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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
年末年始と冬休み

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第1108話 初めての正月行事

 翌日の、正月三が日三日目。

 ライトは午前中から転職神殿に出かけていた。


「皆さん、あけましておめでとうございます!」

『『『あけまして、おめでとうございます!!』』』


 ライトと転職神殿組三人、全員で新年の挨拶を交わす。

 使い魔のミーナとルディには、新年の挨拶等人族の慣習は馴染みがなく知識もない。だがそこは、転職神殿の専属NPC巫女であるミーアが四季折々の様々なことを都度教えて聞かせていた。


『主様は、新年のお正月?にこういう特別な挨拶をするんですよね!』

「そうそう。ミーナ、よく知ってるね?」

『ミーアお姉様が、いつも私とルディにいろんなことを教えてくださるんです!』

「そうなんだね、ミーアさん、いつもありがとうございます」

『いえいえ、私はミーナとルディの姉ですから。私の持てる知識を弟妹に分け与えるのは当然のことです』


 ミーナに礼を言うライトに、ミーアはさも当然のことのようにニッコリと微笑む。

 ミーアとミーナとルディ、この三者に血の繋がりは一切ない。それどころか種族からして全員違う。

 だが、ここ転職神殿には種族の壁もまた存在しない。

 仲睦まじい三者に、ライトは『ミーナとルディをミーアに託して、本当に良かった』と内心で思う。


 そんなミーア達に、ライトはお正月ならではのご馳走を振る舞うことにした。


「じゃあ、今日は皆でお正月に食べる特別なご馳走を食べましょう!」

『特別なご馳走ですか!?』

『パパ様、それは一体何ですか!?』

「それを今から出すから、皆でテーブルと椅子の用意をしよー!」

『『はーい!!』』


 高らかにご馳走宣言するライトに、ミーナとルディの目がキラキラと光る。

 そしてライトの指示により、ミーナとルディがいそいそとテーブルと椅子を用意する。

 その横で、ライトは転職神殿内の広い敷地内で餅を焼き始めた。


 ライトがアイテムリュックから取り出した大きな七輪。

 その網の上に聖なる餅を四個置いて、網の上からライトが弱めの熱魔法で焼いていく。

 ちなみにこれは火魔法ではない。林に囲まれた山の中腹にある転職神殿内で、火を使う訳にはいかない。

 そこで、ライトは火を熾すことなく熱だけを餅に浴びせるイメージで魔法を駆使しているのだ。


『ライトさん、これは一体何ですか……?』

「これは『聖なる餅』といって、小晦日の夜にだけ空から降ってくるお餅です!このお餅はとっても美味しい食べ物なんですよ!」

『人里では、食べられるお餅が降るのですか……人々が住む街には、本当に不思議なことが起こるのですねぇ』

「ま、このサイサクス世界はもとがBCOですからねー」

(↑訳:だから変なことが起きても仕方ない。だってBCOだもん!)


 初めて見る餅に、興味津々でライトに尋ねるミーア。

 その答えを聞いて、ミーアは心から感心したように呟く。

 そう、普通に考えれば食べられる餅が空から降り注ぐというのは実に摩訶不思議な現象だ。

 だがそれも、ライトに言わせれば当然のことだ。何故ならここは、BCOを模した世界なのだから。


 他愛もない雑談をしているうちに、聖なる餅に十分に熱が通ったのか七輪の網の上の餅がふっくらと膨らんできた。

 そしてテーブルと椅子の方も用意ができて、ミーナがライトに声をかけた。


『主様ー!テーブルと椅子の用意ができましたー!』

「はーい、そしたらぼくもすぐにそっちに行くから、ちょっと待っててねー!」

『はーい!』


 ミーナに呼ばれたライト、今度はテーブルの方に移動してアイテムリュックから四人分のお椀とやかんを取り出した。

 そしてまるでお茶を淹れるかのように、やかんの中の液体をお椀に注ぐ。

 それは、出汁入りの醤油系のスープ。ぬるシャリドリンクの氷蟹エキスを中心とした、ラウル独自のお雑煮用の汁である。

 もちろんその温度は沸騰寸前の熱々だ。


 ここに先程ライトが熱魔法で温めて柔らかくした聖なる餅を投入して、餅の上に蒸して割いたペリュトン肉と小口切りした三つ葉を散らせば『聖なる餅のお雑煮』の完成。

 お椀からほんわかと立ち上る湯気に、ミーア達三人の目はずっとキラキラしっぱなしだ。

 ワクテカ顔で待つミーア達に、ライトがお雑煮の解説をする。


「これは『お雑煮』という食べ物です。人族にはお正月にお餅を食べる習慣があって、要はお餅入りのスープですね!」

『お雑煮……この白いのがお餅、ですか?』

「そそそ、ミーナ、正解」

『お餅の形が、全部違いますね……』

「ルディ、いいところに気がついたね!聖なる餅にはいろんな形があるんだ!」


 ライトのお椀には目玉焼き型、ミーアのお椀にはハート型、ミーナのお椀には扇型、ルディのお椀には星型の餅が入っている。

 ミーア達がそれぞれのお椀を覗き込み、楽しそうに見比べているのが何とも微笑ましい。


「さ、冷めないうちに食べましょう!いッただッきまーーーす!」

『『『いッただッきまーーーす!』』』


 ライトは箸を持ち、ミーア達三人はフォークを持ってお雑煮を食べ始める。

 前世日本人でサイサクス世界でも箸を使うので、ライトは普通に箸を使える。だが、転職神殿組は箸を使う食べ物を食べたことがない。

 そのためミーア達には、箸ではなくフォークを使わせているのだ。

 そしてここでライトが、ミーア達にちょっとしたアドバイスをする。


「あ、お餅にフォークをしっかり刺して食べると楽しいよ」

『『『楽しい?』』』

「ほら、こんな風になるんだー」

『『『!!!』』』


 ライトは目玉焼き型の餅を箸で掴み、一口食べてみょいーーーん……と伸ばしてみせた。

 まるで手品のように長く伸びる餅を見て、転職神殿組が大いに驚いている。

 そして早速自分の雑煮の餅で、ライトがしたように餅を伸ばし始めた。


 皆フォークで餅を刺し、餅の端を口に咥えてみょいーーーん……と伸ばしては、伸びて細くなった餅が切れたところでもくもくと食べる。

 その斬新な楽しみ方に、三人は大喜びしている。


『…………主様、これ、すっごく楽しいですね!』

『伸びる食べ物なんて、僕初めてです!』

『食べ物で遊ぶなんて、はしたないことだと分かっているのですが……躍る心が抑えきれません……』


 キャッキャとはしゃぐミーナとルディに、照れ臭そうにしながらもミーナ達と同じく餅を伸ばしては食べるミーア。

 自分が振る舞った雑煮を、転職神殿組の皆が心から楽しんでくれている様子にライトは嬉しくなる。

 正月ならではの楽しくも和やかな空気を、ライト達は心の底から堪能していた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 お雑煮を食べた後も、磯辺焼きに砂糖醤油、お汁粉など様々な餅料理を食べたライト達。

 それは言わば、聖なる餅のフルコース料理。正月ならではの特別料理に、四人のお腹は満たされていた。


「ぷはー……もうお腹いっぱいだぁー」

『いつものスイーツ以外で、こんなに美味しい食べ物は初めてですぅー……ケプー』

『何だか僕、身長が頭一つ分伸びた気がしますぅー……ゴフー』

『お菓子もいいけど、お餅もすごくいいですねぇ……ケプッ』


 たくさん食べて大満足したのか、ミーナとルディが盛大なゲップの後にミーアまでもが小さなゲップを漏らす。

 いつも楚々とした淑女なミーアのゲップとは、かなり激レアな場面だ。

 思わず口を押さえながらキョロキョロと周囲を見回すミーアに、ライトも思わず笑ってしまう。


「皆、思った以上にたくさん食べてくれて良かった!」

『主様がくださる食べ物は、いつでも美味しいですが……今日のお餅は特別に美味しかったです!』

『こんなに楽しい食事は、生まれて初めてです!パパ様、ありがとう!』

『私までご相伴に与り、ありがとうございました。ルディではないですが、何だか私までレベルアップした気分です』


 ミーア達三人の嬉しい反応に、ライトも思わず笑顔になる。

 実際のところ、ミーナの方は見た目的には然程変化は感じられないが、ルディは確実に背が伸びたな、とライトは思う。


 この聖なる餅は、これまで数々の神殿守護神の卵を孵化させてきたことからも分かる通り、BCO由来の者達にとっては経験値を得られる食べ物である。

 さすがにNPCであるミーアまでレベルアップしたかどうかは不明だが、使い魔であるミーナとルディは間違いなくレベルアップして成長しているはずだ。


 より強く逞しくなっていく仲間達に、ライトは次の計画を打ち明ける。


「そしたらさ、少し食休みしたら皆に手伝ってほしいことがあるんだけど、いいかな?」

『手伝ってほしいこと? それは何ですか?』

『パパ様のお手伝いなら、僕何でもします!』

「ミーナもルディもありがとう!ぼくね、今日は幻の鉱山に行きたいんだ!」


 ライトの次なる計画、それは『幻の鉱山で採掘!』である。

 前回ライトが初めてミーナとともに幻の鉱山に行ったのが、去年の九月末頃。

 それから約三ヶ月が経過する間に、ライトは毎日MP1500程度を目安に朝夕晩の三回かけて貯め続けていた。

 そしてつい先日、幻の鉱山に行くための必須条件であるMP100000を貯めきったのだ。


 一方、ライトの幻の鉱山行きを聞いたミーア達は瞬時に明暗が分かれる。

 ミーナはパァッ!と明るい顔になるが、ルディは心なしかしょんぼりとしていた。

 それは、幻の鉱山での作業は人型のミーア向けであり、東洋型の龍であるルディには不向きなことが明白だからだ。

 だがライトも、これに関して無策で挑む訳ではない。

 ライトはルディに向かって、努めて明るく話しかける。


「今回もルディは連れていけないけど、その代わりルディにしかできない仕事を任せたいんだ」

『僕にしか、できない、仕事……?』

「うん。それはね、ミーナがいない間ミーアさんと転職神殿を守るという、すっごく大事なお仕事!」

『!!!』


 ライトから告げられた、ルディにしかできない仕事。

 それは、姉であるミーアとこの転職神殿を守ること。

 それは早い話が留守番と何ら変わりはないのだが、まさに『物は言いよう』。

 たかが留守番であろうとも、そこに『大事な人と大事な場所を守る』という使命を付け加えることによって、ルディのモチベーションはグン!と爆上がりした。


『分かりました!僕がこの転職神殿とミーア姉様を、命を賭けてお守りします!』

「ぁ、ぃゃ、命までは賭けなくてもいいけどね? だってぼくは、ルディのことも大事だし」

『パパ様……僕のことをそんなに思ってくれているなんて、すっごく嬉しいです。パパ様の期待に添えるよう、全身全霊全力で頑張ります!』

「う、うん……一時間の間だけだけど、しっかり頼んだよ!」


 感激の面持ちでライトを見つめるルディに、ライトもちょっとだけ罪悪感を感じながら懸命に平静を装い宥める。

 ルディが頑張ってくれるのは嬉しいが、あまりにも力み過ぎて本当に命懸けの仕事になっても困る。

 というか、そもそもこの転職神殿に侵入者が現れるはずもないので、そこまで張り切られても……というのもある。


 しかし、ルディがやる気を出してくれるのはライトとしても嬉しい。

 姉のミーナと比べて自分は主の手伝いすらできない―――そんな劣等感を抱かれるよりは、やる気が多少空回りするくらいがいい。

 そしてそんなライトの思惑を見抜いているのか、ミーアは終始穏やかな笑顔でライト達のやり取りを見守っていた。


 だいたいの話がまとまったところで、ライトがマイページを開き『幻のツルハシ・ニュースペシャルバージョン』を取り出し手に持つ。

 そしてライトはツルハシの先端部を上に構え、ミーナがライトの背後に立ち両手をライトの肩の上に乗せる。


「じゃ、幻の鉱山にいってきまーす!」

『ルディ、ミーアお姉様と転職神殿の護衛、よろしく頼むわね!』

『万事この僕にお任せください!』

『ライトさん、ミーナ、気をつけていってらっしゃいまし』


 ライトはお出かけの挨拶をした直後、ツルハシを振り下ろし空間を切り裂く。

 ルディとミーアに見送られながら、ライトとミーナは幻の鉱山がある異空間に消えていった。

 正月三が日の三日目は、転職神殿の面々と過ごす場面から始まります。

 ミーアの妹分のミーナは前年の四月上旬生まれ、弟分のルディは同じく前年の五月下旬生まれ。二人ともまだ前回の正月には生まれていなかったので、これが初めてのお正月になるのですね(^ω^)


 そして作中でもやっている餅伸ばし。あれ、作者は未だに好きなんですよねぇ。

 作者はもうすっかりいい歳した大人なんですが、それでも毎年お雑煮を食べる度に一度は餅をみょいーーーん……と伸ばしては食べる作者。

 だって!お雑煮なんてホントに正月しか食べないから、いくつになっても楽しいんですもん!>< ←でもちょっと恥ずかしい

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