第1078話 海に浮かぶ孤島
作者からの予告です。
明日は法事の予定が入っているため、更新をお休みさせていただきます。
申し訳ございませんが、ご了承の程よろしくお願い申し上げます。
センチネルの浜辺の散策を続けるライトとラウル。
ここは浜辺と言う通り砂浜が広く続く場所だが、ところどころに大きな岩があって遠くには木が生えた小高い岩場も見える。
何もなければ実に風光明媚な海岸なのだが、ここはBCOがベースのサイサクス世界なのでそうはいかない。
砂の中から突如飛び出す海蜈蚣以外にも、キノコ型魔物の『マリンマッシュ』や植物系魔物の『海仙人掌』などが時折岩陰から出てきてはライト達に襲いかかってくる。
それらは通常の雑魚魔物なので、ラウルはもちろんライトの敵ですらない。もっとも、ラウルがいるこの場でライトの物理系必中スキル【手裏剣】を繰り出す訳にはいかないので、魔物を倒すのはラウルに任せてライトはもっぱらラウルが倒した雑魚魔物の回収を担当している。
もちろんラウルのお目当てのシーファルコンも、時折岩場から出てきては大きな翼で羽ばたきラウルに向かって急襲してくる。
他の雑魚魔物はともかく、シーファルコンだけはできるだけ綺麗に仕留めたいので、ラウルも宙を飛んで応戦する。
シーファルコンは獲物が空を飛べるとは思っていないので、いきなり自分目がけて急加速で飛んでくるラウルにびっくり仰天する。
ギョッ!?と空中で固まるシーファルコンの後ろに素早く回り込み、オリハルコン包丁で頭をスパッ!と切り落とせば完了だ。
ラウルによって首チョンパされたシーファルコン、胴体と頭が砂浜に落ちていく。
首から下の胴体は、地面に落ちる前にラウルが回収してそのまま空間魔法陣に入れる。頭の方は、ライトが拾ってアイテムリュックに仕舞う。
頭にはラウルが使いたいような肉はないので、ライトがそのままもらう。
たかが頭一つと言って侮るなかれ。鳥系魔物の頭からは、嘴や眼球といった素材が採れるのだ。
「おーい、ライト、シーファルコンはこれで何羽目だ?」
「今のでちょうど十羽目だよー」
「十羽か……もうちょい獲っておきたいな。ライト、もう少し狩りに付き合ってもらってもいいか?」
「うん!もちろんいいよ!」
ラウルのお願いに、ライトは快く承諾する。
ラウルとしては、干し肉料理の原材料であるシーファルコンを最低でも二十羽以上は確保しておきたいところだ。
いくらラウルが料理の達人であっても、初めてチャレンジする干し肉作りが上手くいくかどうかは全く分からないのだから。
そうしてライト達は三十分くらい狩りを続け、シーファルコンを二十五羽狩ったところでラウルが砂浜に下りてきた。
「これくらい獲れば、とりあえずいいだろう。ライト、一旦センチネルの街に戻るぞ」
「はーい!」
ライトの横に下りてきたラウル、空間魔法陣を開いて魔物除けの呪符を取り出す。
シーファルコンを存分に狩るまでは、魔物除けの呪符を使うことはできない。だが、目的を果たした後は呪符を使って安心安全な帰り道を確保するのが最善である。
来た道を戻り、呪符の効果で一切魔物が襲ってこない浜辺をのんびりと歩くライトとラウル。
途中ライトが何かに気づいたようで、ラウルに向けて声をかける。
「……あ、ラウル、あれ見て」
「ン?……あれは、タコの吸盤か?」
行きの時にはなかった、波打ち際の砂浜にある何か。ライト達が散策しながら狩りをしている間に、海から流れ着いたばかりのものなのだろうそれは、青黒い色をしたタコの吸盤のようなものだった。
とりあえずラウルが引き揚げてみたが、間違ってもそれは通常のタコのサイズではない。
ライトの頭一つ分は優にありそうな、とても巨大なものだった。
「これ、冒険者ギルドで言ってたヤツかな?」
「多分な。受付の姉ちゃんが『大きな吸盤や異形の角が浜辺に大量に漂流したら、数日以内に魔物が溢れ出す合図』とか言ってたからな」
「……とりあえず、これ一個だけだよね? 他にはないよね?」
「…………多分」
ライト達が冒険者ギルドセンチネル支部を出る前に、受付嬢マリヤが話してくれたことを思い出す。
今ライト達が見つけた巨大な吸盤状のものは、マリヤが言っていたものだろう。
そしてこれが大量に見つかった場合、海の向こうにあるブリーキー島から魔物が大量に出てきて上陸を狙うという。
万が一この吸盤や角状のものが見つかった場合、速やかに冒険者ギルドに報告しなければならない。
「とりあえずこれは一旦持ち帰って、冒険者ギルドの姉ちゃんに聞いてみよう」
「そうだねー、そうした方がいいねー」
「他にもこれと同じものや角が落ちていないか、よく見ながら歩くとするか」
「うん!」
ラウルは吸盤状のものを空間魔法陣に仕舞い込んでから、再びライトとともに歩き始めた。
途中ライトが「ちょっとおしっこしてくるー!」と言いつつ岩場の陰に隠れ、こっそりとマッピングの地点登録を行ったりもした。
その際に、ラウルからは「えー? ここには俺以外誰もいねぇんだから、そんなもんここでちゃちゃっとすりゃいいのに」という、非ッ常ーーーにデリカシーのない言葉をかけられたライト。
今ここでマッピングの地点登録をしておかなければ、次にいつここに来れるか分からない。なのでライトは「こんな綺麗な海をおしっこで汚すなんて、できる訳ないでしょ!」「ぼくのおしっこが海洋汚染の原因になるなんて、そんなの絶対にダメなんだからね!」と憤慨しつつ岩場の陰に駆け込んだ。
ライトのおしっこ一つで海洋汚染とは甚だ仰々しいが、ラウルに見られずにマッピングの地点登録を行うには致し方ない。こういう言い訳でもしなければ、隠れてスキル操作をすることなどできないのだから。
何にせよ、全く以て相変わらず空気の読めない妖精である。
その後二人は浜辺をしばらく歩き続けたが、幸いにも吸盤や異形の角は一つも見当たらなかった。
巨大な吸盤を一個見つけただけならば、魔物暴走の兆候ではないだろう。とはいえ吸盤を見つけたことには違いないので、念の為マリヤに報告しておこう、ということになった。
そうして浜辺への出入口に戻ったライト達。改めて二人で海を眺める。
「……あの島が、『呪われた聖廟』があるブリーキー島なんだね」
「だろうな。それ以外にここから見える島は一つもないし」
「『呪われた聖廟』には、何があるんだろうね?」
「さぁなぁ? そこら辺は、さっきの受付の姉ちゃんやご主人様に聞けば分かるだろうが……俺はカタポレン生まれだから、海のことはさっぱり分からん」
少し離れた海の上に、ぽっかりと浮かぶ孤島。
ぱっと見では木々が生えていて、聖廟と呼ばれるような建物は見えない。聖廟は島の真ん中、もしくは陸地の反対側、こちらからは見えない向こう側にあるのだろう。
二人はしばし、潮風に当たりながらぼんやりとブリーキー島を眺める。
するとラウルが、何を思ったか両手を頭の後ろで組みながら呟く。
「……ま、少なくとも美味い食材になりそうなものはなさそうだ」
「アハハハハ!だろうね!だって『呪われた聖廟』だもんね!」
「全くだ。万が一肉が獲れそうな魔物がいても、食ったら呪われた!なんてことになったら洒落にならん」
「こんな大きな吸盤を持つ魔物なら、タコかイカのようなヤツかもしれないのにねぇ」
「どんなに美味い食材でも、漏れなく呪いがついてくるなら御免被るわ」
ラウルの言い草に、ライトは腹を抱えて笑う。
確かにラウルの言う通りで、『呪われた聖廟』などという不吉な名称がついた場所で美味い食材など期待してはいけない。
あるいは毒キノコのように『味は抜群に美味だが猛毒持ちで、食べたら絶対に死ぬ』なんてこともあるかもしれないが。
しかし、いくら美味なる食材に目がないラウルと言えど、食べることで毒や麻痺に侵されたり死に至るようなものに手を出す気にはなれないらしい。
そんなものに拘る暇があったら、今さっき仕留めたばかりのシーファルコンの肉の調理法を研究した方が余程有意義というものである。
一頻り海を眺めて満足したラウルが、ライトに向かって穏やかな声で語りかける。
「……さ、そろそろ冒険者ギルドに戻ろうか」
「うん!またいつか、いっしょにここに来ようね!」
「ああ。またシーファルコンの肉が欲しくなったら、いっしょに狩りに来ような」
再びこの浜辺に来るという約束を交わしたライトとラウル。
ラウルはシーファルコンを獲れて大満足だし、ライトも海蜈蚣の素材とブリーキー島の下見、そしてマッピングの地点登録までできて上々の出来だ。
『呪われた聖廟』はまだ外から見るだけで中には踏み入れていないが、それでもマッピングの地点登録によりいつでも行ける環境が整った。
次にここに来る時には、ルディとミーナにもいっしょについてきてもらおう。そして、一日も早く神威鋼を手に入れるんだ!
ライトは海に背を向けながら、心の中で改めて固く決意していた。
予想外に長くなった大長編SSも終わり、久しぶりの本編再開です。
この浜辺に出てくる魔物達は、シーファルコン含めて間違っても現実では海に出現しなさそうなものばかりですが。実はわざとそういうものを選んでいたりして。
だってー、現実世界では絶対にあり得ない組み合わせや現象を実現できるのも、WEB小説を含む架空世界の醍醐味なんですもの!……って、醍醐味と呼ぶ程大袈裟なもんでもないんですけど(´^ω^`)
そして、久々の本編再開だというのに。前書きにも書きました通り、すぐにお休みとなってしまって申し訳ございません。
明日は昨年二月に交通事故で亡くなった伯父の一周忌に呼ばれておりまして。
あれからもうすぐ一年になるんですねぇ……今でも伯父のことを思うと胸が痛みますが、伯父もきっと天国で好きなだけ野菜を作ってはお釈迦様に献上していることでしょう。
つか、明日は雨か雪という天気予報出てて悲しい……でも、絶対に行かなければならない法事なので。作者は明日も頑張ります!




