第1179話 月曜日の任務
作者からの予告です。
明日は日中と夜も出かける予定が入りまして、執筆時間がほぼ取れそうにないので更新をお休みさせていただきます。
明後日からはまた投稿しますので、ご了承の程よろしくお願いいたします。
ライト達がシュマルリで竜族の瞬間移動を手伝っていた頃。
レオニスはラグナロッツァの屋敷から魔術師ギルドに向かって走っていた。
魔術師ギルドも冒険者ギルド同様に重要性の高い組織なので、万が一の緊急時に備えて夜間でも当直勤務の職員がいて二十四時間開いている。ただし、正門は閉まっていて裏口にある通用口から出入りするのだが。
魔術師ギルドに着いたレオニスは、裏口から建物の中に入った。
夜間に誰かが裏口から入ると、裏口の扉の内側に付けられている特殊な鈴が大きな音を立てて鳴り響く。
裏口のすぐ横には当直職員が詰める部屋があり、大きな鈴の音が鳴ると職員が気づき飛び出してくる、という仕組みだ。
レオニスが裏口の扉を開けた時も、カラン、カラン!という乾いた音が大きく鳴り響き、当直室から職員が出てきた。
「はいはぁーい、こんな夜中にどなたー?……って、レオニスさん?」
「ああ、俺だ。こんな夜中にすまんが、緊急事態が起きた。ピースと連絡を取りたい」
「え、マスターピースですか? 確か先程まで、執務室で公国生誕祭の出店に関する収支書類の整理などをされていましたので、今日はご自宅には帰らず職員用の宿舎でお休みになっているはずですが……」
「そうか、分かった。宿舎の方に行ってみるわ」
職員からピースの居所を聞いたレオニス、早速職員用の宿舎に向かおうとするも職員が慌ててレオニスを制止する。
「で、でしたら私もごいっしょします。如何にレオニスさんであっても、宿舎は原則として職員以外の関係者は立入禁止ですので」
「すまんな」
職員の言い分に、レオニスも素直に従う。
職員用の宿舎は魔術師ギルドの別棟として建てられており、裏口を出てすぐのところにある。
職員が宿舎の扉の鍵を開けて、まず先に中に入り一階奥にある仮眠室に向かった。
宿舎を借りている職員ではないピースがここで寝泊まりするとしたら、仮眠室以外にないからだ。
仮眠室の中には、入口左右に二段ベッドが一つづつあり、そのうちの左側の下の段のベッドにピースが寝ていた。
服はスウェットの上下の寝間着で、布団の中でもぞもぞと寝返りを打つピース。
夜遅くまで残業した後の安眠を妨げるのは忍びないが、今はそんなことを言っていられない。
早速レオニスが寝ているピースに声をかける。
「ピース、俺だ、レオニスだ。起きてくれ」
「ンにゃむにゃ……串焼き美味ちぃ……」
「ピース、緊急事態なんだ、起きてくれ!」
「もにゃもにゃ……呪符描き楽ちぃ……」
「…………」
レオニスがピースの布団を剥ぎ取り、その小さな身体を大きく揺さぶるも、なかなか目を覚まさない。
レオニスもあまり寝起きが良い方ではないが、ピースもかなり寝起きが悪い方らしい。
さてどうしたもんか……と悩むレオニスに、職員が声をかけた。
「レオニスさん、そんな起こし方ではマスターピースは朝になっても起きませんよ?」
「そうなのか? そしたらどうすりゃいいんだ?」
「私が手本をお見せしましょう」
「すまん、頼む」
二段ベッドの横にしゃがんでいたレオニスが立ち上がり、後ろに退く。
そしてレオニスと入れ替わりに職員がピースの横にきて、ピースの耳元で囁いた。
「マスターピース、お喜びください。ラグナロッツァ市場から百枚もの呪符作成依頼が入りましたよー」
「え"ッ!? 呪符百枚!?」
職員の甘美な囁きに、ピースがガバッ!と起き上がる。
三度の飯より呪符を描くことが大好きなピース。職員曰く『呪符の仕事が入ったと聞けば、どんなに深い眠りに入っていても飛び起きる』らしい。
ここら辺は、ピースの行動パターンや性格を知り尽くしている魔術師ギルド職員ならではの裏技的知識であろう。
飛び起きたピースの口からはヨダレが垂れていて、目もまだシパシパしてて寝ぼけ眼。しばしキョロキョロと左右を見回していた。
そして
「……ンぁ? レオちん??」
「おう、ピース、やっと起きたか」
「……あり? 呪符百枚のお仕事は……?」
「それはまた後で俺が浄化魔法の呪符を依頼するから安心しろ」
「ほぇぁ……うん、よろちくね……」
まだ若干寝ぼけ気味のピースに、宥めるように話しかけるレオニス。
呪符百枚という架空の依頼で目を覚ましたピースに、『アレは嘘でした!』と言うのは忍びない。
なので、レオニスは後で浄化魔法の呪符百枚を依頼するから、とピースに告げる。
実際この浄化魔法の呪符は、レオニスにとっても重要なアイテム。手持ちは何枚あっても困ることはないので、ここで追加の百枚を依頼しても全然問題ないのである。
「それよりピース、緊急事態だ」
「え、何ナニ、何かあったのん?」
「今度の月曜日の任務、覚えているか?」
「ぁー、うん、もちろん覚えてるよ? その任務に小生も参加するために、今日も公国生誕祭が終わってからもこっちで残業頑張ったんだし!」
「ぁー、うん、そりゃ大変だったな……」
レオニスと話をしているうちに、だんだん頭も働くようになってきたピース。
レオニスが言う『月曜日の任務』とは、言わずもがな邪竜の島の討滅戦のことだ。
日々多忙を極める魔術師ギルドマスターのピースがこの任務に参加するには、他の仕事をバリバリこなしておかねばならない。
そのために今日も残業をしていたと聞き、レオニスが申し訳なさそうにしている。
そもそも今日はアクシーディア公国生誕祭の最終日だったというのに、祭りの出店を畳んだ後も魔術師ギルドで仕事をしていたとは驚きだ。
そんなレオニスの驚きを他所に、ピースは腕を前に出して背伸びをしながらレオニスに問うた。
「ンで? 月曜日の任務がどうかしたのん?」
「その決行が前倒しになった」
「!!!!!」
レオニスの言葉に、ピースの顔が青褪める。
予定していた任務が前倒しになった―――これの意味するところを早々に察したピース。ベッドから飛び出して簡易クローゼットの前に移動し、服を着替え始めた。
「レオちん、すぐに着替えるから待ってて!」
「おう」
「ホセ君、小生今から出かけるけど、帰りはいつになるか分かんないから皆によろしく言っといて」
「分かりました。リンダさんには何とお伝えすればよろしいですか?」
「リンダっちぇには『月曜日の任務が早まった』って言えば分かるよ」
「『月曜日の任務が早まった』、ですね。承知いたしました」
スウェット上下の寝間着を脱いで、魔術師ギルドマスターの正装に急ぎ着替えるピース。
この正装はレオニスの深紅のロングジャケット同様、各種防御魔法や身体強化魔法が随所に組み込まれている。
これをフル装備することで、ピースもまた万端な戦闘態勢を取ることができるのだ。
そして着替えている間に、魔術師ギルド職員―――ホセに、自分が出かけた後のことを頼んでいる。
ちなみに彼らの会話の中で出てきた『リンダ』というのは、ピースの第一秘書を務める女性職員のことである。
月曜日の任務=邪竜の島の討滅戦のことは、別に秘密でも何でもないので魔術師ギルド上層部で情報共有している。
故に第一秘書にも『月曜日の任務が早まった』と言えば、その意味が通じるはずだ。
服を着替えて髪を結わえ、身支度を整えたピース。
改めてレオニスの方に向き直った。
「レオちん、お待たせ。さ、行こっか!」
「おう。ホセ、後は頼んだ」
「はい。お二人とも、どうぞお気をつけて」
職員のホセに後のことを頼んだレオニスとピースは、宿舎から駆け出していった。
レオニスによるピース連行の回です。
もともとピースも邪竜の島の討滅戦に参戦する予定でしたので、その日程を確保するために猛烈なスケジュール調整が必要な訳ですが。
今の時代、こんな働き方をリアルでしていたらブラック認定間違いなしですよねぇ…(´^ω^`)…
そしてリアルではゴールデンウィークも後半になり、今日を除いてあと二日となりましたね。
ぃゃー、ホンット何で休日ってのはこんなに早くに過ぎていくんでしょうね? 休日じゃない平日の時間とは絶対に流れの早さが違いますよね!?><
前書きにも書きました通り、明日は作者も一日だけお休みをいただきますが、まだ余暇や予定のある皆様方も、そうでない方々も、残り少ない黄金週間をお楽しみくださいませ<(_ _)>




