第1070話 竜騎士達の成長
その後ライト達は、上空で行われている白銀の君 vs. 五人の竜騎士達の模擬戦を眺めながらのんびり雑談していた。
「竜騎士達も、あんなに堂々と白銀に挑めるようになるとはなぁ……立派になったもんだ」
「全クダ。最初ノ頃ナンテ、白銀ノ君ト、目ガ合ッタダケデ、速攻デ、ブッ倒レテタモンナー」
「そりゃしゃあないわなぁ、飛竜からしたら白銀なんて雲の上の存在だろうし」
「ツーカ、俺ラダッテ、未ダニ、白銀ノ君ニ、突ッ込ムノ、怖ェモン」
「お前らの直属上司だもんな」
「「「「ウンウン」」」」
白銀の君に果敢に挑み続ける五人の竜騎士。
彼らの心身ともに著しい成長を遂げる様を、レオニスだけでなく中位ドラゴン達も認め大いに感嘆している。
一方その横にいるライトは、休憩中の竜騎士達五人と会話をしていた。
「ぼく、竜騎士の皆さんにお会いすることができて、すっごく嬉しいです!」
「ハッハッハ、可愛いことを言ってくれるねぇ」
「だって、竜騎士って本当に一部の人しかなれない花形エリート職業ですもん!」
「まぁな、少なくとも飛竜を乗りこなすジョブを持っていないとなれないのは確かだな」
「今年の公国生誕祭の飛行ショーも、すっごくカッコよかったです!」
「ありがとうね。そんな嬉しい言葉をもらえたら、私達ももっともっと頑張らなくっちゃ!って元気になれるわ」
「頑張ってくださいね!来年の飛行ショーも楽しみにしてます!」
竜騎士達との邂逅とその喜びを興奮気味に語るライトに、竜騎士達も思わず相好を崩す。
彼らはライトが言うように、アクシーディア公国きってのエリート騎士団に所属する騎士。子供達、特に男の子にとって飛竜乗りはヒーローの象徴である。
そんな彼らだから、褒めそやされたりモテるのは日常茶飯事なのだが。それに驕ることなく、ニコニコ笑顔で応えるところがとても好感が持てる。
そんな和やかな会話をしていると、先程まで白銀の君と戦っていた五人の竜騎士達がライト達のもとにきた。
どうやら白銀の君の相手の交代のようだ。
「お前達、交代だ。十分後に白銀殿のもとに行くように」
「団長、おかえりなさい!」
「お勤めご苦労さまです!」
白銀の君との対戦を無事終えて戻ってきたディランを、休憩中の竜騎士達が速攻で起立して出迎える。
そのうちの一人、ルーシーが空間魔法陣を開き、五本のハイポーションを取り出して帰還者全員に一本づつ配っていく。
ハイポーションを受け取ったディラン、瓶の蓋を開けながら鋼鉄竜達に声をかけた。
「ああ、鋼鉄殿、氷牙殿、迅雷殿、獄炎殿の四頭は今すぐこっちに来るように、と白銀殿が仰っておりましたぞ」
「「「「ウゲッ」」」」
ディランの言葉に、それまでのんびりと寛いでいた四頭の中位ドラゴン達が一斉に固まった。
ディランが伝えた白銀の君の言葉『こっちに来るように』というのは、つまりは白銀の君が『其方達を稽古してやるから早く来なさい』と言っている、ということだ。
四頭全員が思わず「ウゲッ」と本音を漏らしたが、ここでその伝言を無視するという選択肢はない。そんなことをしたら、後でどんな目に遭うか分かったものではない。
「ァー……シャアネェ、行クカァ……」
「束ノ間ノ、平和ダッタナ……」
「レオニス……後デマタ、食ベルエクスポ、用意シトイテクレヨ」
「お、おう、お前らも頑張ってこいよ」
のっそりと立ち上がり始めた四頭の中位ドラゴン達。
その動作は非常に重たく、如何に彼らが白銀の君との修行をしたくない!と思っているかがよく分かる。
しかし、そんなことを白銀の君が許すはずがない。
ふとレオニスが、ゾワリ!とした強烈な視線を感じて空を見上げる。すると、その視線の先には何と―――こちらの方をギロリ!と睨んでいる白銀の君が見えた。
「……おい、お前ら……早く行かんと、白銀にどやされるぞ……」
「「「「???………………!!!!!」」」」
上空を見上げながら、微かに震える声で中位ドラゴン達をを促すレオニス。
レオニスのただならぬ様子に、何事?と四頭が一斉に空を見上げ、そして一斉にピシッ!と固まった。
「ウヒィィィィ!」
「ヤ、ヤベェ!」
「ハ、早ク、行クゾ!」
「オ、オウ!」
直属上司のドスの効いた睨みをこれでもか!と浴びた四頭。それまでだらだらとした動きだったのが、瞬時にシャキッ!としだす。
慌てて白銀の君のもとに飛び立っていく中位ドラゴン達を背中を、レオニス達は憐れみの目で見送っていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
一方、休憩と十分の猶予を得た十人の竜騎士達。
白銀の君との対戦を終えて、ハイポーションを一気にゴキュゴキュと煽るディラン達を見ながら、ライトが竜騎士達に問うた。
「あれ? 竜騎士さん達が飲む回復剤は、ハイポーションなんですか?」
「いや、普段はエクスポーションを飲むのが常なのだがな。……ここではほら、エクスポーションは白銀の君や獄炎殿達の大好物故、我らはハイポーションで済ませているんだ」
「ぁー……確かにエクスポの消費量が半端ないですもんねぇ……」
「ここに来る度に、一回につき千本は持ってきてるんだけど……毎回使いきっちゃうのよねぇ」
「せせせ千本全部使っちゃうんですか……」
ハイポーションは、ライトのような子供や駆け出しの冒険者が節約のために飲むもの、というイメージがライトの中にあった。
なので、エリートである竜騎士達がハイポーションを飲んでいるのを不思議に思って尋ねたことなのだが。よもやそれが竜族達のせいだったとは。
だがしかし、それは少し考えればライトでも分かるくらい納得の理由であった。
中位ドラゴン達には一頭につき二十本、白銀の君には五十本のエクスポーションを献上している。
もちろんそれは、ドラゴン達との友好関係を保つためには絶対必要なものだし、花咲くような笑顔で瓶ごと食べるドラゴン達の嬉しそうな顔を見ると、ライトやレオニスはもちろん竜騎士達も和み癒やされる効果がある。
だがそのために、毎回千本ものエクスポーションが費やされているとは驚愕だ。
ちなみにこのエクスポーション、お値段は一本600G。
そしてこの価格は、全サイサクス世界共通。ゲーム世界特有の統一価格である。
これを千本ということは即ち60万G。日本円にして600万円。
間違っても一回の遠征費とは到底思えない金額である。
その他にも、ライトは竜騎士達から様々なエクスポーション事情を聞いた。
何でも竜騎士団がエクスポーションを買い占め続けているため、ここ最近ずっとエクスポーションが品薄状態になっているらしい。
ライトは薬屋に出入りする機会は全くないので、そんなことになっているとは全く知らなかった。
薬師ギルドでの生産強化はもちろんのこと、冒険者ギルドも薬草採取の依頼を大量に足したりしてはいるのだが、それでもなかなか生産が追いつかないらしい。
それもそのはず、竜騎士達が千本単位で大量かつ頻繁に消費しているのだから。
こうなると、エクスポーションの市場価格が跳ね上がりそうなものだが、そこは統一価格の効果で絶対に値段は変わらないのだという。
固定価格のメリットが最大限発揮されているようで何よりである。
そして、竜騎士達もエクスポーション不足を少しでも補うべく、日々の業務の中に『薬草採取』を取り入れ始めたというではないか。
ライトとしては『え!? 新人冒険者が請け負うような依頼を、竜騎士がわざわざやるの!?』と内心びっくりした。
だが、エクスポーション不足が自分達のシュマルリ山脈修行のせいだと思えば、その償い代わりに竜騎士達が薬草採取に励むというのも分からないでもない。
何なら自分がカタポレンの畑で薬草栽培でもしようかしら?密かに思うライトである。
「竜騎士さん達も、大変ですねぇ……」
「ああ…………でも、ここに来れるようになったおかげで、我らは格段に強くなることができた」
「そうですね、それが一番の収穫ですね」
「我らはラグナロッツァを守る要。常に強くあらねばなりませんからね!」
竜騎士達を労うライトの言葉に、一瞬だけ遠い目をした竜騎士達。
だがそれも、本当にほんの一瞬だけのこと。このシュマルリ山脈で研修するようになってから、確実に彼らは強くなった。
国主ラグナ大公一族だけでなく、ラグナロッツァに住まう全ての人々を守る使命が彼らにはある。そのための力を得られたことは、竜騎士達にとって望外の喜びでもあった。
そんな話をしているうちに、あっという間に十分が過ぎた。
そろそろ出番か、というように五人の竜騎士が続々と立ち上がる。
そして各々の相棒の飛竜に乗り込み、五頭の飛竜と竜騎士がふわりと宙に浮いた。
「じゃ、いってきます!」
「いってらっしゃーい!」
「団長達もゆっくり休んでてくださいね!」
「皆の武運と健闘を祈る」
上空では、白銀の君を相手に鋼鉄竜達が奮闘している真っ只中。
獄炎竜が吐き出す炎、鋼鉄竜が繰り出す岩槍、氷牙竜が飛ばす氷槍、迅雷竜が落とす爆雷が入り乱れる中、白銀の君は悠然と構え全ての攻撃を受けては跳ね返している。
とてもじゃないが、人族が混ざっていい戦いの場ではない。
だがそれでも、竜騎士達は毅然と立ち向かう。今よりももっともっと強くなるために。
晴れやかな顔で戦場に向かう竜騎士達を、ライト達は精一杯励ましつつ見送っていた。
前話に続き、今回も竜騎士達の修行その他の回です。
五人がかりとはいえ、竜の女王である白銀の君に戦いを挑めるようになるとは、レオニスの予想をはるかに上回る早さで成長していっている竜騎士達。
何とも頼もしいことです( ´ω` )
でもって、シュマルリ山脈での修行の必要経費なんかも語っちゃったりして。
一番お金がかかるのは、言わずもがなエクスポーション費です。
毎回毎度千本単位で消費してたらねぇ、そりゃ市場からも姿を消して超品薄にもなりますて(´^ω^`)




