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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
邪竜の島討滅戦に向けて

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第1163話 お出かけ前のひと仕事

 シャーリィがレオニス邸に押しかけてきて、とても賑やかな夜を過ごした翌日。

 レオニスは朝の四時に起きて、一人出かける支度をしていた。


 一月半ばの午前四時は、空もまだ暗く夜が明けていない。

 殆ど深夜と言っても差し支えない時間だが、今日はアクシーディア公国生誕祭初日。レオニスも朝五時半までには冒険者ギルド総本部に入らなければならない。

 ベッドから起きて背伸びし、水魔法でタオルを濡らして顔をゴシゴシと拭う。


 その後剃刀で髭を剃り、髪の毛も一通り整えてから自室で適当かつのんびりと朝食を摂る。

 ここら辺は、普段なら洗面所や食堂に出向くところなのだが。今はまだ皆寝てる時間なので、自分がバタバタと騒がしくして皆を起こしたり迷惑をかけたくない、というレオニスなりの気遣いである。


 朝食を摂り終えたレオニスは、深紅のロングジャケット他冒険者としてのフル装備に着替える。

 革手袋を両手に嵌め、得物の大剣を背中に背負うレオニス。これで出かける準備は万端整った。

 懐中時計で時間を確認すると、まだ少し時間に余裕がある。

 レオニスは一階に降りて、食堂で珈琲の一杯でも啜ることにした。


 レオニスが食堂に向かうと、食堂から明かりが漏れている。

 ンー? ラウルがもう起きていて、料理の仕込みでもしてんのか?と思いながら中に入るレオニス。

 するとそこには、ラウルどころかライトやマキシ、そしてウルスにケリオン、シャーリィまでもがいた。


「あ、レオニスさん、おはようございます!」

「レオニス殿、おはよう」

「レオニス殿、おはようございます」

「おう、ご主人様、ようやくこっちに下りてきたか。おはよう」


 レオニスの到来に真っ先に気づいたマキシが元気よく朝の挨拶をし、それにウルス、ケリオン、ラウルが続く。

 ちなみにライトも「レオ兄ちゃん、おはよーぅ……」と挨拶をしていたが、まだ若干眠たそうだ。


 それもそのはず、日が短い今の季節のライトの起床時間は朝六時。

 日が長い夏の季節ならもう少し早起きしてもいいのだが、外が暗いうちは魔石回収のルーティンワークにも出られないので、必然的に冬は朝起きる時間も遅めなのだ。


 そしてシャーリィの方はというと、昨日着ていた服できちんと身なりを整えていた。

 さすがに裸族のままで人前に出てくる程、底無しの間抜けではなかったようで一安心である。


「レオニスさん、おはよう。とても過ごしやすくて良いお部屋を用意してもらったおかげで、ぐっすり寝れたわぁ」

「おはよう、そりゃ良かった。客室なんて滅多に使わんが、心地よく過ごせたってんならそれは部屋を整えたラウルの腕と手際が良かったんだろう」

「そうね、ラウルもありがとう」

「どういたしまして」


 朝の挨拶とともに、レオニスに礼を言うシャーリィ。

 実際この屋敷に来客など滅多にこないし、ましてやそのまま宿泊させることなどほぼないに等しい。

 そんなレオニス邸だが、曲がりなりにも貴族街に建つ貴族用の邸宅なので、部屋数はかなりあるし作りもそれなりに豪勢だ。

 維持費や手間ばかりかかるこの屋敷、それでも来客やその宿泊に臨機応変に対応できるのは、ひとえに万能執事ラウルのおかげである。

 ラウルの辣腕ぶりに、シャーリィも改めてラウルに礼を言いつつ内心で感心していた。


 レオニス達が朝の挨拶を交わしている間に、ラウルがレオニス用の珈琲を淹れている。

 そして席に着いたレオニスの前に、サッ、と出来上がった珈琲を無言で差し出した。

 出来たて熱々の珈琲から、ほんのりとした湯気が立つ。

 冬の寒い朝にはとても染み入る温かさに、カップを持つレオニスの顔にも自然とほっこりした笑みが浮かぶ。


「ラウル、マキシ、今日明日は俺は家に帰れんが、ライトのことをよろしくな」

「おう、任せとけ」

「もちろんです!」

「あと、お客人のおもてなしもよろしくな。皆で公国生誕祭を楽しんできな」

「はい!」


 ライトやシャーリィの相手を頼む、と言うレオニスに、ラウルとマキシも快く引き受ける。

 ただしシャーリィのもてなし云々のところでは、ラウルは返事をしていなかったが。

 そしてレオニスは、続けてシャーリィにも声をかける。


「お客人も、うちのライトのことをよろしくな」

(まッか)せといてー♪」

「それと、うちのラウルをいじめない程度に仲良くしてやってくれ。こいつもこう見えて、繊細な部分がほんの少ーーーしだけあるんだ」


 ライトとラウルのことも頼んだレオニス。

 ラウルの繊細な部分を『小指の爪の白い部分を親指の爪で触る』というジェスチャーで表現している。要は『爪の先程の微量』ということである。

 そんなレオニスに対し、シャーリィが不服そうに反論する。


「あらヤダ、私はラウルをいじめたことなんてないわよ? というか、繊細な部分が爪の先程しかないなら気をつける必要なくない?」

「いやいや、そのほんの微量な部分を疎かにしちゃダメだろ」

「ンーーー……まぁいいわ、私もここに泊めてもらっている身分だし。家主様のお願いなら素直に聞くことにするわ」

「そうしてくれ。あんた達の間の空気が微妙だと、ライトやマキシが気を遣って祭りを楽しめなくなるからな」


 一度は反論したシャーリィだが、祭りの間だけでも円満に過ごしてくれ、というレオニスの言外の願いには折れた。

 かく言うシャーリィだって、今日明日の公国生誕祭は思いっきり楽しみたい。そのためには、すぐにぎこちなくなりがちなラウルとの関係も極力善処するべきなのである。

 ちなみにこの会話が交わされている間、ラウルは「ったく、ご主人様もシャーリィも好き放題言いやがって……」とぶつくさ呟いていた。


 そして温かい珈琲を飲み終えたレオニスが、徐に席から立ち上がった。


「……さ、そろそろ俺は仕事に行ってくるか」

「レオ兄ちゃん、玄関までお見送りするね!」

「僕もお見送りします!」

「あら、なら私も皆といっしょにお見送りするわね」

「おう、皆ありがとな。ウルスとケリオンも、ライト達といっしょに公国生誕祭を楽しんできてくれ」

「承知した。レオニス殿もお仕事頑張ってくだされ」

「ライト殿のことは、我らにお任せあれ!」


 ソファから立ち上がり、横に立てておいた愛用の大剣を再び背中に背負うレオニス。二人の肩に留まっているウルスやケリオンにも、人里で楽しく過ごすよう言葉をかけている。

 ライトとマキシ、そしてシャーリィもレオニスをお見送りするべくソファから立ち上がり、レオニスとともに食堂を出ていった。


 そして一人食堂に残ったラウル。

 ふぅ……と小さくため息をついた後、空になった珈琲のカップや他の食器類を下ろしていった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 レオニスを見送った後、全員で朝食を摂るライト達。

 皆で出かけるにはまだ早過ぎる時間なので、一旦解散して午前十時に再び玄関ホールに集合、ということになった。

 それまでの間、ライト達は各々思い思いの過ごし方をしていた。


 ラウルはカタポレンの畑で、林檎や巨大野菜の収穫に勤しむ。

 その収穫作業にはシャーリィもついてきていて、カタポレンの畑に実る様々な巨大野菜に驚いていた。


「ぇー、何これ、すっご……こんな大きな白菜とかほうれん草なんて、今まで見たことないわぁー」

「そりゃそうだ。野菜がこんなにデカくなるのは、カタポレンの森の無限の魔力あってこそだからな」

「へぇー、この森の魔力って野菜や果物なんかにも効くのねぇ。初めて知ったわ」

「野菜や果物を栽培するのは主に人族の習慣だが、カタポレンの森に住める人間なんて今のところあのご主人様達くらいのもんだ」

「でしょうねぇ。というか、私自身カタポレンの森に来たのは久しぶりだけど……プーリアの里の中と外では、魔力の質というか空気の重さ、感じ方がかなり違うものなのね」


 ラウルがせっせと収穫作業をする様子を、その後ろからのんびりと眺めているシャーリィ。

 その肩にはプーリア族独自の品『天舞の羽衣』をまとっていて、ふわふわと宙に浮いている。


「つーか、シャーリィもそこでただ見てるだけじゃなくて、収穫の手伝いをしてくれてもいいんだぞ?」

「えー、嫌よー。だって私、野菜の収穫なんて一度もしたことないし」

「ならここで覚えていきゃいいじゃねぇか」

「そんなのここで覚えたところで、踊りの旅の一座で役立つ技能じゃないもの」


 後ろでただ見てるだけのシャーリィに、ラウルが文句を言い始めた。

 そんなラウルに、シャーリィも懸命に反論する。


「ていうか、ラウル、一度も野菜を収穫したことのない私に野菜を採らせていいの? ここでもし下手くそな取り方をしたら、貴方絶対に怒るでしょ?」

「……まぁな。それは認める」


 シャーリィの的を射た反論に、ラウルも思わず素直に認める。

 野菜の収穫を手伝わせたはいいが、もしその収穫の仕方が悪くて実に傷がつきでもしたら―――ラウルは絶対に怒るに違いない。

 そんなシャーリィの予想は大当たりしていた。

 シャーリィにしてみたら、収穫を手伝ったのにやり方が悪い!と怒られたらたまったものではない。草臥れ儲けの大損もいいところである。


「フフフ、だからね、ラウル。私はここで貴方のお仕事ぶりを存分に見学しておくことにするわ。貴方の美味しい料理のためにも、収穫頑張ってね♪」

「……しゃあない。そこで好きなだけ眺めてろ」

「はーい♪」


 ラウル公認で手伝いを免れたシャーリィ、輝くような笑顔でラウルの背中を見つめる。

 そしてラウルもまた、シャーリィとともに穏やかな時間を過ごしていた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ラウルとシャーリィが畑でのんびりと過ごしていた頃。

 ライトはライトで、日々の修行である魔石回収作業に回っていた。

 作業自体はいつもと変わらないのだが、一つだけ違う点がある。

 それは、今日は三羽の八咫烏、マキシとウルス、ケリオンがライトについてきていることだった。


「ライト君、本当に飛べるようになったんですね!」

「うん!皆が力を貸してくれるおかげで、ぼくもこうして飛べるようになったんだ!」

「ライト殿は本当にすごいな!」

「ていうか、ライト殿、私達より飛ぶのが速くないですか!?」

「フフフ、まぁね!」


 カタポレンの森の中を走ることなく、ご機嫌な様子でずっと飛んでいるライト。

 しかもその飛び方は、ただ高いところを飛んでいるのではない。

 木々の間を縫うようにして飛んでいて、なおかつその速度が八咫烏達の全力飛行に劣らぬ速度ときた。

 複雑に入り組む木々の間を、一度も木にぶつかることなくスイスイと飛び続けるライトに、マキシ達は後ろをついていくだけで精一杯だ。


 何故ライトがこんなにも速く正確に飛べるかというと、理由がある。

 それは、青龍の鱗の欠片を追加で三回飲み込んだからだ。


 ライトが新たな力、独自の飛行能力を得たことをレオニスとラウルに明かしたのが、先日の土曜日のこと。二度目の辻風神殿訪問の時である。

 その日の帰りに、早速レオニスが三回、ラウルが四回、青龍の鱗の欠片を飲んでいた。

 そうなると、ライトとしては居ても立ってもいられない。


 人外兄(レオニス)妖精(ラウル)がそんなに何回も青龍の鱗の力を取り込んだら、ますます力の格差が広がるやろがえ!内心ライトは焦りまくる。

 その後ライトは、あれから慎重に一回づつ様子を見ながら、青龍の鱗の欠片を飲み込み続けていった。

 その結果、計七回分の欠片を飲んで、飛行能力をパワーアップさせることに成功していたのだ。


 そうしていつもの魔石及び魔法石回収を終えて、カタポレンの家に戻ったライト達。

 家の周りの畑では、ラウルがまだ畑作業をしていた。

 ラウル達がいる畑に、ライトが真っ直ぐに駆け出す。


「ラウル、シャーリィさん、ただいまー!」

「おお、おかえり、ライト」

「ライト君おかえりなさーい!」


 戻ってきたライトを見たラウルとシャーリィが、微笑みながらおかえりの言葉をかける。

 するとそこに、数瞬遅れてマキシとウルス、ケリオンが飛んできた。

 元気いっぱいのライトと異なり、心なしか三羽ともヘロヘロになっているような気がするが。多分気のせいだろう。キニシナイ!


 ライト達が帰ってきたことで、ラウルもキリのいいところで作業の手を止めた。


「さ、そろそろ出かける時間も近づいてきたことだし、皆でラグナロッツァの屋敷に帰るか」

「うん!あっちで着替えて一休みしよう!」

「マキシ君、ウルス君、ケリオン君、こっちおいでー♪」


 集合時間の三十分前ということで、ラグナロッツァの屋敷の帰宅を提案するラウルにライトが速攻で同意した。

 そんなラウルの後ろで、シャーリィが三羽の八咫烏達の名を呼び手招きしている。


 ライトの修行に付き合って、長時間の全力飛行をしていたマキシ達。思わぬところでレオニスとは違うスパルタ修行を味わった格好である。

 そんなお疲れの八咫烏達、シャーリィの招きに応じてフラフラと美姫のもとに辿り着き、三羽して彼女の腕の中にすっぽりと収まっていた。


「じゃ、皆で帰るか」

「うん!」


 転移門で移動するために、カタポレンの家の中に入ったライト達。

 こうしてライト達は、カタポレンの家からラグナロッツァの屋敷に移動していった。

 朝早くに仕事に発つレオニスのお見送りと、その後の寸暇の過ごし方です。

 というか、とっとと祭りに出かけるはずが、何でかその前に皆カタポレンの森に出かけることに…( ̄ω ̄)…

 でもまぁね、仕事を頑張るレオニスをちゃんとお見送りしたのはいいんですが、朝五時とか早過ぎてそのまま祭りに出かけるってのも無理ぽな話なので。

 ほんの数時間の寸暇は、ライトの日課の魔石回収ルーティンワークとラウルの野菜収穫に充てることに。

 その結果、ラウルとシャーリィは喧嘩することなく畑でのんびりと過ごし、ライトも飛行能力のさらなるパワーアップが披露できたので。作者的に万々歳!なのです♪(^ω^)

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