第1111話 冒険者ギルドの仕事始め
オーガ達との狩りを楽しんだ翌日。
日付も一月四日となり、正月三が日が終了した世の中は徐々に動き出す。
もちろん冒険者ギルドも例外ではなく、朝イチの新年初の全体朝礼では各所で長が一年の始まりの挨拶をする。
そしてここ冒険者ギルド総本部でも、総本部マスターであるパレンが朝礼で挨拶をしていた。
「職員諸君、あけましておめでとう!」
白衣に袴、襦袢に髪留め、まさしく巫女服姿のパレンが壇上で元気よく挨拶をする。
ただし、今年の巫女服は緋色ではない。本紫色である。
大広間の中で、見目鮮やかな本紫色の巫女服に身を包んだパレンが職員達に向けて言葉をかける。
パレンのスキンヘッドから放たれる御来光の如き輝きは、まさに正月明けに相応しい神々しさだ。
ちなみに本紫色の髪留めは後頭部につけられているが、どういう原理でスキンヘッドに留められているのかも相変わらずさっぱり分からない。
「―――では諸君、本年もどうぞよろしく頼む。ラグナロッツァの平和を守るため、今年も冒険者ギルド一丸となって頑張ろう!!」
挨拶を終えたパレンが壇上から下り、ギルド職員達も各自持ち場に向かう。
午前五時になれば、営業時間開始だ。年末年始に散々飲み食いして有り金を減らした冒険者達が、仕事を求めて冒険者ギルドに殺到するだろう。
サイサクス大陸一の大国、アクシーディア公国ラグナ暦814年。
休暇も明けて、本当の意味で新しい年の始まりである。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
朝の七時少し手前。
レオニスが冒険者ギルド総本部に入った。
そのまま真っ直ぐクレナの窓口に赴くレオニス。
「よ、クレナ、おはよう」
「あ、レオニスさん、おはようございますぅ。先日はとても素敵なお年賀をありがとうございましたぁ♪」
ニコニコ笑顔でレオニスを迎えるクレナ。
二日前に渡した【Love the Palen】二号店のお年賀セットAが、余程嬉しかったようだ。
「マスターパレンはいるよな?」
「はい、今日の午前中にレオニスさんがお越しになることも、ちゃんとお伝えしてありますぅ」
「ありがとう。じゃ、早速御来光を拝んでくるわ」
「いってらっしゃーい」
右手をひらひらさせながら、クレナのいる窓口を去るレオニス。
そのまま三階のギルドマスター執務室に直行し、部屋の扉を二回ノックしてから入室した。
執務室の中は、何故かいつにも増して光量が強い。
そしてその輝きは執務机の奥から発せられており、光源はもちろんパレンその人である。
レオニスは思わず「うおッ、眩しッ!」と小さな声で呟く。
そのレオニスの声を、パレンは耳聡く聞きつけた。
「ンフォ? レオニス君かね?」
「正解。今ちょっと邪魔してもいいか?」
「もちろん!レオニス君の来訪なら、いつだって歓迎するとも」
レオニスが訪ねてきたことを知ったパレンが、書類の峰々の向こうから来訪歓迎の意を示す。
そして執務机の椅子からすくっ!と立ち上がり、部屋の中央にある応接ソファの方に出てきた。
「レオニス君、あけましておめでとう!今年もよろしく頼むよ」
「あけましておめでとう。俺の方こそ、今年もよろしくな」
「当代最高峰の冒険者であるレオニス君の、ますますの活躍を期待しているぞ!」
「マスターパレンこそ、書類の山に囲まれ続けて過労で倒れないでくれよ? あんたがいてこその冒険者ギルドなんだからよ」
「ハッハッハッハ、嬉しいことを言ってくれるじゃないか!」
本紫色の巫女服をまとったパレンが、レオニスの向かいのソファに座る。
そして第一秘書のシーマに向かって「おーい、シーマ君、お茶を淹れてくれたまえ!」と指示を出した。
あー、今年のマスターパレンの巫女服は紫色か。
白衣に袴、襦袢に髪留め、どれも本格的な作りだな。つーか、マスターパレンサイズの巫女服があることに驚きなんだが。
でもって、巫女服ってのは緋色が標準色とされているが、場所によっては他の色を着ることもあるとか何とか……それで今年は色違いにチャレンジ!という訳か。
決まりきった型枠にのみ嵌まることを良しとせず、常に新たなる可能性に挑む―――その姿勢はすごく立派だよな。さすがはマスターパレンだ!
新年一発目のパレンのコスプレに、心底感嘆するレオニス。
パレンのコスプレは、ここ数年は毎年巫女服から始まるのが恒例となっている。
今年も様々な姿のパレンを拝めそうで何よりである。
そしてレオニスのポジティブレビュー展開後、パレンの方から話を切り出してきた。
「さて、今日の用向きは何かね? 例の件かね?」
「ああ。早けりゃ二週間後には作戦決行されるからな。その最終打ち合わせをしに来た」
「そうだな。いよいよその日が近づいてきているのだな……」
レオニスの来訪目的を確認したパレンが、思わず「ンッフォゥ……」という独特のため息をつく。
パレンの言う『例の件』とは、レオニスと天空島勢が進めている『邪竜の島討滅戦』のことである。
かつて天空島の中でも大きな島の一つが、邪竜の群れによって占領された。
これまで天空島勢は、邪竜に占領された島を取り戻す意志はなかった。
だが、その邪竜の島で生み出されている邪竜が廃都の魔城の手先となっていて、世界中で悪行の手駒として使われていることをレオニスの話によって知り激怒した。
その結果、奴等の悪行をこれ以上見過ごせぬとして邪竜の島の奪還及び殲滅を決意したのだ。
パレン自身はその作戦に参加することはできないが、この討滅戦が非常に重要なものであることは誰よりも理解している。
これまで人類は、廃都の魔城の侵攻に後手に回ることも多かった。
だが今回は、天空島勢の力を借りて人類側から先手必勝で仕掛ける戦い。この一戦が成功し勝利を収めれば、廃都の魔城の力を大きく削ぐことができるだろう。
この一戦、何としてでも我々が勝たねばならない―――レオニスから討滅戦の話を聞いて以来、パレンは並々ならぬ決意をもっていた。
「ところで、作戦決行のための物資は足りておるかね?」
「一応竜騎士団の方にも協力してもらって、エクスポとアークエーテルを中心とした各種回復剤を大量確保してもらっている。もちろん俺の方でも、ラウルが中心となって天空島に持ち込む野菜や薬草栽培を続けている」
「そうか。薬草採取の依頼は、ここ総本部でも最近激増していてな。先日も買取価格を一割増しに引き上げたところだ」
討滅戦に必要な物資を心配するパレンに、レオニスが竜騎士団との協力体制にあることを話す。
パレンの話では、薬草の需要がここ最近急激に増大しているらしい。
そのことで、パレンが何気なくレオニスに問うた。
「というか、最近エクスポの品薄状態が長く続いているらしくてな。薬草が不作という訳でもないのに、こんなにも長く品薄になるのは近年稀に見る状況なのだが……何故だろうな?」
「ン? ……ぁー、それはだな……」
パレンが不思議がる、エクスポーションの長期品薄の謎。
その原因はもちろん、レオニスと竜騎士団にある。
白銀の君を始めとするシュマルリ山脈に住む竜族達は、皆揃いも揃ってエクスポーションが大好物なのだ。
そのため、主に竜騎士団が先頭となってエクスポーションを大量購入している。
そしてどうもパレンはこのことを知らないようなので、レオニスが斯々然々これこれこうで、とその経緯を説明をした。
「何と……エクスポーションが竜族の好物だとは、ついぞ知らなんだ。道理で市場からエクスポが消え続けている訳だ」
「すまんな……あいつら、本ッ当ーーーにエクスポが好き過ぎてな。俺の顔を見る度に『エクスポクレ!』と必ずおねだりするくらいなんだ」
「いやいや何の、レオニス君、君が謝ることではない。そういった事情があるなら、竜騎士団が率先してエクスポの確保に走るのも分かるというものだ」
はぁー……とため息をつきながら謝るレオニスに、パレンが慌ててフォローに入る。
ちなみに回復剤市場では、レオニスが心配する程の混乱は起きていない。
確かにエクスポーションは長期品薄状態が続いているが、平民達はその下位のハイポーションでも十分に対処可能だからだ。
そして上位の貴族達は上位のイノセントポーションや、市販品の中では最上位のグランドポーションを使えばいいだけのこと。
エクスポーションが品薄になって一番影響を受けているのは、レオニス他冒険者達という何とも皮肉な話である。
「よし、そしたら総本部の名で直々に薬草採取の依頼を出そう。今日から一週間の間、『買取強化週間』と称して買取価格も二割増しにすれば、作戦決行前に少しでも多くのエクスポーションを確保できるだろう」
「おお、そうしてもらえるとありがたい!」
「おーい、シーマ君!特殊案件用の依頼書一式とギルド印を持ってきてくれたまえ!」
「畏まりました」
その場でパレンが打ち出した薬草買取策に、レオニスが歓喜している。
回復剤の主力であるエクスポーションの確保は、竜族の好物云々を抜きにしても重要な課題だ。
長く続く品薄状態を一時的にでも解消するために、即時対応策を打ち出せるパレンはやはり超有能なギルドマスターである。
シーマが持ってきた書類に、必要事項をスラスラと書き綴るパレン。さすがギルドマスターだけあって、依頼書への書類記入もお手の物だ。
最後に所定の位置に総本部のギルド印を押せば、正式な依頼書の完成である。
「シーマ君、これをクレナ君に渡してくれたまえ。そしてこの依頼書は特殊案件だ。これをすぐに掲示板の左側下に固定で貼るよう、クレナ君に伝えてくれたまえ」
「畏まりました」
パレンの指示を受けて、シーマが依頼書を手に持ちすぐに退室する。
即断即決で的確に動くパレンに、レオニスはただただ感嘆する。
「ありがとう、マスターパレン。あんたのおかげで、俺も竜騎士団も心置きなく討滅戦に挑むことができる」
「何の。本当なら私もレオニス君達とともに、討滅戦に直接参戦したいところなのだがな……このギルドマスターという立場がそれを許してはくれぬ。本当に残念だ」
「いやいや、あんたがこのラグナロッツァを守ってくれていると思えばこそ、俺達も安心して戦えるってもんだ」
自身が討滅戦に直接参戦できないことを詫びるパレン。
レオニスに向かって深々と下げる頭からは、絶えず眩い光が放たれている。
だがその神々しい輝きに反して、パレンの顔は苦悩に満ちている。
眉間には深い皺が刻まれ、ギリッ……と歯を食いしばるパレンは、本当に悔しそうだ。
そんなパレンに、レオニスは静かに語りかける。
「この討滅戦が果たしてどんな戦いになるかは、その場になってみないと分からんが……マスターパレンは俺達とともに戦ってくれている。そのことを、俺は決して忘れない」
「レオニス君……」
「……ま、とにかくマスターパレンよ、あんたには俺達の勝利の凱旋とその報告を受けるという役目がある。俺達の勝利だけを信じて待っていてくれ」
「……承知した。君達の武運を、このラグナロッツァで心より祈り続けよう。そしてレオニス君からの完全勝利の報告を待っているぞ」
「ああ、任せとけ」
レオニスの方から先に差し伸べた右手を、パレンもまた右手でガシッ!と握り返す。
邪竜の島の討滅戦、その完全勝利を誓う固い握手が二人の間で交わされていた。
サイサクス世界の正月三が日も終わり、冒険者ギルドでも仕事始めが行われています。
そして冒険者ギルドの仕事始めと言えば、絶対に欠かせないのがマスターパレンの巫女服!(・∀・)
作中でも書いた通り、巫女服というのは緋色というのが鉄板デフォなのですが。神社によっては緋色以外の色の巫女服も存在するそうで(゜ω゜)
まぁねー、コスプレ文化がすっかり普及&定着した今のご時世では、緋色の赤だけでなく青やら緑やら紫やら様々な巫女服があって当然ですよ(*・ω・)(・ω・*)ネー
そして今話は第1111話、四桁ゾロ目♪(・∀・)
何だか11月11日のポッキーの日のようでもありますが、この手の数字の並びや揃いが綺麗に整うと何となーくウキウキしてしまうのは何故でしょうね?(゜ω゜)




