第1180話 急がば回れ
昨日はお休みをいただき、ありがとうございました。
予定通り、本日より連載再開いたします。
魔術師ギルドの宿舎を出たレオニスとピース。まずは貴族街にあるレオニス邸に向かう。
天空島に移動するには、レオニス邸からカタポレンの森の家に移動して転移門を使うのが最も早道だからである。
人気のない深夜のラグナロッツァの空を、ピースが箒に乗って飛び、レオニスもそれに合わせて低空飛行で飛んでいる。
宿舎から出てしばらくした後、ピースがはたとした顔で大きな声を上げた。
「……あッ!レオちん、ちょっと待って!」
「ン? 何だ、どうした?」
「レオちん、月曜日の任務って確か、竜騎士団も参加する予定だったよね!?」
「ぁー……一応その予定だったが……」
急ブレーキよろしく空中でキキーッ!と止まったピース。
それにつられてレオニスも空中で一旦停止した。
「本当なら、竜騎士団も連れていきたいところなんだが……何しろ今は時間が惜しい。天空島で邪竜の群れに相当苦戦してるらしいからな」
「ならなおのこと、竜騎士達を連れていくべきだよ!ディラりん達が三十人体制で一生懸命準備してきたんだし!戦力としてもディラりん達は申し分ないんだから、絶対に連れていこう!」
「ディラりん……もしかして、竜騎士団団長とも知り合いか?」
「うん、小生魔術師ギルドマスターなんてもんをしてるからね。首都防衛に関連する組織の長とは、それなりに面識あんのよ」
「ああ、それもそうか」
ピースが竜騎士団団長であるディランのことを『ディラりん』と呼んだことにレオニスが驚くも、その後に聞いたピースの話に納得している。
竜騎士団はもとより、魔術師ギルドは主にラグナロッツァを覆う結界で魔物の侵入を防いでいる。
どちらもラグナロッツァの安全を守るために欠かせない組織であり、それら組織をまとめる長同士も必然的に会議やら何やらで顔を合わせることも多いのだ。
「でね、竜騎士団も小生達魔術師ギルドやレオちんの冒険者ギルド同様、夜勤とか夜の見回り巡回してんのよ。だから、今竜騎士飼育場に行けば、誰かしらと連絡は取れるはず」
「そうか。一人に連絡すれば、他の竜騎士達にもすぐに連絡がつくんだな?」
「そゆことー。万が一このラグナロッツァで緊急事態が起きた時とか、いつどこにいても迅速に集結できなきゃ話になんないからねーぃ」
「分かった。ならちょいと寄り道になるが、竜騎士団の飼育場にも行くか」
「うん!昔から言うでしょ、『急がば回れ』ってね!」
確かにピースの言う通りで、ここで更なる強力な援軍を得て天空島に駆けつけることができれば、それに越したことはない。
空中で止まっていたレオニス達は、方向を変えて竜騎士団の専用飼育場に向かって飛んでいった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そうしてレオニスとピース、二人が竜騎士団の専用飼育場に到着した。
正門は閉められているので、少し離れた通用口の方に回る。
そしてここで、ピースが通用口横にある謎のパネルに右手を翳した。
すると、カチッ!という通用口の扉の鍵が開いた音がした。
後で聞いた話によると、要は指紋認証のようなもので、ピースやマスターパレンなど他組織の重鎮や公的人物は、互いの施設に常時フリーパスで入れるよう予め登録してあるのだという。
ちなみに冒険者ギルドや魔術師ギルドの場合、一般人も通報などで出入りできるようにしておくため、そこまでセキュリティを高くしていない。
だが、竜騎士達が用いる専用飼育場はそうはいかない。
特に竜騎士達が乗る飛竜は竜騎士団の要であり、最も重要な資産だ。
そのため、飛竜がいる専用飼育場のセキュリティはかなり厳重な体制が取られているのである。
扉が開いた通用口から、中に入るレオニスとピース。
そして宿舎に向かい、ピースが宿舎の入口をババーン!と勢いよく開いた。
「おーい!誰かいるかーい!?」
シーン……と静まり返る玄関ホールで、しばし待つレオニス達。
程なくして、奥の方からバタバタと誰かが出てきた。
それは、竜騎士団副団長であるルシウス・クロフォードだった。
「誰だ!……って、ピース殿に……レオニス卿!?」
「あ、ルシルシ!今日の当直はルシルシだったんだねーぃ。他にはここに誰がいる?」
「今日は私とマックスが当直をしておりますが……何か大事でも起きましたか?」
最初こそピースとレオニスがいることに驚いていたルシウス。
だが、この二人が揃って現れたことに早々に何かを察したようだ。
ルシウスからの問いかけに、ピースが答える。
「うん。レオちんによると、今天空島が邪竜の群れに襲われてるんだって」
「何ですって!?」
「しかも、邪竜の勢いが相当なもんらしくて、天空島側はかなり厳しいらしいんだ。だから、ルシルシ達竜騎士にも援軍を頼みたいんだ」
「承知しました!そういうことでしたら、竜騎士全員に緊急招集をかけましょう!」
ピースの話を聞いたルシウス、即断即決で緊急招集を決めた。
これは、ルシウスが竜騎士団副団長という地位にあるおかげだろう。
そしてルシウスがレオニスに向かって問うた。
「レオニス卿、一応確認させていただきたい。その邪竜の群れとは、明後日我らが合同で討滅戦を行う予定だった邪竜の島、そこから出ているものなのですよね?」
「その通りだ。邪竜に占領された島を奪還する予定だったが、向こうが先に動き出してしまったらしい」
「分かりました。少しばかり予定が早まった程度なら、何ら問題はありません。もともと我らも参加する予定だった討滅戦ですし、何が何でも我らが使命を果たさねば」
レオニスの答えに、ルシウスもグッ、と拳を握りしめる。
「レオニス卿、五分だけ時間をください。現役の竜騎士は全員、この飼育場のすぐ横にある寮で過ごしています。今すぐ竜騎士全員と飛竜を起こし、出立の準備をします」
「承知した。なら俺とピースは、宿舎横の転移門で待つことにする」
「分かりました。準備ができた者から、順次シュマルリのラグス様のもとに移動します」
ルシウスはそう言うと、駆け足で奥に戻っていった。
そして三十秒もしないうちに着替え、宿舎を飛び出していった。
レオニスとピースが宿舎の外に出ると、ピーーーッ!ピーーーッ!というホイッスルのような音が鳴っている。
これはルシウスが吹いている笛の音で、寝ている飛竜達を起こすためのものだ。
ぐっすりと寝ている飛竜達には可哀想だが、そこら辺は飛竜達も徹底的に訓練されていて、この笛の音が聞こえると真夜中でも目を覚まして飛ぶ準備をするのだという。
実際にレオニスとピースが宿舎横の転移門の脇で待機していると、厩舎で寝ていたであろう飛竜達が次々と表に出てきた。
そしてその間に、飼育場横の寮からも次々と竜騎士達が駆け出してきた。
服もちゃんと飛竜に乗る時の衣装に着替えている。
ルシウスに叩き起こされてから、まだほんの数分しか経っていないというのに。実に迅速な動きは、きっと日頃の訓練の賜物であろう。
寮から真っ先に飛び出してきたのは、竜騎士団団長のディランだった。
ディランは宿舎横の転移門の傍に立つレオニスとピースの姿を見つけ、急ぎ駆け寄ってきた。
「レオニス卿!ピース殿!」
「あッ、ディラりん!」
「話はルシウスから聞きました!天空島が邪竜の群れに襲われていると!」
「ああ、その通りだ。今ライトとラウルも、シュマルリの白銀や竜族達に天空島の危機を知らせて加勢を頼みに行っているところだ」
「おお、白銀の君や獄炎殿達にも既に知らせが届いているのですね!」
「それでもかなり厳しそうだがな……危機を知らせてくれた天使の話によると、白銀よりもデカい邪竜がうじゃうじゃ涌いているらしい」
「何と……」
天空島の現状に、一喜一憂するディラン。
白銀の君や中位ドラゴン達の加勢があるなら、きっと楽勝に違いない―――そう思った矢先に、白銀の君を上回る巨大な邪竜が多数いると聞けば、それは決して楽観できる戦いではないことをディランも早々に察した。
そしてここで、ディランがレオニス達に向かって頭を下げた。
「この火急時に、我らにもお声がけいただいたこと……本当に感謝いたします」
「礼を言われることじゃない。天空島の危機に立ち向かうには、少しでも多くの戦力が欲しいところだからな」
「それでもです。レオニス卿にとっては一分一秒も惜しく、すぐにでも天空島に向かいたかったでしょうに……」
レオニスに対し、深々と頭を下げるディラン。
実際レオニスも、一分一秒でも早く天空島に行きたかった。
しかしその逸る心を抑えて、ピースや竜騎士団という強力な戦力を連れていくことを選んだ。
その方が、結果的には天空島の危機を回避し救うことができる確率がグンと上がるからだ。
そしてディランもそのことを分かっているのか、頭を上げてレオニスを真っ直ぐに見つめる。
「しかし、こうしてお二方にお声がけいただいたおかげで、我らもシュマルリでの特訓を無駄にせずに済みそうです」
「だな。ディラン達も本当に訓練や修行を頑張ってたからな」
「はい。我らのシュマルリでの修行の成果、邪竜どもを殲滅することでお見せしましょう」
「頼んだぞ」
レオニスとディランが会話している間にも、続々と竜騎士達が飼育場に集結している。
ディランは後ろを振り向き、竜騎士達に指示を出した。
「相棒の飛竜とともに準備ができた者から順に転移門に入り、三組づつラグス殿のもとに移動せよ!そしてラグス殿の転移門から天空島に移動し、即時邪竜殲滅に向かえ!」
「「「はいッ!!」」」
ディランの指示に従い、それぞれの相棒の飛竜のもとに向かう竜騎士達。
誰かが飛竜達の腹拵えのために、転移門から少し離れたところでビッグワームの素を水魔法の水で浸して戻し、それを飛竜達に与えている。
水で戻ったビッグワームの肉?を、飛竜達がこぞってもっしゃもっしゃと食べる。
一頭につき二個のビッグワームの素を食べさせたら、飛竜の相棒の竜騎士がその背に乗り込み、宿舎横の転移門の中に入っていく。
その様子を見て、こっちの方はもう大丈夫だと確信したレオニス。
ディランに向かって声をかけた。
「そしたら俺達も天空島に向かおう。時間が惜しいから、できれば俺達もこの転移門を使わせてもらえればありがたいんだが、可能か?」
「そう仰るだろうも思って、徽章を二つ用意してきました。この徽章をお使いください。これがなければ、この転移門は使用できませんので」
「ありがとう!」
「ありがとう、ディラりん!」
レオニスの要請に、ディランが騎士服の胸元の内ポケットから二つの徽章を取り出し、レオニスとピースに一つづつ渡す。
この徽章は竜騎士の証として竜騎士達が身につけるもので、これがないと専用飼育場の転移門を使用することができないのだ。
レオニスとピースがそれぞれジャケットやローブに徽章を着けている間に、ディランから各種注意事項が言い渡される。
「その徽章は、事が終わった後私にお返しください」
「もちろん分かってるさ」
「あと、レオニス卿は私の飛竜に、ピース殿はルシウスの飛竜にお乗りください。飛竜とともに移動することが、転移門の使用条件となっておりますので」
「承知した」
レオニスとピースが準備している間にも、飛竜に乗った竜騎士達が転移門で瞬間移動していく。
そして最後の一組となったディラン、ルシウス、アリーチェの三者の飛竜が転移門に入り、移動していった。
シュマルリの竜族達に続く、第二の強力な援軍です。
ぃゃー、天空島の危機に竜騎士達を参加させるかどうか、作者も迷ったんですよ。文中でもレオニスが言ってた通り、それこそレオニスとしても一分一秒でも早く天空島に向かいたい気持ちでいっぱいでしたから。
でもねー、竜騎士達もシュマルリ研修やら猛特訓やらすっごく頑張ってきましたしねぇ……その描写も、拙作内で何度か出しましたし。
それが全て無駄になってしまうのは、作者としても忍びないというかディラン達が可哀想というか。後々彼らに『何で俺らを入れてくれなかったんだ!』と糾弾されそうで(;ω;)
とはいえ、そうした作者的事情を抜いてもディラン達竜騎士が強力な戦力となるのは間違いないことで。
まさにサブタイ通りの『急がば回れ』なのです(^ω^)




