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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
年末年始と冬休み

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第1118話 恐怖の極限

 炎の洞窟に突入してから、ライト達は無我夢中で走り続けた。

 いや、正確に言えば本当に無我夢中で走っているのはラウルだけで、ライトもレオニスも心理的には余裕だ。

 しかし、ラウルのことを思うと一分一秒でも最奥の間に着きたい。

 そのためレオニスもライトも、ラウルの走るスピードに合わせてそれなりに全力で走っていた。


 炎の洞窟の中は、その名の通り壁の至るところで火が噴き出している。

 側面はもちろんのこと、天井や床からも時折勢いよく炎が吐き出されていて、ラウルどころか普通の人間でもかなり怖い場所だ。

 そして時々その炎から火の粉が飛び散り、ラウルの頬や手を掠める。

 その度にラウルは「ヒッ!」という小さな悲鳴を上げていた。


 本当は炎の渦や火の粉などを見ずに走りたいが、かと言って目を瞑って走る訳にもいかない。

 ラウルは湧き上がる恐怖を必死に堪えながら、ただただひたすらに走り続ける。

 ラウルの端正の顔は極限まで歪み、眉間はこれまでになく深い皺が刻まれ、視界が損なわれないギリギリの薄目を開いて炎の洞窟を駆け抜ける。


 そうして洞窟に入ってから、七、八分も走り続けた頃。

 三人はお目当ての最奥の間に辿り着いた。

 ライトとレオニスは少々息が上がる程度だが、必死で走っていたラウルは膝に手を当て前のめりになって項垂れている。息もゼェハァとしていて、かなりへばっているのが窺える。


 最奥の間には当然のように炎の女王もいて、その胸には神殿守護神の朱雀が抱かれている。

 炎の洞窟を訪ねてきたライト達を見て、炎の女王が嬉しそうに駆け寄ってきた。


『おお、レオニスにライト!よう来たの!』

「炎の女王様、こんにちは!」

「よう、炎の女王、久しぶり。朱雀も元気そうだな」

「ピィィィィ♪」


 再会を喜び和やかな挨拶を交わすライト達。

 そんなライト達の少し後ろにいるラウルは、未だに息が上がって乱れていて顔を上げることすらできていない。

 するとここで、ラウルの辛そうな姿を見たライトがレオニスに声をかけた。


「ねぇ、レオ兄ちゃん、ラウルに回復魔法をかけてあげてくれる? あれじゃエクスポーションを飲むのもしんどいだろうし」

「お、そうだな。ちょっと待ってろ」


 ライトの要請に、レオニスが早速ラウルに向かってキュアラを三回連続でかけた。

 そのおかげで、少し人心地ついたラウル。ずっと真下に俯いていた頭をヒョイ、と上げた。

 その瞬間、ラウルの全身に猛烈な悪寒が走る。


 ラウルの前にはライトとレオニスがいて、さらにその前には炎の女王と朱雀がいた。

 強大な火の力を持つ高位の存在。木の属性を強く持つラウルにとって、炎の女王も朱雀も紛うことなき天敵。

 己の身を微塵も残さず焼き尽くす力を持つ炎の女王達に、ラウルが震撼するのも無理はなかった。


 だが、炎の女王達にはそんな事情は知る由もない。

 ラウルは初めてここに来た新たな客人で、しかも彼女が全面的な信頼を寄せるライトとレオニスの連れだ。

 炎の女王はラウルを無条件で歓迎する気満々で、ラウルの顔を見遣りながら近づく。


『ほう、初めて見る顔だが、汝達の仲間か?』

「ああ、こいつはラウルと言って俺達の大事な仲間だ」

『そうか、ならば妾も歓迎しよう。だが……ものすごく顔色が悪いようだが……大丈夫か?』


 レオニスからラウルのことを紹介された炎の女王。

 最初は歓迎の笑みを浮かべていたが、ラウルのあまりの顔色の悪さに気づき心配そうに声をかける。

 もちろん炎の女王は、本当にラウルのことを心から心配しているだけだ。


 だが、ラウルにとってはたまったものではない。

 さながらそれは、恐怖の大王が大きな口を開けて己を丸呑みしようとしているかのように思えた。

 そして炎の女王が心配そうにラウルの顔を覗き込んだ、その瞬間。

 恐怖の極限に達したラウルは、全身の力が抜け落ちてその場に崩れ落ちた。


「…………ッ…………」

「あッ、おい、ラウル!しっかりしろ!」

「………………」

「ラウル!ラウル!――――――」


 ラウルが倒れ始めた瞬間に、レオニスが咄嗟に動いて崩れ落ちるラウルの身体を受け止めた。

 突然倒れてしまったラウルに、ライトもレオニスも懸命に声をかけ続ける。

 だがその時には既にラウルの意識は失われていて、レオニスの腕の中でぐったりと気絶していた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「…………」


 次にラウルが目覚めたのは、ラウルが気絶してから約一時間後のこと。

 ふと目を覚ますと、ゴツゴツとした岩肌の天井が見える。

 その天井はところどころで炎が噴出していて、火の粉がバチバチと降り注いでいる。

 その光景に、ラウルは一気に我に返った。


「……ッ!!」


 思わずガバッ!と飛び起きたラウル。慌ててキョロキョロと周囲を見回す。

 ラウルが寝ていた地面には何枚もの毛布が敷かれていて、簡易ベッドのようになっている。これは、倒れてしまったラウルをそのまま地べたに寝かせるのは忍びないと思ったライトとレオニスの心遣いだ。


 突然勢いよく飛び起きたせいか、ラウルは軽い目眩を起こし思わず手で頭のこめかみを手で強く抑える。

 そして、ラウルからかなり離れたところにいたライトがいち早くラウルの目覚めに気づき、すぐに声を上げた。


「あッ、ラウルが起きたよ!ラウル、大丈夫!?」

「……ライトか……あまり大丈夫じゃないが……俺は一体、どうなってたんだ……?」

「レオ兄ちゃん!もう一回ラウルに回復魔法をかけて!」


 それまでレオニスとともに、テーブルセットの椅子に座っていたライト。

 急いでラウルのもとに駆け寄るも、ラウルの『大丈夫じゃない』発言に泡を食いながらレオニスを呼びつける。

 レオニスも椅子から立ち上がり、すぐにラウルのもとに来てその横にしゃがみ込んだ。


「ラウル、大丈夫じゃないならもう少し寝てていいぞ?」

「いや、いい……大丈夫だ、俺は寝るためにここに来たんじゃない……」

「そうか……とりあえず回復魔法をかけとくぞ」

「すまん、頼む……」


 レオニスの気遣いに、ラウルは力なく頭を横に振る。

 かなり痩せ我慢をしているが、ラウルとしてもこれ以上無様な姿を晒す訳にはいかない。

 強がるラウルに、レオニスもそれ以上深くは追及せず回復魔法をかけ始めた。


 レオニスがキュアラをかけている間に、ラウルの右手の腕輪がほんのりと温かみを帯びる。

 腕輪の原材料である神樹ユグドラツィが、遠く離れたカタポレンの森からラウルに向けて懸命に魔力を送っていた。

 それだけではない。ラウルの天空竜革装備、その随所に着けた様々な装飾品からも力を感じる。


 右袖の大神樹ユグドラシアのカフスボタン、左袖の天空樹ユグドラエルのカフスボタン、右襟の海樹ユグドライアのタイピン、左襟の冥界樹ユグドランガのタイピン、左手首の竜王樹ユグドラグスの腕輪。

 ラウルが身に着けていた全ての神樹の装身具から、ラウルを包み込む大いなる力が湧き出ていた。


 そのことに気づいたラウル。それまでずっと強ばっていた表情が一気に和らいでいく。

 今この時も神樹達はラウルの身を案じ、懸命に力を送ってくれているのだ。

 ラウルは神樹達の思いを受け取り、完全に落ち着きを取り戻していた。

 そんなラウルに、ライトがなおも心配そうにラウルに声をかける。


「ラウル、大丈夫……?」

「ああ、もう大丈夫だ。ご主人様達には心配をかけてしまって、本当にすまなかった」

「そんなことないよ!ラウルはとっても頑張ったんだもん!本当にラウルはすごいよ!」

「お褒めに与り光栄だ」


 ライトの気遣いに、ラウルも微笑みつついつもの口癖を返す。

 いつもの台詞が出るくらいなら、本当にもう大丈夫なのだろう。ライトもレオニスもほっとしている。


 するとそこに、ライト達に向けて炎の女王が声をかけた。


『ライト、レオニス……その者は、もう大丈夫、なのか……?』

「はい!もう大丈夫みたいです!」

「炎の女王にも心配をかけて、すまなかったな」


 離れた位置にいる炎の女王の呼びかけに、ライトとレオニスがその場で答える。

 炎の女王は、ライト達がいたテーブルからさらに後ろに立っている。それは、ラウルの体調を気遣ってのことだ。

 そう、炎の女王はラウルが気絶している間に、ライト達からラウルが木から生まれた妖精であることなどを全て聞いて知っていた。

 炎の洞窟の最奥に到達したラウルの受難です。

 前話の後書きに書いたように、高所恐怖症の人を無理矢理スカイダイビングに連れ出したらどうなるか?と考えた時、やはりそれは気絶するだろうなぁ……ということで、ラウルもぶっ倒れる羽目に。

 というか、気絶ならまだいい方で、最悪心不全とか起こしそう…( ̄ω ̄)…


 とりあえず、ラウルと炎の女王の顔合わせはできましたが。無事加護をもらえるかどうかはまた次回です。……ええ、一応最後まで書いたんですけどね? 全部で8000字超えそうだったので分割したんですぅ_| ̄|●

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