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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
最後の聖遺物

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第1026話 地底に星空ができた理由

 その後レオニスは、一度は空間魔法陣に仕舞い込んだ冥界樹の枝を再び取り出し、適度な太さのところでカットする。

 そのカットした枝をラウルが受け取って、オリハルコン包丁で面取りしつつ球状に整えていく。

 それはまるで林檎か柿の皮剥きのような仕草で、実に滑らかで手際良い。普段からアップルパイ作りなどで、林檎の皮剥きならお手の物であるラウルならではの特技である。


 そうしてできた急拵えの、簡易的な手のひら大の球状の枝五つ分。これにユグドランガはそれぞれ己の分体を込めていった。


『…………よし、できた』

「お疲れさん。そしたら近いうちに、ツィちゃんやシアちゃん、エルちゃんにラグスにイアにこの球を届けてくるわ」

『よろしく頼む。その駄賃と言っては何だが、先程の枝だけでは足りなかろう。改めて何か別の物を報酬として渡すとしたら、何がいい?』

「いやいや、追加の報酬なんて要らんさ。神樹の枝で、しかもあんだけ立派なものを三本ももらえれば御の字だ」

『そうか、なら良かった』


 新たな報酬について問うたユグドランガに対し、レオニスは追加の必要などないと即答した。

 もちろんライトもレオニスも同じ気持ちであり、二人してコクコクと頷いている。


「ツィちゃん達にもなるべく早いうちに届けるつもりではいるが、皆それぞれに俺達の住む人里から離れた場所にいるんでな。全ての神樹届けるまでに、多少日数がかかることは承知しておいてくれ」

『もちろんだ。我等神樹にとって待つのは造作もないこと。何万日でも何十万日でも待とう』

「ぃゃ、俺ら人族は何十万日も生きられんって……」


 各分体のお届け日に関するレオニスの注意事項に、ユグドランガは異を唱えることなく快諾する。

 この地底世界には四季がないので、暦や年数といった概念もない。

 なのでユグドランガの待つ月日の長さの例えは何万日何十万日となるのだが、一万日だけでも二十七年半にもなる。

 十万日が経過する頃には、ライトもレオニスもとっくにこの世にいないだろう。ギリギリラウルが生きているかどうか、というところだ。


 そうした神樹族特有のジョーク?の後、ライト達はこれまでの他の神樹達との出会いなどをユグドランガに話して聞かせた。

 カタポレンの森に住むライト達のご近所さんであるユグドラツィ、八咫烏という霊鳥族とともに暮らすユグドラシア、愉快で怖い竜族達に囲まれて過ごすユグドラグス、地上よりはるか高い上空に住むユグドラエル、そして空とも陸とも違う海という大きな水の中にいるユグドライア。

 それぞれ遠い異郷の地に住む同族達の話を聞く度に、ユグドランガの枝葉がザワザワと揺れ動く。それはユグドラツィ達と同様に、喜んだり嬉しくて笑う時の仕草のようだ。


『そうか……皆息災で過ごしておるのだな』

「そしたら今度は、あんたのことやこの地底世界の話を聞かせてくれるか? 俺達ここに来たのは初めてなもんだから、右も左も分からないんだ」

『そうだな……どこから何を語れば良いものやら分からぬが……』


 レオニスからのリクエストに、ユグドランガはしばし考えながら少しづつ話していった。


『其の方達もそうであろうとは思うが、我がこの世に生を受けたばかりの時は何も分からなかった』

『自分が何者であるか、何故ここにいるのか、そして何故他の生物のように動き回ることができないのか―――それらが理解できるようになったのは、ある日突然得た『冥界樹』『ユグドランガ』という二つの名を得てからだった』

『そしてその時に同時に、はるか遠い世界に我と同じ者が存在していることを知った。天空樹ユグドラエル、双生の片割れの姉上だ』


 静かに語るユグドランガの言葉に、ライト達はじっと聞き入る。

 神樹自らの言葉で語られる歴史は、とても貴重で興味深い話ばかりだ。


『その後、何十万日かに一度くらいの頻度で新たな神樹が生まれたことを知る日が来る。我の生涯の中で、その日が最も強く喜びを感じる瞬間なのだ』

『その反面、突如底知れぬ不安や胸騒ぎ、恐怖に苛まれることもある。これはおそらく、他の神樹達の誰かに危機が迫った時に感じるものなのだろうと思うが……』

『実は過日……今から百日くらい前か? 猛烈な恐怖感が襲ってきて、しばらくそれが止まらないことがあったのだ……其の方らは、何か知っておるか?』


 話の流れでユグドランガから問われたことに、三人とも一瞬黙り込む。

 それは明らかに先日ユグドラツィの身に起きた『神樹襲撃事件』を指している。

 かつてユグドラツィは、神樹同士の繋がりを『年がら年中ずっと強く繋がっている訳ではない』『何か嬉しいことがあったり悲しいことが起きたりすると、他の兄弟姉妹にも伝わってくる程度』と表現していた。

 今回その話が本当であることが、ユグドランガの実体験によって立証された形である。


 神樹襲撃事件のことは、真っ先にその異変に気づいたラウルが大筋を説明し、時折レオニスが補完しつつ話していく。

 全てを聞き終えたユグドランガ。その枝葉が再びザワザワと音を立てる。

 だがそれはかなり小さな音で、先程のような軽やかな音ではない。怒りに戦慄くユグドランガが、幹から小刻みに震えることで発生していた葉擦れの音だった。


『末妹が生命の危機に瀕している時に、我だけが何も知らずにいたとは……何たることぞ……』

「そりゃ仕方がないさ。その時には、あんたとツィちゃん達の間にはまだ分体の繋がりはなかった訳だし」

『ユグドラエル姉様やユグドラシアは、妹を救うために尽力していたというのに……』

「それも仕方がない。それを言ったら、ラグスやイアだって何もできずに悔しい思いをしていたしな。……いや、あの凄惨な光景をずっと見ていながら、何もできずにいたラグスやイアの方が……今のあんたよりも、もっともっと悔しい思いをしてたと思う」

『……そうか、それもそうだな……弟達もきっと……いや、今の我以上に悔恨の念に苛まれたことだろう』


 末妹の危機を自分だね知らずにいたことに、激しい怒りと後悔に打ち震えるユグドランガ。

 だがしかし、レオニスの言う通りそれは仕方のないことだ。

 それに、悔しさの度合いで言えば今の冥界樹(ユグドランガ)よりも竜王樹(ユグドラグス)海樹(ユグドライア)の方が万倍悔しかったことだろう。


 冥界樹が過ぎ去った事件を今新たに知るだけでも、こんなに悔しいのに―――竜王樹や海樹はリアルタイムで末妹の苦しむ様を目の当たりしながら、何もできずに手を拱いて見続けるしかなかったのだから。

 レオニスのフォローにより、ユグドランガもそのことに気づいたようだった。

 憤怒の葉擦れの音が収まり、再び訪れた静けさの中でユグドランガが言葉を発した。


『レオニスにラウル、そしてライトと言ったか? 其の方達のおかげで、我等神樹族は家族を失わずに済んだ。心から礼を言う、ありがとう』

「礼には及ばんさ。ツィちゃんは俺達の大事な友達だし、友達が困っていたら助けたいと思うのは当然のことだろう?」

『……そうだな。其の方の言う通りだ』


 先程よりも穏やかな声で、ライト達に改めて礼を言うユグドランガ。

 レオニスの宥めにより、気が昂っていたユグドランガも少しづつ落ち着いていったようだ。

 重苦しい空気が若干晴れたことで、皆の気分も少しづつ上向きになっていく。

 そしてここでさらに空気を入れ替えるべく、ライトが動いた。


「ユグドランガさん、そしたら今度はこの地底世界のことを教えてください!どうしてここは、星空のようにキラキラと光っているんですか!?」

『星空? ……ああ、一面に散らばる光のことか?』

「はい!ぼく達がいる地上でも、夜になるとこことそっくりな空になるんですよ!」

『そうなのか。ここの光は主に我の魔力のせいだ。空気中に漂う我の魔力が、長い時を経ていつしか固まっていき、それが壁の至るところに付着しているのだ』

「そうなんですね!こんなにたくさんの星ができるなんて、やっぱり神樹ってすごい!」

『そ、そうか? それ程のことでもないと思うが……』


 ライトが率先して動いたのは、子供の特権である『オラ、子供だから空気読まないゾ!作戦』を発動し実行するため。

 その思惑は見事に成功し、ユグドランガもライトの質問に快く答えたり、褒めちぎられて照れ臭そうにしている。

 そしてレオニスもラウルも『乗るしかない、このビッグウェーブに!』とばかりにそれぞれ質問していった。


「そしたらこの光は、俺達が採取して地上に持ち帰ることもできるのか?」

『物質として存在する物である以上、理論的には可能であろう。たたし、地上に持ち帰った後も光り続けるかどうかまでは分からんが』

「そしたらツィちゃん達への土産として、少しだけもらっていってもいいか?」

『もちろん構わぬ。あんなものでも姉様や弟妹達への良き手土産となるならば、我に異論などあろうはずもない』

「ありがとう!じゃあ早速いただくか!ラウル、行くぞ!」

「おう!」


 ユグドランガの快諾を得たレオニスとラウル、早速上機嫌で動き出す。

 地底世界一面に星の如く光るそれを採取するべく、レオニスとラウルが結構な勢いで上に向かって飛んでいった。

 それを見たユグドランガが、感嘆したように『おお……妖精族のみならず、人族もまた宙を飛べる種族であったのか』と呟いている。


 もちろんそんなことは絶対にない。

 それはレオニスやフェネセン、ピースといった規格外の連中限定の話であって、決して人族全体に適用していい概念ではない。

 なので、ライトがその場で「いえ、あれはレオ兄ちゃんだけです。大多数の人族は、空を飛べません……」と訂正していた。

 甚だしい勘違いは、その都度訂正しておくに越したことはないのである。


 レオニスとラウルが土産用の星屑を選定、採取している間に、ライトはユグドランガと雑談しながらのんびりと過ごしていた。

——レオニスとラウルが星屑採取に勤しんでいる間の、ライトと冥界樹の会話——


ユ『人族とは、空を飛ばぬものなのか?』

ラ「はい。基本的に人族は空を飛べません」

ユ『ならば何故、あの者は空を飛べるのだ?』

ラ「レオ兄ちゃんは人族最強の人なので、普通の人族と思ってはいけないんです」

ユ『そうか……あれは普通の人族ではないのだな……』

ラ「はい。そもそも普通の人族はこんな深いところまで来れませんしね!」

ユ『ということは、それについてきた其の方も普通の人族ではないのだな』

ラ「うぐッ」


 ライトに特大のブーメランが炸裂したようです

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