第1228話 アクアのおねだり
目覚めの湖中央小島で、水の女王やアクア達とのんびりお茶会を楽しむライト達。
先程暗黒の洞窟でもお茶をしたばかりなので、ライトとラウルはプチシュークリームなど小さなものを摘んでいるが、レオニスだけは変わらずアップルパイやらドーナツをモリモリと食べている。
一方のラーデは、水の女王やウィカ、イードに囲まれて甲斐甲斐しく世話を焼かれている。
『このカスタードクリームパイ、すっごく美味しいのよー』『このイエローサーモンのお刺身も絶品だよ!』『あ、ラウル君におかわりもらってくるわねぇー』等々、ライト達が連れてきた新しい友達に話しかけるのがすごく楽しいようだ。
ちなみにラーデもレオニス並みに大食いのようで、水の女王達に勧められたもの全てを飲み食いしては『おお、本当に美味いな』『イエローサーモンとは何なのだ?』『お気遣い感謝する』等々、これまた生真面目に受け答えしている。
そんな様子を見ながら、ライトとアクアが会話している。
『あの子、力はものすごく強いけど謙虚で良い子だね』
「うん、あれでもまだ本来の力は全然取り戻せてないらしいけどね」
『そうなんだー。ていうか、何でか分かんないけど……あの子は僕と同類というか、これまでに一度も感じたことのない親しみを彼には感じるんだけど、何でだろう?』
「あ、そなの? ま、まぁね、アクアは水竜でラーデも皇竜だから、やっぱ同じ竜族として何か感じるところもあるのかも、ね?」
『そうなのかなぁ……でも、ライト君がそう言うならきっとそうなんだろうね』
「うん……アハハハハ」
ラーデを見つめながら不思議がるアクアに、ライトは小さく笑いながら顔を引き攣らせている。
アクアがラーデに対する親近感、その源が何なのかは彼自身分かっていないのだが、ライトには心当たりがあった。
そう、アクアもラーデもBCOのレイドボスという共通点があるのだ。
『ぁー、これってやっぱりレイドボスとしての本能?がどこかに残ってるのかな……』
『……ン? そしたら他のレイドボスとも顔を合わせたら、同じく親近感とか感じるのかな?』
『他にも会える可能性があるのは……天空島のヴィーちゃんやグリンちゃん、あとは暗黒の洞窟のココちゃんくらいかな』
『別に敵意が涌いてくる訳じゃないようだし、そもそも俺がいないところで会う可能性もほとんどないし、特に問題は起こらないと思うけど……一応気をつけておこう』
思わぬところでBCO問題を発見したライト。
当のアクアやラーデに悪意や敵意などの害が発生する可能性はほぼなさそうだが、それでも今後注意深く見ていこう、とライトは内心で決意した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
皆がのんびりとした時間を過ごす中、ラウルがすくっ、と立ち上がる。
「ご主人様達よ、ここで三十分程時間をもらってもいいか? 久しぶりに目覚めの湖の貝を拾っていきたいんだ」
「おう、いいぞ。三十分くらいならここでゴロ寝しながら待ってるからよ」
「あ、そしたらぼくはラウルのお手伝いするよ!」
「おお、そりゃありがたい」
ラウルの『貝を捕りたい』という申し出に、ライトもレオニスも快く承諾する。
この目覚めの湖の貝類は、さすがにエンデアン産のもの程超絶美味!という訳ではないのだが、それなりに美味しく食べられる食材には違いない。ラウルにとっては定期的に仕入れたい品の一つなのである。
するとここで、アクアがパァッ!と明るい顔になりながらレオニスに話しかけた。
『レオニス君、ここで三十分もゴロ寝するなら僕と追いかけっこしようよ!』
「えー、俺今おやつ食ったばっかで腹いっぱいなんだが……」
『そこはほら、食後の運動? 少しくらい腹ごなししようよ!』
両前肢でレオニスの身体をゆっさゆっさと揺さぶりながら、懸命にレオニスにおねだりするアクア。
いつも冷静沈着でおとなしいアクアにしては珍しい姿だ。
しかも、その揺さぶり方が尋常ではない。揺さぶり幅がだんだんと大きくなっていき、終いにはレオニスの身体が麺棒のようにゴロゴロと転がされている。
普通の人間ならこの時点でKOだが、レオニスは麺棒どころか鉄棒よりも頑丈なので全然問題はない。
そんなアクアの必死さに、レオニスも苦笑いしつつ応じる。
「ンー……しゃあないなぁ。アクアにはいつも世話になってるしな……よし、じゃあ追いかけっこしようか」
『そうこなくっちゃ!』
「ただし、今から五分休んでからな。でもって、追いかけっこは十分間だけな? さっきも言ったけど、俺達はまだこれから出かける予定あるからな、ここであまり疲れ過ぎても困る」
『もちろんそれでいいよ!』
レオニスがアクアの願いを聞き届けてくれたことに、アクアの顔は今までの中で一番に輝いている。
最初は追いかけっこを断っていたレオニス。結局アクアの要望を聞き入れたのには理由がある。
それは、ドラリシオ・ブルーム達の一件だ。
あの時レオニスは、ノーヴェ砂漠にいるドラリシオ・ブルームを助け出すためにアクアの力を借りた。
その願いは、元を辿ればラウルの願いを叶えるためのものだったが、レオニスがアクアの力を借りたことに変わりはない。
そして、アクアの力がなければあの事件を円満解決することはできなかった。その時の恩を返すために、レオニスはアクアのおねだりを受け入れたのだ。
「鬼はどっちがする?」
『もちろん僕!僕がレオニス君を追いかけて捕まえる!』
「分かった、じゃあ俺が十分間逃げ切れば俺の勝ち、十分経つ前にアクアに捕まったらアクアの勝ちな」
『うん、それでいいよ!』
まずどちらが鬼をするかを決めて、勝ち負けのルールも決めておく。
前回の追いかけっこでも、アクアが鬼をして結局レオニスを捕まえることができずに敗北を喫した。
アクアはその時のリベンジをしたいようだ。
「ぁー、ライトとラウルは貝採りに出かけちまうから……ウィカ、この時計の長い針がここに来るまで見張っててもらえるか?」
『オッケー☆』
「そしたらその間ラーデはどうする? ライト達についていってもいいし、この小島でのんびり待っててくれてもいいし」
『そうだな……我は貝採りの方に興味があるな』
「ならライト達についていくといい。ラーデにもアクアや水の女王の加護があるから、水中でも自由に動けるぞ」
『そうさせてもらおう』
レオニスは深紅のロングジャケットの内ポケットから懐中時計を取り出し、ウィカに時間測定係を依頼する。
追いかけっこはライトとラウルの貝採りの間に催されるので、二人に頼めないからだ。
そうやってテキパキと追いかけっこの準備を進めるレオニスに、アクアは終始ご機嫌な様子だ。
そんな両者を見て、ライトもラウルも微笑みながら声をかける。
「アクア、レオ兄ちゃんと追いかけっこできることになって良かったね」
『うん!今日こそ僕が勝つからね!』
「アクアもご主人様も、どっちも頑張れよ」
「おう、今日も俺が勝つからな」
レオニスとアクア、どちらも勝つ気満々な様子に周囲は笑うしかない。
水の女王は『アクア様、今日こそ頑張ってね!』と励まし、ウィカは『どっちも負けず嫌いだよねー』と糸目笑顔でクールに笑い、イードは『どっちも頑張れー♪』とラウル同様両者を励ます。
「じゃ、ぼく達は貝採りに行ってくるねー」
「おう、いってらー。俺の分もたくさん採ってきてくれよー」
「俺達も三十分したら戻るから、その間好きなだけ追いかけっこして皆で楽しんでてくれ」
『うん!ラウル君達も、貝採り頑張ってね!』
ライトがラーデを抱っこしながら、ラウルとともに水の中に入っていく。
振り返ってレオニス達に手を振るライトに、水の女王やアクアも大きく手を振って応える。
こうしてライト達は二手に分かれて、目覚めの湖での時間を過ごすことになった。
目覚めの湖でののんびりとしたひと時です。
小島での交流を終えたら、サクッ☆と次のお出かけに移るはずだったのに。何でレオニス vs. アクアの追いかけっこ開催になってんのだろう…( ̄ω ̄)…
ぃゃ、ホントは前話でレオニスが言ってたように、次回に持ち越すはずだったんですが。アクアがどーーーしてもレオニスと追いかけっこしたい!と作者に切々と訴え続けてきましてね…(=ω=)…
アクアはおとなしくて理知的な子なので、他の子に比べたら滅多に自己主張なんてしない子なんですが。今回ばかりは訴えが収まらなかったんですよねぇ。
でもまぁね、滅多に我儘言わない子のおねだりだからこそ聞いてやりたくなるというか、こないだのドラリシオ・ブルーム事件の一番の功労者でもあるので。
あの時のご褒美をあげるなら、今しかないでしょ!てな訳で、アクアのお望み通り追いかけっこ開催決定。
人族 vs. 神族の三回目の勝負の行く末や如何に?




