第1189話 光の女王の決意
マキシやパラスと分かれた後のレオニス。
天空神殿前にいる光の女王のもとに向かった。
そこでは今も光の女王とアラエルがいて、邪竜の瘴気を浴びてグロッキー気味の天使やシュマルリの竜達の治癒魔法を施していた。
しかし、負傷者の数は思った程多くはない。
レオニスが天空神殿前に着いた時点で、そこにいたのは天使が二人、獄炎竜が二頭、迅雷竜が一頭いるだけだ。
もっと悲惨な野戦病院状態も覚悟していたレオニスだったが、そこまで酷くなっていないことに少し安堵していた。
『レオニス、いらっしゃい』
「光の女王、お疲れさん」
「あ、レオニスさん!」
「アラエルもお疲れさん」
レオニスが近づいてきたことに、光の女王とアラエルが早速レオニスに向けて挨拶をする。
もちろん両者とも、レオニスがこの神殿の島に来た時点で気づいてはいたのだが。レオニスが先にマキシやパラスと話していたのを見て、後でこっちにも来るだろうと思って負傷者の治療を優先していたのだ。
レオニスは光の女王の横に立ち、早速話を切り出した。
「光の女王、少し話があるんだが。今大丈夫か?」
『……そうね、今は負傷者も少ないし大丈夫よ。アラエル、ひとまずここを任せてもいいかしら?』
「お任せください!」
光の女王はレオニスの求めに応じ、少し離れた場所に二人で移動した。
そしてレオニスは、ユグドラエルやパラスにも話したことを光の女王にも聞かせていった。
それまでレオニスの話を静かに聞いていた光の女王。
レオニスの話が終わった後、しばしの沈黙の後徐に口を開いた。
『……そう。そういうことなら仕方ないわね。あの島は諦めましょう』
「すまんな。邪竜の島に関して、今後一切の禍根を残さず完全に断ち切るためにも、ここで一気に片をつけておいた方がいいと思う」
『分かったわ。そしたらあの島を落とすのに、おそらくはヴィーちゃん一羽だけでは戦力的に足りないわよね?』
「ああ。できればグリンちゃんにも力を貸してもらいたい」
レオニスの説得に応じた光の女王が、戦力状況を確認する。
天空島に住む二羽の神殿守護神、グリンカムビとヴィゾーヴニルはどちらともが非常に強力な力を持っている。
しかし、天空に浮く島一つを撃ち落とすとなると、決してそれは容易なことではない。ものすごく膨大なエネルギーが要ることは間違いない。
その膨大なエネルギーを、片方だけで賄おうとするのはどう考えても無謀としか思えないのは、光の女王にも容易に想像できた。
『では、その時が来たら私もグリンちゃんとともに出陣しましょう』
「ありがとう!恩に着る!」
『あらヤダ、レオニス。これは貴方が恩に着るようなことではなくってよ? ここは私達の住む天空島ですもの、私達の手で敵を滅ぼすのは当然のことよ』
「……ぁ、そっか、それもそうだな」
光の女王の出陣の快諾に、レオニスが思わずその決断に対する礼を言う。
だが、光の女王にしてみれば、レオニスに礼を言われるようなことではない。
何故ならここは天空島。彼女達が住む場所を、彼女達自身の手で守り抜くのは極々当たり前のことだからだ。
クスクスと笑う光の女王に、レオニスも照れ臭そうに右手で頭をガリガリと掻く。
二人して笑い合う姿は、戦場の最中にあってほんのひと時だけ許された和やかな時間。
そして二人はすぐに真顔になり、今後の話を続ける。
「ていうか、光の女王はここの結界も張っているんだよな? 戦線に入るためにここを離れても大丈夫か?」
『それは心配ないわ。先程からこの島の結界も、エルちゃん様が代わってくださってるから』
「そうなのか? エルちゃんは、ここ以外の他の島全部の結界を張っていると聞いたが……」
光の女王の話に、レオニスが心配そうな顔をしている。
神殿の島は光の女王の領域故、ユグドラエルも敢えて手を出さなかったところがあると思われる。
それが、いつの間にか神殿の島の結界までユグドラエルが担っていたとは、レオニスも初耳だ。
ユグドラエルの負担が増大したことに、レオニスが心配するのも無理はなかった。
しかし、次の光の女王の言葉により、それはレオニスの杞憂だったことを知る。
『エルちゃん様が仰るには、『ドライアド達が力を貸してくれているから大丈夫』なのだそうよ。そして『神殿の島も含めて、天空島の全ての島の防衛は私に任せなさい』と仰ってくださったの』
「おお、そりゃ頼もしいな!」
『でしょう? だからね、エルちゃん様のおかげで私も戦いに加わることができるのよ』
ユグドラエルが神殿の島の防衛まで買って出た理由を知り、レオニスが思わず破顔する。
ドライアド達の尽力により、天空島の防衛の要であるユグドラエルにもだいぶ余裕が出てきているらしい。
そのおかげで、光の女王は神殿の島を離れて参戦することが可能になっていた。
『……で、私達はいつ出ればいい?』
「そうだな……一応念の為確認しておくが、グリンちゃんもヴィーちゃんも夜明けの時が一番力が強いんだよな?」
『ええ、その通りよ。そして今のような真夜中は、私もグリンちゃん達も最も力を発揮できない時間帯ではあるわね』
レオニスの問いかけに、光の女王が頷きながら肯定する。
ヴィゾーヴニルが夜明けの時に最も力を発揮するというのは、神樹襲撃事件の時に証明済みでレオニスも承知している。
しかし、神鶏達以上に力を発揮できていないのが光の女王だった。
彼女はその名の通り、光を司る精霊の女王。
本来なら日の光が当たる場所が彼女の居場所であり、間違ってもこんな真夜中に起きて動き続けるような存在ではない。
現に今の彼女の身体から発する輝きは、日中時の一割にも満たない弱々しいものだった。
しかし、天空島全体の危機に直面した今、そんなことを言ってはいられない。
幸いにも空は雲一つなく晴れていて、闇夜の中でも月明かりが煌々と輝いている。
そのおかげで、光の女王は普段の一割にも満たない力でも何とか神殿の島に結界を張ったり、他者に向けて浄化魔法をかけることができていた。
「それならやはり、夜明けまで待った方がいいか?」
『できればそれが最も効果的ではあると思うけど……夜明けまで、まだかなり時間があるし……』
「そうなんだよな……」
レオニスは深紅のロングジャケットの内ポケットから懐中時計を取り出し、時計とにらめっこしつつ渋い顔をしている。
時計の針は、一時半を少し過ぎたところを指している。
今の一番の問題点は『夜明けまでまだ時間がかかる』ということだった。
今の時期、一月下旬は日の出の時間がかなり遅い。朝が来るまで、あと五時間くらいはかかるだろう。
果たして今から五時間もの間、絶え間なく涌き続ける邪竜相手に戦い続けられるかどうか―――如何にレオニスと言えども、全く予想がつかない。
しかし、ここでただ無為に立ち止まっている余裕などない。
『やれるか』『やれないか』ではなく『やるしかない』のだ。
それまでずっと懐中時計を藪睨みしていたレオニス。時計の蓋をパチン!と閉めて、意を決したように顔を上げる。
「とりあえず、邪竜を撃ち落とし続けながら夜が明けるのを待とう。その方が、標的である邪竜の島の目視も容易いだろうしな」
『そうね。そしたら私はここでもうしばらくの間、天使や竜達の瘴気浄化に務めるとするわね』
「ああ。そして夜が明けた瞬間に、グリンちゃんとヴィーちゃんに邪竜の島を攻撃してもらう。光の女王も、空が白んできたらグリンちゃんとともに前線に出てきてくれ」
『分かったわ』
だいたいの話が終わったところで、レオニスがふわり、と宙に浮いた。
「よし、そしたら俺は邪竜退治に戻る。もし万が一、こっちの方で何か緊急事態が起きたらマキシを遣いに出して、俺かピースに連絡してくれ。すぐに駆けつける」
『ありがとう、レオニス。貴方もどうか気をつけて』
「ああ」
光の女王に見送られながら、レオニスは邪竜の島のある方向に飛んでいった。
今回ちょっと文字数少なめですが、キリのいいところで一旦締めました。
引き続き、各所への根回しや連絡に奔走するレオニス。何かと大変ですが、いつどんな場面においても報連相は大事ですからね!(`・ω・´)
そして、基本誰も得しない作者のスマホ最新事情。
作者は先日、ようやくスマホの買い替えを実行しました!
実に三年ぶりの買い替えで、しかも新品じゃなくてAランクの中古美品なんですが。……って、ここら辺は先日の活動報告『 祝!総合評価8000点達成』にて冒頭の挨拶時にも書いたことなんですが。
ぃゃー、新しいスマホってやっぱりいいもんですね!゜.+(・∀・)+.゜
作者がスマホの買い替えを決意するのって、大抵が『画面保護のガラスフィルムがバッキバキに割れて、罅割れたところから発生する細かい破片で血を伴う怪我をする』のがきっかけなんですが。
今度のスマホも三年くらいは扱き使うことになるかなー。とりあえずは、あまり落っことさないよう扱いに気をつけます!




