテル、マイページ内ショップでの販売価格はサイサクス世界の薬屋などと同じでどちらも600Gと決まっている。
これを15万個購入というと、総額9千万G。日本円にして9億円という、何気にとんでもない金額になる。
こんな金額を、十歳にも満たないライトが払えるのか?という疑問が生じるところなのだが。そこは全く問題ない。
何故ならライトは、売価1000万Gの【乙女の雫】を多数所持しているからだ。
特に先日、ライトはレオニス達とともに辻風神殿で大掃除をした際に、風の女王がかつて悲嘆に暮れていた頃に流したたくさんの涙を拾って引き取ってきた。
しかもこの時の風の女王の涙は【風の乙女の雫・悲嘆】という別名がついていて、売価も1200万Gというちょっとしたプレミア価格になっていた。
これはもしかしたら、手のひらから生み出す魔力の塊の雫と違って感情起伏による本物の涙だからなのかな?とライトは推察している。
ライトにはそこら辺の理由や正解を知る術はないが、いずれにしても今後ライトがマイページ内ショップでGで購入できるアイテムに困ることはなくなった。何しろ【風の乙女の雫・悲嘆】を一個売却するだけで、1200万Gを得られるのだから。
現に今だって、十個売って1億2千万Gを手に入れてからエクスポーションやアークエーテルを万単位で購入できた。
このことに、ライトは心の中で風の女王に感謝する。
本当はこのGがすぐに現実でも使えればいいのになー、とも思うが、そこまで望んでは強欲が過ぎるというものだろう。
マイページ内のGは基本的にショップで使うものであって、サイサクス世界のリアルに多大な影響を及ぼしてはいけない。
もしライトが千個以上ある【風の乙女の雫・悲嘆】を全て売り払ったら、その総額は120億Gを超えることになる。
そしてこんな額の出処不明な貨幣が出現したら、アクシーディア公国の経済にも少なからず影響が出てしまう。
故にライトのこの資産は、マイページ内のショップでのみ使えて自身の修行のために使うくらいがちょうどいいのである。
地味ーな作業を終えて、肩を解した後は腕を上に上げて背筋を伸ばすライト。
胡座で座っていたベッドから降りて、外に出かける支度を始めた。
いつものようにアイギス製のマントを羽織り、レオニスに誕生日プレゼントでもらった天空竜革製の篭手を身に着け、アイテムリュックを背負う。
腰にはユグドラツィの枝で作ったワンドを佩き、準備万端整えたライトは家の外に出た。
時刻は午前の九時を少し回った頃。
家の外では、レオニスがラウルとともにラーデのための開拓作業をしていた。
伐り倒す予定の木の枝をレオニスが払い、伐り落とされた枝をラウルが回収して乾燥させている。
それらの枝も全て燃料その他に活用するのだ。
そしてその枝拾いの作業を、ラーデも率先して手伝っている。
自分のための寝床?を確保するために、レオニスとラウルが働いてくれているのだ。自分だけが何もしない訳にはいかぬ!ということであろう。
まだ身なりの小さなラーデが、カタポレンの森の木の大きな枝を懸命に運んでいる様は何とも愛らしく微笑ましい。
「レオ兄ちゃん、ラウル、お疲れさまー」
「お、ライト、どこか出かけるのか?」
「うん。飛ぶ練習をしがてら、この辺をちょっとお散歩してくるねー」
「そっか、気をつけてな」
「あんま遠くまで行くなよー」
「はーい!いってきまーす!」
「「いってらー」」
散歩に出かけるというライトに、レオニスとラウルが快く送り出す。
そうしてライトは、散歩という名の素材集めに出かけていった。
ご近所回りを終えて、超絶久しぶりのクエストイベント話です。
ぃゃもうホンット、クエストイベントが主体の話は冗談抜きですんげー久しぶり。
エクストラクエストが発動したのが第804話で、エクストラクエスト関連の神威鋼の調べ物をしたのが第1063話。気がつけばそこから170話も経ってしまいました・゜(゜^ω^゜)゜・
でもでも!時折起こる事件で、どれだけ話数を食おうとも!作者はクエストイベントのことを決して忘れてはいません!
そう、どれだけ時間がかかろうとも!クエストイベントを完了させる意欲と情熱は、主人公にも決して負けません!(`・ω・´)
いつ完了するかは全く分かんないですけど(´^ω^`)
でもって、クエストイベントにかかる費用を賄うために【風の乙女の雫】を活用したりなんかして。
辻風神殿の大掃除? 何でこんなことしてんの? とか思いつつ風の女王達とのあれやこれやを書いたあの日。
その時に何気なく紡いだ話が、後々になってこうして活きる。本当に不思議ですが、長い物語を綴る上で起きる楽しさの一つでもあります( ´ω` )
【追記】
今回またエクスポーションだのアークエーテルだの出てきたので、『BCO&サイサクス世界資料集』の方に新たに『回復剤の種類』を追加しました。
これがあれば、BCOとサイサクス世界の回復剤データが丸分かりなのです!゜.+(・∀・)+.゜ ←ドヤ顔
でもって、エクスポーション43500個やアークエーテル30000個等の数値は、同じく『BCO&サイサクス世界資料集』の『マキシマスポーションの作り方』『ギャラクシーエーテルの作り方』にて公開している各材料の必要個数から算出しています。
他にもライトが足りなさそうな材料として挙げた三つも、この資料集の作り方からピックアップしました。
あー、やっぱこうして資料集として明確に出しておくといいですね!
これからも資料集を充実させていこう!……とは思うものの、なかなか実行できていないんですけど_| ̄|●




