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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
邪竜の島討滅戦

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第1188話 マキシの機転

 時は少し遡る。

 天空島に到着し、それぞれに与えられた役割を懸命に果たす八咫烏達。

 特に神殿の島で、光の女王とともに天使達やシュマルリの竜達に浄化魔法をかけ続けるアラエルの活躍は凄まじかった。


『アラエル、貴女のおかげでここに戻ってくる天使達の数や頻度がグンと減ったわ。本当にありがとう』

「もったいないお言葉にございます」

『八咫烏は皆高い魔力を持っている、というのは聞いたことがあったけど……噂通り、いえ、噂以上ね』

「過分なお言葉、恐悦至極に存じます。ですが、私などまだまだ未熟者です」


 アラエルの働きを手放しで褒め称える光の女王に、アラエルは真面目な顔で受け答えしている。

 実際アラエルがマキシとともにこの神殿の島に来てから、天使やシュマルリの竜がここに来て浄化魔法をかけてもらう回数がかなり減った。

 それは、単純に浄化魔法の担い手が二者に倍増したというだけではない。アラエルがかけた浄化魔法の効果の持続時間が長く保つせいでもあった。

 おかげで今光の女王とアラエルは、こうして一息つきながらゆっくりと話せているのである。


 一方でマキシは、時折母アラエルにアークエーテルなどの魔力回復剤を渡しながら、母達から少し離れたところでグリンカムビに巨大野菜を与えて回復支援に回っている。

 そして今、マキシの目の前でグリンカムビとヴィゾーヴニルが巨大野菜を食べているところだった。


 この巨大野菜は、マキシが天空樹の島にいるラウルのもとにわざわざ出向き、頼んで譲ってもらったものだ。

「この島の周辺で警備してくれているグリンちゃんにも、回復のための野菜を食べさせてあげたい」というマキシの申し出に、ラウルも当然の如く快く応じてくれたのだ。


 ラウルから譲り受けた巨大なサツマイモやトウモロコシ、白菜などをグリンカムビが食べやすいように下拵えするマキシ。

 グリンカムビも時折神殿の島に戻ってきては、美味しそうに巨大野菜を啄んでいる。もちろん島の周辺に邪竜が一頭もいない隙を見ての行動だ。

 そしてグリンカムビから念話か何かで伝えられたのか、ヴィゾーヴニルも時折神殿の島に戻ってくるようになった。

 ヴィゾーヴニルこそ雷の女王とともに最前線で戦っているので、巨大野菜を摂取することで体力回復をする必要があるのだ。


「グリンちゃん、ヴィーちゃん、本当にご苦労さま。後でまたラウルに言ってお野菜をもらってくるから、遠慮なくどんどん食べてね」

『クエエエエッ♪』

『クカコケケッ♪』


 マキシが一枚一枚剥いで積み重ねた白菜の葉の山を、グリンカムビとヴィゾーヴニルが大喜びでもっしゃもっしゃと食べている。

 その様子を、マキシだけでなくパラスも微笑みながら見守っている。

 実はこの時、ちょうどパラスも自身に浄化魔法をかけ直してもらうために神殿の島に戻って来ていた。


 光の女王に浄化魔法をかけ直してもらい、同じくちょうど神殿の島にいた神鶏達の様子を見に立ち寄ったパラス。

 満足げに巨大野菜を食べ続ける神鶏達を見上げながら、パラスがふと呟いた。


「うむ……やはりグリン様もヴィー様も、ラウルの作る野菜が一番の大好物なのだな」

「え、そんなことないと思いますよ? さっきまであげてたパラスさん達の野菜だって、グリンちゃんもヴィーちゃんも美味しそうに食べてましたし」

「そりゃあな、グリン様もヴィー様もお優しい方々だから、我らが作る野菜もいつも喜んで食べてくださる。だがな……」


 それまでマキシと穏やかに会話していたパラス。

 瞬時にその目がキッ!と強い光を帯びたものに変わる。


「ラウルは常に大量の巨大野菜を常備し、空間魔法陣に収納していた。そのおかげで、此度グリン様もヴィー様もこうして体力回復できている。それに引き換え、我ら天使ときたら……備蓄を怠るなど愚の骨頂の極みッ……!」

「……ぁー、それはー……」


 眉間に皺を寄せながらギュッ!と目を閉じ、実に悔しげに歯を食いしばるパラス。

 拳もギュッ!と握りしめ、強い後悔に戦慄いている。


 マキシがラウル特製巨大野菜を神鶏達に与えていたと知った時、パラスも負けじと己の空間魔法陣に仕舞ってあった天空島産野菜を提供した。

 だがその数は微々たるもので、すぐに在庫が尽きてしまった。

 パラスはそのことに、忸怩たる思いを抱えていたのだ。


 しかし、パラスは知らない。その巨大野菜は、天空島の神鶏達のためだけに用意されたものではないことを。

 そう、ラウルはラキ達鬼人族の料理教室の先生もしているので、彼らのためにも巨大野菜を大量に作っては日々ストックに努めているのである。


 パラスはそんなことを知る由もないが、パラスの横で聞いていたマキシはその内幕を知っている。

 なので、パラスがそんなに後悔する必要もないことをマキシは察していた。


「あのー、パラスさん? ラウルの場合、もとから料理人としての食材に対する情熱が半端ないので……ああしてたくさんの手持ちを増やしておくこと自体が、ラウルの精神的安定にも繋がっているんです。ですので、パラスさんがそこまで悔いることはないですよ……?」

「いや、それでもだ。そもそも我らは天空島警備隊、全ての天空島の安全と防衛を担う役割がある。それは即ち、今日のようにいつ何時ここが戦場と化しても対処できるよう、あらゆる面において日々備えを怠ってはならんのだ。そのことを、地上の妖精であるラウルですら知っていたというのに、我らときたら……己の不甲斐なさを恥じるばかりだ!」

「…………」


 マキシが懸命に宥めるも、パラスの悔恨はますます深まるばかり。

 実際のところ、ラウルはそこまで深読みして巨大野菜を育てている訳ではないのだが。現状を見れば、遅れを取ったパラスが悔いるのも致し方なしか。


 するとそこに、神殿の島に新たに近づく者が現れた。

 それは、光の女王のもとを訪ねるために来たレオニスだった。

 上空からマキシの姿を確認したレオニスが、先んじてマキシに声をかけた。


「おーい、マキシ!そっちの方はどうだ!?」

「あッ、レオニスさん!」

「おお、レオニスではないか!」

「お、パラスもこっちに来てたんか!」


 互いの存在を確認した三人が、神殿の島で一ヶ所に集まる。

 神殿の島に降り立ったレオニス、マキシ達の傍にいたグリンカムビとヴィゾーヴニルの間に立ち、座り込んで白菜を食べている二羽の羽根をそっと撫でる。


「ヴィーちゃんもグリンちゃんも、頑張ってくれてありがとうなぁ」

『クエッ☆』

『コケッ☆』


 レオニスの労いに、神鶏達も嬉しそうに応える。

 そしてレオニスが神鶏達を撫でながら、状況確認を始めた。


「パラス、天使達の状況はどうだ?」

「瘴気に関しては、相変わらず芳しくないが……それでもこちらにマキシの母上、アラエル殿が来られてからはだいぶ状況が良くなったとは思う」

「そうか、ウルスにアラエルを連れてきてもらって正解だったな」

「ああ。光の女王様お一人だけで、我ら天使や竜達全ての瘴気回復の治癒を担うというのは、さすがにキツかっただろうからな」


 パラスから聞く状況改善の様子に、レオニスもほっとしている。

 そんなレオニスに、今度はパラスが問うた。


「そういうレオニスは、何故ここに? ピース達と良い作戦を練ることができたのを伝えに来たのか?」

「……いや、光の女王に伝えなきゃならんことがあってな」

「光の女王様に、か? それは私も聞いていいことか?」

「……そうだな、パラスにも聞いておいてもらった方がいいかもしれんな」


 パラスの問いかけに、レオニスも重たい口調で返す。

 光の女王への要件―――邪竜の島は奪還せず、撃ち落とさねばならないことを説明していった。

 レオニスの話を、パラスはずっと静かに聞いていた。


「……という訳なんだ」

「そうか……あの島は再び我らの手に取り戻すつもりだったのだが、それは叶わぬのだな」

「すまんな、そういうことになる」


 顔を曇らせながら、誰に言うでもなくぽつりと呟くパラス。

 そもそも天に浮く島は、全てが光の女王と雷の女王の領域だった。

 それが、ある日突然邪竜の群れにその一角を襲われてしまった。

 その後邪竜達に侵略された島は突如航路を変え、女王達の手の届かないところに奪われて今日に至る。

 パラスもそうした経緯を知っているだけに、レオニスの伝えた話には思うところがあるのだろう。


「……それも致し方なかろう。あの地が邪竜を生み出す元となっているのであれば、撃墜も止む無しだ」

「ああ。このことは既にエルちゃんにも話してあって、エルちゃんからも了承は得ている」

「そうか。ならば私から言うことは何もない。光の女王様も雷の女王様も、きっとご理解くださるだろう」

「だといいがな」


 それまで暗い表情だったパラスが、吹っ切れたような顔で肯定に回った。

 そのことにレオニスも、内心で安堵していた。


「じゃ、俺は早速光の女王に話を通してくる」

「ああ、私もそろそろ戦場に戻るとしよう」

「……あ、そうだ、パラスにもう一つ言っておかなきゃならんことがあったわ」

「ン? 何だ?」


 互いの持ち場に戻ろうとした直前。

 レオニスがはたと思い出したようにパラスを引き留めた。


「今畑の島のログハウスで、ピースに魔法攻撃力上昇の呪符を描いてもらっているところでな」

「おお、ツィちゃん様の事件の時に共闘したあの魔術師の呪符を使うのか!」

「ああ。ピース描く呪符は、短時間だが使用者の能力をものすごく飛躍させるからな」

「ピースが駆使する魔術の凄さは、私も実際に見てよく知っている。実に心強いな!」


 ピースの作る呪符を使うと聞き、パラスの顔が一際明るくなる。

 パラスは神樹襲撃事件の時にピースと行動をともにしていて、彼の持つ力の凄まじさを直接その目で見ている。

 神樹襲撃事件解決の立役者の力添えは、パラスにとってこの上ない朗報だった。


「でな、ピースの呪符を竜騎士達とパラス達天使に持たせる手筈になっている」

「それはありがたい!その呪符とやらは、どこで受け取ればいいのだ? 我らがログハウスに直接取りに行けばいいのか?」


 ピースの呪符の話を聞き、パラスが俄然乗り気でレオニスに繰り返し問いかける。

 そんな逸るパラスに、レオニスが宥めながら追って説明をしている。


「いや、ピースにはひたすら呪符作成に専念してもらわなきゃならん。だから、ラウルに頼んで三十分毎に出来上がった分の呪符を回収してもらい、まずは竜騎士達に配ることになっている」

「そうか、ならば我らの手に呪符が来るのはもう少し後ということだな?」

「ああ。何しろ天使達は総勢百人以上いるからな。全員に行き渡らせるには、それなりに時間がかかる」

「そうだな、言われてみればその通りだ」


 レオニスの解説に、パラスもはたと我に返りながら冷静さを取り戻す。

 そして希望に満ちた目で、前を向きながら改めて拳を握りしめる。


「しかし、あの者が作る呪符ならば待つ以上の価値はある」

「その言葉をピースが聞いたら、飛び上がる程喜ぶだろうな」

「そうなのか? この程度で大喜びするならば、後でいくらでも伝えよう」

「是非ともそうしてやってくれ。あいつは人から褒めてもらうのが、何より一番大好きなんだ」

「確と承った」


 ピースの性格『褒められるの大好き!』とレオニスから聞いたパラス。フフッ、と微笑みながらピースを褒める約束をする。

 貢献に対する報酬に、富や名誉、権力などを得て喜ぶのはパラスにも理解できる。だが、そんな目に見える褒美よりも他者からの賞賛が何よりの褒美になるならば可愛らしいものだ。


 そしてピースへの褒美を快く確約するパラスに、レオニスも嬉しそうに破顔する。

 魔術師ギルドマスターという地位にあるピースには、金銀財宝の富や名誉はあまり意味を成さない。どちらともピースは既に手にしているからだ。

 そんなピースが手放しで喜ぶ数少ない報酬、それが『誰かに褒めてもらうこと』。ピースがパラスに褒められて大喜びするところを想像しただけで、レオニスの顔も自然と綻ぶというものだ。


「ピースの呪符は、ラウルがその都度適任者に渡すことになっている。天使達にも、パラスの方からその旨伝えておいてくれ」

「承知した。レオニスも戦う以外でも何かと忙しそうだが、そちらも頑張れよ」

「おう、任せとけ」

「さぁ、ヴィー様。私とともに、雷の女王様のもとに参りましょう」

『コケコケッ!』


 パラスがふわり、と宙に浮き、巨大野菜を食べて元気モリモリに回復したヴィゾーヴニルとともに戦場に戻っていった。

 ヴィゾーヴニルの離脱とともに、グリンカムビもまたふわり、と飛び、神殿の島の防衛のために上空に飛び立っていく。

 パラスと神鶏達を見送ったレオニスは、改めてマキシに声をかけた。


「マキシも母ちゃんやヴィーちゃん達のお世話をよろしくな」

「お任せください!レオニスさんのご武運をお祈りしてます!」

「ありがとうよ」


 レオニスとマキシ、二人は互いの健闘を願い励まし合う。

 そしてレオニスは光の女王のもとに赴き、マキシもまたラウルの巨大野菜を譲り受けるために天空樹の島に飛んでいった。

 場面は神殿の島に移り、そこでの様々な様子をお伝えする回です。

 ここでもラウル特製巨大野菜が大活躍してます。ぃゃー、ラウルのラグナロッツァの家庭菜園を皮切りに、カタポレンの森に畑まで作り出したりして豪腕農家ぶりが驀進する度に作者は『どうしてこうなった?』と思っていたのですが。

 前話のログハウス同様、こんな戦場でもラウルの野菜が役に立つとは!


 ラウルの辣腕農家への道が始まったのは、思い返せば第350話の初回公国生誕祭の時。魔術師ギルドの出店での買い物と、その後書きから始まりました。

 そこから第431話で話が具体化し、とんとん拍子に第536話で家庭菜園用のガラス温室四棟を手に入れたラウル。

 さらにはラウルがライトからの紹介でオーガ族の料理教室を開催するようになり、その縁で第578話でカタポレンの森に畑を開墾する案を出し、どんどん畑を広げて今に至ります。


 こうして改めて振り返ってみると、ラウルが料理人以外の道を歩み出してから結構な月日が経ってんのね……と感慨に浸る作者。

 キャラ達が道を逸れて思わぬ方向に走り出すのは、何もラウルに限ったことではないのですが。それでも作者の中では、ラウルが一番想定外の化け方で最も進化を遂げてくれた子だと思います。

 とはいえまだまだ拙作は物語半ば。今後も主人公達はたくさんの寄り道と進化をしていってくれることでしょう( ´ω` )

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