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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
年末年始と冬休み

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第1107話 ディーノ村の二つ名

 ライトとクー太、そしてラウルが冒険者ギルドディーノ村出張所の裏庭で遊び始めてから、小一時間程経過した頃。

 全力で遊び続けていたのでさすがに少し疲れたのか、あるいは存分に運動して大いに満足したのか、クー太がクレアのもとに駆けていった。


「まぁまぁ、クー太ちゃん、小腹が空いてきたんですか?」

「グルルルゥ!」

「今日はたくさん遊んでもらえて良かったですねぇ」

「ギャオオォォ♪」


 とてもご機嫌そうな顔でクレアに頬ずりするクー太。

 そんな甘えん坊なクー太に、クレアも嬉しそうにクー太の顔を撫でる。

 そしてクー太に続き、ライトとラウルもレオニスのもとに戻ってきた。


「はーーー、クー太ちゃんとたくさん遊べて楽しかったー!」

「おかえりー。クー太のビームや火炎放射を久しぶりに見たが、威力が強くなってたなぁ」

「うん!やっぱりクー太ちゃんはカッコいいよね!」

「クゥゥゥゥ♪」


 花咲くような笑顔でクー太の強さを大絶賛するライト。

 ライトがクー太を褒めているのが分かるのか、クー太がクレアから離れて今度はライトに頬ずりしている。

 ひんやりとした感触のクー太の頬ずりに、ライトが「ウヒャッ!」と驚きながらもその顔は笑顔が絶えない。

 その横でラウルが大いに頷いている。


「ドラゴンの幼体とこうして触れ合える機会なんて、滅多にないからな。俺にとってもいろんな意味で良い経験になったわ」

「てゆか、ラウルもかなりすごかったよね? クー太ちゃんとの空中追いかけっこなんて、両方とも超高速でビュンビュン飛び回ってたもん!」

「お褒めに与り光栄だ」


 クー太だけでなくラウルの俊敏さも絶賛するライト。

 実際ラウルとクー太の空中追いかけっこは凄まじく、猛スピードで攻防を繰り返す両者にライトは終始「すごーい!」と大喜びしながら地上で観戦?していたくらいだ。

 興奮冷めやらぬ、といった様子のライトに、クレアがにこやかに話しかける。


「皆さん、クー太ちゃんとたくさん遊んでくれてありがとうございますぅ。そしたら建物の中で、休憩がてらお茶にでもしませんか?」

「あ、それいいですね!そしたらラウル、クレアさんにも久しぶりに美味しいスイーツを出してあげてくれる?」

「もちろんだとも。今日はクー太と遊ばせてもらったお礼に、こないだ作ったばかりの新作スイーツを出そう」

「ヤッター!」


 ラウルの言葉を聞いたライト、その場で飛び上がる程に喜ぶ。

 クレアからのお茶の誘いだけでも昇天ものなのに、そこにラウルの新作スイーツが加わったら―――それは間違いなくザ・パラダイス!である。


 クレアを先頭に、冒険者ギルドディーノ出張所の建物に戻るライト達。

 クー太は裏口手前にあるクー太専用ハウスに入り、速攻で横向きにゴロンと寝そべった。

 このクー太専用ハウス、見た目は犬小屋そのものなのだがサイズはちょっとした物置くらいある。

 アーチ状の出入口の上には【クー太ちゃんの別荘】というネームプレート?があり、そこがクー太専用の場所であることが分かる。


 クー太と分かれ、建物の中に入ったライト達。

 ライトとレオニスとラウルは応接室に行き、クレアはお茶を淹れるために給湯室に向かう。

 クレアがライト達より少し遅れて応接室に入った頃には、テーブルの上にラウルの新作スイーツが人数分用意されていた。


「お待たせいたしましたぁー。皆さんお疲れさまですぅー」

「クレアさん、わざわざお茶まで淹れてもらってありがとうございます!」

「いえいえ、こちらこそ今日はいろいろとありがとうございますぅ。素敵なお年賀をいただいただけでなく、クー太ちゃんとたくさん遊んでもらえて、実に善き日となりましたぁー」


 ワゴンで運んだお茶をテーブルに置くクレア。

 全ての支度を整えて、最後に席に着いたクレアが早速ラウルに問うた。


「ラウルさん、こちらは何というスイーツですか?」

「これはクレーム・ブリュレといって、卵黄と生クリームを使ったコクのあるスイーツだ」

「クレーム・ブリュレ……何とも優雅な響きですねぇ……」


 ラウルが出してきた新作スイーツ『クレーム・ブリュレ』を、クレアがうっとりと眺めている。それはまるで恋する乙女のような、実に熱い眼差しだ。

 そんなクレアを他所に、早くスイーツを食べたいレオニスがちゃちゃっと仕切る。


「じゃ、早速いただくとするか。いッただッきまーーーす!」

「「「いッただッきまーーーす!」」」


 レオニスが唱える食事の挨拶に、ライト達もスプーンを両手に挟みつつ後に続き唱和する。

 そしてクレーム・ブリュレにそっとスプーンを入れ、一口分を掬って口に運ぶ。

 しばしの静寂の後、一番最初に口火を切ったのはライトだった。


「ンーーーッ……美味しーーーい!」

「おおお……こりゃまた美味いな!」

「この表面の、パリパリとしたほろ苦いキャラメル?が、ものすっごーーーく美味しいですぅー♪」

「大好評のようで、何よりだ」


 ライトとクレアは左手でほっぺたを押さえながらその美味しさを讃え、レオニスも目を大きく見開きながらパクパクとクレーム・ブリュレを頬張る。

 そしてクレームブリュレはあっという間になくなり、皆お茶を啜り至福の時の余韻を楽しんでいた。


「はぁー……ラウルさんのお料理の腕は、相変わらず冴え渡っていますねぇー」

「お褒めに与り光栄だ」

「このスイーツならば、ラグナ宮殿の筆頭料理長の座も狙えますよ?」

「度重なるお褒めの言葉、誠に光栄だ。だが俺は、今の環境―――執事と冒険者という二足の草鞋が気に入っているのでな。今更ラグナ宮殿勤めになりたいとは思わんし、なれると言われてもなるつもりもない」

「そうですかぁ……でもまぁ、ラウルさんがやりたいことをやるのが一番ですよねぇー」

「そゆこと」


 ラウルの新作スイーツを誰よりも大絶賛するクレアに、ラウルは事も無げにさらりと返す。

 かつてラウルは、レオニス邸の執事という立場だけで十分満足していた。

 だが今は、冒険者ギルドに正式登録した冒険者でもある。

 料理関連で散財しやすいラウルにとって、冒険者稼業での稼ぎは今や欠かせない財源となっている。

 普段は料理や食材作りの農業に没頭し、時々冒険者となってお金を稼いだり人々のためになるような依頼をこなす。この生活サイクルが、何よりラウルは気に入っているのだ。


 そして話が冒険者のことになったせいか、レオニスもライトに向かって話しかけた。


「な、なぁ、ライト。お前に一つ聞きたいことがあるんだが……」

「ン? ナぁニ?」

「その、あれだ……お前も今年、冒険者になれる歳になるだろう?」

「うん!今からもうすっごく楽しみー!ぼくね、誕生日の八月十二日になったら、朝イチで冒険者ギルドに登録しに行くって決めてるんだ!」

「だ、だよな……」


 レオニスからの問いかけに、ライトが破顔しつつ答える。

 先程裏庭でレオニスとクレアが会話していた通り、ライトは誕生日当日に速攻で冒険者ギルドに登録しに行くつもりらしい。

 それは完全に予想の範囲内として、レオニスが最も気になることを質問した。


「ライトは、どこで冒険者登録するつもりなんだ?」

「え? どこでって、それは……」


 レオニスの質問に、きょとんとした顔になるライト。

 その顔は『何故そんな決まりきったことを聞くの?』という顔だ。

 ライトは小首を傾げながら、その答えをレオニスに告げた。


「そんなのもちろん、このディーノに決まってるでしょ?」

「「!!!!!」」


 ライト自身の口から告げられた答え。

 それはライトの中では既に決定事項であり、さも当然といった様子で告げる。

 だがその答えは、レオニスとクレアに衝撃を与えた。

 二人が密かに望んでいた願い、それは彼らがライトにわざわざ伝える前から叶っていたのだ。


 目を大きく見開いたまま、半ば固まっているレオニスとクレア。

 そんな二人を眺めつつ、ライトは心底不思議そうな顔で尋ねる。


「てゆか、ディーノ以外のどこで冒険者登録しろっての?」

「そ、そりゃ、やっぱ今住んでるラグナロッツァなのかなー、と思って……」

「ラグナロッツァ? ぁー、別にそれでもいいかもだけど……でも、ぼくとしてはやっぱりディーノ一択だね!だってディーノは父さんと母さんの故郷だし、レオ兄ちゃんの故郷でもあるし!」

「「…………」」


 ライトがディーノを選ぶ理由を嬉々として挙げていく。

 それは、生まれてこの方ディーノ村に一度も住んだことがないライトが初めて語る、ディーノ村を故郷と思っている理由。

 それを聞いているクレアの瞳が、じわりと潤んでいく。

 そんなクレアの変化に気づくことなく、ライトはなおも言葉を続ける。


「でさ、ディーノ村がぼくの故郷だってのもあるんだけどさ? それ以上に……」

「「……???」」


 それまで雄弁に語っていたライトが、ここで何故か口篭る。

 もじもじしながら言い淀むライト。いつもはっきりとした物言いをするライトにしては、かなり珍しい姿だ。

 だが、ライトは意を決したようにクレアを真っ直ぐに見つめながら再び口を開いた。


「ぼく、クレアさんのことが一番大好きなので!クレアさんのいる冒険者ギルドで、冒険者登録したいんです!だって冒険者登録は、一生に一度のことだから……だからこそ、ぼくが冒険者になるその瞬間を、クレアさんにも見ていてほしいんです!」

「…………ッ!!」


 ライトの一世一代の告白?に、クレアの瞳に溜まっていた雫が決壊してポロポロと零れ落ちる。


「ライトさんに、そこまで思っていただけていたなんて……受付嬢冥利に尽きるというものですぅ……」

「え? え?? クレアさん、そそそそんなに泣くほどのことでは……」

「いいえ、いいえ……私、今まで生きてきて今日ほど嬉しいと思ったことはありません……ううう……」


 ライトの意に反して、ガチ泣きしてしまったクレア。

 ライトにしてみれば、何故ここまで泣かれるのか分からない。

 突然のことにオロオロするライトに、レオニスが徐に口開いた。


「このディーノ村で冒険者の新規登録なんて、何年ぶりだ?」

「……十年ぶり、くらい、ですか、ねぇ……」

「!!!」


 涙で声が閊えるクレアの答えに、今度はライトが驚愕する。

 冒険者登録が十年ぶりくらいということは、それは裏を返せば過去十年間一人として冒険者登録をする者がいなかった、ということだ。

 ディーノ村が寂れゆく一方だというのは、ライトも知っているつもりだった。

 だが、こうしてクレアの口から語られる現実はさらに厳しいものだった。


 しかし、そのことに対してレオニスが悲観する様子はない。

 むしろ平然とした顔でライトとクレアに話しかける。


「ディーノ村の冒険者はな、昔から少数精鋭と決まってるんだ。グラン兄に俺、そして今年はライトがディーノ所属の冒険者として新たにデビューする。これだけでも、ディーノ村は有望な人材を輩出する由緒正しい村だってことが分かるだろう?」

「うん、そうだよね!金剛級冒険者の出身地ってだけでもすごいことだもんね!」


 レオニスの論に大きく頷くライトに、クレアも涙を拭いながら静かに同意する。


「……そうですね。このディーノ村は、別名『始まりの地』とも呼ばれる、それはもう由緒正しい村ですからね」

「そうそう!…………って、ディーノ村にそんな二つ名あったっけか?」

「「…………」」


 せっかくクレアが上向きになったというのに、レオニスの無神経な問い返しで台無しである。

 ちなみにライトの方は、このディーノ村が『始まりの地』と呼ばれる所以を知っている。


 このディーノ村は、BCOの中でも最初期に登場する。

 ゲームのチュートリアルをクリアした後、勇者候補生と呼ばれるユーザー達はそれぞれ冒険の旅に出る。

 そして冒険ストーリーの中で一番最初に出てくるのが、転職神殿があるこのディーノ村なのだ。


 始まりの地、か……このディーノ村に相応しい二つ名だよな。

 冒険者ギルド受付嬢であるクレアさんとここで初めて出会うし、何よりディーノ村には職業システムの根幹である転職神殿もあるからな。

 俺達勇者候補生(ユーザー)にとっては、正真正銘始まりの地だったな……


 過去世の思い出と感慨に耽るライトの横で、クレアがレオニスに説教をしている。


「全くもう、レオニスさんってば……金剛級冒険者ともあろうお人が何を寝言吐いてるんです? 寝言は寝て言うものですよ? このディーノ村が『始まりの地』であることは、冒険者ならば誰でも知っていて当然の常識ですよ?」

「え、そなの? 俺、今初めて知った気がするんだけど」

「いーえ。これは全冒険者が履修しなければならない『冒険者のイロハ講座』の中で一番最初に習うことです」

「…………そうだったっけ?」


 ディーノ村の二つ名を知らないと宣うレオニスに、クレアがこめかみに青筋を立てながら静かにキレる。

 本日二度目の『寝言は寝て言え』が放たれたが、その声音の温度は一回目の比ではない。

 氷点下どころか絶対零度まで達しそうな冷酷な声で、クレアはレオニスに問答無用の判決を言い渡す。


「やはりレオニスさんには、私が講師を務める『冒険者のイロハ講座』の再履修が必要なようですねぇ? 今日から一週間、ミーティングに入りましょうか」

「ぇ、ぃゃ、その、それは勘弁してくれ……」


 レオニスの根性を叩き直すべく、クレアの背後からユラリとしたオーラが立ち上る。

 ギラリと光る双眸からの射抜くような鋭い視線に、レオニスが必死に言い募る。


「ほ、ほら、新年早々からそんなに仕事を増やさなくてもいいんじゃないか? 俺としても、優秀な受付嬢であるクレアの時間を奪うのは忍びないし……な?」

「……はぁ、仕方ありませんねぇ。では、こうしましょう。ライト君がここディーノ村出張所で冒険者登録をする際には、レオニスさんも必ず同行すること。そしてレオニスさんもライト君とともに『冒険者のイロハ講座』を受けること。……いいですね?」

「は、はい……」


 レオニスを藪睨みするクレアから、今にも射殺(いころ)されそうな鋭い視線と『ドギャガガズゴゴゴゴ……』という地の底を大いに揺るがすドス黒いオーラが陽炎のように揺らめき立ち上る。

 あまりにも凄まじい圧を放つクレアの命令に、レオニスがどんどん縮こまりながら頷く。

 こうなったクレアに逆らえる者などこの世に存在しない。


 有無を言わさぬクレアの圧に、いとも簡単に屈したレオニス。今度ばかりは言い逃れることは不可能、と判断したようだ。

 レオニスがクレア開催のイロハ講座に出席することを承諾したことで、般若の形相だったクレアの表情は次第に和らいでいく。

 そしてライトの方に顔を向ける頃には、すっかり普段のクレアに戻っていた。


「ライト君のお誕生日は、八月の十二日でしたよね?」

「はい!」

「その日を今から心待ちにしておりますぅ」

「……はい!」


 ニッコリと微笑むクレアの笑顔の、何と愛らしいことよ。

 先程までレオニスに向けていた般若顔とは大違いである。

 いつにも増して愛らしいクレアの仕草に、ライトは毎回毎度胸を射抜かれては仰け反り感動する。

 クレアの愛らしさにメロメロのライトと、般若のクレアの圧に心底震え上がるレオニス。

 天国と地獄の両者、そして女神と閻魔の二役を事も無げに使い分けるクレア。

 この三者が繰り広げる悲喜劇に、ラウルは『この姉ちゃんには逆らわないでおこう……』と一人密かに決心するのだった。

 ディーノ村でののんびりタイム第三弾?です。

 クレアとの様々なお話も、気がつけば早三話目。ディーノ村自体が滅多に出番が回ってこないだけあって、一度作中に出したらここぞとばかりにクレア嬢が作者を離さないという><

 というか、今日も6000字を超えてしまったのはKYレオニスのせいよ!(`ω´)


 しかし、ライトの正式な冒険者登録の日も近づいてきていることもあり、それらの舞台も徐々に整えていくことも欠かせません。

 ……って、ライトの次の誕生日は作中時間で約七ヶ月後。リアルであと何話後になるのか、作者にすらさっぱり予測できないんですけど(´^ω^`)

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― 新着の感想 ―
[一言] 冒険者のイロハ一週間集中講座。 ライトはきっと喜んで受講するんでしょうね。どんな講義があるのか楽しみです。
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