第1095話 地底世界訪問第二の目的
レオニスとユグドランガが親交を深めている間、ライトは白銀の君にエクスポーションをあげ続けていた。
二回目の三十本を飲み終えて、三回目の四十本をザラザラザラー……と口に運ぶ白銀の君。
パリン、バキン、モクモク、ゴッキュン…………地底世界ではまず聞くことのないであろうガラス瓶の咀嚼音が響く。
『ふぅ……このエクスポーションというものは、いつ食しても美味ですねぇ』
「白銀さんに喜んでもらえて、ぼくも嬉しいです!」
ライトと白銀の君がのんびりと雑談していると、そこにレオニスが寄ってきた。
「白銀、腹拵えはできたか?」
『ええ、美味なる馳走で力は漲っておりますよ』
「そしたら早速だが、転移門を作るぞ。白銀もこっちに来てくれ」
『承知しました』
白銀の君はレオニスとともに、ユグドランガの根元すぐ近くに歩いていく。
レオニスの来訪目的の一つ目『ユグドランガと白銀の君と引き合わせる』を達した今、今度は二つ目の目的『神樹族用転移門を設置する』に取りかかる番である。
「よし、ここら辺に設置するか。白銀、頼むぞ」
『任せなさい』
二者が立つ位置から、まずレオニスがその場を離れて白銀の君だけが残る。そこは冥界樹の枝葉の下で、他の草木は生えておらず土が剥き出しの地面になっている。
そして白銀の君が何事かをブツブツと唱えると、彼女の目の前がパァッ!と明るく輝いた。転移門用の魔法陣が出現したのだ。
垂直に現れた魔法陣を水平に直し、そのまま地面に置いて定着させる。
そしてレオニスは、転移門の魔法陣が地面に置かれたのを確認した後すぐに石柱の設置に取りかかる。
空間魔法陣から石柱を取り出し、設置場所の地面を土魔法で少し柔らかくしてからしっかりと埋め込む。
これで人間用の操作パネルが使えるようになる。
ちなみに竜族がこの転移門を使う場合は、転移門を使用する資格がある者が足を踏み入れると自動的に巨大パネルが出現する。
行き先は『天空樹』『冥界樹』『大神樹』『神樹』『竜王樹』の五つのうち現在地を除く四つ、そしてカタポレンのレオニス宅が表示されるようになっている。
そしてここら辺の表示や並び順は、初回にレオニスが操作して年齢が高い順に並べておく。
行き先を年齢順に並べて統一おくことで、文字を使わない竜達にも簡単かつ間違いなく行き先指定できるように、という配慮である。
操作用の石柱を設置し終えたレオニスが、早速操作パネルを表示させて次々と行き先を設定する。
ここでは『天空樹』『大神樹』『神樹』『竜王樹』『レオニス』の五つが表示されるようになった。
「白銀、どうだ、そっちにもパネルが出たか?」
『ええ、出てきましたよ』
「ラグスんとこは下から二番目、俺んとこは一番下な」
『いつも通りですね、問題ありません』
レオニスが設定したパネルの具合を確認し合うレオニスと白銀の君。
白銀の君もこれが四度目の転移門設置とあって、実にテキパキとして手慣れたものだ。
一方、それらの作業を初めて見るユグドランガは、興味深そうにじっと眺めていた。
『ふむ……それが、人族が用いるという瞬間移動用の魔法陣、転移門なのか?』
「ああ。使いようによっては簡単に悪用されてしまう代物なんでな、設置する際の手順やら何やらはかなり厳格な運用が求められるもんなんだ」
『この地底世界に置くのは問題ないのか? 何も知らぬ地底の者達が間違ってここに来て、地上や天空島に飛ばされたりはしないのか?』
ユグドランガにとっては初めて見る転移門、その仕組みなども全く分からない。故にユグドランガは、それを深く知るためにレオニスに積極的に質問している。
そんなユグドランガのために、レオニスも懇切丁寧に解説していく。
「この転移門を使用するための必須条件として、『神樹の加護を一つ以上持つ者』という条件を入れてある。つまり、神樹の加護を全く持たない者は絶対にこの転移門を使うことはできん、という訳だ」
『なるほど、それならば地底の者達が間違って地上に飛ばされることもないし、地上から不埒者が侵入したりなど悪用される心配もないな』
「そゆこと」
転移門に施されている安心安全対策を聞き、ユグドランガも安堵している。
神樹の種類に拘わらず、どれか一つでも神樹の加護を得ていれば転移門を使える。この条件にユグドランガが異を唱えることはない。
世界に六本しかない神樹、その神樹達が認めた者ならば他の神樹も絶対的な信頼を置くからだ。
こうして地底世界訪問二つ目の目的、神樹族用転移門の設置は無事完遂された。
するとここで、ユグドランガの枝葉がサワサワと揺れる。
『……おや、お客様がいらしたようだ』
「客?」
ユグドランガの意外な言葉に、レオニスが思わず聞き返す。
この地底世界に、自分達以外にユグドランガのもとを訪ねるような者なんているのか?……いや、一組だけいるか。
そんなことをレオニスが考えている間に、その一組が姿を現した。
『ランガ君、やほー』
間延びした声で、ユグドランガのことを『ランガ君』と呼ぶ何者か。
それはレオニスが予想した通り、白虎の背に乗った地の女王だった。
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地底神殿の守護神白虎の背に乗った地の女王。
彼女達の突然の訪問に、ユグドランガは落ち着き払った声で話しかける。
『ようこそ、地の女王。今日はどうした、シロとともに我の根元でゴロ寝でもしに来たのか?』
『ンー、それもいいけどー。外からお客様が来たようだからー、私達も遊びにきたのー』
『今客人が来ておるのはその通りだが……客人達とて、ここにただ遊びに来た訳ではないぞ?』
『えー、いいじゃなーい、ランガ君ってばホント頭が固いわよねぇー』
『む。そんなつもりはないのだがな……』
地の女王達の出現理由、それはレオニス達の訪問を察してのことのようだ。
遊びに来た!という地の女王をユグドランガが軽く窘めるも、逆にその頭の固さを地の女王に指摘されて困ったようになる。
二者の会話の具合からして、どうもユグドランガと地の女王は対等な友人関係を築いているようだ。
『それにー、そこにいるレオニスとライトはー、前回来た時にも私達のところに来てくれてたのよー? だったら今回もー、きっと私達のところにも会いにきてくれる、ハズ!……と思って、ここに来たのー』
『全く……其方達には敵わんな』
のほほんとした地の女王の言い分に、ユグドランガも苦笑交じりで呟く。
そんな二者の会話に、早速レオニスが入っていく。
「よう、地の女王。元気にしてたか?」
『ええ、見ての通り元気も元気よー』
「そりゃ良かった。あんたの場合、痩せ細る方が大問題だもんな」
『そゆことー』
レオニスの挨拶に、地の女王は白虎の背から降りてその場でくるりと身体を一周して見せる。
彼女の身体は相変わらずふっくらふくよかで、腰の括れなど微塵も見当たらない。
これは今現在、地上に飢饉や瘴気化などの問題が一切起きていない証。逆に彼女が細くスリムになった時こそ、地上では深刻な危機が起きているという、何とも皮肉な話だ。
そしてここで、地の女王の出現に気づいたライトが駆け寄ってきた。
「地の女王様、シロちゃん、こんにちは!」
『こんにちはー、ライト。アナタ達も元気そうで何よりねぇー』
「ありがとうございます!もし良ければ、地の女王様達もぼく達といっしょにお茶しませんか?」
『お茶? 何だかよく分からないけど、ステキな響きねぇー。いっしょに遊んでくれるのなら、何でもいいわー♪』
「そしたら早速支度しますね!」
早速地の女王をお茶会に誘うライト。
他の属性の女王達とは一味違うぽっちゃり女王に、何としてもお近づきになって仲良くなりたいようだ。
そんなライトの誘いに、地の女王はお茶が何たるものかもよく分かっていない。だが、楽しげなものであることは何となく分かる。
いそいそとお茶会の支度を始めるライト。
こうして冥界樹のもとに地の女王も合流し、地底世界の二大強者が一同に会しライト達とお茶会することになっていった。
ライト達の二つ目の目的、冥界樹のもとに神樹族用転移門の設置を行う回です。
第1071話で白銀の君と約束していたヤツですね(・∀・)
そのついでに、地の女王も呼び寄せちゃったりなんかして。
いちいち冥界樹と別れさせてから地の女王を訪問しにいかせるとか、手間かかるし正直めんどい!……なーんてことでは、決してございませんですことよ?(・з・)~♪ ←本音ダダ漏れ
でもまぁね、地の女王ともより一層仲良くなっておきたいのは、属性の女王の大ファンであるライトでなくても思うこと。
地の女王の襲撃?がなくともどの道ライト達は彼女にも会いに行くはずだったので、ここでまとめてお茶会開催しちゃうのは間違いなく一石二鳥なのです♪(^ω^)




