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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
年末年始と冬休み

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第1090話 果てしなく広がる大空

 感激のあまり、青龍に抱きついていた風の女王。

 嗚咽が止まらない風の女王の頬を、青龍がその長い髭でチョン、チョン、と優しく突つく。

 青龍に頬を突つかれた風の女王、ようやく気分が落ち着いてきたのか青龍から身体を離して少し後ろに下がった。


『青龍様、いきなり抱きついてしまってすみませんでした……』

『ううん、気にしないでいいよー』

「「!?!?!?」」


 我に返った風の女王が、青龍に謝罪する。

 照れ臭そうにモジモジとする風の女王の、何と愛らしいことよ。

 だが、ライトとレオニスはそれどころではない。青龍が風の女王の謝罪を普通に受け入れ、事も無げに会話しつつ受け答えしていたからだ。


 これまでライト達が孵化に立ち会ってきた神殿守護神達は、孵化したばかりの時は会話などできなかった。それこそ生まれたての赤ん坊にも等しかったからだ。

 だが、今回の青龍は違う。卵から孵った直後から言葉を用い、しっかりと意思疎通できている。

 これはライトとレオニスにとって、かなり衝撃的なことだった。


 二人はしばしあんぐりと口を開けていたが、いち早く気を取り直したライトが青龍に向かって声をかける。


「せ、青龍……君、もう言葉が話せるの……?」

『ンー? あー、そうだねー。……って、これって珍しいことなの?』

「う、うん、すっごく珍しいことだと思うよ」

『そうなんだー』


 ライトの問いかけに、のほほんとした声で答える青龍。

 少年のような声音からして、どうやらこの青龍の性別は男のようだ。

 青龍は身体を解すかのように背中を仰け反らせ、グググ……と伸ばす。


『ンーーーッ……ようやく外に出れたぁー』

「もしかして、卵の中にいるうちから意識があったの……?」

『うん。ずっと暗い中にいたよ。そして誰かがここから出してくれるのを、ずっと……ずーっと待ってたんだ』

「「『…………』」」


 静かに語る青龍の言葉に、ライトやレオニスだけでなく風の女王まで黙り込む。

 本当のところは誰にも分からないし、疑問に答えてくれる者もいない。だが、ある程度のことはライトにも予想がついた。

 おそらく青龍は、何事もなければとっくの昔に生まれていたはずだったのだろう。

 だが、五代前の風の女王によって卵が外に放り出されるというイレギュラーなことが起きた。そのせいで孵化が遅れたとしか考えられない。


 そしてもう一つ、この卵にはイレギュラーなことが起きていた。それは、辻風神殿の外に放り出されたことによって常時外気に触れていたことだ。

 このフラクタル峡谷は風の精霊達の住処であり、常に風の精霊達が放出する魔力に満ちている。

 魔力を含む風に長年常時晒され続けることで、卵が徐々に魔力を蓄えていき、いつしか卵の中のモノに自我が宿ったのだ。


 しかし、如何にフラクタル峡谷に風の魔力が満ちていても、物質的な身体を形成するまでには至らない。

 神殿守護神の卵はBCOシステム由来のものであり、卵から孵化するには肉や魚、野菜などの物質的栄養素を大量に摂ることが欠かせないのだ。


 ちなみにライト達がこれまでに会った生誕済み神殿守護神、ディープシーサーペントやヴィゾーヴニル、グリンカムビなどもその法則に則って孵化している。

 ディープシーサーペントは女型人魚が様々な魚介類を面白半分に卵に与え続け、ヴィゾーヴニルやグリンカムビは時折神殿の中に吹き込んでくる風が天空樹ユグドラエルの葉を運んできた、という経緯である。

 そしてガンヅェラは火山のマグマをぐんぐん飲み干し、白虎は冥界樹ユグドランガの葉を吸収した、らしい。


 そうした様々な経緯は、ライト達は知る由もない。

 だが、紆余曲折を経て青龍はやっと孵化することができた。

 新たなる四神の誕生、そのに立ち会えたことは純粋に嬉しいし光栄なことだ。

 今はそのことを喜びたい、とライトは思う。


「え、えーと……すっごく時間がかかっちゃったようだけど、とにかく青龍がこうして無事生まれてきてくれたのは、とっても嬉しいしお目出度いことだと思うよ!」

「だな。今日は青龍の誕生日だ、何かお祝いしようじゃないか。青龍よ、何か欲しいものとかしてほしいこととかあるか?」

『欲しいもの? うーーーん……』


 ライトの言葉にレオニスも賛同し、誕生日の主役である青龍に欲しいものなどを尋ねる。

 当の青龍は、レオニスの問いかけに対ししばし考え込む。

 生まれたばかりの青龍に、欲しいものなどすぐに出てくるか分からないが。兎にも角にもまずは主役の意向を確認することが大事である。


 そうして考え込んだ青龍。徐に口を開いた。


『……そしたら、皆といっしょに空を飛びたいな』

「お、そりゃいいな!じゃあ今から皆で空の旅行といくか!」

「いいねいいね!そしたらぼくは、久しぶりにレオ兄ちゃんにおんぶしてもらおうっと!」

『………………』


 青龍が口にした望みを聞いたレオニス。パァッ!と明るい顔になり快諾する。

 もちろんライトも大賛成だ。ライト自身は空を飛べないが、レオニスにおんぶしてもらえばいい。

 だが、盛り上がる人外ブラザーズに反して風の女王だけは俯いてしょんぼりとしていた。

 それに気づいたレオニスが、風の女王に話しかける。


「ン? 風の女王、どうかしたか?」

『ワタシ……この峡谷の外には出られない……峡谷の中ならまだ何とか飛べるけど、峡谷の外に出ると途端に胸がざわついて……居ても立ってもいられなくて、結局はすぐに神殿に帰っちゃう……』

「あー、アレか、水の女王も言っていたやつか……」


 悲しげな顔で理由を語る風の女王に、レオニスが顎に手を当てながら水の女王のことを思い出している。

 水の女王も、かつて同様のことを語っていた。

 彼女は基本的に籠―――水草の褥の中にいるのが決まりであり、誰に教わった訳でもないのにそうしないといけない気がするらしい。

 風の女王もそれと同じ状態なのだろうことが、レオニスにも察せられた。


 もちろんレオニスだけでなく、ライトも早々に察知している。

 それはいわゆる『シナリオ強制力』のようなもので、創造神であるBCO運営が属性の女王の居場所を固定するために設定したものだ。

 だが、そのシナリオ強制力もこのサイサクス世界では若干緩んでいるものと思われる。

 その証拠に、水の女王は天空島や海底神殿に出かけたことがあるし、火の女王と炎の女王もエリトナ山と炎の洞窟を互いに往復している。

 短時間という制限こそあれど、絶対に破れない結界のように完全に閉じ込められている訳でもないのだ。


「風の女王様、それはきっと大丈夫ですよ!水の女王様や炎の女王様、火の女王様だって外にお出かけしたことありますし!」

『……本当?』

「ええ!丸一日とかは多分無理だけど、三十分とか一時間とかの短い間なら神殿から離れても問題ないかと」

『……それなら……ワタシも、いってみたい……』


 数々の前例を挙げながら励ますライトに、風の女王も己の希望を口にした。

 風の女王もきっと、これまで何度となくフラクタル峡谷の外に出て挑んだのだろう。

 そしてその試みを嘲笑うかのように、峡谷外に出る度に途端に襲いかかる謎の不安感。これに最後まで抗いきれることは一度としてなかった。



 このままずっと自由に空を飛んでいたい!


 ……でも、このままずっと外に居てはいけない……


 早く神殿に戻らなくちゃ……


 ワタシは風の女王なのだから……



 空を自由に飛ぶことを心から望み、渇望しているはずなのに。

 精霊だった頃のように、何も考えずにただひたすら自由を謳歌したいのに。

 何処からくるかもよく分からない、底無し沼のような言い知れぬ強烈な不安感に抗えず、いつも屈してしまっていた。


 そのことを思うと、風の女王の中では未だに葛藤が続いている。

 とても不安そうな風の女王に、青龍がその長い髭で風の女王の頬を撫でる。


『大丈夫。君には僕がついているから』

『……青龍様……』

『さ、遠慮せずに僕の背中にお乗り。素敵な空の旅に、僕が責任を持って君をお連れしよう』

『……はい!』


 青龍の深紅の瞳が、薄緑色の風の女王を捉える。

 その美しい瞳と力強い言葉は、風の女王の不安をみるみるうちに溶かしていった。


 いそいそと青龍の背に乗り込む風の女王。

 もちろん彼女自身で飛んだっていいのだが、せっかくの青龍の誘いだ。これを蹴るなんて、風の女王的には絶対にあり得ない。

 そしてその頃にはライトもレオニスにおんぶされていて、準備万端いつでも出発OK!である。


「よし、じゃあ早速行くか」

『うん』

「あ、先に言っておくが、俺はライトを背負っているからそこまで早く飛ぶことはできん。だから青龍の方も、あまり勢いよく飛ばんでくれよ? 皆で行くんだし、できるだけ俺の速度に合わせてくれるとありがたい」

『分かったー』


 青龍&風の女王のスタンバイを待っていたレオニスが、青龍に向けて声をかける。

 レオニスの言う注意事項に、青龍も素直に承諾する。

 そして四者はふわりと宙に浮き、大空に向かって飛んでいった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 そうしてフラクタル峡谷の山間を抜けて、横並びで空を飛び続けるレオニスと青龍。

 果てしなく広がる大空に、全身を撫でていく空気の流れがとても心地良い。

 レオニスの背にいるライトはもちろんのこと、青龍の背に乗っている風の女王もその目をキラキラと輝かせている。


「風の女王、気分はどうだ? どこか具合が悪いところとかあるか?」

『いいえ、全くないわ!ワタシ一人で飛んでいた時よりも、ずっとずっと気持ちいい!』

「そっか、そりゃ良かった」


 風の女王の体調を尋ねるレオニスに、当の本人はとてもご機嫌な様子で問題ないと伝える。

 彼女が風の女王になって以来、こんなにも空高く飛ぶことはなかった。一年半ぶりの大空の下での飛行に、彼女の心はずっと踊りっぱなしのようだ。


 今回の飛行は特に目的地もないので、フラクタル峡谷からあまり離れ過ぎないよう気をつけて飛んでいる。

 フラクタル峡谷が目に入る範疇で、円を描くように何度か空中を周遊していると、青龍の背に掴まる風の女王の手が次第に震えだした。

 そのことに気づいた青龍が、レオニスに声をかけた。


『……ねぇ、そろそろ下に戻ってもいいかな?』

「初めての空の旅で疲れたか?」

『うん、そんなところ』

「あまり無理して飛び続ける必要はないからな、じゃあ下に戻るか」

『うん』


 青龍の願いを即座に受け入れ、下降していくレオニス。青龍もレオニスとともにフラクタル峡谷に降りていく。

 青龍が下に戻りたいと言ったのは、決して飛び慣れない空に青龍が臆した訳ではない。青龍の背で震える風の女王のためである。


 レオニス達が空を飛んでいたのは、時間にして十分程度。

 ほんの僅かな時間だが、やはりまだ風の女王の中で不安感が湧き起こったのだろう。そのことを察した青龍は、風の女王の体調には一言も触れずにやり過ごした。

 それはひとえに風の女王の自尊心を守るため。青龍の心優しい配慮に、風の女王は青龍だけに聞こえる声量で語りかける。


『青龍様、ありがとう……』

『君が気にすることじゃないよー。僕だってさっき外に出たばかりだからね、外の空気に慣れるには時間がかかるのさ』

『…………』


 青龍の思い遣り溢れる言葉に、風の女王の手の震えが次第に収まっていく。

 そして彼らはフラクタル峡谷の谷底にある、辻風神殿前の敷地に降り立った。

 山間から見える青空を見上げながら青龍が呟く。


『君も僕も、まだ生まれたばかり。無理せずゆっくりと進んでいこうね』

『……はい!』


 辻風神殿守護神である青龍の言葉に、風の女王が花咲くような笑顔で首肯する。

 風の女王と青龍の確かな絆に、ライトとレオニスも微笑みながら見守っていた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「……さて。そろそろ俺達は帰るとするか」

『もう帰っちゃうの?』

「ああ。風の女王の無事も確認できたことだし、その上神殿守護神の青龍まで見つけられたからな」

『ありがとう……アンタ達……いいえ、アナタ達がしてくれたことは、一生忘れないわ』


 帰宅するというレオニスに、風の女王が改まって礼を述べる。

 最初に出会った時のやさぐれ感はどこへやら。素直に礼を言える今の彼女こそが、本来の彼女の姿なのだろう。

 そして青龍も、ライトとレオニスに感謝の言葉をかける。


『君達、今日はここに来てくれて本当にありがとう。君達のおかげで、僕もこうして外に出ることができたよ』

「どういたしまして!……あ、ぼくの名前はライト、これからはライトって呼んでね!」

『ライト君ね、分かった。そっちの紅い君は?』

「俺の名はレオニス。普通にレオニスって呼んでくれりゃいい」

『レオニス君ね、分かった。二人とも本当にありがとう、お礼の印としてこれをあげるね』


 青龍の礼の言葉に、ライトが嬉しそうに自分の名前を教える。

 青龍が孵化した後、二人は青龍に対してまだ名乗っていなかった。

 ライトに続きレオニスも名乗ると、青龍がお礼に何かをくれると言う。

 青龍は長い首をもぞもぞと動かしたかと思うと、その口に何かが出てきた。その何かを口に咥えたままライトに差し出した。

 それは、キラキラと輝く一枚の青い鱗だった。


「これは……鱗?」

『うん。僕からの親愛の証だよー』


 一枚目の鱗をライトに渡した青龍、間を置かずに二枚目の鱗を出して今度はレオニスに渡した。

 その鱗は澄んだ青色をしていて、光の加減で虹のように七色に輝いている。青龍の身体の表面にびっしりと生えている鱗とは少し違って、もらった鱗の方が大きくて青色もより深く美しい。


 これはきっと、水神アープのアクアがくれた鱗と同じようなものなのだろう。

 持っているだけで霊験あらたかなのは間違いなしだが、もしかしたら他の効果もあるかもしれない。そこら辺はきっと追々分かっていくことだろう。


 貴重なアイテムである青龍の鱗を受け取ったライトとレオニス。

 間違ってもなくさないように、ライトはアイテムリュックに仕舞い込み、レオニスも空間魔法陣を開いて早々に鱗を仕舞う。

 そして二人は改めて青龍に礼を言う。


「青龍、こんなに貴重なものをぼく達一人づつに分けてくれて、本当にありがとう!」

『どういたしまして』

「また暇な時にでも遊びに来るから、その時はよろしくな」

『うん、いつでも遊びに来てね。風の女王といっしょに待ってるから』


 ライト達の礼に、静かに微笑みながら応える青龍。

 続いてライト達は風の女王にも挨拶をする。


「風の女王様、また遊びに来ますね!」

『うん。アナタ達なら、いつでも大歓迎よ』

「風の女王も、青龍のことをよろしくな。でもって、他の風の精霊達ともちゃんと仲直りしていけよ。これからは皆で仲良くな」

『……うん、分かったわ。青龍様のお世話も頑張るし、精霊の皆ともまた仲良くしてもらえるように努力する』

「その意気だ」


 他者との仲直りを促すレオニスに、風の女王も少しだけ俯きながら頷く。

 様々な事情により、風の女王は他の風の精霊を遠ざけてしまっていた。

 だが今日ここに辻風神殿の守護神である青龍が生まれたことで、彼女の環境はがらりと変わるはずだ。

 風の精霊達もこの地に降臨した守護神のことが気になるだろうし、何ならもうそこら辺の岩や木の陰に隠れつつこちらを覗っている気配がヒシヒシと感じる。


 そしてレオニスは再びライトを背中に背負い、ふわりと浮いた。


「じゃ、またな」

「風の女王様、青龍、またねー!」


 ライトをおんぶしていて手を振れないレオニスの代わりに、ライトが風の女王達に向けて思いっきりブンブンと左右に手を振る。

 山の上、高原に向かって飛び立つライトとレオニスの後ろ姿を、風の女王と青龍は並び立ちながらいつまでも見送っていた。

 生まれたばかりの青龍と風の女王を連れてのスカイダイビング?です。

 青龍が生まれた直後から喋れる理由やら何やらで、かなり文字数が嵩張ってしまいましたが。何とか今話でフラクタル峡谷での出会いを締め括ることができました。

 諸々の事情により、いろいろと拗らせてしまっていた風の女王。彼女もこれから明るい先行きになっていくことでしょう( ´ω` )

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