第1030話 四神の性別
地の女王と白虎が無事仲直りできたところで、地の女王が改めてライト達の方に身体を向き直した。
『アナタ達もきちんと名乗ってくれたことだしー、私達もちゃんと自己紹介しないとねー!……私は地の女王、全ての地の精霊達を統べる女王よー。……さ、シロちゃんもご挨拶してー? この人族達はねー、私の姉妹達とも仲良しみたいなのー』
『そなのー? ならワタシもご挨拶しなくちゃねー!ワタシは白虎、地の女王が住む地底神殿を守る守護神よー♪ チーちゃんからは『シロちゃん』って呼ばれてるわぁー』
地の女王のちゃんとした挨拶に続き、白虎がきちんとした自己紹介!する。先程の地の女王とのやり取りで、完全に目が覚めたようだ。
そして二者の語尾を伸ばす口調が実にそっくりで、のんびりとした雰囲気が何とも愛らしくライトの頬も自然と緩む。
しかも、白虎が呼ぶ地の女王の愛称が『チーちゃん』というのがまたテンプレ感満載で非常に素晴らしい響きだ。
水の女王あたりがこれを聞いたら『それいいわね!私のことも『ミーちゃん』って呼んで!』とか言い出しそうである。
そんな微笑ましい地の女王と白虎のやり取りを見て、ライトは内心で大歓喜している。
『おおおッ、今までとは全く違う地の女王様だー!まん丸でぷくぷくしてて、これはこれでアリっつーか可愛いよね!……そう、属性の女王様は細くても太くても綺麗可愛い存在なんだ!』
『でもって、ここの神殿守護神が白虎ってのも納得だよな。白虎は五行思想でいうところの『金』だし、BCOでもクレア嬢が白虎の討伐依頼を出してたっけ……あー、懐かしいー』
『……てゆか、この白虎、声と口調からして女の子っぽい? BCOでは四神の性別なんて全く分かんなかったし、白虎もゴツくて厳つい顔の絵柄だったけど……サイサクス世界の白虎は女の子だと思うと、何かさらに可愛く見えてくるから不思議だー』
前世のBCOで散々見ていた四神白虎、その実物の巨大さに感動するライト。
しかもこの白虎、どうやらメス=女の子らしい。
BCOでは全く考えもしなかった四神の性別問題に触れ、違う意味でもその斬新さに感動していた。
ちなみにBCOでの白虎は、朱雀や玄武と同じくレベル2のレイドボスだった。
BCOでの白虎の討伐依頼内容は、次のようなものである。
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『ディーノ村の奥の奥の山に、【白虎】が出現しました。
【白虎】の大地の力で地震が発生し、地割れや崖崩れが起こったり危険な植物が大量に繁殖しています。
ディーノ村でも庭と畑が草ボーボーで、毎日総動員で草刈ってます。というか、私まで駆り出される始末です。それでも草刈りが終わりません。
いや、それよりも地震が頻発しているので、そっちの方がはるかに危険なのですけど。
四神はその司る自然の力で、人族に恩恵を与えたり試練を与えたりすると言われています。今回は人に厳しい試練を与えるために、我々の前に現れたようですね。
つまり、四神から人々の力を試されている、ということです。ここは皆さんの力を存分に見せつけてやりましょう!』
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この討伐依頼に従い、ライト達勇者候補生は日々白虎と格闘していた。
しかし、今世のサイサクス世界ではライト達人族は四神とは一切敵対していないので、なるべくならば対立せずに仲良くしていきたいところである。
なので、まずライトの方から白虎に積極的に話しかけることにした。
「白虎さん、もしよかったらぼく達も白虎さんのことを『シロちゃん』って呼んでもいいですか!?」
『もちろんいいわよー。てゆかー、『白虎さん』って呼ばれる方がムズムズするぅー』
「シロちゃん、ありがとうございます!……早速ですけど、シロちゃんは女の子……ですよね?」
『うん!』
まだ推測に過ぎない白虎の性別を知るべくライトが問うと、白虎は快く頷きながら肯定した。
一応女の子ということなので、年齢まで問う程ライトは命知らずではない。しかしその滑らかな口調は、それ相応の年月を生きてきたことを思わせる。
サイサクス世界の朱雀と玄武は、ライト達が卵から孵化させたばかりなのでまだ赤ん坊にも等しかった。故に朱雀や玄武とはまだちゃんとした会話を交わせていない。
だがこの白虎は、既に地底神殿の神殿守護神として生を受けていて喋りも達者だ。四神の中では初めて会話を交わせたことに、ライトは改めて感動している。
そしてここで、レオニスも白虎に話しかけてきた。
「そしたら、シロちゃんは今何歳なんだ?」
『ンーとねぇー……七百歳くらいー?』
「そりゃすげーな!人族なんて、大抵は百年も生きられんからなぁ」
『そなのー? 』
「…………」
せっかくライトが聞きたくても控えていた質問を、あっさりとレオニスが口にして聞き出してしまった。
ぁー……そういや神樹のツィちゃんやドラリシオ・マザーさんも、年齢について抵抗感とか全くなかったっけ……とライトは思いながら、スーン……とした顔になっている。
そう、レオニスは乙女心云々など全く考慮しない、キニシナイ!大魔神であることをライトは今まざまざと実感していた。
そしてレオニスと白虎の会話に、ラウルも積極的に混じっていく。
「おお、すげー長生きなんだなぁ。しかも全身の毛並みや色艶がすっごく綺麗だよな。美しさを保つような、何か特別な秘訣とかあるのか?」
『えぇー? 特に何もしてないけどぉー……多分ー、ランガ君の魔力がすっごく綺麗なのとー、いっつもチーちゃんが可愛がってくれるおかげー?』
「そうなのか。まぁ確かにな、俺達妖精族も良質な魔力は大好物だから、シロちゃんの言うことも分かる気がする」
『てゆかー、ワタシの毛並みをそんなに褒めてくれるなんてー、すっごーーーく嬉しーい♪ アナタ、とっても善い妖精さんなのねぇー♪』
レオニスに続き、白虎に話しかけたラウル。白虎の年齢に絡めて、彼女の毛並みや色艶の良さを大絶賛している。
その秘訣は、冥界樹ユグドランガの魔力と地の女王のおかげ?と答えた白虎は、すぐさま彼女を褒め称えたラウルに頬ずりし始めたではないか。
ラウルは基本的にキング・オブ・朴念仁だが、相手の美点を素直に褒め称えることはできる。
綺麗なものは綺麗、美しいものは美しい、という感情を抑えることなく発露する故に、ラウルはいつでもどこでもモテるのである。
レオニスとラウルの実直さはさておき、ライトは改めて白虎を見る。
七百年以上生きているというだけあって、実に立派な成獣の姿をしている。
口を開けば実に可愛らしい女の子なのだが、その中身は強大な力を持つ四神の一角。
レイドボスも務められるその威風堂々とした佇まいは、圧倒的強者の風格を醸し出していた。
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ライト達と地の女王、そして白虎との交流は順調に進み、レオニスがもう一つの目的のために地の女王に質問をした。
「ところで地の女王、ユグドランガの向こう側に小さな池があると聞いたんだが」
『あー、ランガ君の後ろにある池のことー?』
「そうそう、多分それ。地の女王達も、普段からその池をよく使うのか?」
『ワタシはたまぁーに行くくらいだけどー、シロちゃんはよく水浴びしに行くわよねぇー?』
『うん!水浴び楽しーい♪』
小さな池の存在を問うたレオニスの質問に、地の女王も白虎も素直に答える。
彼女達もその池を利用しているようだが、どうやらその頻度はかなり違うようだ。
白虎は一日置きくらいで水浴びをしに行くらしいが、地の女王はそんなに行かないという。それは、白虎はもともと虎で水浴びが大好きなのに対し、地の女王の身体は土でできているので大量の水は少々苦手意識があるためである。
「俺達、その池に行きたいんだが。よければ案内してもらえないだろうか?」
『いいわよー。池で何かするのー?』
「俺達の友達である、水の精霊ウィカチャを呼びたい。ウィカをここに呼べれば、これからはウィカに力を貸してもらって俺達も行き来しやすくなるんだ」
『水の精霊ー? ……あー、そういうことねー!』
レオニスの説明に、地の女王も理解したようだ。
水の精霊は既知の水場を自由に行き来できるし、光の精霊や闇の精霊なども同様の力を持っている。そうした精霊としての知識は地の女王も備えているので、レオニスが皆まで言わずとも理解できたのである。
地の女王は白虎の方に身体を向け、早速問うた。
『そしたらー、シロちゃん今から水浴びしに行くー?』
『うん!行く行くー♪ 皆ワタシの背中に乗っていいわよー♪』
「やったー!シロちゃん、ありがとう!」
「早速シロちゃんの背中に乗せてもらえるなんて、光栄だな!」
「ああ、本当にな。シロちゃん、よろしくな」
『任せてーーー♪』
地の女王の問いかけに、一も二もなく快諾する白虎。
地面に伏せて座り込んだ白虎の背に、ライトを抱っこしたレオニスとラウルが乗り込む。
一方地の女王は、木登りをするかのようにスルスルと白虎の腕や肩をよじ登り、うなじの辺りにドカッ!と座る。まん丸体型なのに、実に迅速かつ見事なよじ登りっぷりだ。
馬車の御者の如き位置で、地の女王がフンス☆と鼻息も荒く人差し指を立てて天高く掲げる。
『シロちゃん、出発進行ーーー☆』
『ウェーーーイ☆』
地の女王の高らかな合図に、ライト達を背に乗せた白虎はご機嫌な声で駆け出していった。
地の女王に続き、地底神殿守護神の白虎のお披露目回です。
白虎より先に出ていた朱雀や玄武とは違い、長く生きてきている長寿の四神という設定なので、年齢だけでなく性別も出すことに。
話の流れ上、次にライト達が朱雀や玄武と会ったら性別確認とか必ずしそう。
そして、四神のうちまだ未出は青龍一体に。
青龍もきっとサイサクス世界のどこかにいます。いつ出てくるかまでは作者にも全く分かりませんが、そのうち出てくるでしょう( ´ω` )




