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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
邪竜の島討滅戦に向けて

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第1165話 ニッチな需要

 レオニスへの差し入れを無事届け、冒険者ギルド総本部を後にしたライト達。

 一旦入口横で立ち止まり、次にどこに行くかの相談を始めた。


「さて、次はどこに行く? 皆、どこか行きたい店とかあるか?」

「そうだなー……あ、そうだ、ピィちゃんのお店と冒険者ギルドの出店に行きたいな!」

「おお、そういやその二つはまだ行ってないな」

「そうですねー、僕も魔術師ギルドの呪符をいくつか買いたいから賛成です!」

「へー、公国生誕祭ではギルドの出店なんてのもあるの? 私は一度も行ったことないから、どっちも見てみたいわ!」


 ライトの提案に、ラウルとマキシ、そしてシャーリィも賛成する。

 魔術師ギルドと冒険者ギルドの出店には、昨年の公国生誕祭の際にもレオニスとともに行っている。

 ライトは魔術師ギルドマスターのピースとそこで初めて出会い、冒険者ギルドもマスターパレンのコーナーが大人気だった。

 どちらも最大手ギルドの出店とあって、かなりの人気を博していた。


「じゃ、早速行くか。ここからだとどっちが近かったっけ」

「魔術師ギルドの方が近いよー」

「なら魔術師ギルドの出店から見に行くか」

「「「はーい!」」」


 皆の意見がまとまり、早速四人は魔術師ギルドの出店に向かった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 魔術師ギルドの出店に到着したライト達。

 場所は去年と同じだったので、迷わずに辿り着くことができた。

 そして出店の前では、魔術師ギルドの呪符を求める人達でごった返していた。


「はいはーい!皆注ぅー目ー!」

「さぁさぁ、寄ってらっしゃい、見てらっしゃい!魔術師ギルドの凄腕呪符師が一筆一筆真心込めて描いた、スペシャル呪符達のお目見えだよーッ♪」

「机の上の呪符は見本なので、欲しい呪符が決まった人は机の奥にいる魔術人形(ゴーレム)1号ちゃんに声をかけてねー♪在庫があれば机の下から出してくれるよー」

「お会計は左側の小卓にいる魔術人形(ゴーレム)2号ちゃんと3号ちゃんのところでよろしくねッ!二列あるから、並んで順番にお会計してくれれば早く進むよー♪」


 底抜けに明るい声で、商品アピールと会計列の誘導に励む魔術師の声が聞こえる。

 その声の主こそ、誰あろう魔術師ギルドマスター、ピース・ネザンその人である。

 ピースの姿を見つけたライト達、早速近寄って声をかける。


「ピィちゃん、こんにちは!」

「ン? ……おおッ、ライっちにラウル君じゃないの!おッひさ久々ー!」

「今年もギルドマスター自ら売り子してんのか?」

「もッちろん!この売り子のお仕事は、小生にしか務まらないからね!……てゆか、万が一小生からこの仕事を分捕ろうとするヤツがいたら、本気でヌッ殺しちゃうッ☆」

「ぉ、ぉぅ、そうか……まぁな、仕事熱心なのはいいことだ」


 ライト達の顔を見たピース、花咲くような笑顔でライトの手を握る。

 ライトとピースが直接顔を合わせるのは、昨年夏のユグドラツィ襲撃事件以来。約五ヶ月ぶりである。

 その間レオニスとは、魔宝石や浄化魔法の呪符のやり取り、そして来たる邪竜の島の討滅戦の打ち合わせなどで割と頻繁に会っている。

 だが、ライトやラウルには魔術師ギルドに出入りするような用事も口実もないので、ピースとはなかなか会えないままでいた。


 そしてこの売り子という仕事を、絶対に誰にも渡さんぞ!と意気込むピース。

 ピースは普段から書類仕事に追われて執務室で缶詰状態なので、こうした開放的な仕事はピースにとって良い気晴らしとなる。

 さらにこの出店は、年に一度の公国生誕祭。この晴れ舞台の仕事は、ピースにとって誰にも譲れないものなのである。

 そんなピースが、ふとキョロキョロと周囲を見回した。


「てゆか、今日はレオちんいないのん?」

「あ、えーとね、今年のレオ兄ちゃんのお休みは三日目なんだよね。だから今は、冒険者ギルドでお仕事中なんだ」

「あー、そっかー……高位の冒険者は万が一に備えてギルドに待機しなきゃなんないんだっけ」

「うん。お祭りが一日しかいっしょに楽しめないのは寂しいけど……お仕事だから仕方ないよね」


 レオニス不在の理由を知り、ピースも頷きながら得心する。

 魔術師ギルドマスターであるピースだって、公国生誕祭中にこうして売り子として出店で働いている。これはピース自身が好んでしてやっていることではあるが、実は他にもう一つ重大な意味がある。

 公国生誕祭の最中ずっと出店にいることで、レオニス同様何かしら事件が起きた時にすぐに出動できるよう、売り子と待機を兼ねているのだ。


 しかし、レオニスやピースなど力ある者が守備や防衛を担うのは当然のことではあるが、そのためにライトが寂しい思いをしているのもまた事実。

 ちょっぴり寂しそうに微笑むライトに、ピースもやるせない気持ちになりながら、努めて明るい声で話しかける。


「ささ、ライっち、ラウル君、そしてお連れさんも!良かったら魔術師ギルド謹製の呪符を見てって!いろんな新作もあるんだよー♪」

「新作? どんなのだろ、ピィちゃん、どこに新作があるか教えてくれる?」

「うぃうぃ、新作コーナーはあっちだよ!小生が案内してあげるね!」

「うん!」


 ライトの肩を抱きながら、新作呪符コーナーにそっと誘導するピース。

 ラウル達もライトとピースの後についていった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 その後新作呪符を中心に様々な呪符を眺めては、何を買うか迷うライト。

 マキシもライトの横にいて、いくつかの呪符を手に取っている。


「ダイエットのための重力魔法呪符……これ使えば、運動会とかで走る速さを調節できるかな?」

「僕は器用さと集中力を上げたいんですよねー……呪符は効力の時間が短いけど、コツを掴むための練習に使うとすごくいいってセイさんからもアドバイスいただいたし」


 真剣に呪符選びをしているライト達の後ろで、ラウルとシャーリィ、そしてピースがのんびりと話をしている。


「ラウル君、今日は超美人なお姉さんがいっしょなんだねぇ♪」

「ああ、こいつは俺の幼馴染でな。シャルというんだ」

「初めまして、こんにちはー♪ ラウルの幼馴染で、『暁紅の明星』で踊り子をしているシャルでぇーす♪」


 ニコニコ笑顔でシャーリィを見るピースに、シャーリィもまた極上の笑顔で挨拶をする。

 どちらも人見知りするような性格ではないので、二人はあっという間に打ち解けていく。


「シャルちゃんね!『暁紅の明星』といえば、毎年パレードを担う大人気の踊り子さん達でしょ!?ラウル君、そんな有名人と幼馴染だったなんて、すごいねぇー」

「俺も去年知ったばかりなんだがな」

「ほえ? そなの?」

「ああ。俺もご主人様同様、今まで公国生誕祭にあまり興味なかったんでな」

「あー、二人ともそんな感じするよねー、分かるー」


 事も無げに答えるラウルに、ピースも頷いている。

 ピースもその性格上決して流行に敏感な方ではないが、それでもシャーリィが言った『暁紅の明星』が何者であるかくらいは知っていたようだ。

 そしてピースが改めてシャーリィに向けて自己紹介を始めた。


「小生の名はピース・ネザン、魔術師ギルドのマスターなんてもんをしてるんだー」

「まぁ、そんな偉い人が自ら売り子をしてらっしゃるの!? すごいわね!」

「ぇー、偉い人だなんて、小生そんないいもんでもないよ? そこら辺は『暁紅の明星』の看板スターしてるシャルちゃんなら分かるんじゃなぁい?」


 組織のトップ自らが売り子をしていることに、シャーリィが本気で驚いている。

 しかもその組織は全ての魔術師を束ねる魔術師ギルド。

 天下にその名を轟かす組織の長が出店の売り子をしていれば、シャーリィでなくとも誰もが驚くであろう。


 しかし当のピースに言わせれば、他人が羨むほどのものでもないらしい。

 そしてその気持ちは、踊り子の頂点を極めたシャーリィにも理解できる感情のようだ。


「ぁー、そうねぇ……私もそうやって人から持ち上げられることが多いけど、実際はそんないいもんでもないわねぇ」

「でしょでしょ? 上にいけばいくほど責任や仕事ばかり増えちゃってさー。できるもんなら、一度新人魔術師に戻って呪符だけ描いていたいもん」

「分かる分かるー、私もできるものならバックダンサーに戻って気軽に踊りたーい」

「「……はぁぁぁぁ……」」


 ピースとシャーリィ、二人して深いため息をつきながらがっくりと項垂れる。

 何の責任も負わない一介の魔術師や踊り子に戻って、お気楽気ままな生活を送りたい―――それはもはやないものねだりの極地である。

 どんよりと落ち込むピースとシャーリィに、ラウルが呆れ顔で声をかける。


「おいおい、せっかくの祭りだってのに何落ち込んでんだ。ピース、こいつに役立ちそうな呪符とかあるか? あったら教えてやってくれ、こうして魔術師ギルドが作る呪符を買う機会もそうそうないだろうし」

「……ああ、そうだねーぃ!そしたらねぇ、シャルちゃんにもってこいの、絶ェーーーッ対にお役立ちなお守りがあるよん!」

「まぁ、それは一体どんなのかしら?」

「こっちこっち、新作コーナーにあんの!」


 ラウルの呼びかけに、パッ!と顔を上げて気を取り直すピース。

 シャーリィの手を取り、とある方向に引っ張っていく。

 ピースイチ押しのシャーリィ向けの呪符は、新作コーナーにあるらしい。

 そしてピースがそのお守りを指差しながら教えた。


「これこれ!これ絶対シャルちゃんが必要なヤツ!」

「ほう、何ナニ? 『お色気ダダ漏れ美男美女の味方!』『その名も『非モテお守り』、これを着ければアナタも瞬時にモテなくなること間違いなし!』だとぅ?」

「何ソレ、絶対に私に必要なヤツ!」


 ピースの案内とラウルが読み上げたお守りの概要に、シャーリィが速攻で食いつく。

 普通なら『モテるようになるお守り』となるところを、何と『モテないようになるお守り』だというではないか。

 それは実にニッチな需要を狙い撃ちした、逆張りとしか思えない品物。だがしかし、世の美男美女の多くはこれこそを求めている。


 例えばシャーリィほどの絶世の美女ともなると、モテ過ぎるが故のトラブルが頻繁に起こる。

 自宅や宿泊先に押しかけるストーカーは数知れず、言い寄って拒絶されれば逆恨み、挙句『俺といっしょに死んでくれ!』と叫びながら刃物を振り回されたことも一度や二度ではない。

 それらは一般的に痴情のもつれの一言で片付けられがちだが、トラブルに巻き込まれる方はたまったものではない。

 こうした修羅場を未然に防いでくれるのが、この『非モテお守り』なのである。


 このニッチな需要に、まさに合致しまくりのシャーリィ。

 ピースにズズィッ!と迫りながら、その効き目を知るべく質問を浴びせ続ける。


「ねぇねぇ、ピィちゃん、このお守りの効力はどれくらいあるの!?」

「ンーとねぇ、肌身離さず着けてて一年くらい? ただ、シャルちゃんほどの美女になると、一個だけじゃ効果は薄いかも?」

「なら、同時に二個とか三個持てばいい?」

「そうだねー、さすがに三個も持てばかなり効くんじゃなぁい?」

「よし、買った!ここにある『非モテお守り』、全部いただくわ!」

「毎度ありー♪」


 目の色を変えて非モテお守りを買い漁るシャーリィ、何とここにある分全てを買い占める!と言い出した。

 一個800Gの非モテお守りを30個、計24000Gのお買い上げである。

 シャーリィは腰に下げていたウエストポーチから財布を取り出し、買い物カゴに30 個の非モテお守りを会計コーナーに持っていく。

 魔術人形2号で会計を済ませて、鼻歌交じりのルンルンスキップでラウルのもとに帰ってきた。


 シャーリィの帰還とほぼ同時に、ライトとマキシも会計コーナーから戻ってきた。

 どうやら二人は魔術人形3号の方で買い物の会計をしていたようだ。


「ただいまー!シャルさんも何か呪符とか買ったんですか?」

「ええ、ピィちゃんオススメのお守りを買ってきたの!」

「そうなんですね!ぼくも『集中力持続の呪符』や『重力魔法の呪符』を買ったんですよー」

「僕も『集中力持続』と『器用さアップ』と『悪霊退散』を買ってきたよ!……って、ラウルは今年は一枚も呪符を買わないの?」

「俺はもう買うものが決まってるからいいんだ。ちょっくら買ってくるから待っててくれ」

「「はーい」」


 ライトとマキシの買い物報告に、まだ一枚も呪符を買っていなかったラウルがそそくさと買いに動いた。

 ちなみにラウルが購入したのは、去年と同じ『家内安全』『虫除けの結界』『鳥避けの呪符』を数枚づつである。


 四人とも結構な買い物をしてくれたことに、売り子であるピースもホクホク笑顔になっている。


「ライっち、ラウル君、マキシ君にシャルちゃん、たくさんのお買い上げありがとうねーぃ♪」

「ううん、こっちこそピィちゃんと久しぶりに会えて嬉しかったよ!」

「ぉぉぅ、そんな素敵なことを言ってくれるのはライっちだけだよぅぉぅぉぅ」


 ライトの言葉に感激したピースが、ライトの首っ玉にガバッ!と抱きついた。

 もしここにレオニスがいたら、速攻でピースの首根っこをつまんで引き剥がすところなのだが。幸いにもレオニスはいないので、ピースの好き放題し放題である。


「じゃ、ピィちゃん、ぼく達はそろそろ出るね。明日も明後日も、お仕事頑張ってね!」

「ライっち、ありがとうねぇー!また今度いっしょに遊ぼうねー!」


 ブンブンと大きく手を振りながら、名残惜しそうにライト達を見送るピース。

 そんなピースにライトも時折振り返りながら、何度も手を降っては魔術師ギルドの出店を後にした。

 久しぶりのピースの登場です。

 作中でも書いた通り、ピースが作中に出てきたのはユグドラツィ襲撃事件後の検証=第709話以来なので、456話ぶりのことですねー(゜ω゜)

 でも、ピースはレオニスとともに邪竜の島の討滅戦で戦闘に直接参加の予定なので。近いうちにまたピースの見せ場が来る予定です。


 でもって、サブタイにもなっているニッチ商品。

 作者には無縁のものですが、時折ニュースにもなるストーカー事件とか見る度に、こういう便利グッズがあればいいのになぁ……とか思ったり。

 まぁね、ここまでニッチな活用方法じゃなくても、魔法が使えたらいいのに!とは常々思いますよね(´^ω^`)

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