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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
新しい仲間

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第1224話 過去の不幸と今の幸せ

 氷の洞窟祭壇の間で、氷の女王と玄武とともにおやつタイムを堪能するラウル。

 氷の女王は、林檎果汁を凍らせて砕いてから林檎の果肉もたっぷり加えた特製シャーベットを、玄武はホールのアップルパイを、それぞれ美味しそうに頬張っている。


 どちらもカタポレン産の巨大林檎を用いた逸品で、ラウルの自信の新作スイーツだ。

 それを美味しそうに食べる氷の女王達を、ラウルは小さく微笑みながら見守っている。

 そのうちに、ラウルが自分用に出したホットコーヒーの湯気がたちまち勢いを失くしていく。

 温めのコーヒーを半分くらい啜ったところで、ラウルが本題を切り出した。


「氷の女王、今日は大事な話があってここに来たんだが」

『何なりと申すがよい。其方の話ならば、事の大小など問わず何だって聞きたい』

「ありがとう。前にここの入口の拡張工事に来た時に、邪龍の残穢のことを話したのを覚えているか?」

『……ああ、確かここから遠い場所で、大量の邪竜を討伐する予定があって……その影響で、この地にも邪龍の残穢が大量発生するかもしれない、という話だったか?』

「そうそう、それそれ」


 ラウルの確認に、氷の女王が二杯目の林檎シャーベットを頬張りながら答える。

 ツェリザークの邪龍の残穢は、氷の女王にとっても看過できない問題。故にレオニスとラウルは、氷の女王にも邪竜の島討滅戦のことを話して警戒するよう伝えておいたのだ。


『今のところ、外にいる氷の精霊達からそのような報告は来ていないから、大丈夫だとは思うが。何かあったのか?』

「ああ。邪竜の島が一昨日天空島に奇襲をかけてきてな。そのまま討滅戦に突入して何とか勝利したんだ」

『そうなのか!? 皆無事に生き延びたのか!?』


 ラウルの話に、氷の女王が驚きながら皆の安否を心配そうに尋ねる。

 天空島には彼女の姉妹である光の女王と雷の女王がいるし、ラウルだけでなくレオニスも参加すると聞いていたので、奇襲を受けた知ってかなり心配しているようだ。


「ああ。うちのご主人様はもちろんのこと、光の女王や雷の女王、天空樹のエルちゃん他天空島の住民達は皆無事だ」

『そ、そうか、それは良かった……』


 ラウルの口から二人の女王達の無事を聞き、氷の女王はほっ……と安堵している。

 氷と光、そして雷。属性こそ違えど、彼女達は各属性の精霊達の長にして姉妹。姉妹の安否に気を揉むのは当然である。

 そして氷の女王は林檎シャーベットを食べる手を止めて、真剣な眼差しで思案している。


『しかし、そうなると……この地にいつ何時、邪龍の残穢が山と現れてもおかしくはない、ということだな?』

「その通り。一応人族の組織でも、七日は厳戒態勢を取ると言っていた。氷の女王の方も、しばらくは警戒しておいてくれ」

『承知した。次の雪解けが来るまでは、油断せずに雪原を見張っておこう』

「そうしてもらえるとありがたい」


 氷の女王の事態の飲み込みの早さに、ラウルは内心で感心する。

 しかし、氷の女王の懸念は止まらない。

 ラウルの黄金色の瞳を真っ直ぐ見つめながら、心配そうに呟く。


『だが……例えば我が邪龍の残穢を発見したとして、その後どのように対処すべきであろうか? 我はこの氷の洞窟の外に出て遠く離れることは叶わぬし、かと言って人族の街や其方達に直接伝える術もないし……』

「そうだな……そこら辺をどうするか、今のうちにちょっと考えておくべきだな」


 氷の女王の言葉に、ラウルも頷きつつ同意する。

 その懸念は尤もなもので、人族と長らく交流を断っていた氷の女王には、人族との繋がりはライト達三人を除いてほぼない。

 そして彼女自身が洞窟の外に出て、邪龍の残穢と直接戦うというのも難しそうだ。


「……そしたら、氷の精霊に伝言を頼めばいいんじゃないか?」

『氷の精霊に、か? それくらいなら我にも可能だとは思うが……どこの誰に伝言をすればよいのだ?』

「この雪原から最も近い人里―――ツェリザークという名前の街なんだが。そこに冒険者ギルドという組織があるから、そこを訪ねて…………って、あんた達精霊には冒険者ギルドって言っても分からんよな……」


 ラウルが妙案を思いついた!とばかりに説明を始めるも、次第にその勢いが落ちていく。

 自分(ラウル)は普段からツェリザークに出入りしていて、冒険者ギルドやいろんな店と繋がりがある馴染み深い街だが、つい最近までずっと引きこもり状態だった氷の女王にツェリザークのことなど微塵も分かるはずがない。


 このことに気づいたラウル。

 再び思案顔になり、頭の中であれこれと考えを巡らせる。


「……よし、そしたら俺の方から冒険者ギルドに話を通しておこう。街の外には門を守る番人がいて、いつも誰かしら見張りでいるから、その門番に異変を知らせてくれれば冒険者ギルドに連絡が行くようにしよう」

『ふむ、では我は氷の精霊を使って、その門番?に邪龍の残穢の発生を伝えればよいのだな?』

「ああ。そうすれば、冒険者ギルドを通して俺やご主人様達にもその情報を迅速に伝えてもらえるはずだ」

『分かった。この地で万が一のことが起きた場合にはそうしよう。しかし……』


 ラウルの案に、氷の女王も頷きつつ承諾する。

 だが、氷の女王の表情はどことなく浮かない。

 その理由は、彼女の口からぽつぽつと出てきた。


『どうせなら、我も他の女王達のように、其方に直接言葉を伝えられればいいのに……でも、其方の住む街にはあまり雪は降らんのだよな?』

「ああ。ラグナロッツァもカタポレンの森もほとんど雪は振らんし、降ってもほんの少しで二日か三日もすれば融けちまう」

『それでは氷の精霊を遣わすこともできん……全く以って口惜しいことよ』


 口を尖らせながら残念がる氷の女王。

 これが他の属性の女王達なら、ラウル達と連絡を取ることは然程難しくない。

 火の女王や炎の女王なら、台所や焼却炉の火を通して火の精霊を遣いに出せるし、光の女王なら日中、闇の女王なら夜中に精霊を動かすことができる。

 他にも水の女王はウィカがいるし、風の女王や地の女王だって精霊を遣わすのにほぼ制限はない。


 そう考えると、あらゆる属性の中で最も身動きが取り難いのは間違いなく氷の精霊だろう。

 氷の精霊を動かすには、雪が降る冬以外の季節は論外だし、その冬の最中ですらも場所によっては雪がろくに降らないのだから。

 ラウルのことを最も愛する氷の女王が、思うようにラウルと接触できないというのは何とも皮肉な話だ。

 それを悔しがる氷の女王に、ラウルが慰めの言葉をかける。


「……ま、こればかりは仕方がないさ。俺もこの冬はできるだけ、ツェリザーク近郊や氷の洞窟の周辺に雪狩りをしに来るから。だからそんなに落ち込むな」

『……本当か? そしたら雪狩りするだけでなく、我にも会いに来てくれるか?』

「ああ。氷の女王に会うだけでなく、玄武のご飯やおやつも差し入れしたいしな」

『約束ぞ?』

「もちろんだ。さすがに毎日とかは無理だがな。それでも週に一、二度はツェリザークを訪れると約束しよう」


 最初のうちこそ眉をハの字にして落ち込んでいた氷の女王だったが、ラウルの慰めによってその顔に明るさが戻っていく。

 ツェリザークの氷雪をこよなく愛するラウルにとって、ツェリザーク近郊の平穏を保つことは最重要課題だ。

 レオニスがいつも行っているカタポレンの森の警邏じゃないが、ラウルが週に何度かツェリザーク近郊で雪狩りを兼ねて警邏することで邪龍の残穢対策ができるなら一石二鳥である。


 そして、ラウルの言葉は『ツェリザークと氷の洞窟の平和は、俺が守る!』と言っているようなもの。

 実際はそこまで言ってはいないのだが、少なくとも氷の女王にはそのように聞こえる。

 おかげで氷の女王のラウルを見る眼差しの熱さ、ラウルを恋い慕う思いは既に限界突破である。


『ラウル……其方がいてくれて、本当に良かった』

「そうか? 俺こそ氷の女王にはいつも世話になってるからな。その恩返しが少しでもできれば幸いだ」

『其方が木の精でなければなぁ……いや、それを言ったらお終いか。我こそ氷の精霊でなければ、もっと自由に動けるのだからな』


 ラウルの頼もしさに感謝しつつ、我が身を呪う氷の女王。

 自嘲気味に寂しげな笑顔を浮かべる氷の女王に、ラウルは冷たくなったコーヒーを啜りながら語る。


「生まれを嘆いたってどうにもならんさ。俺だってかつてはプーリアなんぞに生まれたことを激しく憎み、呪ったものだが……それでも今は、何だかんだ幸せだと思っている」

『其方程の才ある者でも、不幸だと思う時代があったのだな……でも、今が幸せなら良かった』

「ああ。今だってこうして、氷の女王や玄武とも楽しくおやつを食べていられるしな!」


 過去の恨み辛みは忘れ、今は幸せだとはっきり言い切ったラウル。

 その笑顔はとても眩しく、我が身を嘆く氷の女王の悲しみを溶かして余りあるものだった。


『ああ……そうだな……我も今はとても幸せだ。長らく不在だった神殿守護神の玄武様にご降臨いただけたし、其方ともこうして美味しいおやつを食べていられる。これ以上の幸せはない』

「これから玄武が大きくなって、守護神としての力がもっと強くなれば、氷の女王も少しくらいは外に出られるようになるさ。なぁ、玄武?」


 突然ラウルに話を振られた玄武。

 五個目のホールのアップルパイを食べている真っ最中だったので、声こそ出せなかったが代わりに右前肢をピッ!と上げて応える。

 食いしん坊だが頼もしい守護神に、ラウルも氷の女王も思わず微笑む。


「俺が知る他の属性の女王達も、行動に制限はあるようだが……それでも絶対に外に出られない訳じゃない。それはこないだ水の女王がここに来たことからも分かるだろう?」

『ああ。我も雪が降る季節のうちなら、少しくらいは外に出られるであろう』

「そしたら今度、うちのご主人様達やアル達といっしょに雪合戦でもするか」

『それはいいな!』


 ラウルの思いがけない提案に、氷の女王の顔は白く輝く。

 しかし、アル達銀碧狼親子はともかくライトやレオニスが雪合戦に参戦するとか、この執事は何と恐ろしいことを提案するのだろう。

 あの二人が本気で雪合戦したら、直径1メートルを超える巨大な雪玉が剛速球となってビュンビュンと飛び交いそうだ。

 そしてその巨大雪玉は、雪合戦終了後に全てラウルの空間魔法陣に収納されるに違いない。

 遊びと実益を兼ねる一石二鳥の策を講じるとは、さすがは万能執事ラウルである。


 そうしてラウルは氷の女王への伝達事項をきちんと伝え、氷の洞窟の入口まで見送りに出た氷の女王と玄武に見送られながら、ツェリザークの街に戻っていった。

 うおおおおッ、時間ギリギリだぁぁぁぁッ><

 後書きはまた後程追加しますー><


【後書き追記】

 ラウルと氷の女王のラブラブお茶会?を兼ねた、邪龍の残穢対策の話し合いです。

 ラウルのツェリザークお留守番がなくなった分、ぶっちゃけ今回は作者が氷の女王様へのご機嫌取り接待に腐心したようなもんです、はい(´^ω^`)

 とはいえ、どの道邪龍の残穢の対策は当分続けなければならないため、そこら辺の説明やら下地作りも兼ねてはいるのですが。


 というか、最後の方でラウルがとんでもねー提案を出してきた件…( ̄ω ̄)…

 ライトとレオニスといっしょに、ツェリザークで雪合戦するだとぅ!?Σ( ゜д゜)

 あの二人がやる気満々の本気モードで雪合戦なんぞおっ始めたら、とんでもねー絵面しか浮かばねぇんですが_| ̄|●

 ちょっと、ラウル!アンタ、何てことしてくれてんの!?

 ツェリザークに血の雨が降ったらどーすんのよッ!(`ω´)


 駄菓子菓子。これを本編でやるかどうかは分かりませんが、むしろ本編でやり損ねてもいつかSSネタにはできそうだなー、とも思う作者。

 ま、血の雨が降らない程度のものにして、いつか書きたいなーとは思います(^ω^)

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