第1041話 マードンの使い道
その後レオニスは、闇の女王にラウルへ加護を与えてもらうように交渉した。
もちろん闇の女王もその願いを快諾する。
闇の女王曰く、ラウルは『吾等に至福のひと時を与えてくれる者』なので、ライトやレオニス同様加護を与えるに相応しい!のだそうだ。
クロエも『美味しいおやつを作ってくれるお兄ちゃん、いつもありがとう!大好き!』ということで、きっとクロエの加護もついたことだろう。
ラウルの日頃の行いの良さが報われた瞬間である。
そして、新たにクロエの配下となったマードンは、最奥の間の外に出すことになった。
レオニス達が帰った後、半日だけマードンを最奥の間に泊めてみたのだが、あまりの煩さにとっとと放逐を決めたらしい。
いや、レオニスも暗黒の洞窟から去る前に、ちゃんと闇の女王達に忠告はしていたのだ。「コイツ、すんげーうるせーぞ?」「悪いこた言わん、さっさと外に出した方がいい」と。
だが、その煩さがどれ程のものなのか、まだ知らなかった彼女達は逆に『どんだけ煩いのか、見てみたい!』という衝動に駆られたのだ。
いわゆる『怖いもの見たさ』というやつである。
そうして実際にマードンと接してみた闇の女王とクロエ。
とにかくマードンがひっきりなしにまとわりつき、二人の周囲をずっと飛んでいた。
あまりに鬱陶しいので、クロエが『オマエ、ウザい。あっち行け!』と言っても、その命令の効力は三分も満たないのだ。
あっち行け!と言われた直後は、マードンも元気よく『ハイッ♪』と返事をして少し離れたりするものの、三分も経たないうちに『ココしゃまー!』『闇の女王しゃまー!』と近寄ってくる。
そして、何度クロエに蛇髪デコピンされようと、闇の女王の闇魔法攻撃『闇の息吹』で吹っ飛ばされようと、絶対にマードンは三秒でクロエ達のもとにすっ飛んでくるのだ。
重度のストーカーも裸足で逃げ出す程の、超しつこい真性ストーキングぶりである。
その強靭さと執念深さ?は、クロエだけでなく闇の女王をもドン引きさせていた。
その日だけでもう何十回目か分からない、クロエの蛇髪デコピンでマードンが吹っ飛ばされた直後に、闇の女王とクロエがゴニョゴニョと相談し始める。
『アレ、すんげーウザいね……ホントにパパの言った通りだった……』
『全く以ってその通りでしたな……ココ様、如何いたしますか?』
『うーーーん……またココの目で石化して封印して、そこら辺に転がしといてもいいんだけど……』
『しかし、彼奴の頑強さは目を見張るものがございます。ここは一つ、外の世界の偵察兵として使うのも良いやもしれません』
『だよねー。……うん、分かった、そうしよ!』
辟易とした様子のクロエ達だったが、唯一のマードンの長点であるタフさは何かに利用できそうだ。
と言うことで、早速クロエが動き始める。
闇の女王との相談後、程なくして再びクロエ達の前にすっ飛んできたマードン。
そのマードンに、クロエはチョイ、チョイ、と手招きをした。
最初は『ン?』という顔をしていたマードン。
だがすぐに、その手招きは自分に向けてなされたものだと理解し、パァッ!と明るい顔になる。
『ココしゃま!何でッしょーゥか!?』
『ちょっと、こっちおいで?』
『ハァーーーッイ♪』
クロエに呼ばれ、いそいそと近寄るマードン。
クロエの目の前に来た時に、クロエが右手人差し指でマードンの額に触れた。
そしてクロエは人差し指の爪で、ツー……とマードンの額中央に縦に線を引いた。
すると、クロエが線を引いたところの皮膚がゆっくりと左右に裂けていくではないか。
その裂けた割れ目からは、クロエと同じ眼球―――赤と紫のマーブル模様の虹彩と金色の瞳孔で、白目の部分が漆黒の目が出現した。
己の身に何が起きているのか、まだ理解しきれていないマードンがきょとんとした顔をしている。
そんなマードンに、クロエが声をかけた。
『オマエに、ココと同じ色の第三の目を与えた』
『はぇ? ……そういえェば、何だか目の見え方ァが、違うぅぅぅ?』
『オマエのその第三の目で見たものは、ココの目にも映って見える』
『そそそ、そうなのでェすか!? ななな、何ッと光ゥ栄ィな……』
マードンの額に新しく与えた目のことを説明するクロエ。
その目はクロエと繋がっていて、マードンが見たものをクロエも見ることが可能だという。
言ってみれば、神樹達の枝で作った分体入り装備品と同じようなものか。
一方でマードンは、クロエとの新たな繋がりを授けられたことに、何やらものすごく感動しているようだ。
感激のあまり潤んだ瞳でクロエを見つめるマードン。
そんなマードンに対し、クロエは使命を与えた。
『そう。だからオマエのこれからの役目は、世界中を旅すること。そしてココのために、いろんなところの景色を見せるの。……分かった?』
『ハイィィィッ!このマードン、ココしゃまのためならァば!例え地の果て地獄の底であろーゥともッ!どこへでェも!行きマッスルゥーーー!』
『よろしい。じゃ、早速行ってきてね』
『ハァーィ!いッてきまァーーーッす!!』
クロエから新たな使命を授かったマードン。
己の生きる目的を得たことで、ますますパワーアップしつつ勢いよくすっ飛んでいった。
その五分後に、クロエ達の前に再びのこのこと現れて『あのーゥ……ここからどうやッてェ、出るんでしょ?』と尋ねたのはご愛嬌である。
その後クロエ達は改めてマードンに『盗みやいたずらなど、他者に故意に害を与えない』『自分の命が危ない時以外は、自分から誰かを攻撃しない』などの外での行動への注意事項を言い渡す。もちろんマードンはその全てにうんうん、と頷いている。
そして闇の女王が転移用の円陣のある場所にマードンを案内し、サクッと一層に送り出した。
より強い敵がいる三層ではなく、一番難易度の低い一層に送り出してやったのは、闇の女王の心優しさの現れか。
いずれにしても、暗黒神殿のある最奥の間に再び平穏な静寂が戻った瞬間だった。
うおおおおッ、晩御飯食べた後こたつでうたた寝してしまいましたぁぁぁぁッ><
気がついたら23時過ぎ、今話は暗黒の洞窟訪問のラストと次の行き先の触りをちょいと書いとこうと思ってたのに……タイムアップにより断念。
冬のこたつの誘惑威力の何と強きことよ……軟弱な作者には抗える術がない_| ̄|●
とりあえず、寝こける前に前半の暗黒の洞窟部分だけでも書けていたことを良しとしよう……
そして、今回のクロエの新技?の『配下に第三の目を与える』というもの。
これはまぁ、クロエ達とマードンを長期間同じ空間に住まわせるのは、さすがに無理っつかクロエ達が可哀想……ということで、マードンを放逐するための策の一環です。
前話でマードンは完全にクロエの支配下に入ったので、廃都の魔城に再び寝返ったり裏切る心配は皆無。なので、外に放逐しても大丈夫!という訳なのです。




