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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
年末年始と冬休み

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【投稿開始三周年記念SS】第1075話 小さな剣士の未来(前編)

 今日は拙作の三回目の誕生日ということで、プレゼント代わりのSSをお送りします。

 現在進行中の本編とは関係のないお話ですが、明日投稿予定の後編とともに楽しんでいただければ幸いです。

 ここはとある地方の街。

 その街は近隣にある巨大遺跡の名をそのまま冠しており、遺跡の城下町のような位置づけにある。

 街は遺跡に関係した仕事をする者も多く、観光客や考古学者などの遺跡行きの護衛をする冒険者、それら街の外からきた人々を泊める宿泊施設や酒場、定食屋などの外食産業でそこそこ賑わいのある街だ。


 そしてこの街には遺跡以外にももう一つ、世界レベルで有名なものが存在する。それは『ヴァイキング剣術』である。

 ヴァイキング剣術は、アクシーディア公国の中で三大剣術流派に数えられる超有名な剣術。その流麗な太刀筋は特に騎士達に好まれ、数多の優秀な剣士を輩出してきた。

 世界にその名を轟かせるヴァイキング剣術、その由緒正しい本家本元の主流道場がこの街にあるのだ。


 ヴァイキング道場では、今日もたくさんの門下生が威勢のいい掛け声を発しながら稽古に励んでいる。

 稽古する道場は、年齢層によって三つに分けられている。

 五歳から十歳までの幼い子供達の『幼年部』、それより上の十一歳から十四歳の『少年部』、そして本格的に騎士や剣士を目指す十五歳以上の『青年部』。

 どの部門でも毎日数多の門下生で賑わっている。

 この日の幼年部の道場でも、ちびっ子達の元気な掛け声して飛び交っていた。


「やーーーッ!」

「はッ!」

「とりゃッ!」


 広い道場のあちこちで、地稽古に励むちびっ子剣士達。

 その中でも、目に見えて一際強い子供がいた。

 ヴァイキング流剣術の宗家の四男、バッカニアである。


「ハーーーッ!」

「……ぅぅぅ……参った……」


 バッカニアの鋭い剣を受け止めきれず、練習の対戦相手は持っていた剣を飛ばされて尻もちをついしまった。

 そのまま降参を口にした対戦相手に、バッカニアが手を差し伸べた。


「お疲れー。スパイキーも腕が上がったなぁ」

「いやいや、バッカニア兄には全然叶わないって」

「ンなこたぁないさ、俺との地稽古だって三分以上は続けられるようになったじゃないか」

「三分で負けるなんて、カッコ(わり)ぃって……でも、最初の頃なんて十秒しないうちに負けてたもんなー」

「だろ? だからさ、やっぱスパイキーも強くなってるんだって!」

「……だといいな」


 この日のバッカニアの練習相手は、スパイキーという名の少年。

 バッカニアの一つ下の九歳なのに、その背丈はバッカニアより頭一つ大きい。

 これはバッカニアの身長が小さい訳ではなく、ただ単にスパイキーがずば抜けて大き過ぎるだけである。

 ヴァイキング道場の近くにある花屋の一人息子で、身体の大きさに反して性格は繊細で優しい心の持ち主だ。


 明るい笑顔でスパイキーを心から讃えるバッカニアに、スパイキーも照れ臭そうに笑いながらバッカニアの手を取り立ち上がる。

 するとそこに、一人のヒョロっこい男の子が駆け寄ってきた。


「バッカ兄ー、スパイキーくーん、稽古終わったー? アヒャン☆」

「ああ、そろそろ終了の時間だから、今日の稽古はここまでだ」

「そしたらさー、皆でエイリークの散歩に行こうよ!キシシッ♪」

「おう、すぐ着替えてくるから裏門で待っててな」

「らじゃー☆」


 ガリヒョロの男の子、ヨーキャの誘いに快く応じるバッカニア。

 道着を着替えるためにスパイキーと連れ立って更衣室に向かう。

 二人とも私服に着替えて裏門に行くと、そこには先に来ていたヨーキャが一匹の犬と戯れていた。


「あ、バッカ兄、スパイキー君!」

「お待たせー。さ、エイリークの散歩に行くかー」

「「うん!」」


 ヨーキャが背中を撫でていた雑種の犬、エイリークの首輪に散歩用リードをつけるバッカニア。

 エイリークも散歩に連れていってもらえることが分かるのか、嬉しそうに尻尾をブンブン振っている。

 そうして三人は、エイリークの散歩に出かけていった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 トットットットッ……と軽快な足取りで散歩するエイリークの後ろを、リードを持ったバッカニア、その左右にスパイキーとヨーキャがついていく。


「バッカニア兄、もうすぐ幼年部卒業かー」

「バッカ兄のいない稽古場なんて、寂しいよ……グスン」

「そう言うなって。俺達は家が近所同士だし、道場の外で遊ぼうと思えばいつだっていっしょに遊べるさ」

「それはそうだけどさー」

「でも、寂しいものは寂しいんだもん……グスグス」


 散歩の道すがら、スパイキーとヨーキャがしょんぼりとしている。

 何故二人がしょんぼりしているのかと言えば、バッカニアがもうすぐ幼年部を卒業して少年部に移籍となるからだ。


 この時のバッカニアは十歳、スパイキーは九歳、そしてヨーキャはスパイキーより一つ下の八歳。

 普段は三人ともホド学院の初等部に通っていて、学校が終わってから道場に週に二回の頻度で稽古に通っている。

 三人の中で一番年上のバッカニアが少年部に移籍したら、幼年部にはスパイキーとヨーキャだけが残ることになる。二人が寂しがるのも無理はなかった。

 そんな二人に、バッカニアが問うた。


「お前達はどうすんだ? 少年部に進むのか?」

「俺は多分、少年部までは行くと思う。本当は花屋を継ぎたいんだけど、父ちゃんも母ちゃんも将来お前の体格を活かした仕事ができるようにって言ってくれてるんだ」

「ボクは幼年部までかなー……ボクってほら、この通りガリガリのヒョロヒョロで力も弱いから、剣士とか騎士なんて絶対に向かないもん……シュン……」

「そっか……」


 沈みがちな声で質問に答えるスパイキーとヨーキャ。

 彼らの答えに、ヴァイキングの表情も自然と沈み込む。


 ヴァイキング道場への入門は、ホドの街の住民であれば誰でも可能だ。特に幼年部は、地域社会への貢献の一環として完全無料で受け入れていて、特に平民の間ではとても人気が高い。

 月謝もかからず道着等の必要な道具類も無料貸与となれば、子供を持つ家庭にとっては大助かり。故に男女問わずヴァイキング道場幼年部に通う子供は非常に多かった。


 しかし、完全無料なのは幼年部のみ。

 その上の少年部からは、幾許かの月謝と道具類を自前で揃える必要がある。

 月謝は月額300Gとかなり良心的な方ではあるが、それでも少年部まで進まずに幼年部のみで道場を去る子供もかなりいた。

 それは、金銭的な問題だけではなく本人の意向や適性等、様々な要因がある。


 宗家の子供であるバッカニアは、もちろん月謝もかからないし道着他道具類の経費もかからない。

 だが、スパイキーとヨーキャはそうはいかない。お金がかかる習い事を長く続けていくかどうかは、それぞれの家庭の事情や本人の向き不向きで大きく違ってくる。

 スパイキーはひとまず少年部まで進み、ヨーキャは幼年部のみで卒業、ということに決まっていた。


「……でもさ、道場に通わなくなったって、俺達はこれからもずっと友達だ!」

「……だな。そしたらヨーキャはこれからどうするんだ?」

「とりあえず、ジョブで何が出るかによるかなー。それまではヴァイキング道場に通えるし。キャハ☆」


 自分に言い聞かせるように勇気づけるバッカニアに、スパイキーが嬉しそうに頷きながらヨーキャに将来を問う。

 そしてヨーキャが答えたことは、かなり現実的だ。

 このサイサクス世界では、十歳になったら誰でもラグナ神殿もしくは住んでいる地域のラグナ教各支部でジョブ適性判断を受けることができる。

 その時に出てきたジョブの種類によって、自分の将来の仕事を決める―――これがこのサイサクス世界で最も堅実な将来の選択であった。


「何となくだけど、ヨーキャは魔法使いとかなりそうだよな!」

「そうだなー、ヨーキャに力仕事はキツそうだから、もし魔法が使えたらそれを活かせる仕事がいいよな!」

「だといいなー。バッカ兄は絶対に剣士か騎士、スパイキー君は力持ちのお仕事がいいよネ!ウヒョヒョ☆」


 ヨーキャのジョブ適性判断話の流れで、それぞれの将来を予測するバッカニア達。

 まだ見ぬ明るい未来に思いを馳せる子供達の、何と眩しいことよ。

 だが、ヨーキャの言葉にバッカニアだけは顔を曇らせた。


「えー、俺は騎士には絶対になんねぇぞ? 騎士って礼儀作法とかすんげー面倒くせぇらしいし」

「そうなんか?」

「うん。ウィリアムの兄ちゃんとか、他に騎士になった卒業生が道場にちょくちょく遊びに来るんだけどさ。皆の話を聞いてると『俺には絶対にできねぇー!』とか思うもん」

「あー、ウィリアムさんかー。あの人、ラグナロッツァの近衛騎士団入りしたんだっけ?」

「ウィリアムさん、ボクは直接話をしたことはないけど。すっごくカッコイイよねェー……ウクク」


 バッカニアの話に、スパイキーとヨーキャが上目遣いになりながらウィリアムという人物を思い浮かべる。

 バッカニアが例に出したウィリアムというのは、現在は首都ラグナロッツァで近衛騎士として活躍しているヴァイキング道場の元門下生だ。


 ウィリアムは、かつてホドの街でヴァイキング道場に通っていた頃から突出した剣の才能を発揮していたが、ジョブ適性判断で【ロイヤル・ナイト】というジョブを得て、十年前にラグナロッツァに旅立っていった。

 そして新天地ラグナロッツァでもメキメキと頭角を現し、今では『近衛騎士団の若き新星』としてバリバリの出世街道驀進中らしい。

 しかし、そんな若き新星も故郷に帰れば唯の人。家族や親友、顔馴染みを相手にしていると気持ちも若干緩むらしい。

 もっとも、ウィリアムが周囲に愚痴るのは『他人に話しても全く問題ない範疇』であるが。


「じゃあじゃあ、バッカ兄は将来剣士になるのん? ンンン?」

「剣士もなぁ……俺、四男だからヴァイキング道場を継ぐことなんてほぼ絶対にねぇし」

「いや、そこは別に継がなくても剣士にはなれるんじゃね?」

「そりゃそうだけど……剣しか使えない能無しになるのも、何だか嫌なんだよなぁ……」

「バッカ兄の悩みって、ホント贅沢だよネ!プンスコ」


 何となく煮えきらないバッカニアの返事に、珍しくヨーキャが食ってかかる。

 実際バッカニアが吐露した悩みは、ヨーキャやスパイキーからしたかかなり贅沢な部類だ。

 実家は世界的に有名な剣術の宗家であり、本人も剣の才能溢れる逸材なのだから。


 しかし、バッカニアの四男という立場は確かに後継者となるには程遠いであろう。特に長男のコルセアは、バッカニア以上に剣の才能に優れており、なおかつ同世代や上の世代の人望もある。

 バッカニアとしても、ヴァイキング流剣術を継ぐに相応しい兄を蹴落としてまで後継者になるつもりはない。

 それに、パイレーツ家は皆仲が良く家庭円満そのもの。温かな家族の絆を切り捨てる必要性も野心も、バッカニアは持ち合わせていなかった。


 そんな真面目な話をしているうちに、エイリークの散歩は町内を三周しヴァイキング道場の裏門近くまできていた。


「……ま、将来のことなんてまだ誰も分からないんだ。今からどうこう悩んだって何もならんし、余計なことばかり考えてたら腹が減るだけだ」

「だなー。俺は将来結婚して花屋を継げりゃ何でもいいや」

「ボクは大工なんて無理だから、将来は別の仕事に就く!出来れば魔法使いになりたい!キュア☆」


 エイリークの散歩を終えて、ヴァイキング道場の裏門に入るバッカニア達。

 バッカニアはエイリークのリードを外し自由にしてやると、誰に命令された訳でもないのに犬小屋の中に入っていくエイリーク。長めの散歩に大満足したようだ。


「じゃ、俺達は帰るな。バッカニア兄、またな!」

「おう、スパイキーもヨーキャも気をつけて帰れよー」

「また皆でお散歩しようねー!バーイ☆」


 散歩を終えて、各々の家に帰っていくスパイキーとヨーキャ。進む方向は同じなので、二人揃って裏門から再び出ていく。

 連れ立って仲良く歩いて帰宅する幼馴染二人の後ろ姿を、バッカニアはどことなく羨ましそうに眺めていた。

 前書きにも書きました通り、本日は拙作の三回目の誕生日でございます!

 ♪ハッピーバースデー、トゥーミー♪ハッピーバースデー、トゥーミー♪ハッピーバースデー、ディアサイサクスー……♪ハッピーバースデー、トゥーミー♪

 誰にも歌ってもらえないので、作者自らフルコーラスで歌っちゃいましたー♪ㄟ( ̄∀ ̄)ㄏ ←開き直り


 ……って。作者が歌う音痴曲などどーでもいいんですよ。一番大事なのは、今日は拙作の三歳のお誕生日ということ!

 三年前の今日の正午から、サイサクス世界の物語が始まりました。

 その時は、正直な話こんなに長く続けてこられるとは全く考えておりませんでした。

 それから早三年の月日が経ち、話数は1000話を超え、文字数も500万字近くになり、感無量でございます(;ω;)

 月並みな言葉しか言えないですが、これもひとえに拙作を読んでくださる読者の皆様方のご声援あってこそ!

 これからも読者の皆様方とともに、作者自身もサイサクス世界の物語を楽しんでいきたいと思っております。

 引き続き拙作へのご声援とご愛読を賜りますよう、何卒よろしくお願いいたします<(_ _)>

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