第1212話 ヴァイキング道場での披露宴
その後森の警邏から帰ってきたレオニスとともに遅めの朝食を摂り、支度を整えてラグナロッツァに移動したライト。
冒険者ギルドの転移門でホドの街に二人で移動した。
時刻は午前十時を少し回ったところ。
空は雲一つなく晴れ渡り、披露宴という晴れの門出には最高の天気だ。
ヴァイキング道場本部で執り行われるアマロの披露宴は、十一時より開宴となっている。
時間に余裕を持って行動するのは良いことである。
「今日のホドは、すっごく良い天気で良かったねー」
「ああ。二日目の披露宴は、晴れたら庭園でも開宴するって言ってたからな。これだけ天気が良けりゃ良い式になるだろ」
「きっとたくさんの人がお祝いに来るんだろうねぇ」
「そりゃあな。何てったって天下のヴァイキング道場次男の披露宴だ、友人知人や門下生達以外にも各方面から祝いに駆けつけるだろうさ」
冒険者ギルドホド支部を出て、ヴァイキング道場までの道すがらのんびりと会話するライトとレオニス。
今日のアマロの本部での披露宴は、いわゆる『ガーデンパーティー形式』らしい。
真冬のガーデンパーティーと聞くと少々身構えてしまうが、今日の天気なら問題ないだろう。
そして今日の二人の服装は、いつもと全く違う。
ライトはラグーン学園の制服、レオニスはスーツ姿である。
ライトが学園の制服を着るのは、学校に通う子供ならではの正装であり公の場での正装ともなるからだ。
そしてレオニスのスーツは、ライトがラグーン学園に入学する時に誂えたものである。
いや、ヴァイキング道場での披露宴ならば、普段の深紅のロングジャケット他冒険者としてのフル装備で出席しても多分大丈夫だろうとは思うのだが。
そこはやはりお祝いの場ということもあり、物々しくて厳つい冒険者の正装よりはスーツの方が相応しいだろう、ということで久しぶりに引っ張り出してきた、という訳だ。
一年と二ヶ月ぶりに見る、レオニスのスーツ姿。
この貴重な姿は、ともに長く暮らしているライトですら滅多に拝めるものではない。
最高級の服に着られることなく、しっかりと着こなしているその姿は、一体どこの伝説カリスマホストか?というくらいに様になっており、キラキラとした眩い発光エフェクトすら自然発生している。そのあまりの眩しさに、ライトは目が眩んで瞑ってしまったほどである。
伝説のカリスマホスト再臨に、ライトのテンションはそれはもう駄々上がりのMAXだった。
「レオ兄ちゃん、やっぱりそのスーツ姿もすっごく格好いい!」
「そ、そうか? 何だか照れくさいなぁ」
「うん、ホントホント!レオ兄ちゃんて、何着ても似合うけど、今日は特別格好いい!」
「ライトのその制服も、ちょうどぴったりになってきたな」
「うん!ぼくだってちゃんと身長伸びてるし!」
二人してお互いの晴れ姿を褒め合いながら、キャッキャウフフする。実に長閑で平和な光景だ。
そんな晴れ姿のライト達、今日の披露宴会場であるヴァイキング道場本部に到着した。
門を潜るとすぐに受付があり、そこではバッカニア達『天翔るビコルヌ』の三人が受付担当していた。
「よう、バッカニア」
「お、レオニスの旦那じゃねぇか!何やら重大な任務を控えているって聞いたが、来てくれたんだな!」
「そりゃもちろん。アマロの目出度い門出だからな、何をさて置いても駆けつけるさ」
「ありがとう!アマロ兄も親父達も、皆喜んでくれるぜ!」
受付の芳名帳にスラスラと二人分の名前を記帳するレオニス。
その間に、ライトもバッカニア達と会話をしていた。
「坊っちゃんまで来てくれたのか、ありがとうなぁ」
「バッカニアさん、お兄さんのご結婚、本当におめでとうございます!」
「それ、ラグーン学園の制服だよな? 坊っちゃんによく似合ってるぜ」
「スパイキーさん、ありがとうございます!皆さんのスーツ姿も、すっごく格好いいです!」
「ぃゃぃゃ、ボクらがこんなん着てても似合わないのは分かってるけどね? うくく……」
和やかな会話を交わすライトとバッカニア達。
今日のバッカニア達も、レオニスと同じくスーツを着用している。
さすがにバッカニアの二角帽子や黒薔薇眼帯、スパイキーの半裸状態等々普段の服装は一時封印したようだ。
三人ともピシッ!としたスーツを身にまとい、受付でおとなしく座って受付対応している姿は実に珍しい。
特に二角帽子を被らないバッカニアなんて、こんな目出度い席でもなければまずお目にかかれない激レアシーンだ。
芳名帳への記帳を終えたレオニス。
再びバッカニア達に声をかけた。
「これでいいか?」
「どれどれ……おう、バッチリだ」
「じゃ、中に入らせてもらうぞ」
「ああ、俺達も受付が終わったら後で合流するから、また後でな!」
「おう、待ってるぞ」
受付を済ませたレオニスが、右手をひらひらとさせながら奥に向かって歩いていく。
ライトはバッカニア達に軽く一礼した後、レオニスの後をついていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
披露宴の主催場である庭園では、既にたくさんの人々が集まっていた。その数既に百人近くはいるだろうか。
時刻は午前十時半少し前だというのに、もうこんなに大勢の人々が来ているとは驚きだ。
庭園にはとても大きなテーブルがいくつか置かれていて、門下生達が本館から料理や飲み物を次々と運んできている。いわゆる立食パーティー形式のようだ。
もちろんテーブルばかりではなく、来客達が座るための椅子も随所に用意されている。
新郎新婦の入場こそまだのようだが、広い庭園のあちこちでは既に交流を始めている人達もいる。
それはヴァイキング道場を巣立った卒業生達の再会だったり、あるいは武術業界の重鎮達の顔合わせの挨拶だったり。
アマロの結婚式を通じて、様々な交流やちょっとした会談がそこかしこで生まれていた。
レオニスは、なるべく目立たぬよう外壁近くに移動する。
こういう大人数が集まる場所にいると、中には世界最強の冒険者に取り入ろうと擦り寄ってくる者も結構いたりするのだ。
友を祝うための場で、そのような不快な目に遭いたくないとレオニスが思うのは当然のことである。
ちなみに今日レオニスがスーツを着てきたのも、実はそこら辺が理由の一つだったりする。
ライト曰く「いつもの赤い格好だと、レオ兄ちゃんだってすぐにバレちゃうじゃん? でも、普段滅多に着ることのないスーツで行けばいつもより目立たなくなって、変な人に絡まれる率も絶対に減るよ!」とのこと。
確かにそうだな、とレオニスも納得できたので、今日はおとなしくスーツを着用した、という経緯である。
うちのライトは本当に賢いよな!とレオニスはつくづく思う。
そしてそのライトのプチ予言通り、レオニスが面識のない者から声をかけられることはほとんどなかった。
寄ってくるとしても、それがレオニスだと分かるくらいにはレオニスをよく知る知己くらいのものだった。
その数少ない知己のうちの二人、コルセアとレイフがレオニスのところに来た。
「レオニス殿、ようこそ来てくださいました!」
「レオニス君、こないだぶり!」
「おお、コルセアにレイフか。今日はアマロの目出度い門出、ほぼ飛び入りのようなもんだが、こうして招いてもらえて光栄だ」
「光栄だなんて!こちらこそ、レオニス殿にアマロの新たなる門出を祝ってもらえて実にありがたいことです!」
「つーか、そんなん今更じゃね? だってレオニス君が飛び入りするのなんて、いつものことだし」
「違ぇねぇwww」
「「ワーッハッハッハッハ!」」
今日の主役の新郎兄であるコルセアやレイフと、仲良く会話するレオニス。
特にレイフは三男坊気質が強く、レオニス同様『遠慮? 何ソレ、美味しいの?』な性格なので、二人してふんぞり返りながら高笑いしている。
ヴァイキング道場主一家であるパイレーツ家も基本脳筋一族なので、元祖脳筋族のレオニスとも非常に気が合うのだ。
「しかし、お前ら四人の中でアマロが一番先に結婚するとはなぁ。俺はてっきりコルセアが一番最初に世帯を持つもんだと思ってたよ」
「そこら辺はまぁ、縁次第ですからねぇ」
「そうそう。コルセア兄だって、決してモテない訳じゃないんだぜ? だけどほら、コルセア兄はヴァイキング道場の次期道場主だからさ。跡継ぎを支える連れ合いともなると、その資質とかいろいろ考えなきゃならん訳よ」
「そうだよなぁ。コルセアの立場になると、ただ単に恋愛結婚できりゃいいってもんじゃねぇもんなぁ」
アマロの結婚の話から、必然的に流れは他の兄弟達の結婚話になっていく。
アマロはヴァイキング道場第一支部の支部長という立場だが、それでも次男で道場の後継者ではないだけまだ身軽な方だ。
本当に大変なのは、ヴァイキング道場の跡継ぎであるコルセアである。
コルセア自身痛い程よく分かっているのか、レオニス達ののんびりとした会話にただただ苦笑いするのみだ。
しかし、そうした結婚話が飛び火するのは何もコルセアばかりではない。
それは結婚適齢期真っ盛りであるレオニスにも及ぶ。
「つーか、レオニス君は結婚まだなの?」
「俺の場合、結婚以前に嫁候補すらまだいねぇわ」
「えー、レオニス君ほどの人なら絶対にモテまくりでしょ?」
「それがなぁ……俺、お前らが思う程モテねぇんだよな」
「そうなの? ラグナロッツァにはレオニス君以上のイケメンがゴロゴロいるってこと?」
「分からん。ただ、冒険者という稼業は普通の女性には敬遠されがちなのかもしれん」
「あー、それはあるかも」
何の気なしに無遠慮に尋ねるレイフに、レオニスもはぁー……と深いため息をつきつつガックリと項垂れる。
女性に縁がないのは今に始まったことではないのだが、確かにレオニスが言うことも一理ある。
『冒険者稼業は危ない仕事』というイメージが強く、一般女性からは敬遠されがちな職業ナンバーワンなのだ。
「……ま、俺のことなんざどーでもいいんだよ。コルセアもレイフも、良い人見つけてまた俺を結婚式に呼んでくれよな」
「そりゃまたそのうち、な!つーか、次はコルセア兄だと思うぜ? だって俺もバッカニアも、当分そんな予定ねぇし!」
モテない陰鬱話は早々に切り上げて、次の結婚式を催促するレオニス。
そんなレオニスの責任転嫁?に、レイフが右手を縦に大きく振りながらカラカラと大笑いする。
そんなお気楽なレイフに、コルセアは眉間に皺を寄せながら苦々しい顔で呟く。
「馬鹿者が……私にだって当分そんな予定はないわ」
「えー、そなのー? 俺達四兄弟、皆そこそこイケメンだと思うのになぁ? 何でこんなにモテないんかね?」
「知らん。レイフはそのチャラチャラとした軽い性格のせいではないのか」
「そうかもな!」
長兄コルセアの肩に腕を置き、ニカッ!と笑いながらコルセアのちょっとした嫌味を軽く受け流すレイフ。
長男らしい生真面目な性格のコルセアと、コルセアの言う通り典型的なチャラ男のレイフ。
一見真反対に見える性格同士ながらも、お互いに反目したり嫌い合っている訳ではない。それどころか、お互いに言いたいことを言いたいだけ言い合える、本当に仲の良い兄弟であることが彼らの表情から見て取れる。
跡目争いなど絶対に無縁であろう仲睦まじい兄弟のやり取りを、ライトもレオニスも微笑みながら見守っていた。
ライトとレオニスのお出かけ、ホドのヴァイキング道場での披露宴のお話です。
レオニスのスーツ姿なんて、第71話のラグーン学園入学日でのお披露目と第227~231話でライトの命令で着させられて以来です。
約1000話の時を経て、実に久しぶりの激レアシーン再来でございます!゜.+(・∀・)+.゜……って、そんな大層なもんじゃないんですけど(´^ω^`)
まぁね、レオニスだってこういう祝いの場ではね、ゴツい冒険者仕様の正装よりもフォーマルな衣装を身にまとうべきだし、人避けという意味でもスーツ着用は合理的なのです(^ω^)
でもって、後半の結婚云々の話。
こんなん今の時代に言ったら、即セクハラパワハラ案件になってしまうことは重々承知しております…(=ω=)…
でもねー、披露宴という場だと話の繫ぎとしてついつい聞いてしまうのもまた事実なんですよねぇ。特に滅多に会わない同士だと、互いの近況を探る意味でも尋ねちゃうし。
ここら辺非ッ常ーーーにデリケートな問題ではありますが。拙作は架空の物語&話中の子達も全員皆キニシナイ!族なので、ここは一つ大目に見てやってくださいまし<(_ _)>




