第1079話 斬新な発想と着眼点
昨日はお休みをいたたき、ありがとうございました。冬の雨降る法事はすんげー寒かった……でも、生前とても良くしてもらった伯父の一周忌に無事参加できて、ほっと一安心です。
今日からまた予定通り連載再開しますので、今後もサイサクス世界の物語にお付き合いいただけましたら嬉しいです。
ライトがラウルとともにセンチネルの街に出かけた翌日。
ライトはカタポレンの畑で土いじりをしていた。
そこはカタポレンの家の南東の角地に当たる畑。十二月に入ってから、ライトはラウルにおねだりして、南東の畑をライト専用の畑として譲ってもらったのだ。
何故ライトが自分専用の畑を欲しがったかというと、いくつか理由がある。
それは、以下の通りである。
・いつもラウルに譲ってもらうばかりでなく、自分の手でも野菜を育てたい!
・野菜だけでなく花や木、何なら果物も育ててみたい!
・野菜や花を育てるための植物魔法の練習がしたい!
このようにいくつもの理由があり、それをラウルに素直に伝えたところ、快く南東の畑を一枚丸ごと譲ってもらえたのだ。
カタポレンの家の何個分もある広々とした畑で、様々な実験を展開するライト。畑の八割は地植え用、残りの二割は木製のプランター置き場にしている。
何故わざわざプランターを用いているのかというと、地植えにすると野菜も花も木も漏れなく巨大化するからだ。
地植えにしたものは、膨大なカタポレンの森の魔力を地面から直接吸い上げて育つ。故に、どれもこれも魔力たっぷりの巨大植物になる。
しかし、プランターという限られた容積の箱の中ならば、何を植えてもカタポレンの森の魔力を際限なく吸い上げることはない。
そう、ライトはカタポレンの森の中にあって普通もしくはそれより少し大きい程度の、標準サイズの野菜や花をプランターという手段で育てるつもりなのである。
ちなみにライトが栽培に用いる予定のプランターは、家庭菜園用の一般的なサイズのものから浴槽レベルの深くて大きなものまで、様々な種類がある。
大根やニンジン、ゴボウなどの根菜類をプランターで育てるには、それなりの深さがなければならないからだ。
最初は素焼きのプランターを作ろうかなー、とライトは漠然と考えていた。
だが、ラグーン学園図書室にて『家庭菜園の極意』『あなたの知らない素焼き鉢の世界!』などを読んで、ライトは悟った。あ、これは素人が手を出すにはすんげーハードルが高いヤツだ……ということを。
なので、まずは手頃な木製プランターを作ることにした。
ライトはまずラウルに頼んで、まだ何も加工していない丸太を一本譲ってもらった。
その後船型のように半円状にして中をくり抜いたり、板状にスライスして箱型に組み立てたりして、大中小様々なサイズや形のプランターを作り続けた。
形が出来上がったプランターは、極細の火魔法で炙って焼色をつける。イメージとしては、バーナーで炙って焦げを付けるような感じだ。
これは、プランターの色合いを良くするためと同時に防腐処理も兼ねた、一石二鳥の作業である。
しかしこれらはラグーン学園に通いながらの片手間作業なので、なかなか捗らない。朝夕の屋外での作業の他にも、夜な夜な自室で板に加工したりながら何とか冬休み入りとほぼ同時に作り上げることができたくらいだ。
そして今日、ようやく畑の上に全てプランターを並べることができた。畑の上に数多のプランターが並ぶ壮観な図を見て、フッフッフ……と笑うライトの口元は自然と緩む。
そしてプランターの底面が地面に直接触れないよう、四隅に煉瓦を置いて底上げしてからプランターの中に土を入れていく。
土は前もって畑で土魔法を用いて嵩増しし、貝殻肥料を混ぜ込んだものをアイテムリュックに収納しておいたものだ。
ライトはプランターの上でアイテムリュックを逆さまに持ち、その中にドサドサドサー……と大量の殻肥料入りの土を詰めていく。
いや、カタポレンの森の魔力を徹底的に排除するなら、本当は土も別の場所で採掘するべきなのだが。そこまでするのも手間だし、最初の土くらいなら大丈夫っしょ?というものぐさ理論で適当に済ませてしまった。
細かいことはキニシナイ!の精神が、ここでも遺憾なく発揮された格好である。
これで、カタポレンの森でのプランター栽培の準備は整った。
後は種なり苗を植えることで、本格的な野菜栽培が始まる。
ライトが手がけるカタポレン初のプランター栽培野菜。果たしてどれ程の成果が挙げられるのか、今から楽しみである。
プランター栽培側の手入れが終わった後、ライトは地植え側の方に移動する。
今のライトの畑には、大根、白菜、ブロッコリーが植えられている。そして何と、三種類の異なる方法で栽培していた。
一つ目は水遣りのみで植物魔法は一切かけないもの、二つ目は『良く育つように』という植物魔法(A)をかけたもの、そして三つ目は『ゆっくり育つように』という植物魔法(B)をかけたものだ。
ちなみに水遣りの水は、ライトが水魔法で生み出した水にアークエーテルを入れて混ぜたものを朝夕の二回与えている。
この三種類の栽培方法で白菜やブロッコリーを育て方始めたのが、今から三日前のこと。
クリスマスイブの早朝に植えた苗は、それぞれ大きく成長していた。
「おおお……三日前に比べたら、かなーり大きくなってるなぁ。やっぱ特に何もしなくても、森の魔力を吸い取って成長してるんだろうな」
「一番大きくなるのは植物魔法Aかぁ……ま、そりゃそうだよね。で、その次が何も魔法をかけていないもので、一番小さいのが植物魔法B、と……」
「色艶は、植物魔法Bが一番綺麗に見えるけど……味の方はどうだろ? ラウルに料理で全種類使ってもらって、食べ比べしてみよっと」
まずは地植えの方の各野菜の成長記録を、ノートに丁寧に認めていくライト。
見た目の違いはもちろん、幅、高さ、奥行き等のサイズも全てメジャーで採寸して細かく記録を取る。
大根と白菜は収穫後のサイズを、ブロッコリーは頂花蕾を収穫する前の全体像と収穫後の頂花蕾のサイズの両方を採寸した。
そうして全ての記録を取り終えてから、ライトは別の畑にいるラウルを呼んだ。
「ラウルー、ちょっとこっちに来てもらってもいいー?」
ライトが空に向かって呼びかけると、しばらくしてラウルがライトの畑に現れた。
ラウルもライト同様、今このカタポレンの畑の中で蟹殻の焼却処理をしつつ畑仕事に精を出していた。
「ライト、どうした?」
「あのね、ぼくの畑で育てた野菜が結構大きくなったんだ!でね、味の違いを見るために一個づつ収穫したから、ラウルにお料理で使ってみてほしいんだ!」
「味の違い? ……ふむ、確かにここにある白菜やブロッコリーは、全部大きさが違うようだが……何か違いがあるのか?」
土の上に並べられた、様々な大きさの収穫物を見ながらライトに問いかけるラウル。
ライトはラウルの疑問に答えるべく、育て方の違いを一通り説明していった。
「ほう……そんな面白い実験をしてたのか。さすがは小さなご主人様だ」
「ぃゃぁ、それ程でも……」
「いやいや、謙遜することはない。ご主人様達人族ってのは、俺ら妖精が全く考えもしないような突飛なことを考えついて、常に新たなものを生み出すのが得意な種族だからな」
ライトが語った斬新な実験?に、ラウルは心底感嘆しながら手放しで大絶賛する。
実際ラウルの出自であるプーリア族は、己に与えられた生まれながらの環境から出ることなどまず考えない。
そういった意味では、プーリアの里を飛び出しただけでなく火まで完全克服したラウルは、プーリアの異端児だけあってかなり斬新で柔軟な考え方ができる方だ。
だがしかし、そんなラウルであってもライトが考えて実践したような実験は終ぞ思いつかなかった。
自分にはない発想、着眼点。そうしたものを素直に讃えられるのは、ラウルの長所の一つである。
「この一番大きいのが、俺が今いつもやってる同じ育て方で? 一番ちっこいのは『ゆっくり育て』ってヤツだな?」
「うん。真ん中の大きさのは、アークエーテル入りの水遣りをしただけのヤツね」
「俺が植物魔法を覚える前の育て方ってことだな。前のと今で味比べができるのは面白いな」
興味津々でライトが作った野菜を眺めるラウル。
そしてラウルが思いつかなかった『ゆっくり育てる』の真意をライトに問うた。
「つーか、何で『ゆっくり育て』なんて植物魔法をかけたんだ?」
「一日も早く大きく育つのもいいけど、ゆっくり大きくなることでたくさんの魔力を吸収して育つのも、味が凝縮されてもっと美味しくなるかも?と思ったんだ」
「なるほど……そういう考え方もできるな」
ライトの答えに、ラウルも顎に手を当てながら真剣に考え込んでいる。
一日も早く野菜を収穫できるのは、間違いなく良いことだ。
だがしかし、収穫ペースだけでなく味の向上を目指すのも、農作物栽培においてとても大事なことだ。
素材の良し悪しは料理の味をも大きく左右する、実に重要な要因だ。
そのことは、他ならぬラウルが一番よく知っている。
「調理方法はラウルに任せるけど、一つの野菜につき全部同じ調理をしてね。別々の調理方法だと、味の比較がし難くなるからさ」
「了解ー」
ライトの要望を聞きながら、水魔法で野菜をさっと洗って泥を落とすラウル。
風魔法で水分を飛ばし、タオルで軽く拭き取ってから空間魔法陣に仕舞い込んでいった。
その間ラウルは「大根なら、まずは大根おろしだよな……」「ブロッコリーもシンプルに蒸すだけのがいいな」「白菜は……浅漬けと鍋物にしてみるか」等々、大根やブロッコリー、白菜を手に取りながらブツブツと呟いている。どんな調理方法にするのが良いか、早速今からあれこれと考えているようだ。
「昨日のシーファルコンやジャーキーに続き、またもやり甲斐のある仕事ができたな」
「あ……ごめんね、ラウル。ラウルにだって、やらなきゃならないことがたくさんあるのに……」
「謝ることじゃないさ。むしろ、こんな面白いことを思いついて俺に調理を任せてくれるなんて、これ程嬉しいことはない。そのことを俺の方から感謝しなきゃならんくらいだ」
ラウルの言葉に、ライトは多忙な彼の仕事を増やしてしまったことに気づき思わず謝る。
しかし、当のラウルは全く気にする様子などなく明るく笑う。
料理と言えばラウル、ラウルと言えば料理、というくらいに料理一筋なラウルのこと。むしろ料理のことでラウルを頼らずに除け者にする方が、後々ラウルに怒られたり拗ねられそうですらある。
「そしたら早速今日の昼飯と晩飯に、ライトが作った野菜を使わせてもらうとしよう」
「ホント!? 楽しみにしてるね!!」
「おう、任せとけ。腕によりをかけて料理してやるから」
「うん!!」
ラウルの頼もしい言葉に、ライトは花咲くような笑顔になる。
小さなご主人様ライトと万能執事ラウル。彼らの主従関係は、今日も仲睦まじく微笑ましいものであった。
ライトの二度目の冬休み二日目です。
初日はセンチネルの街にお出かけしたので、今日はライトの新たなる事業である畑仕事をすることに。
……って、主人公まで鉄腕農家になるのん?( ̄ω ̄ ≡  ̄ω ̄)
いやまぁ一応まだラグーン学園に通う児童なので、ラウルほどの辣腕農家になるこたぁない、ハズ。……多分?
本当はライトが野菜を育てたい!と思った真の目的が、実はもう一つあるのですが。今回の話の流れの中では捩じ込めませんでした。
なので、そこら辺はまた後日明かされる予定デス☆(ゝω・)




