第1102話 一年の計は元旦にあり
その後ライト達は昼食まで自由行動となった。
レオニスは一旦カタポレンの森に帰り警邏に出かけ、ラウルはマキシとともに早速干し肉類の料理をし始めた。
そしてライトはと言うと、カタポレンの家に戻り自室で冬休みの課題の一つである書き初めにチャレンジしていた。
学習用机の上に、書道のための支度に励むライト。
まずは椅子に座り精神集中する。
そして、魔術師ギルドマスターであるピースから譲ってもらった、非売品の呪符作成用毛筆(中太)を握り深呼吸をする。
この筆は、過日ピースが炎の洞窟にて狩ったマンティコアで作った筆だ。
新しい筆を十本以上も作ることができて、ホクホク顔のピースが「ライっちのおかげだよ!ありがとうね!」という言葉とともにそのうちの一本を譲ってくれたのだ。
精神集中と深呼吸で気持ちを落ち着けた後、硯に入れた墨に筆の毛先を沈ませてゆっくりと墨汁を含ませる。
ちなみにこの墨汁、ライトの大親友イードから分けてもらった墨である。
先日書き初めのための墨汁を得るために、目覚めの湖に向かったライト。いつもの木製バケツを手に持ちながら、イードに「墨を分けてちょうだい!」とお願いした。
そしたらその願いを快くOKしたイードに、頭からドババババー!と大量の墨をかけられたのは良い思い出である。
魔術師ギルド特製の非売品毛筆に巨大クラーケンの墨という、非常に贅沢な道具で挑む書き初め。
ラグーン学園初等部二年生に出されたお題は『ともだち』。
学園から支給された書き初め用の半紙は三枚。お手軽な失敗や練習が許される量ではない。
ライトは一枚目から一球入魂の心意気で挑む。
「……よし、できた!」
三枚とも渾身の出来で書き上げた書き初め。
まずは紙が完全に乾くまで待たねばならないので、筆や硯などの道具をまず片付けてから学習用机の上に三枚を並べて置いておく。
ここで風魔法で無理矢理水分を飛ばすと、半紙がシワシワになって非常に見栄えの悪い出来上がりになってしまうのだ。
半紙の乾燥を待つ間、ライトはベッドの上にゴロンと寝転がる。
普段の休日は、どこかに出かけたり魔物の解体作業に勤しんだり等々、何かしらいつも動いてばかりいるライト。
元日くらいは寝正月するぞ!という固い決意のもとのゴロ寝である。
「はー……これぞ寝正月ってヤツだよね、ゴロ寝三昧サイコー!」
いつも寝ているベッドの上で、思う存分ゴロ寝を堪能するライト。
枕を抱きながら左右にゴロゴロ転がったりして、実にウッキウキである。
だが、十分もすると左右のゴロゴロは完全に止まり、真上の天井を見る目が心なしかスーン……としている。
「…………称号チェックでもするか」
ライトは徐にのそりと起き上がり、胡座で座りながらマイページを開き始めた。
若干ワーカーホリック気味な気がしないでもないが、ベッドの上でマイページチェックするだけなら問題ナッシング!ということらしい。
むしろ、一年の計は元旦にあり。元日に己の現状を知ることは、この先のライトの動向の大きな指針となるのである。
マイページの中の称号欄を開くライト。
常時発動する特殊称号は『玄武の加護』『冥界樹の加護』『風の女王の加護』『青龍の加護』『地の女王の加護』の四つが増えていた。
サイサクス世界における高位の存在達、その加護が増えることはライトにとっても実に望ましい。
そして、称号スロットで入れ替え可能な通常称号の一覧に移る。
今回新たに増えていた通常称号は、以下の通りである。
『CPショッピング初心者』『蛇龍神の恋のキューピッド』『鉱山採掘権保有者』『銀涅の友』『玄武の生みの親』『剣豪と知己を得た者』『ドラリシオの救世主』『禍龍の寝顔の目撃者』『破壊神の命の恩人』『青龍の生みの親』『地底世界到達者』『ぬるぬるドリンク名人初段』
今日も目眩がしそうなほど個性的な称号がずらりと並ぶ。
その一つ一つを、ライトはじっくり見ていった。
『CPショッピング初心者』……初めてCPで買い物をした時のことか。CP……課金通貨での買い物はまだ一回しかしたことないけど、これからもCPを貯めていって、いつかレアアイテムを引き当てたいな!
『蛇龍神の恋のキューピッド』……デッちゃんとクレエさんを出会わせたアレだな。……って、デッちゃんのアレは恋なのか? レイドボスと人族の禁断の恋?の成就は、さすがにないだろうが……ま、人を好きになること自体は誰にも止められんもんな。
『幻の鉱山採掘権保有者』……幻のツルハシ・ニュースペシャルバージョンゲットしたおかげだな!またそのうち幻の鉱山にも行かなくちゃ。……よし、今日はツルハシに多めにMP充填しようっと。
『銀涅の友』……銀涅?……あ、シルバースライムのことか!銀色のべたべた欲しさに必死で手懐けたけど……銀色のべたべたを採り終えた後も、シルバースライム達と仲良くしていきたいな!
『玄武の生みの親』と『青龍の生みの親』……これはそのまんまだな。つか、ここら辺の称号ってレオ兄やラウルにも付いてそうだけど、そこら辺どうなってんだろ?
『剣豪と知己を得た者』……俺の知ってる剣豪って、今んとこ一人しかいないんだけど……うん、深く考えるのはよそう……
『ドラリシオの救世主』……あの事件のことか。ドラリシオさん達が全員助かって、本当に良かった……あの子達がどのくらい元気になったか、今度アクアやレオ兄ちゃん達といっしょに会いに行きたいな!
『禍龍の寝顔の目撃者』……エリトナ山のガンヅェラ、寝顔もだけど寝言がまた面白かったな!いつか寝てないガンヅェラにも会いたいけど……無理なんだろうなぁ……
『破壊神の命の恩人』……イグニス君の中の破壊神が、こんなに早い時期に目覚めるなんて……あまりにも予想外過ぎたけど、ヴァレリアさんのおかげでイグニス君が助かって本当に良かった!……でもね、イグニス君。この称号、『物理攻撃+500』はすんげー魅力的だけどさ? 他の『運-100』とか『回避率-150』は冗談抜きで洒落なんないって……頼むから、もうちょい使える称号にして?
『地底世界到達者』……ランガさんや地の女王様に会いに行った地底世界。そこに夜空のような世界が広がってるなんて、誰も予想できないよね!このサイサクス世界には、俺の知らないものがいっぱいあるんだなぁ……
『ぬるぬるドリンク名人初段』…………え、俺、もう『ぬるぬるドリンクマスター』になったんじゃなかったっけ!? 何で『初段』なんて新しいのが生えてんの!?……あ!アドナイにあった『特濃レモン味』なんてもん見つけたせいか!?
新たに得た称号を一通りチェックし終えたライト。
結果としては現状維持で、称号交換するには至らなかったが。そのことでライトの中に不満はない。
これまでのライトが歩んできた軌跡をも振り返るようで、何気に楽しかったりするからだ。
夏休み以降に得た、数々の出会いや成果を改めて噛みしめるライト。
今年もいっぱいいろんなところに出かけて、たくさん冒険するぞ!という決意に燃え盛るのであった。
ライトの書き初め&称号チェック回です。
作者の場合、書き初めは小学一年生と二年生の時は硬筆で、三年生以降に毛筆になった覚えがあるのですが。今の時代はどうなんでしょうね?(゜ω゜)
そして恒例&久々の称号チェック。前回の称号チェックは第821話でやってるので、280話ぶりですねー(・∀・)
細かい数値までは出していませんが(それを毎回やってたら、文字数アホほど嵩む&目が滑る><)、どれも何かしらのステータス補正効果を持っています。そう、腐っても称号ですのでね(´^ω^`)
ただしどれもこれも微ッ妙ーーーな補正値ばかりで、実用には至らないゴミ称号なのですが。
それでも作中にも書いたように、これまでのライトの軌跡を辿る思い出の1ページ的な側面もあるので、物語を振り返る上での楽しみでもあるのです( ´ω` )




